老化は「管理できる」ものになった ― なぜ、行動を変えると効くのか
前回、「攻めの予防」という話を書きました。検査は出発点であって、変わるのは検査のあとに何をしたかだ、と。
そう書いておきながら、いちばん肝心なことを説明していませんでした。なぜ、行動を変えると効くのか――という点です。
精神論ではありません。ここ十数年で、老化そのものが科学の言葉で説明できるようになってきました。今回は、その中身に少しだけ踏み込みます。専門的な話が続きますが、結論はきわめてシンプルです。

「老化」は、説明できるものになった
二十歳の頃と比べて、疲れが抜けにくい。痩せにくい。傷が治りにくい。そういう実感は、多くの方にあると思います。私たちはそれを老化と呼んで、たいていは年齢のせいだと片づけます。避けられないものだから、仕方がない。長いあいだ、そういう扱いでした。
でも、この十数年で状況が変わりました。老化研究が進んで、老化がどこで何によって起きているのかを、分けて説明できるようになってきたのです。
2023年に発表された総説では、老化の特徴が12種類に整理されています。ホールマークス・オブ・エイジング、日本語にすれば「老化の特徴」と呼ばれるものです。遺伝子の傷、細胞そのものの老化、ミトコンドリアの機能低下、慢性的な炎症、栄養を感知する仕組みの乱れ。そうしたものが12個、並んでいます。ここで名前を覚えていただく必要はまったくありません。専門家が使う地図のようなものだと思ってください。
“老化の特徴”と認められる条件
この総説で私がいちばん重要だと感じたのは、12個の項目そのものではなく、何をもって「老化の特徴」と認めるかという条件でした。条件は3つあります。
・年齢とともに、それが実際に現れてくること
・実験的にそれを強めると、老化が加速すること
・そこに手を打つと、老化を遅らせる・止める・戻すことができること
3つ目に注目してください。
介入できることが、条件になっている。
この12個は老化の原因のカタログであると同時に、手を打てる場所のカタログでもあるということです。研究の世界では、老化はすでに「起きること」ではなく「働きかけられること」として扱われている。私が「老化は管理できる」と言うのは、そういう意味です。
ちなみに12番目に入っているのが、ディスバイオーシス――腸内環境の乱れです。腸内細菌のバランスが崩れることが、老化を進める要因の一つとして正式に位置づけられている。腸が大事だという話は昔からありましたが、それが老化研究の枠組みの中に入ってきた、ということです。

12個を、一本にまとめる言葉
とはいえ、12個の項目を一つずつ攻略していくのは現実的ではありません。もっと一本にまとめて捉える言葉があります。代謝です。
代謝という言葉は日常でもよく使いますが、正確には、細胞の中で起きている化学反応の総称を指します。私たちの体は細胞の塊でできていて、中学校の理科で習った矢印の反応式が、いまこの瞬間も体じゅうの細胞の中で起きている。それが代謝です。
食事でとった炭水化物・タンパク質・脂質は、消化されて血液に入り、全身の細胞へ配られます。細胞の中でそれが化学反応を起こして、ATP(アデノシン三リン酸)という物質になる。車でいうガソリンです。私たちの体は、このガソリンを細胞の一つひとつが自前で作っている。そのガソリンで、脳は考え、筋肉は動き、肝臓はアルコールを分解し、免疫はウイルスや日々生じるがん細胞を見つけて排除しています。肌のハリを支えるコラーゲンも、線維芽細胞が代謝によって作っているものです。
だから、老化も不調も、そのかなりの部分は「代謝のどこかで起きたエラー」として説明できます。先ほどの12項目は、その起きやすいエラーを分類したものだと捉えていただくと分かりやすいと思います。

そして、代謝には大きな個人差があります
ここからは、少し角度の違う話になります。
代謝という化学反応は、とにかく個人差が大きい。そしていちばん大きな個人差は、遺伝子によるものです。いわゆる「体質」ですね。
体質とは何か。化学反応の一つひとつには、それを進める酵素があります。この酵素の強さが遺伝子であらかじめ決まっていて、大まかには「強い」「弱い」「まったくない」の3つに分かれます。
お酒の強さで考えると、分かりやすい
顔色ひとつ変えずに飲み続けられる人がいます。顔は赤くなるけれど、ほどほどには飲める人もいる。薄いお酒を一口飲んだだけで頭が痛くなる、という人もいます。
これは、アルコールを分解する経路で説明がつきます。お酒に含まれるエタノールは、まずアセトアルデヒドに変わり、次に酢酸に変わって、最終的には無害なものになる。このアセトアルデヒドが曲者で、体にとって有害であるうえに、血管を広げる作用があります。顔が赤くなるのは、これが理由です。
そして、この有害なアセトアルデヒドを無害な酢酸に変えているのが、アセトアルデヒド脱水素酵素という酵素です。この酵素が強いか、弱いか、まったくないか。それが遺伝子で決まっていて、ご両親から受け継ぐ。お酒の強さは、その一部で決まっています。
体の中には無数の代謝があり、そのそれぞれに酵素があって、それぞれに強い・弱いがある。その積み重ねが、体質という個人差を作っています。

長寿遺伝子は、一つではありません
「長寿遺伝子」という言葉を聞いたことがあると思います。でもこれは、一つの遺伝子が長寿に直結しているという話ではありません。
長寿の家系というのは、たとえばコレステロール値が上がりにくい代謝を持っていたり、血糖値が上がりにくかったり、酸化ストレスを処理しやすかったりする。そうした条件がいくつも重なった結果として、「長寿遺伝子」と呼ばれる状態になっている。実際、その塊のような方はいらっしゃいます。生活習慣としては褒められたものではなくても、平気で100歳を超えて元気でいる。世界には、そういう方が極端に多い地域がいくつか知られていて、ブルーゾーンと呼ばれています。日本では沖縄、ほかにイタリアのサルデーニャ島などです。
「体質だから仕方ない」で、終わらせない
こう聞くと、結局は体質なのだから仕方がない、と思われるかもしれません。私は、そうは考えていません。むしろ逆です。
長寿とはどういう要因の集まりなのか。それが分かってきた。原因が分からないうちは、確かに「体質だから仕方ない」でした。でも、原因が分かったのなら、対策ができる。長寿遺伝子を持っていない人でも、自分のどの働きが弱いのかをデータで知って、そこに手を打つことができます。
「体質だから仕方ない」ではなく、「原因が分かったから、対策できる」。
これが、いま起きている変化です。
なぜ、行動を変えると効くのか
最初の問いに戻ります。
答えは、行動が変えているのが代謝そのものだからです。運動も、食事も、睡眠も、気の持ちようの話ではありません。細胞の中で起きている化学反応の条件を、実際に書き換えています。そして老化は、その化学反応のエラーとして起きている。だから、そこに手が届く。
体質そのものは変えられません。でも、分かれば手は打てる。だから私たちは、データを取るところから始めます。
次回は、では何から始めるのか、という話です。運動・栄養・休息の3つが土台になりますが、まずは運動から。ピラティスがいい、ヨガがいい、いや筋トレだ――情報はいくらでもあります。けれど、種目を選ぶ前に見ていただきたい指標が、たった一つだけあります。
参考:López-Otín C, Blasco MA, Partridge L, Serrano M, Kroemer G. Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell. 2023;186(2):243-278.
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療に代わるものではありません。治療中の方、服薬中の方は主治医にご相談ください。
不老長寿研究所は、「不老長寿の“インフラ”を整え、医療の社会問題を根本解決する」をミッションに、老化を管理するという考え方を社会のインフラにすることを目指しています。このnoteでは、その思想と、今日から実践できる具体的な方法を発信していきます。
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