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プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第一章2

第一章 第二話「新入社員小林」

「おはようございます。なんとか間に合いました。」

新人くんはとても眠そうである。
本当に夜遅くまで起きているのだな。
米の配送と新規営業を任されるのだから、寝不足で来てもらっても困るのだが・・・

「おはよう。ちゃんと来れたじゃないか。」
俺は何を言ってるんだ、保護者か。

「前職で上司から電話があった時の音にしたら案外起きれるもんですね。」
おかしなことを言う男だ、どうにも調子が狂う。

「今日もエメマンでいいか?」

「今日もいただけるんですか?できればブラックだと助かります。」

うん?今日は違うのか。
せっかくいつものコーヒーを共有できると思ったんだがな。

「そういえば昨日事務所で常務に何か言われたんじゃないか?」

「ええ、お前のいたような温いところとは違ってーとか、ここは誰よりも長く働いた人間が偉いーとか言われましたね。」

一瞬新人くんの目が座っているようにみえた気がしたが、昨日と同じ笑顔だった。

しかし本当によく喋る男だ。
雑談、質問、前職の思い出など移動中はずっと喋っているといっていい。

特に面白かったのが新人くんの部下だったという将軍というあだ名の男の話だ。

熊のような大男で獣臭を放ち、やることなすことポカをしてはなぜか丸く収まる男だそうだ。

待て待て、飲食店に獣臭をまとう店員などいるはずがない。

「将軍連れて全店会議に参加することになって、現地集合したんですが将軍なんでか本社に着いてから車で着替えようとしてですね。そうしたらスーツのズボンを忘れてきちゃってて、パジャマか!?パンイチか!?おい将軍どっちで行く?ってゲラゲラ笑ってたらパンイチで行くっていうんで、パンイチの将軍と僕で全店会議に出ました。いやーあの時は副社長も来てたんですが、笑いをこらえるのに必死そうで」

「お、おい会議にそれはまずいだろう!」

「え?まあ将軍ですし僕の管轄なんで、まあいいでしょ的な空気っていうか」

わからない。

この新人くんが何を言っているのかわからない。だが続きは気になる。

「将軍は将軍でマネージャーに『どうしたの!』って驚かれても『全て私の責任ですキリッ』ってテンションだしそのまま会議やりきりましたよー。」

あまりにもわからない世界すぎる。
だがなんだか楽しそうに仕事をしていたのだろうな、というのは伝わる。
正直なところ羨ましい、と思った。

「ひとつ聞きたいんだが、将軍の臭いはどうしていたんだ?」

「あぁ、それなら臭かった場合は『残念だったな将軍、今のお前では店には入れないんだ。なぜかわかるか?』『く・・臭い?』『残念正解!今から先に一時間休憩つける!そこのスパ銭で風呂と飯!OK?』とかやってましたよー。」

なんだか緩くないか?
少なくとも俺の知る職場という概念とは違いすぎる。

しかし少なくともOJTの期間中に俺とこんなにも話をしようという新人は初めてだろう。

自分で言うのもなんだが俺はどうにも強面気味で、ラグビーをやっていたため身体もやけにデカいのだ。

それなりに長く働いている者であるならともかくほぼ初対面に近い、しかも上司相手にここまでフレンドリーに会話をする人間がいるなどということは想像していなかった。

なにせ俺が上司とまともに話せやしないのだから。

久しぶりに誰かと他愛もない会話を続けていると情も沸くというものだ。
知らずのうちに俺はこの男を気に入っていた。

「昼はとんかつでいいか?」

「いいですねぇ!」

「店の候補が二つあるんだ。片方は例の有名なチェーン店でもう片方は老舗のとんかつ屋だ。両方ともお客さんでな、火曜はどちらかで食べると決めているんだ。」

「それなら老舗のお店がいいですねぇ。チェーン店の方も美味しいんですが、なんていうか余所行きの味?観光客向けっていう方がいいのかな。なーんか物足りないんですよねえ。」

わかる、わかるぞ同士よ。

「それと老舗の二代目のお店なんでしょう?そういうお店すっごい好きなんで是非そっちのお店がいいです。」

「なんで二代目だなんて知ってる?」

「昨日上がった後に松本くんに下で会いまして、その時に教えてもらいましたよー。」

もう松本と会ったのか。

というか新人くんを上がらせたのが20時で、松本が事務所に入ってきたのが21時過ぎだった覚えがあるが、あいつ新人くんを捕まえてまでそんなに長い時間油を売っていたのか?

あいつは本当に仕事をせんな。

「さて着いたぞ。」

年季の入った佇まい、砂利の駐車場、そして店の外にも漂う美味そうな匂い。
そうそう、こういうのがいいよなぁと思っていると新人くんに声をかけられた。

「あのー、今まで課長の後ろについて挨拶をしていたんですがここは先に入って挨拶してもいいですか?」

こいつはなぜこんなに自然にやっているんだ?
思っていたより遥かに仕事熱心なやつなのだろうか?

こういう提案も新人教育中にされた覚えはないのだ。

新人くんが先に行け、と許可を出すと心底嬉しそうに店に入り--

「お世話になります!!!」

と、とにかく元気のよい挨拶をした。
お店の大将もその元気のいい挨拶を気に入ったのか、普段より気持ちにこやかに対応してくれた気がする。

お店でお昼を食べてもよいか確認をとると快く席に案内をしてくれ、今日はサービスだ!
とアジフライまでごちそうになってしまった。
新人くんの挨拶や態度だろうか?

この時すでに、俺はこの新人くんをとても気に入っていたのだなと思う。

-次回- 
第一章 第三話「常務烏丸」

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