【まとめ】不正を見過ごし続けてしまった管理職 事務長について
事務長という人物について
どうも、哲兄です。
ブラック企業を舞台にしているのになんだか様子のおかしい『プロベーション・レポート』という群像劇を書いています。
さて、第四章の視点人物である事務長は、特別な悪人として書いた人物ではありません。
むしろ現実の会社にもいそうな、「おかしいと知りながら、今日も処理してしまう人」です。
会社の中には、明らかに変なルールがあります。
誰も本心では納得していないのに、昔からそうだから続いていること。
上の人間が決めたから、という理由だけで現場に降りてくること。
本当は誰かが止めなければならないのに、誰も止められずに日常の一部になってしまったこと。
事務長は、そういうものを長く見てきた人です。
彼は会社がおかしいことを知らないわけではありません。
むしろ、かなりわかっています。
わかっているからこそ苦しいし、わかっているからこそ酒に逃げるようになっている。
ただし、わかっているからといって止められるわけでもありません。
ここが事務長という人物の現実味だと思っています。
現実の人間は、「悪いと思っているならやめればいい」だけでは動けません。
生活があります。
役職があります。
恐れがあります。
今さら声を上げれば、自分がこれまで黙ってきた時間まで問われてしまう、という怖さもあります。
一度黙る。
二度黙る。
三度黙る。
すると、黙ることが仕事になっていく。
事務長は、そうやって少しずつ壊れていった人です。
もちろん、彼は完全な被害者ではありません。
おかしいと知っていた。
気づいていた。
気に病んでいた。
それでも止めなかった。
だから彼は無罪ではありません。
しかし、積極的に誰かを傷つけたい人間でもない。
支配する側の人間になりきれるほど強くもなく、かといって正しい側に立ち続けられるほど強くもなかった。
悪人になりきれなかった人。
善人であり続けることもできなかった人。
それが事務長です。
現実にもこういう人はいると思います。
「俺もおかしいとは思ってるんだけどね」と言いながら、そのまま処理する人。
「上が言ってるから」と言いながら、自分の手でおかしな書類を通す人。
「昔からこうだから」と言いながら、誰かが苦しむ仕組みを今日も続ける人。
事務長は、そんな罪悪感や諦め、そして保身を、小説用に少し濃くした人物です。
彼は会社の異常さを一番近くで見ています。
けれど、見ているだけで止められなかった。
そして止められなかった自分自身のことも、ずっと許せずにいる。
家庭に帰れないことも、その延長にあります。
会社で声を出せなくなった人間が、家庭でだけ立派に振る舞えるわけではない。
会社で黙り、家でも黙り、酒だけが残っていく。
事務長は、そういう形で人生から少しずつ退いていった人です。
第四章は、そんな事務長が急に生まれ変わる話ではありません。
過去をなかったことにできる話でもありません。
リセットはできない。
黙ってきた時間も、逃げてきた時間も、消えない。
それでも完全に終わったわけではない。
事務長という人物は、リセットなどできない人生の中でも、止まっていた場所から少しだけ再開することはできるかもしれない。
そんな願いを込めて書きました。
