プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第三章1
第三章
第一話「早歩き鬼ごっこ!←ガチ!」
「仕事いきたくなぁーい!」
私は今の職場が嫌い。
おじさんとおばさんばっかだし、工場長がしつこく連絡先聞いてくるのも嫌だし。
パートさんたちが『だれかいい人紹介してあげよっか!』って言ってくるのも嫌。
彼氏欲しいのはそうなんだけど、職場の人からの紹介って。
昔のお見合いじゃないんだから。
でも彼氏は欲しい。
「なんか楽しいことないかなぁ?」
あと、なんか職場も暗いんだよね。
まぁ私みたいな派遣がどうこう言うのも違うかもしれないけど、他の派遣先はもう少しマシなところもあったんだよねぇ。
もうちょっと活気があるとかなんとかさぁ。
って思うのは私があんまり責任ないからなのかな。
「あー、もうすぐ仕事の時間かぁ・・・」
最低限のメイクをして家を出る。
どうせおじさんしかいないし?
防護服みたいなの着て仕事するんだから、ほんとならすっぴんで行きたいぐらいだ。
「おつかれさまですー。」
「・・・・・・・・・」
返事はない。
パートさんがいてくれたら返事くらいはあるのだけど少し早く着きすぎてしまった。
この空気に耐えられずそそくさと荷物を置いて喫煙所に向かう。
もしかしたら誰かいるかもしれないし。
「あ!おつかれさまですー。」
「おう!派遣のお姉ちゃんか!お疲れさん!早いねぇ!」
「なんか少し早く着いちゃったんでここなら誰か話せる人いるかなぁって。」
「あーあそこは陰気臭くてかなわんからな!まぁこぉんなオジンと話してくれるだけこっちもありがたいよ!」
「あはは、野村さんは話しやすいんで私も助かります。」
「おぉ?いいのかぁ?おれぁほっとくとオヤジギャグと下ネタしか喋らん男だぞぉ?」
「そうですけどぉ。あはは!」
ピーンポーンパーンポーン!
「あ、もうこんな時間か!行きますねー!」
「おう、またなー!」
休憩所が嫌だからってのんびりし過ぎた。
いくら職場が嫌いだと言っても遅刻はシャレにならない。
しかも来てるのに。
「お、おはようございます!」
「あら藤田ちゃん!今日ゆっくりだったわねえ。大丈夫?体調悪かったりしない?」
「あ、いえ大丈夫ですー。ほんとは早く来てたんですが喫煙所でのんびりしすぎました。」
「元気なら良かったわ!昨日から一人社員さんがこっちにみえててね?それがすっごいカッコいい人だったからーほんとにもー!
藤田ちゃんも早く見といた方がいいわよーって教えてあげたくてねぇ。」
「えっ!?イケメンなんてこの会社にいるんですか!?想像つかない。だってたまにこっちにくる精米?の人もなんか暗そうっていうか。
・・・想像つかないなぁ。」
「それがねぇ!なんか爽やかだし男前な感じでねぇ!あれはいい男だわーってパート同士で盛り上がっちゃって!」
「へぇー!そんなイケメンがいてくれたら目の保養になっていいですねぇ!」
「あら、そんな見てるだけなんて藤田ちゃん。ゲットしちゃいなさいよー。」
ジーッ
「あー、あー。みなさんおはようございます。今日も元気よくお仕事をーえーしていきたいと思う所存でありますがー。あー、昨日から来ている方は会ったと思いますがーえー我が社の新入社員のー、えーと。何?時間?すみませんが代わります。」
「おはようございます!昨日から・・・」
見たことのないスーツの男が出てきた。
別にイケメンではない。
なんだよガッカリさせやがって。
んー、なんだろうイケメンではないが?男前系?
うん、『顔が古い』。
少なくとも私の好みではない。
「というわけで今日から朝の運動をちょーっと変えて楽しくやってみようと思います!ルールは簡単です!今から僕が鬼をやりますので皆さんそこの枠の外には出ないように僕から逃げてください!」
え?急に何?
「ただし!走ることは禁止でーす!ぶつかったら危ないですからね!ただ?早歩きはOKでーす!
なんで今から5分の間早歩きで鬼ごっこをしましょう!それではいきますよ!よーい!ドン!」
何かよく知らないことが始まってしまった!
なになになに!とにかく歩いてスーツから逃げればいいの!?
スーツの男は妙に軽い足取りでこちらに近づいてくる。
走ってはいない。
走ってはいないがやけに速い!!
「はい!捕まえましたー!」
「きゃー!」
いや私体育会系とかほんっと嫌なんですけど!!
パートさんたちはものすごい笑顔でむしろスーツに捕まりに行っている。
なんなんだあれは、昭和のアイドルなのか。
ゼェ・・・ゼェ・・・
一生分の早歩きでもしたんじゃないか。
私は何をやらされてるの?
仕事に来たら鬼ごっこ?
ほんっとによくわかんないけど意外と楽しかったかもしれない、かな?
パートさん達はとてつもなく幸せそうな顔をしており、なんていうかおばさんの『女の顔』なんて見たくはなかったなぁ、なんて考えながら工場に入る。
いくらさっきちょっと楽しかったと言ってもどうせ工場の作業は楽しくなんかないのだから、ここの職場が嫌いってことには変わりがない。
ついでに言えば散々イケメンを期待させて、全然違う感じの男前系が出てきたことも私を落ち込ませる。
まあ、パートさんから見れば間違いなく絶世のイケメンなのかもしれないが。
それでも私は松坂桃李くんみたいなのがタイプなの。
シュッシュッ、シャー
と、消毒をして整列をする。
「はい、それでは今日の作業の確認です・・・」
変わり映えのしない作業工程の確認が終わった、はずだった。
「というわけで今からなんですけど僕と部長で一回お手本をやってみます。」
急に何かが始まった。
