プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第五章12
第五章 第十二話「THE VOID」
・・・居心地が悪い。
・・・とにかく居心地が悪いのだ。
配送に出ている時間以外ひたすら人に囲まれるっていうか。
これが全員10歳下から20歳上くらいまでの女の子たちに囲まれているのならやぶさかではないが、非常に暑苦しいことにこの会社にいる人間は俺のストライクゾーン外、どころか場外の10歳から30歳くらい歳上のオッサンばかりなのだ。
そんなオッサン達が俺を見かけるとひっきりなしに話しかけてきて、いざ喫煙所に行くとまるで自分が人気の占い師にでもなったかのように必ず誰かが入ってくる。
・・・しかもなにがしかの相談を持って。
残念ながら俺は未だ研修中の身のペーペーであり、新規営業なんてクソ喰らえ!と少しの紹介をもらって満足している程度の人間である。
紹介営業はいいね、腹減ってる人がきてくれる。
・・・ふと思ったのはつまり会社のオッサンどもは『腹が減っている』ということだ。
業務に関することであれ、家庭だとか老後だとかの俺が知ったこっちゃないことまでなにもかも不安なのだ。
どう考えても不安の原因はこの会社なのにね。
それだけ信用ならない会社だと言うならなぜこんな状態になるまで誰も何もしなかったのか、ということをこの占い部屋に来た全員に言ってやろうか。
・・・いや刺されるかもしれんからやめとこう。
・・・とはいえとにかく居心地は悪い。
加えてついでの災難なんだが・・・
デパ地下の配送行ったら、もう二度と見ることもないと思っていた顔を見た。
正直見なかったことにしたかった。
ただ、意外と元気にやってんのかと思ってうっすら見てたら、やけに脂ぎったオッサンと『初めましてー!』って挨拶しては腕組みしてどっか行った。
・・・チッ。
・・・どこへ行っても居心地が悪い。
「ただいまー!」
「おかえりーちょうどメシ出来たよー。」
「え!ありがとー明日早番だからもう4時間も家にいれなくてさー。」
「普通にお前んとこも大概だよなぁ。飲食の頃にどうしようもなくて17〜48時とかいう無茶シフトやったこともあるけど、あんなん数えるほどだぜ?お前んとこ平気で週一は遅番早番とかいう無茶じゃん?」
「なんでナチュラルにシフトが48時間単位なのよ・・・とりあえずいただきまーす!」
「別に女の人を馬鹿にしてるから言うわけでもないんだけど、食べながらでいいから聞いてくれない?」
「ひぃよー(いいよー)」
「働く以上無茶無謀ってついて回ることはあるとは思ってんだけど、わざわざそんな馬鹿げた働き方を女の子がやる必要あんのかなって。」
「え?しょうがなくない?男女平等ってやつ。」
「なーんかむかつくんだよなそれ。上手く言えないけど。」
「ごめん!急いで食べた!お風呂はいってくる!」
結局こうして俺も、向こうの会社の都合で夜型っぽい時間まで起きてるわけだ。
「・・・いやぁ!・・やだぁ!・・・。」
・・・寝言か。
こういうシフトの日は決まってうなされてるんだもん。
こいつも相当無理してんだろーなぁ。
なんなんだよクソっ!
イラつき過ぎて眠れるわけが無かった。
翌日、夕方帰社すると精米工場長に声をかけられた。
通算で大量の賄賂を与えた人間なのでよく覚えている。
一応話を聞いてみると精米工場も炊飯同様、長時間労働に悩んでいるとのこと。
確かに精米工場と一課は未だ長々と仕事をしているのだから早く帰りたいという気持ちはわかる。
とはいえ一課は別に常務を無視すればいいだけのような気もするし、精米は聞けば聞くほど無理ゲーだと思えた。
頻繁に手伝っているから知ってはいたが、精米工場のスタッフの大半はいわゆる福祉枠で、彼らのケアをしながら業務をしている以上、どうやっても現状の人員では定時内の作業は終わらない。
福祉枠スタッフは時間になれば帰る。
その後に工場長ともう一人のおっちゃんと、二人だけで作業するのだから終わらなくて当たり前なのだ。
じゃあどう考えても俺に言う話ではない。
工場長には専務に直談判しろと伝えたのだが『君とは違う』というクソみてぇな返事があった。
おいコラ!いい歳のオッサンが20近くも歳下捕まえて言うことがそれか!?
と、いい感じにアドレナリンが出てきてしまったので、たまには炊飯に行って良い空気でも吸おうかと炊飯へ届けるサンプルを俺が持ち出したら松本くんがわちゃわちゃ怒り出したので渋々譲った。
・・・あいつはなんか俺に恨みでもあるのか。
「おい小林、ちょっといいか?」
「どうしたんすか?」
「いや、精米の工場長から話があってな。」
うげぇ、めちゃくちゃ嫌な予感がする。
汚ねぇ・・・それが20歳上のオッサンがやることか!?
「お前に精米工場の改善を頼みたいと言われたんだが、何か聞いてるか?」
・・・とりあえず工場へのジュースの提供は停止することが決定した。
次は事務所に配ろう。
「聞いてますけど、どう考えても俺のやれることの範囲外っす。福祉さん抱えて作業時間を短くするって危ねぇし、単純に人増やすしかねぇっす。
あとはそれを専務が『うん』って言うかどうかだけなんで、工場長が自分で言うしかないですね。」
「そういうことだったのか・・・それはすまん。それなら俺から断っておくが、何か力になってやれることがあるなら相談に乗ってやって欲しい。」
・・・なんて?
課長そりゃねぇぜ。
・・・仕方ない。
このにっちもさっちもいかない閉塞感をどうにかするために、社長に電話してみることにした。
