プロベーション・レポート ~新入社員の四カ月~ 第三章3
第三章
第三話「テンションブースター」
また始まった。
まさか・・・とは思うけど毎日これやるの!?
スーツの人が追ってくる!!
おじさん達が雪崩れる!!
イヤーーーーッ!!
「ゼェ・・・ゼェ・・・」
なぜ仕事前にこの職場の人たちはこんなにも息を切らしているのか。
私はギリ平気だけど年配の方々は無事なのか。
「楽しかったわねぇー!イケメンに追いかけられるし、こんなに楽しいのは久しぶりねぇー!」
少しキモい。
マダムの方々の『女の顔』がどんどん表に出るようになっている気がする。
もはや隠す気もないのだろう、スーツの人の近くにわざわざ寄って行っては「キャー!」なんて声援を上げるのだからスーツの人が逃げている。
あんたは鬼じゃないのか。
確かに自分が鬼をやっている時におじさん達に追いかけられたら同じことをするだろう。
スーツの人には是非頑張ってほしい。
少し休憩を挟んで仕事に入ると工場長が機械の整備か何かをしていたのだが、部長さんが駆け寄り何か言っているようだった。
部長さんと工場長は何か口論にでもなったらしい。
二人で外に出て行ってしまったので、急遽岡本くんが作業確認をすることになったようだ。
「・・・と・・で・・・です。」
なんて?
とてもじゃないが聞き取れない。
するとスーツの人が岡本くんに耳打ちをし、岡本くんはハキハキと連絡事項を読み上げ始めた。
頑張ってるなぁ、ちょっと可愛いかも。
「では次に僕からです!ちょーっと部長さん席外しちゃったので代わりにお伝えするんですが、先に皆さんに聞きたいことがありまして。昨日どうでしたかー?」
チラホラと帰れて良かったとか家のことできたとかの声が上がるなか、なにやらセクハラめいた発言が聞こえてきたような気がした。
私もいい歳なので『キャッ』とかはならないものの、当然気分の良いものではない。
すかさずスーツの人がセクハラ紛いの発言をした人に耳打ちしに行っていた。
セクハラおじさんが恥ずかしそうに頭を掻いている。
いやそれもキモいが?
「失礼しました!えーと、皆さんそれぞれいい日だったようで何よりです!それでですねー、今日皆さんに一つお願いがあるんですが、自分の作業が終わった方はちょっと大きめの声で『終わりましたー』って声かけて欲しいんです。
で、そしたら多分岡本くん達が仕事多い状態なんでフォローに入って欲しいんです。
他にもフォローが欲しいと思ったポジションの方からも『こっち誰かお願いしまーす』って声かけお願いしたいんですよ!
あ、フォロー入る時も『フォロー入りまーす』って言ってもらえるのが最高です!
なんで手が空いたら声かける、フォロー入る時声かける、そしてフォロー欲しい人も声かける、この3つをやってみて欲しいんですよ!
これで絶対昨日より早く終わりますから!」
パチパチパチパチー
何故か拍手があがった。
スーツの人はそれに応えるように変なポーズを取っている。
パン!パンパンパン!
何故か笑っていいとも!で締まった。
タモリさんだと気付いていれば!!
乗り遅れて悔しい気がした。
「品質フォロー入りまーす!」
「あ、藤田さんちょっとだけゆっくり目にお願いできますか?」
え?いつも通りやってるような?
「本当に少しでいいです。フォロー入られる人結構テンション上がってて、ちょっと速くなっちゃうんです。本当に少しでいいですから。」
なんとなくわかる気がする。
確かに今日の私はいつもよりテンションが高くて少し雑だ。
フォローに入って雑になっちゃったら元も子もない。
「すみません気をつけます。」
「気にしないでください。さっき『必ずそうなるから一言声をかけてあげて』って言われたんで。」
あー、スーツの人か。
今日あれから大人しくしてるなぁ、とは思ってたけどちょこちょこ色んな人に話をしてるのね?
ふと思った。
あの人が工場長だったらいいのにって。
多分それはみんな思い始めているけど、そうなると今の工場長はどうなるんだろう?
まあ私はあの人嫌いだからいいけどさ。
お昼ご飯を食べてそそくさと喫煙所に向かうと先客がいた。
野村さんと・・・スーツの人だ。
遠巻きにもわかるほどに二人は爆笑してはしゃいでいた。
なんとなく私はその輪に近寄ることができず、離れたところで煙草に火をつける。
うん、あの感じはいわゆる男子トークであって、野村さんのしょうもない下ネタが飛び出しているのだろうと思うとやはり近寄らなくて正解だな、と私は喫煙所を後にした。
いつもより軽く動くような身体と、いつもよりずっと明るい現場に、あっという間に時間は過ぎて、もう今日の作業は終わりだという。
「お疲れ様ー、藤田ちゃんまた明日ね!あ、そうだ!あのイケメンさんとは話したの!?おばちゃん気になっちゃってー。」
「え?いえ、なんとなくタイミングがなくてー。イケメンさん?もなんか忙しそうですし。」
「あーそうねぇ。お昼休みも休憩室にはいなかったし、やっぱり忙しいのかしらね?まあチャンスはいくらでもあるわ!頑張ってね!」
「はーい、お疲れ様ですー。」
待て。
私があの人に気があるなどと勝手に思い込んでくれるな。
若干納得できないと思いながらも足取り軽やかに家路を歩く私がいた。
