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グレースケールからカラフルへ No.2~創作大賞2025 ファンタジー小説部門エントリー作品

第1章から読んでいただけると嬉しいです♪
第1章 学校に行く理由を教えて

第2章 居場所探し

朝戸家は祖母の美和子、父の浩介、母の祐子と芙美香の4人暮らしだった。祖母の美和子は認知症を患っていた。芙美香が物心ついたころにはもう認知症の治療が始まっていた。

祖母の美和子は認知症の治療を受けながら、家で暮らしていたが、毎日のように「モノがなくなった」といい、母の祐子と頻繁に言い争いをしていた。

祐子と美和子はいわゆる嫁姑の仲で、まあ御多分に漏れず、不仲である。もしかしたら不仲の大部分は認知症患者VS介護家族の方が大きいかもしれない。

毎日のように大声で言い争っているが、父の浩介はサラリーマンで朝から晩まで不在で、芙美香が寝てから帰宅することも多く、平日はほぼ母の裕子が祖母の美和子の面倒を見ていた。

祐子は平日、芙美香が学校に行っている間だけパートにでていた。だから芙美香が帰宅すると、リビングで祖母の美和子と母の祐子と芙美香の3人で「お茶」の時間をとり、親子3世代で顔を合わせるのが日課だった。

ただこの「お茶」の時間に、芙美香は美和子や祐子から「今日の学校どうだった?」と聞かれるのが心地悪かった。

「学校なんて面白くない事ばかりなのに、なぜそれを言わせるのだろう?」

芙美香は内心そう思っていたが、美和子や祐子に深く勘繰られるのも嫌で、当たり障りのないことを言っていた。

「今日は、給食でシチューが出て美味しかったよ」

給食で好きなものが出た時はそんな風に言えるのだが、給食で好きなものが出てこなかった日は他の話題を探さないといけないので学校の帰り道いろいろ考えていた。

「隣の子と牛乳の早飲み競争をした」とか
「クラスの子と登り棒で早登り競争をした」とか
「クラスで飼っているメダカに餌をやった」とか

芙美香が特に美和子を心配させないような話題を一生懸命考えていたのだった。しかし、ここさえクリアすれば、芙美香お待ちかねのゲーム三昧の時間がやってくる。「それまでの辛抱」だったのだ。

美和子や祐子が質問して来たら、まず答える。良い答えだと、

「そうなの、良かったわね」

と二人で声をそろえて言う。そしてその後の質問はなく、芙美香はなんとなくテレビをつけてテレビをみて、会話の矛先を逸らすことに成功する。

たまに良い答えだったとしても、美和子の機嫌が悪かったりすると、変に心配して色々聞いてくる。

「遠足で工場見学に行ってきたよ」

といった時は、最悪だった。

「どこの工場?」

と美和子が聞くので

「飲み物の工場に行ったよ」

と芙美香が言ってお土産のペットボトルを差し出すと

「ここのお茶美味しくないよね」

と美和子が急に面白くない顔をした。すると

「工場見学は面白かった?」

と横から祐子が助け舟を出す。

「うん、面白かったよ。その工場の新聞にクラスの子たちと写真を載せてもらうことになったよ」

と芙美香が答えると

「そんなのんきに新聞なんか出していないで、もっとお茶を美味しくする研究でもすればいいのに」

と美和子がいうので、

「ちょっとお母さん、なんでそこで芙美がいろいろ話をしているのに話を変な方向にもっていかないでください」

と祐子がいうと

「そうやって祐子さんはすぐ人のせいにする」

と美和子が言うので、祐子もカチンときて、互いに余計な苛立ちを隠すことなくぶつけ合う。そうなると芙美香はすっと席を立ち静かにリビングを出て自室にこもるのだった。

芙美香にとっては、「お茶」という時間がある意味がよくわからなかった。気付くといつもそういう時間があった。週末の浩介が休みの時は、10時と15時に集まる。テレビをつけてただそこにいるだけの時間がなぜ必要なのかわからなかった。

芙美香が楽しかったのは、美和子に好きなお菓子を聞かれて、チョコレートやスナック菓子の銘柄を伝えておくと、買って用意して「お茶」の時間に手渡ししてくれる時がある。そういう時はやはりうれしかった。

父の浩介は、平日の夕飯の時間には帰宅できない。芙美香は平日の夕飯は祐子と美和子の3人で食べていたが、テレビの音だけがする静かな夕飯だった。まだ静かだったらいい方で、美和子が「モノがない」と言い出すと祐子との言い争いが始まるので、芙美香は夕飯をさっと食べて自分の食器を洗いさっさと自分の部屋に戻ってゲームを楽しむのだった。

そして浩介が帰って来るとそこから浩介の夕飯になるが、時折り、祐子の機嫌が悪いと話し声が、怒鳴り声になることも多かった。祐子は日中一人で美和子とのやり取りをしていることで、不満が大きくなり、祐子が疲れて帰宅した浩介と言い争うことも多くなっていた。

そんな光景がここ何年も続いていた。芙美香にとっては自宅では自分の部屋が居場所であり、ゲームをする時が生きがいなのだった。

ある日のことだった。

「お茶」の時間、美和子がキーホルダーを「芙美ちゃん、これいる?持って行っていいわよ」と言われて渡されたことがあった。それはきれいにカットされたキラキラ光るピンク色の石がついていた。石の表面は細かくカットされた光が当たって輝いて見えた。

芙美香はキラキラする石やキーホルダーが好きで、美和子もそれを知っていたのだろう。芙美香は正直に嬉しかった。

「おばあちゃん、ありがとう!」

と言って、自分の部屋に持って帰り、そのキラキラするキーホルダーをいろいろな角度から見て、光を受けてキラキラと光る様子にうっとりしていた。

「きれいだなー」

そう思っていたが、数か月たったある日、学校から帰った芙美香に美和子がこんな風に行ったのだ。

「芙美ちゃん、なんでこれを持っていったの?」

と目の前に以前美和子が「持って行っていいよ」と言って渡されたキーホルダーをぶら下げている。

「え、おばあちゃんがもっていっていいって言っていたじゃん」

と驚いて芙美香が言うと

「なんて子なの!勝手に持っていって」

と目を吊り上げて怒っていた。芙美香には意味が分からずそのまま突っ立っていると、美和子は芙美香をにらみつけて行ってしまった。

芙美香はモヤモヤした気持ちを感じたが、いつも母の裕子が

「おばあちゃんは認知症でどんどん忘れているからどうしたらいいかわからないわ」

とぼやいているのを聞いているし、父や母の話を聞いて、認知症というものが、今の医学では治らないものだということを聞いていたということもあり、どうにもならないということを肌で感じていた。

「仕方ないか」

芙美香の「仕方ないか」という口癖はこうして形成されていった。

体育の授業があった。寒い日だったが、校庭でサッカーをすることになった。授業でのサッカーは男子女子混合のチームで試合をする。やはりサッカークラブに入っている男子も女子もいて、その子たちはボール回しがうまい。

芙美香は背は高く、足もそこそこ早く、運動会ではリレーの補欠に入るくらいだったのだが、ボール競技はからっきしダメで、手も足も出なかった。

だが、クラス30名は2チームに分かれてサッカーの試合をする時、芙美香はゴールキーパーに選出されてしまった。要は背が高いという理由らしい。ポジションについてはサッカークラブの馬淵たち数名の意見が通る。

ポジションが決まった時、馬淵から「朝戸はゴールポスト前に立っていればいいよ。俺たちがゴールに入れさせないようにするから」と馬淵たちサッカークラブメンバーが意気込んで言うので、芙美香はよくわからずうなずくしかなかった。

寒い中、走っているメンバーはいいが、芙美香はゴール前で震えながら立っていた。1月の月の校庭を吹く風は非常に冷たい。冬場の体育の授業では長袖の上着着用になっているが、それでも体を動かさないでゴール前に立っていると寒くて凍えそうになった。

芙美香には試合の流れがよくわからないが、「ボールが来たらとりあえずゴールに入らないようにすればいい」と思ってボールの行方を見守っていた。

すると芙美香が守るゴール近くで、敵チームとのボール争いで、なんと敵チームにボールが渡ってしまった。そしてサッカークラブでもエース級の近藤が、ゴール前にドリブルで上がってきた。芙美香は身構えた。

すると芙美香と同じチームの馬淵が阻止しようと走り寄って近藤を止めようとしたが一歩及ばなかった。近藤のシュートはまっすぐ芙美香めがけて飛んで来た。

「立っていればいいって言ったのに!どうすればいいんだー」

芙美香はものすごい勢いで飛んでくるボールに目をつぶって体で止めようと覚悟した。

ドスッ

というような鈍い音がした。

次の瞬間、芙美香は腹に激痛を感じてうずくまってしまった。さすがサッカークラブのエースと言われる近藤のシュートはものすごい威力だった。芙美香は近藤のボールを体で受け止めたのはいいが、腹の痛みに耐えかねてボールを持ったままうずくまってしまった。

「朝戸、大丈夫?」

と近藤や馬淵をはじめ、クラスのみんなが駆け寄ってくる。芙美香はボールを抱えたまま脂汗が出てきた。

そこに福水もやってきた。

「朝戸さん、大丈夫?」

と福水が言ったが、芙美香は口を動かすが、声が出てこない。そのままうずくまっていたが、福水は芙美香がもっていたボールを受け取り、そばで心配そうにしていた近藤に渡して言った。

「ゲーム中断。朝戸さんを保健室に連れていくから誰か手伝って」

と大声で言った。見学していた女子数名が心配そうに芙美香のところに駆け寄ってきた。

芙美香はその女子数名に肩を抱えられるようにして保健室に連れていかれた。なぜか芙美香は声が出せなかったが、その女子たちが養護教諭の荒川に口々に自分たちが見た光景を説明してくれていた。芙美香はお腹を押さえた格好で保健室の長椅子に座っていた。

荒川が芙美香を連れてきた女子たちに

「事情はわかった。ありがとね。授業に戻って。あと福水先生にも大丈夫って伝えておいてね」

といってから芙美香の方にきて

「朝戸さん、大丈夫?お腹痛い?」

というので、芙美香はお腹を両手で押さえたままうなずいた。

「多分、男の子たちも必死になっちゃって本気でシュートしちゃったんだね。もしかして今日生理だったりする?」

と荒川が聞くので、芙美香はうなずいた。

「ちなみに何日目?」

と荒川が聞くので

芙美香は指でVサインをした。

「そうか、2日目ってことかな。それじゃあもともと調子も良くなかったんだね。運が悪いとしか言いようがないけど、少し休んだら給食だからね。ご飯は食べられそう?」

という荒川の問いに芙美香はかぶりを振った。

「気持ち悪いのかな?もし給食が食べられないとお家の人に言って迎えに来てもらわないといけないから、もう少し様子を見ようか?少し横になる?」

そういって荒川は保健室にあるベッドを指さした。芙美香は横になったほうが楽になりそうな気がしてうなずいた。

4時間目終了のベルが鳴って、授業が終わると担任の福水が保健室に来た。

「朝戸さん、どう?お腹大丈夫?」

と芙美香が横になっているベッドのわきにきて福水が尋ねた。芙美香は福水の顔を見てうなずいた。

「あ、良かった。まだ声が出ないのかな?まだお腹が痛いんだよね。給食は食べられそう?」

と福水が聞くので、首を横に振った。正直気持ちが悪かったのだ。

「そうなんだね。わかった。だけどね、給食を食べられないと、午後の授業は出られないから、お家の人に迎えに来てもらうように連絡をしておくね。あとクラスの子に朝戸さんの着替えやランドセルを持ってくるように言っておくから、ここで横になって待っていてね」

と福水はそう言って養護教諭の荒川と保護者への連絡について話をし、福水も荒川も保健室を出ていった。

芙美香はそんな福水の後姿を見ながら考えていた。福水から心配されることは絶対にない信じていたが、それは今まで芙美香が元気で問題が何もなかったからで、本当は福水は「困っている子」には優しいのかもしれない。いや、でもたまたま体育の授業でアクシデントがあったから気にかけてもらったのかもしれないが。

一人保健室のベッドで横になっているとお腹の痛みも薄らいできた。そして、布団が温まったこともあり芙美香はウトウトしていた。

そのあと、芙美香を保健室まで連れてきてくれた女子2名が芙美香の着替えとランドセルを持ってきてくれた。

「朝戸さん、大丈夫?お腹痛くて給食食べられないの?」

と一人が言うので芙美香がうなずくと

「今日はシチューとパンだよ、本当に食べなくていいの?」

ともう一人が教えてくれた。

「今日シチューとパンなんだ。食べたかったけど、お腹が痛くて食べられない。私の分もみんなで食べて」

と芙美香が力なくいった。芙美香は元気な時はシチューとパンは大好物で、とにかく早く食べてお替わりの列に並んでいたものだった。

「じゃあ、また明日ね」

そういって2人の女子が保健室を出ていくと、続いて福水が入ってきた。

「朝戸さん、お母さんに迎えを頼んだから、お母さんが来るまで待っていてね」

そう言って福水も保健室から出ていった。一人保健室のベッドに横になっていたが、給食時の保健室は静かだった。校内放送では放送委員が、音楽を流したり、今週のニュースを読み上げていた。

芙美香のベッドは荒川がカーテンをひいてくれたので、個室のようになっており、安心して横になって放送委員の校内放送を聞いていた。ほどなくして、祐子がやってきた。

「すみませーん、5年1組の朝戸芙美香の母です。子供を迎えに来ました」

という声が聞こえて、荒川の声がした。

「あ、お母さん、お迎えありがとうございます。朝戸さんが体育の授業で、、、」

「はい、福水先生からお聞きしました。芙美香はどこですか?」

と祐子の声が聞こえる。そしてベッド周りのカーテンが開いた。

「芙美、大丈夫?」

と祐子が芙美香の顔を覗き込んだ。

「うん」

と芙美香がいうと安心したような顔をした。

「良かった、じゃあ帰ろうか。ベッドから降りられる?」

祐子はそういって、芙美香がベッドから降りるのを手伝った。そして祐子は芙美香の着替えとランドセルをもって、芙美香に手を貸しながら保健室の入口で振り返り、

「先生ありがとうございました」

といって祐子は荒川に頭を下げ、芙美香の手を取って校舎を後にした。校門の脇に祐子の車があったので、芙美香はホッとした。

「歩いて帰らなくていいんだ」

そう思ったら少し気分が明るくなった。そして帰宅すると

「お腹痛い?お昼ご飯どうする?」

と祐子が聞くので

「今食べたくない」

と芙美香は答えた。

そして帰ってすぐ部屋で休むことになった。

芙美香にとっては降ってわいたラッキーな出来事だった。嫌だと思っていた学校に午後居なくていい。しかもお腹が痛くなったことで、福水やクラスメイトから丁寧に扱ってもらった。そして給食を食べられないことで、午後の授業は出なくてよくなった。しかも祐子が車で迎えに来てくれた。

芙美香は考えた。

「もしかしたら、今までの苦労は、このためにあったのではないか?」

そんな風に思える。そう、明日も給食を食べないで午後帰ってくれば、午後早い時間に車で帰れる。

「これはまさしく天国だ」

そして即行で自分のベッドに入った。しばらくして布団が温まると気持ち良くて、昼間の窓からの太陽の光が降り注ぐ中、芙美香はすやすやと寝てしまった。祐子が入って来てカーテンを閉める物音で目が覚めた。

「芙美、大丈夫?おかゆ持ってきたけど食べる?」

と祐子が言った。

「あ、夜ごはん。今何時?」

と芙美香が聞くと

「今は夜の7時だよ。眠ってた?」

と裕子が心配そうに言った。

「大丈夫。横になっていたらお腹の痛みも無くなってきた」

と芙美香が言うと祐子はほっとしたような顔をしていた。そして祐子が持ってきたおかゆを見ると、少し米の粒が残っているかゆで、大きな梅干しが一つのっていた。

「おかゆ久しぶり」

と芙美香が言いながらスプーンで梅干しを小さく崩した。おかゆを一さじすくいながら、崩した梅干しをのせて口に入れた。梅干しの酸味と塩味が引き立って香りが鼻に抜ける。無味のおかゆを喉に流し込みやすかった。芙美香にとっては朝ご飯以来の食事だったせいか、胃袋が温まり、体のあちらこちらからチカラが抜けるような気がした。

「どう、美味しい?」

という祐子に芙美香はうなずいた。祐子はそばの椅子に座って芙美香が食べている姿を眺めていたが、安心したようにそう言った。

芙美香はあまりお腹は空いていなかったが、久々に食べるおかゆは胃に優しく感じた。梅干しの酸味と爽やかな香りが鼻に抜ける感覚と、体が温まる感覚がやけに強く感じた。

保健室に行ったときあたりから口がカラカラに乾いていて声が出にくかったが、おかゆのおかげでしっとりしてきて、声が出やすいように感じた。芙美香が食べ終わると、祐子は食べたお椀を持ってきたお盆にのせて

「おやすみ」

と言って部屋を出ていった。

「おやすみなさい」

芙美香が言った。そして芙美香は午後の1時ごろ帰宅してから7時までしっかり寝てしまったので、今、めちゃくちゃ目がさえてしまった、ということに気付いた。

「これからゲームをする時間がたっぷりとれるよね!それってめちゃくちゃラッキーじゃん」

芙美香はそれから思う存分ゲームに打ち込んだ。何時間打ち込んでいただろうか。空がうっすらと明るくなるとさすがに少し眠くなってきた。

「ほんの少しだけ」

と思ってベッドに入って一寝入りすると、祐子に起こされた。辺りは明るかった。



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