グレースケールからカラフルへ No.1~創作大賞2025 ファンタジー小説部門エントリー作品
【あらすじ】
朝戸芙美香|《あさとふみか》は小学校5年生。毎日学校に行く時は景色がグレーに見えてしまう。大きな原因はないが、一体何のために学校にいくのかわからなくなり学校に行けなくなる。そして嫌なことをしないで、大好きなゲームに集中することで不思議な経験へと誘われる。そして仲間と一緒に課題を克服することで、本来の芙美香を思い出し、カラフルな世界へ踏み出す決意をする。
第1章 学校に行く理由を教えて
第2章 居場所探し
第3章 ワタシルーティン
第4章 迷い込んだ場所
第5章 それぞれの持ち場
第6章 迷わない自分へ
第7章 集めた3つのしるし
第8章 カラフルに生きる
第1章 学校に行く理由を教えて
芙美香は小学校に通う道の景色がいつもグレーの濃淡で描かれた水墨画みたいに見えていた。入学したころはこんなにグレーじゃなかったのに、いつのころからそうなったのだろう。
5年生になってから芙美香は登校班の副班長を任命された。役目はというと、朝の登校時10人程の班の隊列の最後尾について、班の年下の児童が安全に歩いていることを見守ることだった。その班員たちが歩く姿を後ろから眺めているとやはりグレーに見えた。
小学校に近づくと校門のそばに交差点があり、時間によっては登校班がいくつも同じ交差点で信号待ちをするので、登校班渋滞が起きていた。その登校班も立哨|《りっしょう》の保護者や先生の誘導で少しずつ流れていく。
「もうすぐ学校」
そう思うとため息が出るのだった。
小学校の校門を入ると、それぞれの学年昇降口に行くので、登校班はバラバラになり芙美香は自分の下駄箱に向かい、上履きに履き替えた。5年1組の教室は校舎の4階に教室がある。芙美香は教室まで階段をあがり教室に入ると、すでに教室には児童が数名いた。
授業開始までは、校庭で遊んでも教室に居てもいいのだが、芙美香は校庭で一輪車に乗って遊んだり、鉄棒で遊ぶことが面倒に感じていた。そしてだんだんと校庭で遊ぶことに楽しさを感じなくなり、教室で持参した本を読んで過ごしていた。
毎日、学校には来るが無味乾燥に感じる学校生活を過ごし、一日が終わると一目散に帰宅する。
何といっても最近はゲームに夢中だ。いろいろなゲームをしてきたが、特に好きなゲームがある。ゲーム自体はシンプルな陣地取りゲームなのだが、実に仕掛けが面白い。芙美香はそのゲームの世界観に魅了されていた。
ゲームの中の自分に着せる服は普段着たいと思っても着れないような服を選んだ。メタリックのTシャツとホットパンツ。そういった服装や靴、帽子やアイテムがとにかく沢山並んでいる。探すだけでも楽しいし、見ているだけでもワクワクする。
相手との対戦もあるが、しっかり使うアイテムの特徴を知り、使い方を練習しておかないと、チームで対戦する時に足を引っ張ってしまう。そのため、アイテムを使いこなすスキルをあげるための個人練習を欠かさない。帰宅後の時間はとにかく練習に時間をささげた。
負けん気の強い芙美香は、すぐに頭角を現し、チーム戦でも足手まといにならなくないどころか、時にはチームを引っ張る役目も果たすようになっていった。そして、チームメンバーともやり取りできるチャットで、いろいろな情報を得ていった。
「学校よりずっと面白い」
芙美香は自分の居場所を得たような気がしていた。
別に学校でいじめられたとか、特別に嫌な事があったわけではない。やはり、多くの児童が集まってクラス単位で何かをするときには、「一つの決められたことを好きでも嫌いでもやる」それは仕方ないことだと芙美香は頭では理解しているつもりだった。
5年1組は担任が福水という男性教諭で、丁寧な指導で児童からも保護者からも人気を集めていた。
福水の信念として「誰も落ちこぼれを出さない」を守り続け、「勉強がわからない」という子供に対しては授業中でもどこまでも真摯に向き合う教育方針を持っていた。
芙美香はというと塾に行かずとも、学校の授業は良い成績を収めていたので、4年生までのクラス担任から各教科でわからないという子供に対して先生の代わりに教えるよう言われていた。
芙美香も担任に頼まれると、最初はそういう子たちに教えていたし、
「芙美香ちゃんに教えてもらうと先生より分かりやすい」
とクラスの子供達からも感謝されたことが芙美香自身のモチベーションにもなっていた。
でも、すべてがそういう子ではなく、
「わからない」
「なんでそんなことわかるの?」
「答えを教えてよ」
と自分で考えるように教えようとすると、理解することを面倒くさがる。限られた休み時間に早く答えを知って終わらせて、遊びに行きたがるのだ。そうやって答えだけを要求する子が多くなってくると「教える」ということに嫌気がさしてきた。
嫌気がさしても芙美香は「仕方ない」と思うようになっていった。
「仕方ないよね。だってみんな理解しないで楽に答えばかり求めるんだから。そのほうがラクだもん」
しかし、5年生にって福水になると状況が変わった。福水は自ら「わからない」という生徒に個人指導を始めるのだ。「わからない」子どもが他にもいると、その「わからない」子どもたちだけ集めてわかるまで指導する。
当然、クラス全体への指導はストップし、他の子ども達は自習時間となった。
たまに福水に聞きたいことがあっても、クラスの子ども達に人気のある福水は、休み時間も誰かしらに囲まれて、なかなか芙美香が近づく隙間が無かった。
次第に芙美香はこんな風に考えるようになっていった。
「去年までとはだいぶ違う。今年は『人に教えるわずらわしさ』がなくてラクだけど、人に教えなくていいなら、私がそこにいてもいなくてもいいような気もする」
そして授業中「わからない」を連発する青木と清水に対して個別教育を始めることになると、突然自習時間がやってくる。自習時間では、福水が決めた自習(漢字の書き取りなど)をやることになっていた。とはいえちゃんとやってもやらなくても別に後でチェックがあるわけでもない。
ある時、芙美香は漢字の書き取りが終わってしまった。福水には自習時間には本を読まないように言われていたが、暇すぎて持ってきた本の読書を始めた。
「先生に気付かれないようにすればいい」
そして教科書を立てた内側で持参した本を読むようになっていった。持参した本は休み時間などに読むための本だったのだが、もちろん芙美香の好きな本だ。ついつい、引き込まれて本の内容に一喜一憂していると、いつの間にか自習時間が終わって授業がはじまっていることに気付かなかったのだ。
「朝戸さん、この問題の答えわかりますか?」
不意に福水に声をかけられて、辺りがシンとしている状況に気づき、ようやく自習時間が終わっていたことを知った。でも、後の祭りだ。
「わかりません」
と芙美香が言うと、
「今何をしていた?」
と福水がいうので、
「本を読んでいました」
と正直に芙美香が言うと
「その本を持って来なさい」
と福水に言われ、席を立ちその本を福水に渡して席に戻った。
「本を読む時間ではないですよね?」
と福水に言われて、芙美香は言い訳出来ず
「はい」
と言った。
「なんで自習時間に漢字の書き取りをするように言ったのにしていなかったんですか?」
と福水がいうので、
「もう漢字の書き取りは終わりました」
と芙美香が言うと
「じゃあなんで終わった後の指示を聞きに来ないのですか?」
と福水が言うので、
「え、先生が教えているときに話しかけたら悪いと思ったからです」
と芙美香は言った。
「でも、読書をしていいとはいっていませんよね」
と福水は淡々と言った。
「はい」
と芙美香はモヤモヤする気持ちを押さえてそういった。すると福水は満足気に芙美香を見て、
「言われたことをやっていてくださいね。授業が進まなくなりますから」
とクラス全員に向かって言った。だが芙美香にとっては福水が言うことに疑問を覚えた。
「授業が全然面白くない。先生はいつもわからないばかり言っている青木とか清水には丁寧に教えて時間をかけるけど、他の生徒のことはどうでもいいのだろうか」
芙美香が福水に反抗心と猜疑心を抱いた最初の出来事だった。夏休みになる少し前の事だった。その時は、「もうすぐ夏休みだから」という気持ちで福水への不満な思いを感じてはいても誰に相談するということも思いつかず、無意識に自分の心をなだめていたのだった。
夏休みが終わっても、福水の指導方針は変わることなく、「落ちこぼれゼロ」に徹していた。30人クラスを率いる福水としては成績が良い子ども達には「自分の頭で考える」時間を与えたつもりだったのだ。
ただ、芙美香のような基礎はもうわかっていて、もっと発展して頭を使う応用問題だったり、知らないことをどんどん吸収できるような環境が欲しい子どもに対して思いが届いていない事には気づいていなかった。
しだいに芙美香は「学校には自分の居場所がない」と思うようになった。そんなこんなで福水のせいにするつもりはなかったが、2学期の途中から学校に行く時には景色がグレーに見えて色が無くなっていった。
でも家に帰ってゲームをしている時だけは心から欲するものにすべての時間をささげることで自分のこころを整えられる気がした。そういうときの景色はとてもカラフルで気持ちは上がり調子だった。
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