グレースケールからカラフルへ No.5~創作大賞2025 ファンタジー小説部門エントリー作品
第5章 それぞれの持ち場
ミケはもう自分の得意分野で何かできないかと探し始めている。でも、芙美香とマリンはこの状況下で自分にできることが何かピンとこなかった。
「ねえ、鉄仮面、ここに居ても何もできないんじゃない?」
とマリンが芙美香にいった。「鉄仮面」というのは芙美香のハンドルネームだ。
「そうだね。私たちは外の様子を見て何か手がかりになることを探してみようか」
と芙美香がマリンに言うと
「そうしよう。私ホントに早くここから出ないと」
とマリンが困ったような顔をしていたので、芙美香は「大丈夫」とうなずいた。そして
「早くここから出られるようにするためにちょっと外に行ってきます」
老婆とミケに声をかけて、さっき入ったドアから出ていこうとした。
「何があるかわからないから、持っている武器はそのまま持っていきなさい。弾は入っているのかい?」
と老婆が言うと
「あ、私、全部使っちゃいました」
とマリンが叫んだ。すると老婆は部屋の奥に行って、今度は武器の弾薬らしきものを持ってきてくれた。
「あいにくこれしかないけど使えるなら使っておくれ」
と言ってマリンと芙美香に3つずつ弾を渡してくれた。
「ありがとう。何とかなると思う」
マリンはそういって、武器に弾を込め、武器を高くかざしながらそう言った。芙美香も武器に弾を込めて立ち上がった。
芙美香とマリンはドアから外に出て周りを伺いながら、歩いて行った。外に出てみると、さっきのゲームの景色とは全然ちがう景色が見えた。遠くに山が連なっていて、目の前には深い谷がある。下を覗き込むと吸い込まれそうだった。小屋の前に谷に沿って細い山道がある。どうやら老婆の家は山の頂上近くにある一軒家らしいとわかった。
芙美香とマリンはゆっくり歩いて行った。しばらく無言で歩いていたが、沈黙を破ってマリンが話しだした。
「私のお父さんとお母さん、去年離婚して、私はお母さんとおばあちゃんと暮らすことになって、弟はお父さんと暮らすことになったの。お父さんと弟と離れるのは寂しかった。
それでお母さんが離婚しておばあちゃんと一緒に住むことになったから、私は転校することになったんだ。
転校する前の中学校ではね、ずっと仲良かった友達と一緒で楽しかったんだけど、今の中学では知っている人もいないし、話も合わないし、制服も違うし、なんていうか違和感を感じてさ。そのうちだんだん行かなくなっちゃったんだ。
お母さんは仕事で朝早くから夜まで家に居ないけど、おばあちゃんは優しくて、私が学校に行かなくてもいつも『お前は優しい子だから大丈夫』って言ってくれて。学校に行かないで家でおばあちゃんと一緒に居られたときは良かった。
でもね、おばあちゃんが病気で入院しちゃって、いつ退院できるかわからないんだって。いつもいつもずっと不安で仕方なくてゲームばっかりしていたの。だから私はずっとここにいるのは絶対に嫌。早くおばあちゃんのところに戻りたいんだ」
マリンは一息に話すと黙った。
「そうなんだ。おばあちゃんにまた会えるようにしようよ。そしてここから出られるようにしようよ」
芙美香はマリンに言っているのか、自分に言い聞かせているのかわからない気持ちで話していた。
「あとね、私は、最近小学校でお腹が痛くなって休みがちになっていて、もう学校に行かなくてもいいかなって思っているんだ。
家にはおばあちゃんがいるけど、認知症ですぐ忘れちゃうし、『モノがない』って言って、不機嫌なことが多いから一緒に居るのが苦痛。お父さんとお母さんもいるけど、二人とも私のことを見ていない気がする。だからどうしても家に自分がいる場所がないって思う。学校でも家でも私がいる場所が無くて探したけど見つからない感じ。
でもさ、ゲームの中にだけには私の居場所が合って楽しいって感じてた。正直に言うと私はマリンみたいに、『戻りたい』ってあまり強く思っていないけど、今は『戻るためになにができるか』探したいよ」
芙美香はにっこり笑って言った。
「お互いゲームをしている時だけが楽しかったんだね。よくチームも一緒になったもんね」
とマリンが微笑んだ。
「でも、この世界がなぜかゲームの世界と混じっちゃったんだろうね。私たちがやっていたゲームとは風景とか雰囲気は大分違うよね」
歩きながら芙美香が言うと、近くの草むらからカサカサ音が聞こえて何かがいる気配がした。芙美香とマリンは顔を見合わせて武器を構えた。
すると、村人風の頭がぼさぼさで麻の袋に頭と腕を通す穴をあけたような上着と麻のズボンを履いた裸足の男性が這う様にして出てきた。
「大丈夫ですか?」
マリンが言うと、
「み、水を。。」
と村人が小さな声で言った。
「ちょっと待ってて。水を探してくるね」
芙美香はそう言って辺りを探した。芙美香にはずっと水の音というか滝のような音が聞こえているのが気になっていたのだった。しばらく歩くと小さな滝と滝つぼがあり、小さな川が流れていた。
芙美香は被っていたメタリック調のヘルメットを脱いで、水を汲んで持っていった。戻ってみるとマリンは村人を仰向けに寝かせて草を重ねたマクラを頭の下に敷いていた。そして村人のそばに座り大きな葉っぱをうちわ代わりにしてあおいで風を送っていた。
「水、持ってきたよ」
芙美香が言うと、マリンは村人を起こして、自分の左腕で支え、芙美香が持ってきた水を自分の右手ですくって村人に飲ませた。
「ありがとう」
そういいながら村人は水を飲んでいた。村人は落ち着くときちんと座りなおし、こんな話を始めた。
「あんたらはどこから来なすったか知らんが、わしに水を持ってきて下すったりありがてぇことだ。わしの名前は『イチシ』というんで、山で困ったことがあったら何でも言ってくだせえ。何か役に立てることがあると思いますんでな。
そう言えば、少し前のことだが、突然あんたらのような、わしらの見たことがないようなものをかぶり、不思議な格好をして武器を持っている人たちがわんさとわしらの村に来たんだ。
陣地を取るっていって、武器をぶっ放して村人を襲ったり怖がらせたり、色とりどりのペンキで村の家や道を塗ったり、そりゃあ大変だったでよ。最初は数名だったが、どんどん数が増えて、村中走り回ったり、村人たちの家の中に入ってきたりして、村人たちの暮らしが脅かされたんだ。それで村人はみんな山の方に逃げたんだ。
そいつらは面白がって逃げる村人に危害を加えていくが、村人は今まで武器なんざ使ったことがない。今までずっと平和だったからな。ほいで、生き残った者達を避難させることにした。
わしも家族を山に逃がして、逃げ遅れた年寄連中を山の避難所へ連れていく途中、突然やつらに取り巻かれたもんで、村人を逃がすためにわしが『おとり』になってようやくやつらから逃げてきたところなんだ」
村人が話し終えると、沈黙を破ってマリンが聞いた。
「村って山の下にあるんですか?そこはペンキを塗ったり争っている人たちはまだそこにいるんですか?」
「村は山の下にあるだよ。大きな川のほとりにみんな仲良く住んでいたでな。畑で取れた作物を皆で分け合うつつましい村だったが、今はみな怖がって山の中ほどに来て隠れているだよ」
とイチシが言った。
「村人のいるところに行って話を聞かせてもらえませんか?」
とマリンが言うと、
「何を話すんだべ?わしは命を救ってもらったが、あんたらみたいな格好で行くとみんなが怖がるでよ」
と村人は困ったように言った。
「私たちは、この村と私たちがいた世界が繋がっている状態を切り離すために呼ばれたんです」
と芙美香が言った。
「そうかい?んで、あんたら何ができるんだい?」
と村人が言った。
「山の上のおばあさんから『あってはならないもの』を探すように言われて探しています。もともとこの村になかったけれど今あるものってなにか思い当たることないですか?」
と芙美香が言った。
「うーむ。山の上、あーあの魔法使いのばあ様か。そうさなぁ、前は無くて今あるものってことか。『あってはならない』ってのはよくわからねぇけど。
あ、争いごとみてぇのは前はなかっただよ。みんな仲良くしてたし、早くそれは元に戻してえな。あとはペンキが塗られた家や道や木々とか。あの毒々しい色はわしらの村にはなかった。あと、あんたらみたいな被り物して変な格好している奴らがまだふもとの村にはそのまま倒れているはずだ。だがわしらは怖くて触れねえだ」
と村人は言った。芙美香とマリンは顔を見合わせた。
「確かに、前は無くて今ある、『あってはならない』ものって争いごとっていうことも言えるよね」
芙美香が言うと、マリンは違う箇所に反応したようだった。
「そのまま倒れている?そういう格好のやつらはどこにいるの?」
マリンが聞いた。
「ああ、村に行くと沢山いるはずだで。わしらどうしたらいいかわからなんだ。長老が何とかしてくれると言っているがな。なかなか難しいんでねぇか」
イチシは困ったような顔をして言った。
「私もなぜそうなったかわからないんですが、この村と私たちの居た世界が切り離されれば元の暮らしに戻れるはずです。あなたたちも私たちも元のホッとする居心地のよい場所に戻るんです。そのために、一緒に『あるべきでないもの』を探してもらえませんか?」
マリンが言った。
「お願いします」
芙美香も頭を下げた。
村人は考えるような素振りを見せていたが、しばらくしてこう言った。
「あんたらにとってもわしらの世界と切り離せると都合がいいってことだな。お互いそれがいいなら、なにか力を合わせてやってみるしかねぇな。わし、ちょっと村人たちが避難している場所に行ってくる。あんたらに聞いた事情を話してみるだよ」
村人は立ち上がってゆっくり歩きだした。
「私たちはここで待っているほうがいいよね」
とマリンが言うと
「そうだな、みんなあんたらのような格好のやつらに脅かされているから会うのを嫌がると思うだよ」
と村人は言って茂みの奥にずんずん歩いて行った。山道ではない藪や茂みの中を歩いていく。道もないところに安全な場所を求めて避難しているのだろう。
マリンは村人の姿を目で追っていた。芙美香は気になっていることをマリンに伝えた。
「そういえば、ここに来る前にやっていたゲームで同じチームに居たのが、ミケとマリンと私ともう一人『チョコ』っていうハンドルネームの人がいなかったっけ?ずっと気になっているんだけど」
「あ、そうだね。4人チームだったもんね。どうしたのかな?ここに来る前に敵にやられちゃってなかったっけ?」
とマリンが言った。
「うん、それも考えたんだけど、どうしても気になるんだよね。わたし山のふもとにある村に行って見てきてもいい?マリンはさっきの人をここで待っていてもらえるかな?」
と芙美香が言うとマリンは驚いたような顔をして言った。
「いいよ。武器を持っていってね。どんな奴がいるかわからないから」
「うん。分かってる」
そういって芙美香は、ヘルメットをかぶり、武器を肩にかついだ。武装すると、一人で行動する怖さに心臓がバクバクと高鳴っていたが、武器を担ぐと不思議と覚悟が決まった。
そして山道を下り方向へ歩き始め、ふもとの村を目指した。あたりはしんと静まり返っていたが、時折りけたたましい鳥の声が聞こえ、そのたびに身を低くし武器を構えて辺りを見回すのだった。人っ子一人いない。でも誰が出てくるかわからないという怖さはあった。
学校に行っていた時の芙美香だったら一人で危険なことに取り組むなんて絶対に考えなかったはずだ。でも、今、芙美香は「自分の感覚に従う」ことに全身全霊を傾けていた。なぜなら「絶対に取り組まないといけない」という使命感にみなぎっていたからだった。
「怖さ」というよりむしろ「心地よい緊張感」だった。どこから危険が迫っても「絶対に何とかなる」という自分への信頼感から体中の感覚が研ぎ澄まされたように感じた。
そしてもしかしたら、後頭部にも目があるのではないか、360°どの方向も見えているという不思議な感覚に包まれていた。
☆ドキドキしながら創作大賞に初エントリーします。もしよかったらスキやフォローお願いします💛
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