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グレースケールからカラフルへ No.3~創作大賞2025 ファンタジー小説部門エントリー作品


第1章と第2章はこちら♪
第1章 学校に行く理由を教えて
第2章 居場所探し

第3章 ワタシルーティン

「芙美、朝だから起きようね」

祐子が部屋のカーテンを開ける音で目が覚めた。

「そうだ、私朝までゲームをするつもりだったんだけど、少し眠っちゃったんだ」

少しどういう状況だったのか思い出してきた。それから芙美香は起きて顔を洗った。顔を洗うと少し目が覚める。

それから着替えて、ランドセルに持ち物をそろえて学校に行く支度を整えた。リビングに行くと朝ご飯の支度が整い、美和子や浩介は先に食べ始めていた。芙美香はあまり食べたくなかったので、ご飯と野菜炒めを少し食べて、家をでた。

1月の曇った日では、そもそも色味がないかもしれないが、学校までの景色は芙美香の目には黒の濃淡で現された絵のように見えるのだった。

「やっぱり学校に行く時って景色がグレーに見える。なんでだろう。お母さんと車で帰る時は色がついているのに」

芙美香はそんなことを想いながら学校への道を歩くのだった。
生理3日目で少し腹痛は楽になっていたが、なぜか今日は登校してから何度もトイレに行っていた。腹痛までではないが、下腹部になんというか鈍い痛みというか違和感がある。

「一体この痛みはなんだろう?」

芙美香はなんだか心配になって、授業の合間の休み時間には何度もトイレに行っていた。そして4時間目にかかるとだんだんと腹痛を感じ段々と気持ち悪くなり始めた。そして4時間目が終わるときに、かなり気持ちが悪くなってきたので福水のところにいき

「先生、ちょっとお腹が痛いので保健室に行きます。気持ち悪いので給食は食べられません」

と言った。福水は

「大丈夫?昨日のこともあるし、ちょっと無理しないで様子を見たほうがいいかもしれないね。一人で保健室に行ける?」

というので、うなずいた。

「給食が食べられないと、お家の人に迎えに来てもらうけど」

というので芙美香は

「給食は食べられないです」

と言った。

「じゃあ保健室に行って休んでいて。あとランドセルも持っていってね」

と福水がいうので、芙美香はランドセルに筆箱や教科書を入れてゆっくり保健室に向かった。4階の教室から階段を降りて隣の棟の1階にある保健室にいくのだが、腹痛の時は手すりにつかまってゆっくり降りないといけないような不安を感じた。

いつもの元気な芙美香なら4段くらい階段を飛び降りるくらいへっちゃらだったのに。保健室にたどり着くまでどのくらい時間がかかっただろう。

保健室には荒川がいて、

「あら、またお腹痛くなっちゃった?大丈夫かな?福水先生はお家の人に連絡してくれているかな?」

というので、

「はい、お願いしました」

と芙美香がいうと

「そうか。じゃあ保健室で待機だね。お腹痛いだけ?横になったほうがいい?今日はね、他にもお腹が痛い子がいてベッドを使っているから、ここで座って待っていられる?」

と荒川が長椅子を指して言った。

「はい」

と芙美香はいって保健室の長いすに座っていた。そして給食のいい匂いがしてくるころ、祐子が保健室にやってきた。

「今日も車で帰宅できる」

腹痛はあるものの、なんだか心は軽くなっていた。芙美香は車で帰宅できることがうれしくて、内心ワクワクしていた。そして

「このワクワクした気持ちは誰にも悟られないようにしよう!」

となるべく下を向いて周囲にバレないようにしていたのだった。そして家に着くと更にワクワクな「ゲームの時間」が待っていることが何よりもうれしかった。

翌日の金曜日、学校に行ったはいいが4時間目にかかるとシクシク痛くなってきて、4時間目の終わりには福水に腹痛があり食欲がないことを伝え保健室に行く許可をとった。保健室で休んでいると祐子が迎えに来た。そして祐子と車で帰る。

家に帰ったら、お昼も食べずに部屋に直行だ。ゲームがやりたければゲームをやるし、眠かったら部屋が明るくても布団に入って寝てしまう。

ゲームをしているといつの間にか腹痛は無くなっている。そして夕飯の時間にはお腹が空いてくるので、祐子や美和子と一緒に夕飯をとった。

祐子や美和子も芙美香のことを心配して、以前のように言い争うことはなく、かといって芙美香に質問するでもなく、誰も話をしないで、テレビの音と食器が当たる音や咀嚼の音だけの静かな夕飯だった。

芙美香は一つのことをじっくりやる方が得意なので、いろいろ話をするより、食事中は話をするより無言で食べる方が好きだった。夕飯も静かにご飯を食べる時間へと変化していた。

「お母さんとおばあちゃんが言い争いをしないなんて!」

芙美香は祐子と美和子が激しく言い争うことがなく、静かに夕飯の場に居られることに、心の平安を感じていた。そして夕飯の後はゲームパラダイスだ。さっさとシャワーを浴びて、自分の部屋に戻り、それからの時間全てゲームに捧げる。

そして週末の朝が来ると土曜日と日曜日の2日間学校はお休みだ。週末は浩介が家にいて、芙美香のことを心配してくれるが、特に何も聞かないでくれる。芙美香は浩介なら「静かに放っておいてほしい気持ち」をわかってくれているような気がした。

でも月曜日はまたやってくる。日曜の夜には芙美香の気持ちが下がりがちだった。

月曜日の朝、芙美香はいつものように、美和子と祐子に見送られながら朝学校に出かけた。やはり学校に行くときは目に映る景色が水墨画のように見える。

芙美香は月曜日は特に腹痛を感じないはずだった。でも、突然3時間目の終わりごろ腹痛が襲ってきたのだった。3時間目が終わるまでとにかく授業が頭に入ってこないくらい必死で我慢していた。もし福水に当てられたなら

「はい、お腹が痛いので保健室に行きます!」

と大声で言ってそのままトイレと保健室に行くつもりで気持ちの準備をしていた。なぜかそういう時は授業中当てられず、ようやく3時間めの授業終わりのチャイムが鳴って、我慢の限界ギリギリでトイレに駆け込んだ。生理も終わったし、下痢でもなかった。しかし痛みがひどい。

芙美香は4時間目が始まった時に福水に力ない声で言った。

「先生、すみません、お腹が急に痛くなったので、保健室に行きます」

そういって席を立つとお腹を押さえて歩き始めた。

「朝戸さん、一人で大丈夫?」

福水はそう言いながら、

「保健委員の多田さん、朝戸さんを保健室まで連れて行ってあげてくれる?」

と福水に言われて多田は席を立って芙美香のところに走り寄って、教科書をランドセルに入れる手伝いをしてくれ、そして腕をとって歩き出した。

多田とは同じクラスでもほとんど話したことはなかった。芙美香の元気がなくなっている今、とても丁寧に優しく接してくれた。お腹が痛いという事にも良く事情を分かってくれているようで、歩くスピードもいちいち気にかけてくれた。

芙美香には何もかもが今まで知らない世界に見えた。今までは自分でやれば何でもできるし、むしろ「出来ないこと」で自分の価値が下がることが耐えられなかった。だから人の助けは要らないと思っていたのだが、腹痛が起こると、福水や荒川といった小学校の教員も、多田をはじめクラスメイトたちも、手を差し伸べてくるように感じた。

「今までみんなこんな風に接してくれていたっけ?私はいつもこのクラスでは浮いていると思っていたのに」

改めて芙美香は腹痛を感じるのは不便だが、周囲の人々の優しさに感謝の思いだった。これは芙美香が元気だった時は気づかなかったことだ。

保健室で荒川に状況を伝え、保健室で休み、祐子が車で迎えに来てくれて帰宅できる。芙美香は次の日も、そして次の日も、ひどい腹痛でも、ひどくない腹痛でも4時間目には保健室に行くようになった。

すると、ある日祐子が迎えに来た車の中でこんな風に言った。

「芙美、お腹痛いんだよね。給食が食べられないと午後学校に居られないんだって。だからこの3日間ずっとお腹が痛いみたいだし、明日学校を休んで病院に行ってみる?」

「え?」

芙美香は驚いた。母の態度も変わってきている。これはどういうことなのだろう。でも休むと病院に行かないといけない。腹痛が無くなるならそれはそれでいいし、学校に行くより病院がいいか。

そして次の日は朝からお腹が痛かった。そして朝ご飯の時に、

「お腹痛い」

と芙美香が言った。

「大丈夫?」

と美和子も浩介も祐子も同時に声をかけた。

「うん、ご飯食べたくない」

芙美香が言うと、

「熱を測ってみようか」

と祐子がいうので、芙美香は体温計を探し、体温計を自分の脇に挟んだ。熱は36.5℃で平熱だった。

「熱はないけど食欲が無くてお腹が痛いのね。学校は休む?」

祐子が言った。

「少し休んで元気出せよ」

と浩介もそういいながら芙美香の頭を撫でた。

「芙美ちゃん、大丈夫?休んでお腹治してね」

と美和子も心配そうに芙美香の顔を見ている。

「おばあちゃん、ありがとう」

芙美香はそういうのが精いっぱいだった。すぐに自分の部屋に戻って横になって考えた。

「家でも学校でも、みんなの態度が変わってきている」

でも、腹痛の件ではみんなが優しく気を使ってくれて、芙美香の思ったことができている。

「きっとこの状態は私へのご褒美」

と思えてきた。

「9時に小児科の予約が入ったから行けるように準備しておいてね」

祐子が芙美香に声をかけた。

「わかった」

と芙美香は答えて、着替えを済ませてベッドに寝ころんで漫画を読んでいた。芙美香が物心ついた時から行っている小児科だ。家からは車で10分くらいの距離だった。8:45ごろ芙美香は部屋から出てリビングに行くと祐子がいた。

「もうそろそろ行く時間だよね」

芙美香は祐子の運転する車で小児科に行った。平日の朝はそんなに混んでいなかった。そして診察室に入ると、医師の西村からは

「腹痛ですか。できることといっても浣腸くらいですけど、それでもいいですか?」

と言われたが祐子は

「子供への内視鏡とかレントゲンはできないでしょうか?」

と聞くと

「この辺だと大人向けしかないですね。うちの小児科だと浣腸くらいしかできないですね」

と西村が答えた。

「そうですか。ではそれでお願いします」

と言った。芙美香はもちろん赤ちゃんじゃあるまいし、浣腸なんて嫌だったが、従うしかなかった。

処置室に通されて、芙美香が診察台に横になると西村が浣腸をしてくれたが、ことのほか心地悪かった。浣腸をしたのだが、結局、腹痛の原因ははっきりしなかった。

「お腹はキレイですね。痛みがあるということで、痛み止めを出しましょうか」

それで診察は終わった。結局、小児科にいっても腹痛の原因は不明のままだったが、原因が不明とわかっただけでもよかったのかもしれない。

芙美香は薬をもらってから帰宅するとそのまま自分の部屋で過ごした。お腹が痛くなったら薬を飲めばいいのだから。

腹痛の原因がわからないまま2週間が過ぎた。相変わらず、朝からお腹が痛くなければ、学校に行くけれど、4時間目ごろになると腹痛がする。そして保健室に行き、給食を食べずに帰宅する。または朝から腹痛がするとそのまま休む。

芙美香のお腹の調子で一日が決まる、そんな生活が続いた。



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