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グレースケールからカラフルへ No.8(最終章)~創作大賞2025 ファンタジー小説部門エントリー作品

第1章~第7章
第1章 学校に行く理由を教えて
第2章 居場所探し
第3章 ワタシルーティン
第4章 迷い込んだ場所
第5章 それぞれの持ち場
第6章 迷わない自分へ
第7章 集めた3つのしるし

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一歩一歩マイペースで着実に進んでいきます!

第8章 カラフルに生きる


「終わったよ」

と老婆が言った。巻物だけが残されていた。

「チョコはどうなったんですか?」

と芙美香が言うと、

「大丈夫。ちゃんと元居たところに戻ったよ。お前さんたちが探してくれたしるし3つで、こちらとお前さん達の世界が切り離されたからね。心から礼を言う。今度はお前さんたちが元居たところに帰る番じゃ。もうこの村には来なさんな」

と老婆が言った。

「これからどうなるのですか?」

とマリンが聞くと

「お前さん達はここの世界とは切り離されて元の日常に戻る。私らも同じさ。私らはもう妙なゲームの世界とは無縁の平穏な暮らしに戻れるだろう。では最後の大仕事と行こうか。お前さん達3人を送り届けるよ」

と老婆が言い、何やら先ほどの巻物を高く掲げ呪文を唱えてからその巻物を床に置いた。

「さあ、足形が3つあるのが見えるかい?足形の上に立つんだ。一人ずつ立ってごらん」

と老婆の言葉に、マリンが足形に自分のブーツの底を合わせるようにして立った。次にミケがマリンのマネをして足形にブーツを合わせるように立ったのを見て、芙美香も同じように足形に合わせて立った。

巻物の上に3人だと意外に狭くて3人で肩を組んで立っていた。

「そうだ、それでいい」

と老婆が言って、呪文を唱え始めると、巻物から白い煙がでてきた。煙が濃くなり視界が悪くなり、3人とも互いの顔がよく見えなくなっていった。老婆の声もしだいに聞き取りにくくなり、ついには強い風が吹いてきた。

芙美香はバランスを崩し、肩を組んでいた手が離れてしまった。

《バチバチバチ》

と空を割くような音と大きな振動を感じると、目の前に白っぽい渦がグルグル巻いているように見え、渦の中心が黒く見えた瞬間、渦の中心に吸い込まれていった。

「わーーー!」

芙美香は思わず目を閉じて声を上げた。

どのくらい時間が経っただろうか。芙美香がおそるおそる目を開けると、そこは自分の部屋だった。パソコンの前の椅子に座っていた。

目の前にパソコンがあるがモニターの画面はスクリーンセーバーモードになっていて、星空の画像が映っていた。辺りを見回したが、部屋の中は変わった様子はない。窓からはまだ明るい光がさしていて、昼間だということはわかる。

「戻ってきたんだ」

芙美香は独り言をいいながら、自分に起きた不思議な出来事を思い起こしていた。

「そうだ、ゲームをしていたら違う世界に行っていたんだよね。今、自分の部屋に戻ってきたってことなのか。いや、うたた寝をして夢を見たってことだったのかな。だとするとリアルな夢だよね」

芙美香が見てきた様々な場面が断片のように脳裏に浮かぶ。山の上の老婆の小屋の景色。小屋からあたりを眺めると幾重にも連なる山々や木々に囲まれた黒っぽい小屋。そして赤いドア。ミケやマリンやチョコの表情。

「なんだか映画を見ていたような気がする。私がここに居るってことは、みんなも元居たところに戻たってわけだよね」

芙美香が伸びをしていると、パソコンから通知音が鳴った。チャットの通知恩だった。

チョコからのメッセージだった。

「おーい、みんな生きて戻ってきたぜー。ありがとなー」

芙美香はチョコが無事に家に帰れたことにホッとした。そして

「私も無事に帰れたよー」

とメッセージすると、マリンからも

「無事帰還!」

とメッセージが届いて、ホッとした。

「やっぱり夢じゃなかった。みんなもあの世界にいって戻ってきたんだから」

と芙美香は確信した。

「そういえば、ミケからは連絡がないが大丈夫だろうか」

芙美香がぼんやり考えているとミケからの長いメッセージを受信した。

「マリン、鉄仮面(注)、チョコ、みんなありがとう。私も無事に家に着きました。そしてものすごい冒険を共に味わえて幸せでした。

(注) 鉄仮面:芙美香のハンドルネーム

長文失礼します。

私は、魔法使いのおばあさんの小屋でパソコンに向かっていて、膨大なプログラムを読んでいたんだけど、たまに気持ちが折れそうになったのね。そんな時、おばあさんがマリンや鉄仮面の奮闘ぶりを不思議な望遠鏡で見せてくれて、励まされていたの。

みんなが頑張っているんだから私もできることをやろう、って。

私は生まれつき心臓の病気があって、子供のころはずっと病院のベッドで過ごしていたの。お父さんやお母さんと一緒に過ごしたかったけど過ごせなくて寂しかった。お母さんは優しくてなるべく私のベッドのそばにいてくれた。でも私が家に帰れるわけじゃないから、好きなだけ一緒に居られるわけじゃなかった。

そういう寂しさを紛らすためにずっと本や雑誌を読んでいたのね。お母さんに頼んで買ってもらったり持ってきてもらったり。

特に、詩集が好きで、言葉から情景を思い浮かべるだけでなく、その言葉の奥に隠れている心の風景を考えたり感じ取るのが好きだった。ある時ひょんなことからプログラミングというものを知って、本や雑誌を集めてね、沢山読んでみたの。

そうしたら、詩とプログラムって似ているなって思ってすごく興味をもった。知れば知るほど面白くて、いくらでも自分で自由に世界を創れるし、それは無限であることに魅了されたの。

自分の体はベッドから動けないし、たまに検査で痛い思いをしてきたから、そういう無限の世界へのあこがれは人より強かったかもしれない。小さいころから詩を書いていたんだけど、次第にプログラムを自分で書くようになっていったの。

病気の方は、私が18歳の時に、腕の良いお医者さんと巡り合えて、手術をしてもらって今は家での生活ができています。そして今、私はこの家で仕事もゲームもしていて、病院は検査でたまに行く程度です。

今は、プログラマーとして仕事をしているけど、本当に自分がやりたい事って、私が詩やプログラムからもらった『感動を伝える』ことなんだなって思いました。これからはそんなまだ形になっていない夢を叶えるために生きたいです。

今までを振り返ってみると「楽しい」とか「好きでたまらない」とか「興味がわいて仕方ない」ってことに遠慮しないでのめり込んできました。そうしないと生きられなかったんだけど、そうすることで、新しい世界を知ることができて、今回のゲーム世界と異世界のような村がゲーム側のバグで繋がってしまったことが分かりました。

それを見つけた時に、今までの自分がやってきたことが全てマルになったように思えたし、自分を誇らしく思えました。

私もそうだけど、みんなも短い間、異世界の混乱の中で自分のできることを見出していたのだと確信しています。もしかしたら本当は怖くて気が引けてやりたくなかったかもしれない。

にもかかわらず、それぞれ自分が思ったことを遠慮せずに、まっすぐに動いたから成功したし、これは本当に財産です。どんなにお金を積んでも知りえない世界。経験しなければわからない感情や気づきや思いの数々。

その行動はもちろん、あの村に住む人々にもゲームで紛れ込んだ人々にも、良い結果を招きました。でもそれ以上に自分自身を信じられるすばらしい経験だったと断言できます。それを伝えたくてメッセージしています。

だから、今回の経験みんなは本当に素晴らしい成長をしたと思います。そのことを忘れないでほしいです。

そういえば子供の頃、家族の中で私だけ家に帰れず一人病院に居た時、回りはグレースケールで見えていたけど、詩やプログラミングという新しい世界を知ってから、急に景色がカラフルに変わった経験を思い出します。

自分が居る場所は変わらないのに、気持ちが変わったら見えるものが変わり、カラフルに見えました。不思議です。

そして私も今回このみんなで力を合わせた経験は生涯忘れないです、きっと。こうしてみんなと出会えたことに感謝します」

読み終えた芙美香の両目からいつのまにか涙が流れ落ちていた。

「あれ、私、泣いてる?」

芙美香は自分でも何の涙なのかよくわからなかったけど、ミケのメッセージがあまりにも芯を突いたような気がした。ミケなりに大きな気づきがあって、それを言葉にして伝えてくれた。そのことが芙美香が誰にも理解してもらえず、といって捨て去ることもできないでいたモノ

ーー心の奥底で小さくなっていた芙美香自身ーー

に優しい光が当たったように感じていた。心地よさの中で芙美香はミケの文章を何度も読み直した。

ミケは難病の治療のため、生きるために病院に入院して学校には行けなかったが、その代わり詩やプログラムといった自分の世界を見つけ、その捉え方の変化で世界がグレーからカラフルになり、まだこれから先に夢があるという。

今まで芙美香の周りにミケのような発言をする人はいなかったので、芙美香にはミケが言うことが正しいのかわからなかったが、的を射ている確信があった。

そして「自分の好きや興味ややりたいことを追い求めていい」と背中を押してくれる、「たった一人の同志」だと感じたのだった。

「私も私なりにカラフルに生きよう」

と心に決めて、芙美香はミケに返信メッセージを書き始めると、祐子の声がした。

「芙美、起きている?芙美の好きなお菓子を買ってきたけど食べる?」

その声に、日常が戻ってきたことを感じた芙美香は

「あとでゆっくりメッセージを書くからね」

と独り言を言い、芙美香は部屋から出てリビングに向かいながら、少しお腹が空いていることを思い出した。

~終わり~



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