『風の至る場所』#1 | 散文詩的掌編小説
『風の至る場所』 第1話
「闇堕ち」
長く、闇に僕は蝕まれていた。
深い闇に脅かされていた。
漆黒の闇だった。
その闇は、初めは僕のものじゃなかった。
ある時、闇は僕に狙いを定め、襲いかかってきた。
僕は自分はその闇に取り込まれないと思った。飲み込まれないと思った。
だが、想定外のことが起きた。
闇が分裂して、僕に襲いかかってきた。
僕は必死で闘った。
闇に対抗するために、自分の持てる力の限りを尽くしたが、僕は抗ううちに弱っていった。
そしてとうとう、闇を跳ね返す力を奪われてしまった。闇を防げなかった。
僕は闇に取り込まれた。
その感覚は不快そのものだった。
油断すると、具合が悪くなるのを感じた。
僕の全ての機能を奪われてしまったような感覚だった。自分自身では、何もコントロールができないようだった。
僕はなんとしても自分を保たねばならなかった。追い詰められた状況下で、僕は必死に
自分自身の心を繋ぎ止めようとしていた。
そこは暗い深海のようだった。
酷く息苦しかった。
闇の圧の影響によるものなのか、重たく沈むような空間だった。
身体に酸素を取り入れようとしても、
思ったように息ができないように感じた。
今この瞬間を生きるための呼吸をすること、
次の呼吸をすること、それだけで精一杯だった。
僕には多くの酸素が必要だった。
それは僕の感覚の全てでわかっていた。
何もかもが遠のいていく暗闇の中で、
自己の感覚が失われていく中にあろうとも、
それだけは紛れもない事実だった。
明白なことだった。
僕は、この状況を打開してくれる存在を待ちながら、長く耐えた。
だが、とうとう誰も助けに来てくれなかった。
というより、来ることができなかった。
それは人々には見えなかった。
僕の闇だった。
閉じた空間だった。
僕が閉じたのかもしれなかった。
おそらく、それは、
僕を取り込んだ闇の仕業だった。
時が流れても、その闇の存在は誰にも見えず、僕は一人で、その空間に取り残され続けた。
抗いようがない、終わりのない闇の空間だった。誰にも、この場所のことはわかるはずがないんだ。僕はもう助からないのだ。
そう、思っていた。
「光明」
闇の空間では、時間の感覚も保てない。
時間感覚などとうに失って、それからも
随分と時が流れた。
ある時、不思議な音が聞こえてきた。
だんだんと音の主が近づいてくる。
明確な意志を持って、目標に向かっているようだ。この場所が分かっているのか?
そう思った瞬間、その存在は僕の目の前に、
いきなり現れた。
遂に闇の空間に、誰かがやってきた。
どうして来てくれたのか、わからなかった。
どうして、あなたはここがわかったんだろう。
僕は少し考えた。
あなたを呼んだのは、僕自身かもしれなかった。僕の救難信号が届いたのは、あなただけのようだった。
光明だった。
あなたは、何十もの光の束のようだった。
あなたは、僕を闇の中から掬い上げた。
その時に、あなたは僕の手に、何かを手渡した。きっと僕はずっと、それを求めていた。
僕にはそれが、長らく求めていた光に思えた。
そう思っただけで、不思議と、
身体に力が湧くのを感じた。
風が流れた。
隙間風だった。
少し心許ないように思えたが、
僕の心と身体に、風が入り込んできた。
僕はゆっくりと自分が回復していくのを感じていた。
生きていくための呼吸が、ようやく見つけられた気がした。
身体の奥で、何かが息を吹き返したような、
そんな感覚があった。
深い闇の中で、長らく失われていた自分の感覚が少しずつ戻ってくる。
自分自身を生きていくための力と呼吸を取り戻し始めていた。
閉じていた空間が、やっと開き始めた。
執筆 2026.4.14 / 編集 2026.6.24
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