『風の至る場所』#2 | 散文詩的掌編小説
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『風の至る場所』第2話
「宙に舞う」
風が、空間を作り変え始めた。
僕は気づくと、宙に浮いていた。
あたりを見渡すと、
無数の扉が僕の周りを飛び回っていた。
僕はその空間を、ぎこちなく泳いだ。
泳ぐだけで楽しかった。
長らく味わっていない感覚だった。
というより、生まれて初めての感覚かもしれなかった。
この場所には前にもきた事があるように感じていたが、泳ぐのはやはり初めてのように思えた。
この空間を泳ぐことは、思った以上に力を使うから苦労したが、それでも僕はいくつもの扉を開けてまわった。
どれも、おそらく未踏のようだった。
誰かの形跡があるようにも感じたが、
やはり誰もいないようだった。
僕は、自分の意志でその扉の中へ行かなければならなかった。
その必要を、はっきりと感じていた。
自分でありながら、自分ではない何かに
突き動かされているようにも感じた。
誰かが僕を導いているような、
そんな気配があった。
強い意志だった。
それは僕の意志でありながら、
記憶の彼方にある何かにも思えた。
考えても正体は見えなかったが、
疑う必要がないことは分かっていた。
それは僕を守っている何かだと気づいていた。
けれど、僕は少し怖気づいていた。
今は大丈夫に思えても、扉の中へ進んだあと、自分がどうなるのか、分からなかった。
長く闇に囚われていた弊害か、
僕は自分をあまり信用できなかった。
それが弱みになっていることには、気づいていた。僕は闇に、その弱みを隠さなければならなかった。
闇に気づかれてしまえば、
もうここには戻って来れないかもしれないと、本能的に感じていた。
「意識と潜在意識の狭間で」
しばらく、誰かが来るかもと期待しながら、その空間に留まり、扉の先のことを考えていた。
だが、待っても誰もやって来なかった。
この空間は、僕だけのものかもしれないと思った。
この空間には僕以外には誰もいないのなら、
誰にも僕の代わりをやってもらうわけにはいかなかった。
やはり、僕がその扉の先へ行くしかなかった。
僕がやるしかなかった。
仕方ないというより、それが嬉しく思えた。
自分である必要がある事に、心が喜んでいるように感じた。
この状況そのものが、僕が自分であることを肯定されているように感じたのかもしれなかった。僕はもう、自分であって良いような気がした。僕は僕でしかないが、いま感じているその言葉の意味は、息苦しさではなかった。
その空間では、僕はそう思えた。
そこは、僕の意識と潜在意識の狭間の空間にも思えたが、その正体は分からなかった。
執筆 2026.4.14
