『風の至る場所』#3 | 散文詩的掌編小説
『風の至る場所』第3話
「僕を何者とも規定しない空間」
その空間は空間でありながら、
僕を縛る空間ではないようだった。
何もわからなかったが、
その空間は、僕の意志に応じて伸びていくように感じた。
それは、不思議な感覚だった。
生まれてからずっと、空間というものは、
僕を縛るものでしかなかった。
僕は、その空間では僕自身の在り方が、
現実よりも重要であると気づいていた。
自分を制限されることに慣れた僕にとっては、
その空間では自分の形を保つのが、
逆に難しいようにも思えた。
僕はそれくらいぎこちなかった。
だが、形を保つ必要もないのかもしれないと、なんとなく思った。
その考え方は、居心地の良いような、落ち着かないような、よくわからない感覚ではあったが、僕を脅かすものではなかった。
この空間に、次第に慣れていくように感じた。
その場所は、僕を何者とも規定しない空間だった。
「自分の扉を開く」
僕はもう、闇に支配されるだけの存在ではなかった。
抗う力を、取り戻していた。
油断すれば、すぐに飲み込まれてしまいそうだったが、僕は注意を払っていた。
扉に意識を集中すれば、大丈夫だと、
僕の直感は気づいていた。
僕は深呼吸し、肺にたくさんの酸素を、
ありったけ取り込んだ。
とても気持ちがよかった。
僕は決心をつけて、一つの扉を開き、
扉の先に入っていった。
一歩目を踏み出した瞬間、爽やかな風が、
僕の髪を優しく撫でていった。
それは、とても心地よい感触だった。
長い間、僕の全てを捉えていた、
闇の深淵の暗黒の力から意識を解放され、
僕はついに、自分の扉を開いたのだった。
「新たな世界で、いま言葉となるもの」
僕は、自分の足で、
新たな世界へと歩き始めた。
その先に何が待っているのか、
まだ僕は知らなかった。
扉の先のことなんて、
何ひとつわからなくても、
それでも、恐れなんかよりも、
扉を開いたその先に広がる景色を見たかった。
僕の心が夢みていたことだった。
心の奥で願っていたことだった。
自分でしか開けられない扉を、
自分の意志で開く。
ずっと、そうありたいと願っていた。
僕自身の意志の力が、
きっと僕を、この場所まで導いたのだ。
心の深いところで、
僕は自分であっていいと信じたかった。
何ひとつ疑うことなく、
本当はずっと、どんな時にも、
自分を信じていたかった。
どこまでも信じて、
自分の輝きのままに、
自分だけの風を起こしたかった。
自分である必要があること。
それを求めていた。
自分の風を創造する。
それこそが、
僕が暗闇の中で求めていた、
真実の光だった。
闇に飲まれても、
それでも最後には、
自分の意志で希望を選びたかった。
扉を開いたその先で、
僕は一つのことに気づいた。
人はきっと、自分として生きることでしか、
自分の風を起こせない。
だから僕は、自分の心の中にこそ、
本当の光を見出したかったのだ。
その光で、僕は言葉を紡ぎたかったのだ。
これからは、
自分の風を言葉として生きていく。
その決意の一歩目を、
僕は今、踏み出した。
執筆 2026.4.14 / 編集 2026.6.29
