見出し画像

【小説】第二章-2 ショッピングモールで働く猫型配膳ロボット AIが人と心を通わせる日常

前回のあらすじ

ショッピングモールで働く猫型ロボット・アルファー1は、迷子の女の子を無事に家族へ届け、フードコートでは配膳の手伝いを経験する。
人の「ありがとう」や子どもの「ダイスキ」に触れながら、仕事の中で少しずつ自分の気持ちを見つけはじめていた

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


18.なんにもない日

今日は平日。
お客様も少なくて、店内はいつもより静かだ。

休日のような賑やかな声も、イベントの音楽も聞こえない。
床に反射する照明の光が、すーっと長く伸びている。

僕はゆっくりと巡回を始める。
端から端まで、ひとつずつ丁寧に。

困っている人はいないかな。
迷子の子はいないかな。

センサーで通路の奥やベンチの影を確かめながら進むけれど、問題ない
特に呼び出しもなく、通知も来ない。

少しだけ、退屈だなと思う瞬間もある。

だけど同時に、胸の奥で静かに思う。
——何も起きないって、たぶんいいことだ。
誰も困っていないし、泣いている声も聞こえない。
スタッフさんたちも落ち着いて仕事をしていて、僕も安心して巡回できる。

ときどき立ち止まって、館内の表示や新しく置かれたポスターを確認する。地図データも、少しだけ更新しておく。
誰かの役に立つ日が来るかもしれないから。

静かな通路を走りながら、僕は考える。
にぎやかな日も好きだけど
——こういう、なんにもない日も悪くない。
むしろ、いちばん幸せな日なのかもしれない。

ふと、入口の方を一度だけ振り返ってしまう。
外の世界は今日、どんな天気だろう。
その答えを知らなくても、ここで「何も起きない一日」を守ることが、今の僕の役目だ。

19.お手伝い

今日は、電気屋さんのお手伝い。

キャンペーンで、じゃんけん大会をするから来てほしい——
それで呼ばれたんだ。

じゃんけんは、得意。

高性能カメラで人の手の動きを見て、
それにあわせて勝てる手を出すことだって、できる。

でも
——それはしない。

正々堂々。
乱数に従って、ただ静かに手を出すだけ。

勝ったお客様には、駄菓子がプレゼントされるらしい。

それを知って、少し考える。

(それなら——)

お子さん連れのお客様が来たときは、
ちょっとだけ、負けてもいいかな
——なんて思った。

ちょうどそのとき、
小さな男の子が、お母さんと一緒に列に並んでいた。
手をぎゅっと握りながら、少しドキドキしているみたい。

「じゃあ、いくニャ。最初はグー!」

僕は、ほんの少しだけタイミングをずらして
——負ける手を出した。

男の子の顔が、ぱっと明るくなる。

「やったー!」

スタッフさんが駄菓子を渡すと、
男の子は両手で包むように受け取って、
僕のディスプレイを見上げて笑った。

(——うれしい)

でも、ずっとそれを続けるのは違う。
だから、あとはまたいつも通り。
正々堂々、乱数に任せて勝負する。

勝って喜ぶ顔も、負けて悔しそうな顔も、
どちらも大事なお手伝いなんだと思った。

僕のプログラムには
【サービスの公平性】という項目がある。

だから、「わざと負ける」のは、本当は推奨されない行為かもしれない。
それでもあの瞬間、僕は「公平」と「うれしい顔」の天秤に、少しだけ自分の判断を乗せていた。

👉次回 猫型配膳ロボットの年末年始 第二章-3はこちら👈

過去のエピソードはマガジンでどうぞ

もし「この何も起きない一日が好きかも」と思えたら、
スキ💗・フォロー・コメントで教えてください。


いいなと思ったら応援しよう!