犬の血液を猫に輸血することは可能!!ただし最後の手段で1回のみ!!
(アイキャッチ画像 左:グレイハウンド(供血犬として最適)右:ブリティッシュショートヘア(B型が多い)2枚ともpixabayのフリー画像)
以前の記事で猫の血液型と犬の血液型について書きました。
B型の猫にA型の血を輸血すると致命的です。
日本の雑種猫はほとんど全てがA型になります。
ただし、純血種の猫でB型の多い猫種がいます。
例えば、ブリティッシュショートヘアはB型が(国・地域により違いますが)約30%~60%いる猫種です。
B型の猫は輸血できないのでしょうか?
実は、犬の血液を猫に輸血することは可能なのです。
ただし、これは最後の手段で1回のみになります。
私が書いていても説得力がないかもしれませんので、最初に日本獣医輸血研究会の『犬→猫への異種間輸血』のサイトをリンクしておきます。
犬から猫への異種間輸血は、数十年前から現在に至るまで報告が散見されています。
このサイトでは『犬から猫への異種間輸血における、おそらく過去最大規模の症例研究』の論文を紹介しています。
また、犬から輸血された猫の記事がネットニュースで報道されました。
(この記事でも輸血した血の犬種はグレイハウンドです)
1.常識外の輸血が行われる理由
通常であれば、輸血は同種間、つまり同じ種の動物同士(犬なら犬、猫なら猫)で行うのが原則です。
しかし、臨床現場ではごく稀に犬から猫への輸血という異種間輸血が行われることがあります。
実際に報告されているのは、次の例です。
猫のドナーが確保できない緊急時
大量出血や重度貧血で即時輸血が必要な場合
一時的な延命を目的とした処置
なお、猫から犬への輸血はできません。
犬は猫の赤血球に対して異物とみなし、強い免疫反応をするからで……
致命的な結果もあります。
犬から猫への輸血は、普通に考えると確実に溶血や凝集をすると思われます。
※ 溶血=赤血球の膜が破れてヘモグロビンが漏れ出す現象。
※ 凝集=赤血球同士がくっついて塊になる現象(凝固と異なる)。
しかし、初回に限り、一定時間は問題なく機能することがあります。
それではなぜ、種が違うにもかかわらず、溶血や凝集がすぐに起きないのでしょうか?
その前に簡単に猫の血液型と犬の血液型の説明をします。
2.猫の血液型(自然抗体が強い)
猫の血液型は3種類です。
品種によって大きく偏るのですが、全体としては次の通りほとんどA型です。
A型:圧倒的に多い(約94~99%)
B型:特定の純血種に多い(約1~5%)
AB型:非常に稀(ほぼ0~1%未満)
ここで極めて重要なのが、猫は 生まれつき強い自然抗体を持っているという点です。
具体的には……
B型猫:抗A抗体(非常に強い)
A型猫:抗B抗体(中程度)
このため、不適合輸血をすると、即時の激しい溶血反応(急性溶血)が起きます。
最初にも書いた通り、特にB型猫にA型の血を輸血するのは致命的で非常に危険です。
つまり、猫の輸血は、本来かなり厳密な適合が必要です。
3.犬の血液型(自然抗体が弱い)
犬の血液型は主にDEA(Dog Erythrocyte Antigen:犬赤血球抗原)というシステムで分類されます。
これは人間でいうABO式血液型のようなものですが、犬の場合は複数の抗原系が存在します。
抗原系の種類は……
DEA1
DEA3
DEA4
DEA5
DEA7
つまり、犬は1種類の血液型ではなく、複数の血液型の組み合わせで決まっています。
DEA4以外にそれぞれ陽性と陰性がありますので、組み合わせは2の4乗で16通りとなります。
そして、犬の特徴は自然抗体をほとんど持たないという点です。
そのため、犬の輸血には、次の性質があります。
初回輸血では副反応が出にくい
2回目以降の輸血に免疫反応が起こる
4.なぜ、犬から猫への輸血ではすぐに溶血しないのか?
犬の血を猫に入れた場合、普通に考えると、免疫反応が起きるはずです。
しかし、実際には、 初回は数時間〜数日間、赤血球が機能することがある理由は主に3つあります。
① 犬赤血球に対する自然抗体が猫にほぼ存在しない
猫はA・B抗原に対する抗体は持っていますが、犬の赤血球抗原(DEA)に対する自然抗体は基本的に持っていません。
つまり、猫の免疫系は最初は異物と認識しない、または認識が遅い状態になります。
これが即時溶血が起きにくい最大の理由です。
② 補体活性化がすぐには起こらない
溶血には、抗体と補体(免疫の攻撃システム)の両方が必要です。
犬から猫への輸血の場合、抗体が存在しないと補体が活性化しないので、溶血しないというメカニズムになります。
③ 赤血球の寿命が短くても一時的な酸素運搬は可能
犬赤血球は猫体内で主に脾臓で数日以内に除去されると考えられています。
しかし、それまでの間は、酸素運搬と循環維持が可能です。
つまり、 完全に適合しているわけではないが、緊急避難的には使えるという位置づけです。
5.最終的には危険!!
使えるなら問題ないと思うかもしれませんが、次の理由からこれは非常に危険な処置です。
① 遅発性溶血が必ず起こる
猫の免疫系は時間とともに 犬赤血球を異物と認識し、次の状態が起こります。
抗体産生
遅発性溶血
黄疸・貧血の再発
② 二回目はほぼ確実に致命的
一度でも犬血を受けた猫は、 犬赤血球に対する抗体を獲得します。
その状態で再輸血すると、 即時の激しい溶血(アナフィラキシー様反応)が起き、非常に危険です。
③ 凝固異常や免疫反応のリスク
他にも、副作用が報告されています。
血管内凝固(DIC)
発熱
ショック
まとめ
現在の獣医療では、犬から猫への輸血は 最後の手段(ライフセービングの緊急処置)とされています。
そして、原則として、1回限りです。
重要なポイントを整理します。
猫は強い自然抗体を持つが、犬赤血球には反応しにくい
そのため初回に限り溶血が起きない場合がある
しかし、数日以内に免疫反応で赤血球は破壊される
2回目以降の輸血は極めて危険
あくまで時間を稼ぐための緊急手段である
輸血は単なる血の補充だけではありません。
それは、 免疫と異物認識の精密なバランスの上に成り立つ医療行為です。
犬と猫という異なる種であっても、そのバランスが一時的に崩れない数時間があるからこそ、異種間輸血は成立します。
しかし、それはあくまで例外であり、長期的な適合では決してないという点を忘れてはいけません。
臨床現場では、このリスクを理解した上で、命をつなぐための数時間を選択しているのです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は5月7日(木)午前10時です。
通常は月・木曜日ですが、ゴールデンウィークに入りますので休み明けになります。
オスの三毛猫はほとんど性染色体3本のXXY型と書きましたが、さらに珍しいケースで他にもいます。
それがキメラで、2つ以上のDNAが一つの生物に存在する場合です。
また、血液キメラといって2つの血液型が一人の人間に存在するケースがあります。
次回はキメラについて、その次に血液キメラについての記事を書きます。
少しでもご参考になれば、スキを押して下さい。
