ソースは意思決定者ではない。ビジョンと繋がり他者と協働するには?
ソース原理をどう捉え、組織運営や個人の生き方に活かしていけば良いのか?
翻訳者の青野英明と嘉村賢州とともに、ソース原理を日本で広げる活動を進め、探求を続けている但馬が出版後の反響やティール組織との関係を問うシリーズの3回目。今回はソース原理によくある誤解の第2弾として、ソースを意思決定者と捉えることから生じる誤解や、自己の内面と向き合うことの重要性について探ります。
前回の記事はこちら。
vol.1 - ゆるやかに広がるソース原理「すべては1人からはじまる」出版から現在地までを振り返る
vol.2 - 既存の組織構造とのズレから生じる、ソース原理への誤解
ソースは全体像を示す意思決定者ではない
ーーソースを“意思決定者”として捉える誤解は非常に多いのかなと思います。その点についてお2人の見解を聞かせてください。
嘉村:非常に多い誤解ですね。
私の見立てとしては、これまでは事業活動や組織全体の営みを制御・統制していく「制御パラダイム」を持つ組織が一般的であったことが、大きく関係しているかと思います。
制御統制パラダイムにおいては、「一人ひとりの存在は機械の部品のように機能していく」という世界観です。1人が行動を起こしたら周りも動き始めるけれど、操作しない限りは動かない。これを組織に当てはめると、上層部が計画を作成しその下位層に流れていくという、ウォーターフォール型のオペレーションが確立されていました。その場合には、現場で何か計画と違うことをしようと思ったら、上層部に許可を得て実行する必要があります。
一方で、今ソース原理のベースとなっているのは、それぞれが自律的に動いていく自己組織化のパラダイムです。物語やヴィジョン、価値観が共有された上で、個人が主体的に行動していくあり方です。
例えば、大きな災害などの急を要する現場では、誰かの指示を待って動いていたら後手に回りますので、できる限り素早い判断が求められます。足りない物資や必要な仕事が壁に貼られていたら、気づいた人が自分の判断で迅速に行動する。共通の認識をもちつつ誰かの指示を待たずに、個人が主体的に行動しながら他者と調整してすすんでいく。そんな自己組織化のパラダイムが理想とされています。
ただ、そうした理想はありながらも、ソースから湧き出たビジョンがチーム内である程度共鳴・共有できた先にイニシアチブが動き出すわけですが、その際に時として「なぜソースに判断を仰がないのだろう?」「ソースが言う前に始めないで」などの制御統制モデルが作動してしまうのです。
これは、ソースを“意思決定者的な役割”として捉える誤解から生じます。本来、ソースは自己組織化する上での共有事項を示したり、方向性を明確化する際に役に立つ存在なのであって、意思決定者ではないのです。書籍にも、「ソース役はビジョンと繋がり次の一歩を示すのが役割」であり、境界線を引くことが役割だと記されていますよね。
しかしながら、その取り組みにおけるリーダー側も「ソースは全体像を示し意思決定をする存在である」と捉えがちですし、現場としても「 実行した後に違うって言うんだったら、初めからいってよ」と、フラストレーションを抱えてしまうことは多いのかなと思います。
取り組んで何年も経過するような事業の場合には、初めから全体像を示すことができる場合も多くあるのかもしれません。しかしながら、新しい事業を構想し、構築していく場合には、直感の確信はあっても全体像を示すのは難しいものです。
青野:ピーター・カーニックの言葉を借りて言うと、「グローバル・ソースは明確さを示すことが唯一の仕事だ」ということですよね。
今回の「すべては1人からはじまる」の翻訳プロジェクトを例にすると、賢州さんが「絶対に翻訳本を出せると思うので、出しましょうよ」と言ったんです。 その時に、出版社や刊行日までは示していない。ただ、賢州さんには「絶対に出版できる」という明確なビジョンがあっただけです。明確さを示せばいいというのは「方法はわからないけど、これだ」というソースの感覚。本当に明確さがともなった言葉は、周りの人を引きつけるんです。
ソースじゃないことがわかる喜びとは?
青野:もうひとつクローズアップされてほしいのは、「ソースじゃないことがわかる喜び」についてです。
ソースが持つ特徴のひとつとして、「これは違う」が直感的にわかるという点があります。“合っている”への明確な確信は持ちづらい一方で、“違う”はわかるのです。
例えば、オペラ歌手がデスメタルのバンドとセッションして、「違うな」と感じたとします。そこに自分の人生のソースがない、この音楽は自分には合わないという気づきは、とてもいい喜びであり、「違うことがわかること」はその人にとっては1歩前進なんです。
ところが、現代人は「違うイコール時間の無駄」と捉えがちです。「失敗をしてはいけない」という感覚が強いのかもしれません。「違う」の積み重ねは、唯一自分を導いてくれるもの。自分の内側と向き合うという意味でも、もっと大事にしてほしい感覚だと私は思いますね。
嘉村: マネーワーク的な観点でみると、私たちは“他者からの拒絶”や“コミュニティーからの離脱”などへのアレルギーが強いですよね。離職する、あるいはチームに入れてもらえないといった場合、自分の人間性をも全否定されたように感じてしまう人は多いのではないでしょうか。音楽の世界であれば、個人の才能云々ではなく相性の問題として捉えられますが、社会生活においては合わないまま続けてしまうケースが多い印象です。
「違う」と感じたらそこから離れた方が人間関係も良好になったり、その人の潜在能力を開花できる可能性もあります。離れたことによってお互いを応援し合える、そんな素敵な関係もあり得ると思うんですよね。
青野:ソースにわかるのは「違う」ということだけなんですよね。だから、決定しろと言われても困ってしまいますし、一度決めたものを覆すことも多々あります。
ソースがイニシアチブを実現するためには、絶対に他者の力も必要です。 他社の協力を得るためには、相手の人生に耳を傾け、自分の人生と共鳴する部分を描き出すことが必要です。ソースが頭の中でどんなに素晴らしい未来を描いても、言葉を交わさないと伝わりません。もちろん、文化や習慣の差であったり、言葉や表現の捉え方の違いやコミュニケーションのズレもあります。そうしたズレを埋めながら、他者と協働していくことが大切なのです。
こうしたステップは、丁寧さも必要ですし時間もかかります。それゆえ、コミュニケーションを諦めてしまうケースも多いのかなと思います。

自ら動いてしまう社長はどうすれば良いのか
ーー会話して共鳴するプロセスは大切だと理解しながらも、どうしても時間を要しますよね。日々悩みを抱える経営者の皆さんは、「そうは言っても、自分が進めていかないとみんなが進まない」という方向に向かうことも多いのかなと思います。お二人のお話に対して経営者のみなさんはどういった反応をされるのでしょう?
嘉村: 創業者や社長は、人一倍情熱とこだわりがあります。ですから、自分が先頭に立って、細かな部分に介入したくなるのは、ある程度仕方がないかなと私は見ています。ただ、それ故に次の人が育たないあるいは、本来すべき大事な仕事に時間が割けないという、“社長が忙しすぎる問題”が発生するという現実もあります。
突き詰めて考えると、そこにあるのは社長の焦りなのかなと、私は捉えています。
「本当に急ぐ必要があるんですか?」「現場が疲弊してる中でも、やらないといけないんですか?」と問いかけると、純粋なビジョンからの躍動ではなく、その人が持つエゴによる駆動の可能性が浮き彫りになってくるケースは多いですね。「経営者仲間の中で、1番売り上げが上がってないのが自分で・・」など。
そういった場合、マネワークで自身の内側とじっくり向き合うことが理想なのですが、 「自分が変わるよりも、周りを変えたい」という思いが強い場合には、自分に向き合うようになるには時間がかかるのかなと思います。
もう一つ大事なことは、グローバルソースはサブイニシアチブにおいてサブソース役やヘルパーになっても良いという事実です。「任せたはずなのに、任せていない」という事実が発生するよりは、「この領域は自分が担いたい」と公明正大に主張してサブソースになれば良いわけで、グローバルソースとして無闇やたらに行動してしまうと、事態がややこしくなっていきます。
青野:私の場合、インナーワークやマネーワークの講座を受けてくれた方は、わりとすんなりと受け止めてくれますが、それ以外の人は難しい反応が多いですね。
例えば、1人で会社を立ち上げた時には、様々な業務を担っていきます。事業開発は勿論のこと、請求書の作成や銀行振り込みといった業務も発生します。それをソースの帽子をかぶったまま行うと感度が鈍くなりソースとしての役割に揺らぎが生じてしまうんですよね。
とはいえ、もちろん手を動かさなきゃいけない瞬間はあります。その場合には、「自分はグローバルソース兼ヘルパー(業務協力者)である」という風にモードを切り替える方法もあるのかなと思いました。
仕事とは感じる・考える・実行する
ーーここで触れておきたいのが仕事に対する認識を今一度考えていくことだなと感じています。
青野:私の友人でもあるチャールズ・デイビスのブログに出てくる、仕事というのは「感じて、考えて、実行する」っていう3つのパートに分かれていれるという話が参考になります。
全ては自分の内側で何かを感じることから始まります。 感じて、考えるまでは自分の内側の世界であり、それを外側の世界で描き出すのが、実行するということです。本来、仕事というのはこの一連のプロセスを経るものです。
しかし現代では、最後の「実行する」だけが仕事だと捉えられています。それがまず大きな誤解だなと。 創造性・独創性のあるものを生みだすには、「感じる、考える」という内的世界が非常に大切です。残念ながら、現代人には「感じる、考える」が抜けていて「実行する」ことだけにフォーカスをあてられてしまっている。だからこそ、他社のアイデアを焼き直して差別化を行うために価格をさげて・・・という展開になりがちです。
「感じる」「考える」を取り戻していくには、「今どう感じている?」という内的対話がとっても大事なのかなと思います。おそらくこの辺は、賢州さんもティール組織に繋がるところなんじゃないでしょうか。
嘉村:「今日の会議は出たくないな」「朝起きるのしんどいな」といった“感じる力”は、本来みんな持っているんですよね。組織でも、弱いシグナルというものはありますし、微細な“感じる力”に耳を済ませることは、その人が本来発揮できる力のヒントにもなっていくでしょう。ここはインナーワークにも繋がっていくところですね。
しかしながら、この世界は感情や感覚は脇に置いて、生産性を重視し、制御した上での組織作りと捉えてしまうことが多いのかもしれません。
対して、ソース原理はインナーを整えることによる共鳴であったり、そこからのクリエイティブヒエラルキーを純度高く見ています。インナーを非常に大切にする考え方だといえますね。

How to本として捉えられることの誤解
ーーソース原理においては、心で感じインナーワークで現れたものを「感じて、 考えて、実行する」上で、どう考えるとエネルギーが流れやすくなるか?が重視されています。しかしながら、How to的な内容も書かれているが故に、How toだけを実行すれば良いと捉えてしまう誤解も多いのかなと思います。
嘉村: ここは非常に大事な視点で、ソース理論ではなく「ソース原理」と言ってる理由でもあります。知っていると組織形成がスムーズになったり、プロジェクトが整えやすくなるよという、見方というか、物差しのような感覚ですね。
「うまくいっている組織には、 クリエイティブなエネルギーの構造がある」という法則、原理に着目したのがソース原理です。
おおむねスタート時のソースが明確で、本人も大事な役目を果たしている1人だと認識ができている。エゴとも一定の距離を持ちながら、ピュアなビジョンで仲間と対話できている。さらに、チームにはサブソース的な存在がいて、その人はプロジェクトを一任されているし、自分の人生の一部として日々考えて行動している。そうした共通する原理から導き出されたのがソース原理です。
How toも作ろうと思えば作れるのですが、「こうでなければならない」とノウハウに溺れてしまう懸念もあります。
原理という物差しを持った上で、Howは新たに各々が作り出せるものですし、工夫のしがいもあるものです。書籍には物差しとなる部分と、「ベリー・クリア・アイディア」のようなHowにあたる部分の両方が書かれてる故に、振り回されてしまう方もいるかもしれません。その辺りは気を付けて読んでいただきたいなと思います。

今回はソース原理を取り巻く誤解について、ソースの役割や仕事の本質について掘り下げました。次回はマネーワークについてお届けします。
文・構成: 高橋さやか/イメージ写真:熊倉聖子
【PROFILE】
嘉村 賢州(かむら・けんしゅう)

東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授。場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事。「未来の当たり前を今ここに」を合言葉に個人・集団・組織の可能性をひらく方法の研究開発・実践をおこなっている。解説書に『ティール組織』(英治出版)、共訳書に『自主経営組織のはじめ方』(英治出版)、共著書に『はじめてのファシリテーション』(昭和堂)などがある。
青野英明(あおの・ひであき)

青野税理士事務所代表 社会派税理士。
1978年茨城県生まれ。幼少より情熱的で人生の意味について考え続ける一風変わった子供だった。高校時代から徐々に人生の意味を見失い、勉強から逃げるように音楽活動にのめり込み、結果的に大学進学できず極貧生活を経験することとなる。バンドにメジャーデビュー話が舞い込むも、世の中の経済原理を知らない自分は、まるで猿回しの猿みたいだと愕然とする。まさにオカネの奴隷だったのだ。
この体験がキッカケとなり、「オカネと人の心の関係が人生の意味を開く鍵」だとの仮説とともに税理士として歩み始める事となる。その後、新宿区を拠点に企業顧問として支援活動を開始する。
2010年から地元茨城県へ戻り、自然界の流れと経営との融合に取り組むようになる。
自然界のデザインにそって自分らしい生き方を協創する事を支援するのが何よりの喜び。
個人と世界を会計でつなぎ自分らしさを取り戻す、超理性・実践智・流動系を重視した相互理解・メタ認知に熱量あり。
note(https://note.com/aonohideaki)も連載中。
2022年現在、ソース原理提唱者のピーター・カーニックに師事。ピーターが提唱しているMoney-WorkとSource-Workを日本語で日本に広げるべく活動中。
但馬武(たじま・たけし)

エンゲージメントコンサルタント。
fascinate株式会社代表取締役社長/一般社団法人RELEASE; 理事
パタゴニア日本支社にてダイレクトマーケティング部門統括を中心に19年勤務。2017年より地域活性化を展開するエーゼロ株式会社を経て、一般社団法人RELEASEに参画。;2018年に愛される企業「LOVABLE COMPANY」のためのブランド戦略を構築するfascinate株式会社を創業。ファンを作りファンと歩むブランドへの変容を顧客及びスタッフエンゲージメントの観点から組織づくり、事業構想、マーケティング戦略つくりに伴走型で支援している。
長野県立大学ソーシャルイノベーション創出センターアドバイザリー・メンバー
京都市ソーシャルイノベーション研究所 フェロー
