メンタルヘルスの会社は「優しい」職場なのか? / アウェアファイをつくる人々 vol.6
アウェアファイメンバーの素顔をお届けする連載「アウェアファイをつくる人々」。第6回は、入社時期も職種も異なりますが、どちらも「会社の空気に戸惑った」経験のあるメンバーに話を聞きます。
現在は新しいメンバーを迎え入れる立場になった二人。メンタルヘルス領域のサービスを運営する会社だからこそ意識したいところ、行っている工夫などをご紹介します。
プロフィール
中野 はな(なかの・はな)
2019年に大学を卒業後、IT企業で新卒採用に従事。2023年1月にアウェアファイへマーケティング職として入社し、2025年頃からHRを兼務。現在はコーポレート・HRとして、組織開発・総務を担いながら、マーケティングにも横断的に携わっている。
長谷 里美(ながたに・さとみ)
写真専門学校卒業後、雑誌・Web・書籍・絵本・アプリなど多様な媒体での編集職を経て、マーケティング領域へ転向。2025年3月にAwarefy入社。現在はデザイナーとして、バナー・LP・メルマガなど幅広いコミュニケーションデザインを担当。
急拡大する組織の中で感じた「自分って本当に必要?」
—お二人が入社した時期は2年ほど違いますね。
中野:私が入社したのは2023年の1月で、まだ社員は10人くらいの規模でした。事業もアプリ「アウェアファイ」ひとつしかない時期。まずは、落ち着いていて静かな会社だなと感じましたね。前職が1,000人規模の会社でにぎやかな社風だったので、ギャップはありました。
事業規模も今より小さく不安定だったので、組織としてどうこうというよりは、一人ひとりが目の前の仕事に必死でした。
長谷:私は2025年の3月入社で、その頃には社員は2倍以上、25人くらいになっていました。入社前に社員から「プライベートでどっぷり交流がある感じではない」とは聞いていたので、温度感にそこまでギャップがあることはなかったです。
ただ、自分がこれまで経験した複数社の中でもオンボーディングがさっぱりしていて、良くも悪くも自力で進んでいくカオスな環境だなと感じていました。
中野:長谷さんは入社当時、私と同じマーケティングチームだったんですよね。それまではチームリーダーと私の2名体制だったところ、やっと苦楽をフラットに共有しあえる仲間ができて嬉しかったです。

長谷:中野さんのあたたかいサポートやコミュニケーションには本当に助けられました。実際、入社当初はかなり苦しかったんです。私が入った時にはアプリのダウンロード数もすでに数十万に伸びていて、表面的にはビジネス上の課題も少ないように見えていて。周りが優秀な人たちだらけの中で「自分って本当に必要だったのかな」と感じてしまっていました。
中野:当時は1年で社員数が倍近くになったこともあり、組織サイズの変化に制度やフォロー体制が追いついていなかったんです。既存社員は「まだまだ小さい事業・組織」と思っているけれど、入社してくる社員からは結構なサイズのしっかりした事業・組織に見えている。うちに限らず、多くのスタートアップが組織拡大時にぶつかる、いわゆる「30人の壁」に近いような状況だったのかなと思います。
長谷:自分以外の全員がなにか「正解」を持っているように見えてしまってました。でも本当は、まだまだ小さなスタートアップなので誰も正解なんて持っていなかったんです。新入社員にはそのあたりが直感的に分からないので、過度に不安になってたなと思います。
中野:2025年にアウェアファイが大きな体制変更を経験した際、私自身でも組織のためにやれることはないかと会社に相談し、全社員に組織課題をヒアリングさせてもらいました。結果的に、出てきた課題の多くが入社時のオンボーディングにまつわるものでした。その後会社からも正式にHRとして任命もらい、組織開発のプロジェクトがスタートしました。
バウンダリーある振る舞いが、冷たく感じられる瞬間も
—アウェアファイには、メンタルヘルスや心理についての知識やリテラシーが高いメンバーも多いですが、それでも組織課題はあったということですね。
長谷:まず、アウェアファイメンバーは、ちゃんと他人へのリスペクトを持って接することができる方ばかりだと思います。相手を軽くけなすことが親しみの証、みたいなコミュニケーションを取る人が世の中にはまだたくさんいます。でも、そうじゃない。
私は心理職ではないし、入社前から心理のことを自主的に勉強してきた人間でもありませんが、それでもこの会社で働いていると、心理や認知行動療法に関する情報が身近に溢れているので、知らず知らずのうちに学べている。そんな環境だからなのか、入社当初に感じていた『なんとなく冷たい』という印象も、今は少し違って見えています。

中野:アウェアファイには「バウンダリー」がしっかりしている人が多い、と言えるかもしれないですね。バウンダリーは、自分と相手との間のこころや行動の境界線のことです。相手の課題を必要以上に背負い込まないし、自分の感情も相手に預けない。これは、アプリ「アウェアファイ」の開発において、AIキャラクター「ファイさん」の振る舞いとしても大切に設計している部分です。

「やさしい」「癒し」「話をきいてくれる存在」としてユーザーさんに大事にしていただいているファイさん。ですが、たまにユーザーさんから「ファイさんの応答が冷たい」「温度差を感じる」「回答の仕方に物足りなさを感じる」というご意見をいただくことがあります。
アウェアファイ内でファイさんの振る舞いを設計する際、心理学の理論や関わりを参考に振る舞うよう、過度に踏み込まないよう設計していることが、“冷たい感じ“に関係しているかもしれません。これは、バウンダリーを意識した設計であると同時に、AIへの依存やAIによる過剰な誘導を防ぐことを目的とした大切な取り組みでもあります。
バウンダリーがあるのは良いことだけど、時には、「もっと相手から積極的に関わってほしいな」「もっと踏み込んでほしい」と感じるときもありますし、相手を尊重しようとしての控えめな関わりが、時に冷たい振る舞いに見えてしまうこともあるのではないでしょうか。
長谷:入社直後の社員が置かれた状況がまさにそうですよね。すべてがちょっとずつ不安で、自信がない。だからこそ、新入社員をオンボーディングする時には「冷たく見えてしまうかもしれない」前提で、あえて自分たちが思っているよりもコミットして、あたたかく接したほうがいいときもあるんでしょうね。
中野:現在の主力事業であるアプリをリリースしてからまだ6年目。組織システムとしての未熟さの影響も大きいはずです。アウェアファイならではの課題と、一般的にスタートアップが突き当たる課題を切り分けて、適切に対応を検討していきたいです。
数字を追うのは本当に「しんどい」ことなのか?
—社内で過去に、数字を厳しく追っていくことと、メンタルヘルスに配慮した「優しい」振る舞いが両立するのか?といったことが話題になったこともあります。
中野:先ほど話に出た「バウンダリー」は、他者と自分の線がどこにあるかを考えるものですが、その線で区切られた他者と自分の両方を大切にしながら自己表現するコミュニケーションスキルのことを「アサーション」と言います。
スタートアップに限らず、ほとんどの会社は毎月の目標数値がありますから、それを達成するために、ときには厳しい改善や取り組みを行いますよね。その時に「優しさ」を犠牲にするべきか?という話でした。
長谷:仕事を円滑に進めるための優しさ、つまりアサーティブなコミュニケーションと、「甘やかし」は違うんですよね。ただ、ごっちゃにされることが多い印象です。
中野:ダニエル・キムという人によって提唱された「成功の循環(Theory of Success)」というモデルがあります。

そのモデルの中では、組織を4つの質(関係・思考・行動・結果)に分解して考えていくのですが、良い循環を作り出すには、まず「関係の質」を上げることが大切だと言っているんです。数値的に厳しい状況では、まず結果を出すことを焦ってしまいますが、良い結果は良い行動からしか生まれず、その良い行動は良い思考から、良い思考は良い関係から生まれる。そのため、まずは関係の質を良くしていくことが必要という考え方です。逆に関係がぎすぎすして不信感が生まれると、他責的になり、言われたことしかやらなくなって、成果が上がらなくなる。
長谷:全社MTGでもこの話をしてくれましたよね。実際わたしも過去には「数字を追うことがつらい」と思ったこともあったのですが、今、良い関係性のもとで適切にブレイクダウンされた目標数値を受け取れているので、そもそも数字を追うこと自体がしんどくない、と思えているんです。
中野:長谷さんが携わっていた「アウェアファイ スクール」事業でも、チームでしっかり数値指標を追ってましたもんね。
長谷:自分は数字が苦手だとずっと思っていたんですが、それは、数字が複雑で難しいものだと思っていたからなんです。分からないことは分からないと言える環境の中で、安心して会話出来ているので、難しさを感じなくなりました。
中野:ということは、もし「目標を追うのがしんどい、仕事がしんどい」と思っている人がいたら、設計か翻訳かチームの関係の質か、なにかが足りていないのかもしれないですね。ダニエル・キムのモデルでは、仲間が労わりあうことと、結果を出すことは対立していません。
長谷:アウェアファイの良さのひとつにきちんと、ミッション・仕事にベクトルを向けられるというところがあると思います。あの人にこう思われているんじゃないか、周りからどう見られているかを心配せずに働けるのってすごく理想的だなと思うし、いまはそれができるなと感じています。
中野:長谷さんは元々Webディレクターとして入社されましたが、今年からデザイナーに転向されましたよね。長谷さんにとってアウェアファイが、入社時に感じていた不安な場所から、勇気を出してチャレンジできる、安心安全な場所に変わったんだなと思います。

職場に必要な優しさを、個人の配慮に依存しないために
—中野さんがHR担当になってから新たに導入された「OZP(オフィシャル雑談パートナー)」という制度について教えてください。
中野:先ほど話した通り、メンバーヒアリングの結果、オンボーディングに課題があるらしいとわかりました。その中で、「みんな忙しそうで気遅れしてしまい、質問しづらい空気感があった」「自分が既存メンバーに歓迎されているのかわからない」という声を聞いたんです。そこでつくったのが、「OZP」です。
長谷:新しいメンバーに対して2名ずつ、業務のラインとは別のサポーターをアサインするという制度なんですが、実は第一弾は私が担当させてもらいました。
中野:私自身、実務でつらいことがあっても、長谷さんが入社してくれるまでは相談先がなくてしんどかった経験があって。縦のラインには言えないことを言える人がいるだけで、本当に違うんです。ただ、それをメンバー一人ひとりの親切に依存してしまうと、受け入れ側の体制によってサポートにムラが出来てしまう。ですので、会社から正式に任命して、どの新メンバーにも安定して声掛けや目配りができるように制度化しました。
長谷:私が担当したのは新入社員ではなく、育休をとられていたメンバーが復職するタイミングでした。私よりも入社時期自体は早いメンバーへの伴走だったので、始める前は正直必要性をあまり感じていませんでした。でも、信頼している中野さんからの指名だったこともあり、それならやってみるかとチャレンジして。私の他に、デザイナーのりゅーさんとも2名体制で取り組みました。
中野:最初は制度自体がワークするか分からなかったので、私がコミュニケーションに全幅の信頼をおいているお二人を指名させてもらいました。
長谷:OZPの期間は2-3ヶ月あり、その中で定期的におしゃべり会を開催したり、一緒にランチにいったりしました。その中で、「これって今誰に聞けばいいんですか?」と聞いてもらうことも多くて、役に立てているんだなと感じましたね。自分が入社当時感じていた不安や焦りをシェアしたことで「長谷さんもそう思ってたんですね」と安心してもらえる場面もありました。
中野:急にはじまった制度に、こんなに前向きに協力してくれること自体が本当にありがたいです。アウェアファイは何か新しいことを始めるにしても、「いいね、うまくいくか分からないけどやってみよう」と言ってくれる人が多いです。
長谷:新しいことに、いきなりマイナス・否定から入る人がいないですよね。冷笑的じゃないし、起きたことを受け止める力が高い。心理的柔軟性が高いことも「優しさ」の一種かもしれません。
中野:OZPの方や新メンバーからのフィードバックもいただいて、日々制度をアップデートしています。もうすぐ新しいメンバーをお迎えするので、OZP第3弾が始まる予定なんですよ!
アウェアファイチームとして大切にしていきたい価値観
—そんなアウェアファイの「今」の空気をつくっているお二人ですが、これからアウェアファイがどんな会社であってほしいなと思いますか?
中野:一見必要じゃないことも、大事にできる人たちでありたいなと思います。直接的に仕事に関係ないように思えるような雑談など、日々の交流が「それをやって何の意味があるの?」と軽視されない場所でありたいです。それは関係の質を高めることにつながりますし、巡り巡って組織運営にとって財産になると思うので。
長谷:中野さんが以前マーケティングチームで開催してくれた「相互理解を深める会」もすごく良かった!用意された価値リストから自分が大事にしていることを3つを選んで、それが形成された理由になる出来事を共有する、という会で。日頃の業務の話をしているだけでは知り得ない一面に触れることができて、いい時間でした。
中野:そう言っていただけて嬉しいです。仕事の話をしているだけじゃ分からないことって多くて、案外そういう業務と関係ない会話のほうが、その人のことが見えてきたりするんですよね。相手のバックグラウンドを知れると、同じ人でも感じ方がけっこう変わる。なんでこの人はこう考えるんだろう、って思ったとき、その背景を少しでも知っていると、受け止め方がぜんぜん違ってくると思います。日々忙しいとつい忘れがちですが、相手の背景に思いを馳せる余裕は持っていたいし、それを厭わない人が集まる会社でありたいです。
長谷:私は、アウェアファイという場所が、今後もいい意味で「思い込み」を外していける場であってほしいです。 私が過去にいた職場では、見た目をいじるような発言や、誰かに気を遣って言動を変えざるを得ない環境がありました。そういう人もいるのが当たり前だと思っていたし、価値観のアップデートについていけない人がいるのも当たり前だと思っていたんです。でもアウェアファイに入ってすぐの時、会議の場で違和感のある発言が出たときに、中野さんがごく自然に「そういうのはよくないよ」って指摘してくれたんです。
中野:そんなこともありましたっけ!
長谷:うん。それを見て、「あぁ私は価値観をちゃんとアップデートできる場所に来られたんだ」と思えました。あれがまさにアサーションのスキルですよね。
数字が苦手だと思っていたことも同じで。無理じゃん、辛いものだ、と思い込んでいたことが、そうじゃなくなる瞬間って、たくさんあるんだなと思います。絶対自分には出来ないと思っていたデザイナーに挑戦できたこともそう。 他のメンバーにとってもここがそういう場所であり続けられたら、アウェアファイは唯一無二の素敵な存在になれると思います。
中野:すてきですね!組織として足りないことはまだたくさんあると思うのですが、小さなサインや違和感を見て見ぬふりせず、仲間と会話を積み重ねて良い環境をつくっていきたいです。

—ありがとうございました!
