50代、介護の現場は、生きてきた結果の展示場
介護というものを実際に経験するまで、私はそれを「老いと共に淡々と過ぎていく時間」だと思っていた。
体が弱って、できないことが増えて、周りが少し手を貸す。そんな静かな変化。
けれど、現実は違った。
介護は、その人がそれまでどう生きてきたかという「結果」が、これ以上ないほど色濃く出る場所だった。
まるで、人生の最終章で急にスポットライトが当たるみたいに。
家族が長い年月をかけて築いてきた関係性。
それが、人生の終盤にある「介護」という時間を通じて、じわじわと暴かれていく。
私は「嫁」という、血縁から一歩引いた場所にいる。
だからこそ、当事者のように感情に飲まれ切らずに、距離を持って見えてしまうものがある。
そこにあるのは、複雑に絡まり合った「家族の糸」だ。
その糸は、もうごちゃごちゃに固まっている。
今さら少し引っ張ったくらいではほどけない。
むしろ無理にほどこうとしたら、ちぎれて、誰かが傷つく。
介護は、そんな糸の絡まり具合を、そのまま展示してしまう場所だった。
「優しい人が割を食う」という不条理
介護の世界では、往々にして「優しい人」や「動ける人」が割を食う。
そして大抵、その役回りは、話し合いで公平に決まるわけじゃない。
気づいたら、そうなっている。
この家族の中で、その役回りを引き受けることになったのは私だった。
義母の世話をすること自体には納得している。
夫とも役割分担の話はできているし、現実として「動く人が動く」しか回らないことも分かっている。
でも、どうしても許せない存在がいる。
長男である義兄の、あまりに身勝手な横暴ぶりだ。
実質的に動いているのは私一人。
それなのに義兄は感謝するどころか、「なぜ様子を連絡してこないのか」と言わんばかりの態度で権利を振りかざしてくる。
現場の苦労は知らない。
でも“家長”という形骸化したプライドだけは、立派に持っている。
口は出す。手は出さない。
それなのに、自分は中心に座っているつもり。
……こういう人、介護になると急に出てくる。
いや、元からいたのが、介護でハッキリ見えるだけなのかもしれない。
私はそこで、強い嫌悪感と、怒りを抱えたまま動いている。
解こうとすれば傷つく、因果の結び目
義母は言う。
「長男のことは信用していない。あてにもしていない」と、吐き捨てるように。
私はその長男に振り回され、怒りに震える。
けれど同時に、冷めた目でこう思っている自分もいる。
「そんな長男に育てたのは、あなた自身でしょう」
もちろん、すべてが親のせいだとは言わない。
大人になった息子には、息子の責任がある。
でも、家族の“配役”って、急には変わらない。
長男が好き放題できる空気。
周りがそれを許してしまう流れ。
「言っても仕方ない」と黙ってしまう人たち。
そういうものが何十年も積み重なって、今さら綺麗にリセットできるわけがない。
介護の現場で起きていることは、突然降ってきた不幸でも、偶然の事故でもない。
長い年月で作られてきたものが、最後にまとめて噴き出しているだけ。
絡まった糸は、今さら無理に解こうとすれば、双方が血を流すほど傷つくだけだ。
だから私は思う。
もう、手遅れなのだ。
絡まったまま、置いておくしかない部分がある。
解けないものは、解けない。
ここを認めないと、介護は地獄になる。
義母の姿は、未来の私かもしれない
この惨状を眺めながら、私は自分の足元を見る。
義母の姿は、将来の私の姿になり得るのではないか。
私の家族はどうだろう。
今、私たちの間にある糸は、どれくらい解けているだろうか。
今なら、まだ間に合う糸もある。
言えるうちに言えること。
謝れるうちに謝れること。
線を引けるうちに引くこと。
でも同時に、もし解けない糸が残るのだとしたら、私はそれを誰かのせいにせずに引き受けられるだろうか。
「自分が作ってきた絡まりだ」と認められるだろうか。
介護の現場で私は、何度も思う。
未来の自分が、過去の自分に足をすくわれるのは、たぶん一番キツい。
誰かを絶望させないために
介護の現場は、時に地獄のようでもある。
でもそこは、その人がどう生きてきたかを示す「展示場」でもあるのだ。
誰かに優しくした結果が出る人もいる。
誰かを雑に扱った結果が出る人もいる。
そして家族の中で作ってきた“配役”が、そのまま最後に現れる。
通知表みたいに。
いつか来るその日のために、私は今日、誰とどんな糸を結ぶのか。
少なくとも、私の後から来た誰かが、その糸の絡まりを見て絶望したり、
「もう、どうしようもない」と見捨てたくなるような、そんな結び方だけはしたくない。
綺麗事は言わない。
人間だから、絡まるときは絡まる。
でも、絡まったことに気づいたなら。
気づけた今なら。
私は、今、自分の手元にある糸を、静かに見つめ直している。
あなたの家の糸は、今どんな感じですか。
自分にだけ、そっと聞いてみてください。
※この話の続き、金曜19時に有料で出します。
私が「相談」をやめて、「報告」に切り替えた。
現場の自分が壊れないためのやり方についてです。
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