「疲れて見える」は、何を見ているのか。顔の印象と身体の話。
「今日、疲れてる?」
朝、そう言われた。別に寝不足ではない。
体調も悪くない。自分としては、いつも通りだった。
だから、「いや、別に」
と答えた。
でも、その日の夕方。別の人にも言われた。
「なんか今日、疲れてない?」
二人目になると、少し気になる。
鏡を見る。
クマだろうか。
肌だろうか。
目が開いていないのか。
口角が下がっているのか。
けれど、よく考えると不思議だ。
相手は私の睡眠時間を知らない。
昨日何時まで仕事をしていたかも知らない。
身体が重いかどうかも知らない。
それなのに、顔を見ただけで、
「疲れている」と判断した。
いったい、何を見たのだろう。
人は、顔から「体調」を読もうとする
顔は、妙な場所だ。
自分のものなのに、自分より先に他人が見る。
そして人間は、顔から驚くほど多くの情報を読み取ろうとする。
機嫌が良さそう。
緊張している。
眠そう。
元気そう。
なんとなく調子が悪そう。
もちろん、その判断がいつも正しいわけではない。
それでも私たちは、会った瞬間から相手の顔を読んでいる。
そして「疲れて見える」も、その一つだ。
では、疲労という目に見えないものを、
どうやって顔から読んでいるのか。
「疲れ顔」というパーツは存在しない
面白い実験がある。
同じ人物を、通常の睡眠後と睡眠不足の状態で撮影し、別の人たちに顔の印象を評価してもらった。
すると睡眠不足の顔は、より「疲れている」と判断された。
ここまでは想像できる。
面白いのは、その先だ。
変化していたのは、一箇所ではなかった。
まぶたが下がって見える。
目が赤い。
目の周囲が腫れて見える。
目の下が暗い。
肌がやや青白く見える。
目元の細かな線が目立つ。
口角が下がって見える。
こうした複数の特徴が、「疲れて見える」という評価と関連していた。
つまり、人は「クマ」を見て疲労を判断している、
というほど単純ではない。
顔のあちこちにある、小さな違いをまとめて読んでいる。
そして最後に、
「疲れている」
という一つの印象に変換している。

顔には、「疲れている」と書いていない
ここが面白い。
目の下が暗いことは、「疲労」そのものではない。
まぶたが少し下がっていることも、
口角が下がっていることも、
それ自体は疲労ではない。
ただ、それらが同時に存在すると、
見る側の中で一つの意味が生まれる。
「この人、疲れているかもしれない。」
考えてみれば、私たちは毎日これをやっている。
料理を見て「おいしそう」と思う。
部屋を見て「落ち着く」と思う。
人を見て「元気そう」と思う。
そこに、
「おいしい」という物質も、
「落ち着き」という物体も、
「元気」という色も存在しない。
いくつもの情報を受け取って、脳が一つの印象をつくっている。
疲れ顔も、おそらくそれに近い。
疲労は見えない。
見えているのは、疲労と結びつく可能性のある、
いくつもの小さな変化だ。

だから、疲れていなくても「疲れて見える」ことがある
ここで一つ、ややこしいことが起きる。
「疲れて見える」と、「疲れている」は、同じではない。
先ほどの研究でも、疲労の手がかりとして使われる顔の特徴は、睡眠不足だけに固有のものではない。
たとえば、もともとのまぶたの形。
目の周囲の色。
肌の色調。
表情。
年齢による変化。
照明。
その人自身の顔立ち。
こうしたものでも、見え方は変わる。
研究者自身も、現実の顔の印象は照明や動きなどさまざまな要因によって増幅・マスクされうること、また疲労の手がかりに見える特徴が別の理由で存在すれば、疲れていると誤って知覚される可能性を指摘している。
だから、「疲れて見える=身体が疲れている」
とは言えない。(言わずもがな)
逆も同じだ。
身体はかなり疲れているのに、顔にはほとんど出ない人もいるだろう。
顔は身体の検査結果ではない。
でも、完全に無関係でもない。
この曖昧さが、顔というものを面白くしている。

「老けて見える」と「疲れて見える」は、少し似ている
30代後半から、こんな経験が増える。
昨日まで気にならなかったのに、
ある日突然、鏡の中の自分が疲れて見える。
「老けたな」
と思う。
でも、本当にその日に老けたわけではない。
目元。
肌。
輪郭。
表情。
いくつもの小さな変化が積み重なり、あるところで、
「以前とは違う」という一つの印象になった。
これはISSUE 08で考えた、
「急だったのは、変化ではなく、気づきの方かもしれない」
という話にもつながる。
顔は、一つのパーツで年齢を語らない。
人は、顔全体から年齢を感じる。
疲労も、似ているのかもしれない。
そして顔は、自分より先に他人が気づく
鏡を見る時間は、意外と短い。
しかも自分の顔は、毎日見ている。
昨日から今日への変化は小さい。
だから、自分では気づきにくい。
一方、久しぶりに会った人は違う。
その人の記憶には、数週間前、
数か月前のあなたがいる。
だから、
「なんか疲れてる??」
という一言が出てくることがある。
それが正しいとは限らない。
自分の身体なのに、変化を最初に見るのが自分とは限らない。

「疲れて見えない顔」をつくればいいのか
ここで美容の話なら、
クマを隠す。
肌を整える。
目元をケアする。
という方向へ進むのだと思う。
もちろん、それも一つの選択だ。
でも、このJOURNALでは、もう少し手前にいたい。
なぜ今日は、そう見えたのか。
昨日はどう眠ったか。
ここ数日、身体はどうだったか。
顔だけの問題なのか。
それとも、身体の状態が少し顔に現れているのか。
答えを急いで、「疲れてる顔」対策をする前に、
一度くらい考えてもいい。
顔は、直す場所である前に、観察できる場所でもある。
鏡は、顔しか映さない
朝、鏡を見る。
そこに映るのは、
目と、
肌と、
口と、
輪郭だ。
睡眠時間は映らない。
仕事の緊張も映らない。
昨日の食事も、一週間の疲労も、
そのままの形では映らない。
それでも、身体の中で起きていることの一部が、
顔の見え方と重なることはある。
実際、睡眠を制限した実験では、同じ人物でも十分に眠ったときより「疲れている」「健康的でない」と評価されることが報告されている。
だから、「今日、疲れてる?」
と言われたとき。
すぐに鏡を見て、
クマだけを探さなくてもいいのかもしれない。
見るなら、もう少し広く。
顔を見ながら、その後ろにある身体まで想像してみる。
鏡には顔しか映らない。
でも、私たちがそこから読み取っているものは、
たぶん顔だけではない。

30秒でわかる|なぜ「疲れて見える」のか
睡眠不足の状態では、まぶた、目の赤みや腫れ、目の下、肌、目元の細かな線、口角など、複数の顔の特徴が変化して見えることがあります。人はそれらを組み合わせて「疲れている」という印象をつくっていると考えられます。
ただし、疲れて見えることと実際の疲労は同じではありません。
顔は身体の診断書ではない。でも、身体と完全に切り離されたものでもない。
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皮脂があるのに、頭皮は乾く。『脂っぽい』と『潤っている』は別の話。
夕方になると、髪がべたつく。
だから、「自分の頭皮は脂性だ」と思っている。
でも、皮脂が多いことと、皮膚に十分な水分があることは、そもそも同じ話ではない。
次は、頭皮の「脂」と「水」を考えます。
REFERENCES
・Sundelin T, et al. Cues of Fatigue: Effects of Sleep Deprivation on Facial Appearance. Sleep. 2013;36(9):1355–1360. PMID: 23997369.
・Holding BC, et al. The effect of sleep deprivation on objective and subjective measures of facial appearance. J Sleep Res. 2019. PMID: 31006920.
・Sundelin T, et al. Negative effects of restricted sleep on facial appearance and social appeal. R Soc Open Sci. 2017;4:160918. PMID: 28572989.
・Axelsson J, et al. Beauty sleep: experimental study on the perceived health and attractiveness of sleep deprived people. BMJ. 2010;341:c6614.
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。顔色や目の周囲などに急な変化がある場合、強い疲労感が続く場合、その他気になる症状がある場合は医療機関へご相談ください。
