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ハゲは、生え際か、つむじか? なぜ「そこ」から始まるのか。

同じ頭なのに、おかしい。

AGAになると、生え際が後退する。頭頂部が薄くなる。

でも、
後頭部は残る。

考えてみると、不思議だ。

距離にして、たった数十センチ。
同じ人間の頭皮だ。
流れている血液も同じ。
食べているものも同じ。
睡眠時間も同じ。
ストレスも同じ。
テストステロンだって、前頭部専用と後頭部専用があるわけじゃない。

なのに、前の髪は弱くなり、後ろの髪は残る。

なぜなのか。
実は、髪には「住所」がある。

そして住所が違うと、
同じ身体の中でも、ホルモンへの反応が違う。

今日はこの話をしたい。

AGAは、頭全体を平等には攻撃しない

まず事実から。

男性型脱毛症、いわゆるAGAでは、
典型的に、
額の生え際。
前頭部。
頭頂部。

このあたりの髪が徐々に細く、短くなっていく。

日本皮膚科学会の診療ガイドラインでも、AGAの診断では「額の生え際の後退」と「前頭部・頭頂部の毛髪が細く短くなっていること」を確認するとされている。

一方で、側頭部や後頭部は比較的残りやすい。

だからAGAが進行すると、上から見ると髪が少なくなっているのに、横と後ろには髪が残っている、あの特徴的な形になる。

ここで疑問が生まれる。
なぜ、そこだけなのか?

頭皮を「一枚の土地」だと思わないほうがいい

「頭皮」
とひとまとめに呼ぶ。

だから無意識に、頭全体が同じものだと思ってしまう。

でも実際は違う。
前頭部の毛包と、
後頭部の毛包では、
アンドロゲンに対する反応などに違いがある。

古典的な研究では、AGAの男性・女性の毛包を調べたところ、前頭部では後頭部よりもアンドロゲン受容体や5α-還元酵素Ⅰ型・Ⅱ型が高いことなどが報告されている。

近年も、AGA患者の前頭部と後頭部の毛乳頭細胞には遺伝子発現やアンドロゲン応答性の違いが観察されている。

難しく聞こえるけれど、言いたいことはシンプル。

同じDHTが来ても、受け取る側が違う。

たとえば、同じ酒を飲んでも、
顔が真っ赤になる人がいる。
全然変わらない人もいる。
酒は同じ。

違うのは、受け取る身体の側だ。
AGAも似ている。

ホルモンだけを見ていても、全部は説明できない。
重要なのは、その毛包が、ホルモンにどう反応する毛包なのか。
ということだ。

だから「男性ホルモンが多いからハゲる」では説明できない

ここで前回の話につながる。

テストステロンが、5α-還元酵素によって、DHT(ジヒドロテストステロン)へ変換される。

そしてDHTが、アンドロゲン受容体を介して毛包に作用する。

AGAの影響を受けやすい毛包では、このアンドロゲンシグナルなどによって、成長期が短くなり、毛包のミニチュア化が進んでいく。

太かった髪が、細くなる。
長く育っていた髪が、短くなる。

でも、
ここで重要なのは、すべての毛包が同じようにDHTへ反応するわけではない
ということだ。
これが分かると、AGAの見え方が変わる。
AGAは、頭全体に降り注ぐ「薄毛の雨」ではない。

同じ雨が降っているのに、土地によって育ち方が違う。

そんな現象に近い。

そして、この話を証明するような技術がある

自毛植毛だ。

薄くなった前頭部に、新しい毛を人工的につくるわけではない。
一般的には、AGAの影響を比較的受けにくい後頭部などから自分の毛包を採取して、前頭部や頭頂部などへ移植する。

ここで、ものすごく面白いことが起きる。

後頭部にいた髪が、前頭部へ引っ越す。
住所が変わる。
AGAが進みやすい場所に移動する。
なのに、移植された毛髪は、ドナー側の性質をかなり保持する。
これを、donor dominance(ドナー優位性)という。

近年の毛髪移植レビューでも、この原理は自毛植毛の基本として説明されている。

つまり、髪を東京から大阪へ引っ越させても、
大阪人になるわけではない。

ちょっと乱暴だけれど、そんな感じだ。
毛包は、元いた場所の“記憶”を持っている。

だから、後頭部から採った毛包を、薄くなった前頭部へ移植できる。

これ、
かなり不思議じゃないだろうか。

髪は「場所」なのか。「個体」なのか。

ここから急に、髪の話が面白くなる。

生え際の髪。
つむじの髪。
後頭部の髪。

と、場所で髪を呼ぶ。

でも自毛植毛を見ると、毛包そのものにも性質があることが分かる。

住所を変えても、元の性質をある程度持ち続ける。

一方で、話はそこまで単純でもない。
移植先の環境が毛髪の成長特性に影響する可能性を示した研究もある。

つまり、
全部が「生まれつき」で決まるわけでもない。
全部が「環境」で決まるわけでもない。

持って生まれた性質と、置かれた環境。
両方がある。

なんだか、人間そのものみたいだ。笑

「つむじが見える=AGA」でもない

ここは現実的な話をしておきたい。

鏡でつむじを見る。
地肌が見える。
「AGAだ」
となる人がいる。

でも、つむじで地肌が見えること自体は、AGAの診断ではない。

毛流れ。
髪の太さ。
密度。
濡れているか。
照明。
撮影角度。
髪の長さ。

いろいろな要因で、地肌の見え方は変わる。

同じように、生え際が昔からM字型だからといって、
それだけでAGAとは言えない。

見るべきなのは、形そのものより、変化しているか。

以前より生え際が後退している。
以前より頭頂部の地肌が目立つ。
太かった毛の中に、細く短い毛が増えてきた。

こうした経時的な変化が重要になる。

日本皮膚科学会のガイドラインでも、家族歴や脱毛の経過を問診し、前頭部・頭頂部の毛髪が細く短くなっていることなどを視診する。必要に応じて拡大鏡やダーモスコピーも診断の助けになる。

だから、つむじの写真一枚をAIに見せて、
「AGAですか?」
と聞いて終わり、という話でもない。

身体には、
時間という情報がある。

ここまで来ると、シャンプー選びの見え方も変わる

「生え際が気になるので、このシャンプーに変えました」

よくある話だ。

頭皮を清潔に保つ。
皮脂や汚れを適切に落とす。
頭皮トラブルを避ける。
そういう日常的なケアには意味がある。

でも、AGAの中心にある毛包のアンドロゲン応答性やミニチュア化を考えれば、シャンプーだけでAGAという現象そのものを説明することはできない。

これはヘッドスパも同じだ。

揉めばAGAが止まる。
毛穴を洗えば髪が復活する。

そんな単純な話ではない。

治療とケアを混ぜると、何をしているのか分からなくなる。
必要なら医療へ行く。

日常では、
頭皮を清潔にする。
自分の変化を見る。
頭に触れる。
休ませる。

それぞれ役割が違う。

我々は、身体を1つだと思いすぎている

右肩と左肩。
右目と左目。
右脚と左脚。

左右ですら、
完全には同じじゃない。

筋肉も。
関節も。
皮膚も。
血管も。
神経も。
そして、
毛包も。

身体は、同じ素材をコピーして組み立てた工業製品ではない。
場所ごとに違う歴史と性質を持った、小さな生態系の集合体だ。

だから、
「頭皮にいいこと」
「身体にいいこと」
「健康にいいこと」
という言葉を見ると、少しだけ疑ったほうがいい。

どこの?
誰の?
何に対して?
どの程度?

身体の話は、主語を大きくした瞬間に、
だいたい雑になる。

髪には、住所がある

生え際。
頭頂部。
側頭部。
後頭部。

たった数十センチの世界なのに、毛包の性質は同じではない。

そしてAGAは、その違いを、ものすごく分かりやすい形で見せてくる。

髪が薄くなる。
という現象の裏側には、ホルモンだけではなく、
「その毛包が何者なのか」
という問題がある。

そう考えると、髪を見ることは、単に本数を見ることではなくなる。

自分の身体が、場所ごとにどう違うのか。
時間とともにどう変わっているのか。
それを見ることになる。

そして、
ここからもう一つ疑問が出てくる。
なぜAGAは、ある人には起きて、ある人には起きないのか。

同じ男性。
同じようにテストステロンがある。
同じようにDHTもつくられる。

それでも、
70歳まで髪が多い人もいれば、
20代からAGAが進む人もいる。

次は、その話をしよう。
遺伝だ。

ただし、「母方のおじいちゃんがハゲていたら終わり」
みたいな話ではない。

AGAの遺伝は、そんなに単純じゃない。


30秒でわかる|AGAはなぜ生え際・つむじから薄くなる?

AGAでは、生え際・前頭部・頭頂部の毛包がアンドロゲンの影響を受けやすく、徐々に細く短い毛へ変化していくのが典型的です。
一方、後頭部などの毛包はAGAの影響を比較的受けにくく、この部位差は自毛植毛でも利用されています。後頭部などから移植された毛包がドナー側の性質を保持する現象は「ドナー優位性」と呼ばれます。
ただし、つむじの地肌が見える、M字型の生え際である、といった見た目だけでAGAと診断することはできません。進行する変化が気になる場合は、皮膚科などの医療機関へ相談してください。


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抜け毛が増えた。——でも、風呂場の髪を数えるのはもうやめよう。

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薄毛は遺伝する。でも「母方のおじいちゃんを見ろ」は雑すぎる。
AGAと遺伝の関係は確かに強い。
でも、
父親なのか。
母親なのか。
祖父なのか。
そもそも「薄毛遺伝子」なんて一個の遺伝子があるのか。
次回は、人はどこまで自分の髪の未来を受け継いでいるのか。
遺伝子の話をします。


REFERENCES

・日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版」
・Sawaya ME, Price VH. Different levels of 5alpha-reductase type I and II, aromatase, and androgen receptor in hair follicles of women and men with androgenetic alopecia. Journal of Investigative Dermatology. 1997.
・Inui S, Itami S. Molecular basis of androgenetic alopecia: From androgen to paracrine mediators through dermal papilla. Journal of Dermatological Science. 2011.
・Male pattern hair loss: Can developmental origins explain the pattern? Experimental Dermatology. 2023.
・Avram MR, Rogers NE. Hair transplantation for men. Journal of Cosmetic and Laser Therapy. 2008.
・Hair Transplantation: State of the Art. Dermatologic Surgery. 2025.


※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。薄毛や脱毛、頭皮の症状などが気になる場合は、皮膚科などの医療機関へご相談ください。

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