頭皮の皮脂は、本当に悪いのか。「落とすほど清潔」という思い込み。
夜。
仕事を終えて、なんとなく頭を触る。
少しベタついている。
指先に脂っぽさが残る。
その瞬間、「頭皮、汚れてるな」と思う。
たぶん、かなり自然な反応だ。
皮脂。
毛穴。
ベタつき。
テカリ。
こういう言葉には、どこか「取り除くべきもの」という響きがある。
だから、洗う。
もっと洗う。
すっきりする。
清潔になった気がする。
でも、ここで一つだけ、妙なことがある。
もし皮脂が、ただの汚れなのだとしたら。
なぜ身体は、毎日わざわざ、皮脂をつくっているのだろう。
皮脂は、外から付いた汚れではない
まず、ここを分けたほうがいい。
ホコリ。
排気ガス。
整髪料。
汗と混ざった外部の汚れ。
それらと、皮脂は違う。
皮脂は、自分の身体がつくっている。
皮膚の中にある皮脂腺でつくられ、毛穴を通って、皮膚の表面へ出てくる。
つまり、「汚れが付着した」のではない。
身体が、自分で出している。

しかも皮脂腺は、ただ油を製造しているだけの単純な袋でもない。
ホルモンの影響を受ける。
免疫にも関わる。
皮膚表面の環境にも関わる。
皮脂を構成する脂質は、皮膚や毛髪の表面を覆い、潤滑に関わり、皮膚表面の脂質環境をつくる。
一部には、抗菌作用に関わる脂質もある。
つまり、身体の側から見ると、皮脂は、「処分し忘れたゴミ」ではない。
ちゃんと仕事を持っている。
それでも、なぜ皮脂は嫌われるのか
理由は簡単だ。
多すぎると、不快だからだ。
髪が束になる。
頭皮がベタつく。
においが気になる。
フケやかゆみと一緒に現れることもある。
見た目にも、触った感じにも、
「少ないほうが清潔そう」に見える。
人間は、目に見えるものを悪者にしやすい。
皮脂は見える。
触れる。
洗えば落ちる。
だから、原因として扱いやすい。
でも身体の話では、分かりやすい犯人が、本当の犯人とは限らない。
「皮脂がある」と「頭皮が健康」は、同じではない
皮脂には役割がある。
だから、皮脂は多ければ多いほどいい。
という話では、もちろんない。
最近の頭皮研究では、皮脂の多い人の頭皮で、水分量が低かったり、皮膚バリア機能の指標が良くなかったり、脂質の酸化に関係する指標が高かったりすることが報告されている。
つまり、脂っぽい。🟰潤っている。
ではない。
ここはかなり重要だ。
「油分」と「水分」を同じようなものとして感じてしまう。
でも、皮膚の上に脂が多く存在していることと、角層が適切な水分状態を保っていることは、別の話。
表面はベタついている。
でも、皮膚の状態は良くない。
そんなことは普通に起こりうる。
皮脂は「悪」でも「善」でもない
ここまで読むと、少し面倒になってくる。
皮脂は必要。
でも多すぎても問題になる。
洗う必要はある。
でも洗いすぎもよくない可能性がある。
じゃあ、結局どうすればいいんだ。
と思う。
でも、身体って、だいたいそういうものだ。
善か悪かで分類すると、急に分からなくなる。

体温もそうだ。
低ければいいわけでもない。
高ければいいわけでもない。
血糖値もそう。
ゼロなら健康、という話では当然ない。
炎症だって、全部なくなればいいわけではない。
炎症は本来、身体を守る反応でもある。
皮脂も似ている。
問題は、存在することではない。
量。
組成。
皮膚の状態。
微生物。
環境。
洗浄。
いろいろなものとの関係の中で、どうなっているかだ。
シャンプーは、皮脂を「ゼロ」にするためのものではない
シャンプーをすると、すっきりする。
これは気のせいではない。
界面活性剤によって、
皮脂や汗、
角質、
整髪料、
外から付着した汚れなどを、水で流しやすい状態にできる。
洗浄には、ちゃんと意味がある。
実際、皮脂が多い頭皮を対象にした研究でも、シャンプー後に頭皮表面の皮脂量が減少したことが確認されている。
問題は、「落ちた」という事実を、
「落とせば落とすほどいい」
に変換してしまうことだ。
洗浄剤は、皮脂だけをピンポイントで消しているわけではない。
皮膚の一番外側にある角層にも接触する。
過去の研究では、強い洗浄や反復的な洗浄によって、角層の水分量や経皮水分蒸散量など、皮膚バリアに関係する指標が変化することが示されている。
つまり、洗うことが悪いのではない。
洗わないことが正しいのでもない。
また出てくる。
身体の話でいちばん面倒な言葉。
程度。
「洗いすぎると、逆に皮脂が増える」は本当なのか
ここで、ネットでよく見る話がある。
洗いすぎる。
↓
頭皮が乾燥する。
↓
身体が「脂が足りない」と判断する。
↓
皮脂をもっと出す。
だから、洗えば洗うほど脂っぽくなる。
すごく分かりやすい。
身体に意思があるようで、納得しやすい。
でも、この説明をそのまま事実として扱うのは危ない。
皮脂を取り除いたあと、時間が経てば皮脂が再び皮膚表面に出てくる。
これは当然起きる。
ただ、「洗浄で皮脂を取るほど、皮脂腺がそれを感知して、過剰分泌へ切り替わる」という単純な自動調節機構が、はっきり証明されているわけではない。
身体は、そんな都合よく動いてくれない。
頭皮には、頭皮の事情がある
顔と比べても、頭皮は特殊だ。
毛が密集している。
皮脂腺も多い。
汗もかく。
乾きにくい。
シャンプーする。
整髪料を使う。
帽子をかぶる。
紫外線にも当たる。
そして、そこには微生物もいる。
皮脂を好む酵母であるMalasseziaもその一つだ。
Malasseziaは、健康な皮膚にも存在する。
つまり、見つかった瞬間に悪者になる菌ではない。
一方で、フケや脂漏性皮膚炎では、皮脂、Malassezia、そしてその人自身の皮膚の感受性などが複雑に関係すると考えられている。
ここでも、「皮脂があるからフケが出る」ではない。
皮脂だけを消せば、全部解決する。
でもない。
身体の表面は、自分の細胞だけでできているわけではない。
脂質。
水分。
角質。
微生物。
外気。
紫外線。
温度。
湿度。
いろいろなものが、同じ場所で暮らしている。
頭皮は、思っている以上に、小さな生態系に近い。

だから「毛穴の皮脂を全部取る」という発想には違和感がある
美容の世界では、「毛穴の汚れを除去する」
という表現をよく見る。
もちろん、余分な皮脂や汚れを洗浄すること自体はおかしくない。
でも、皮脂そのものを、毛穴に存在してはいけないもののように扱うと、身体の仕組みから少し離れていく。
そもそも、皮脂腺は毛包とつながっている。
そこから皮脂が出てくるのは、異常ではない。
正常な身体でも起きている。
「毛穴に皮脂がある」
だけで、何か問題が起きているわけではない。
だから、ヘッドスパについても、同じ線引きが必要だと思う。
頭皮を洗浄する。
皮脂や汚れを落とす。
頭皮を観察する。
触れる。
休む時間をつくる。
それと、皮膚疾患を治療すること。
AGAを治療すること。
発毛させること。
これは別の話だ。
フケが強い。
赤みが続く。
痛い。
強いかゆみがある。
湿疹のようになっている。
脱毛も伴う。
そういう場合は、「頭皮が汚れているから」で片づけず、皮膚科などの医療機関で診てもらったほうがいい。
それにしても、僕たちは「取り除く」のが好きだ

脂肪を落とす。
皮脂を落とす。
角質を落とす。
菌をなくす。
ストレスをなくす。
疲労をなくす。
老化をなくす。
何か身体の問題を感じると、そこにある何かを見つけて、消したくなる。
たぶん、引き算は分かりやすいからだ。
あるものをなくす。
数字を下げる。
見えなくする。
すると、改善した感じがする。
でも、生きている身体は、完成した彫刻ではない。余計な部分を削っていけば、理想形が出てくるわけでもない。
ずっと作っている。
ずっと壊している。
ずっと入れ替えている。
皮脂も出る。
汗も出る。
角質も剥がれる。
菌もいる。
炎症も起きる。
眠くもなる。
疲れもする。
身体は、「何も起きていない状態」を目指しているわけではない。
何かが起き続けている中で、なんとかバランスを保っている。
清潔とは、「何もないこと」なのか
皮脂のない頭皮。
菌のいない皮膚。
汗をかかない身体。
角質のない表面。
そんな身体があったとして、それは本当に健康なのだろうか。
たぶん、違う。
清潔であることと、無菌であることは違う。
脂が少ないことと、皮膚が健康であることも違う。
気持ちよく洗うことと、徹底的に取り除くことも違う。
皮脂を見て、「悪いものだ」と思う前に、一度だけ、問いを変えてみる。
なぜ? 身体はこれをつくっているのか。
この問いを持つだけで、身体の見え方はかなり変わる。
身体には、取り除けば取り除くほどいいものばかりではない
頭皮の皮脂は、ただの汚れではない。
皮膚表面の環境を構成する、身体由来の脂質だ。
一方で、量や組成が変われば、不快感や頭皮トラブルと関係することもある。
だから、
残せばいい。
でもない。
全部取ればいい。
でもない。
たぶん大事なのは、善悪を決めることではなく、役割を知ることだ。
自分の身体から出てきたものを、見つけた瞬間に敵にしない。

少しだけ、何のためにそこにあるのかを考える。
身体を理解するというのは、案外、そういうところから始まるのかもしれない。
30秒でわかる|頭皮の皮脂は悪いもの?
頭皮の皮脂は、単なる汚れではありません。
皮脂腺から分泌される脂質で、皮膚や毛髪の潤滑、皮膚表面の脂質環境、抗菌・免疫機能などに関わります。
一方、皮脂が多いことがそのまま「頭皮が潤っている」「健康」という意味でもありません。皮脂量や組成、皮膚バリア、微生物、個人の感受性などが複雑に関係します。
大切なのは、皮脂を完全な悪者にすることでも、残せば残すほど良いと考えることでもありません。
Azabu Re.TREAT
Azabu Re.TREATでは、
頭皮を、「汚れを落とす場所」だけだとは考えていません。
普段ほとんど見ることのない頭皮を見て、触れて、その日の状態を知る。
ヘッドスパや頭皮ケアは、AGAや皮膚疾患を治療するものではありません。
でも、自分の頭に時間を使うきっかけになる。
Azabu Re.TREATは、麻布十番のプライベートヘッドスパです。
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身体は、変化してから気づく。
何も起きていないとき、人は身体を見ていない。
肩が痛くなってから、姿勢を気にする。
眠れなくなってから、睡眠を考える。
髪が減ってから、髪を見る。
なぜ人は、身体が普通に動いているとき、その身体をほとんど意識しないのか。
次回は、「身体に気づく」ということ自体について考えます。
REFERENCES
・Zouboulis CC.
Acne and sebaceous gland function.
Clinics in Dermatology. 2004.
・Clayton RW, et al.
An updated review of the sebaceous gland and its role in health and diseases. Part 1: Embryology, evolution, structure, and function of sebaceous glands.
Clinical and Experimental Dermatology. 2020.
・Tóth BI, et al.
“Sebocytes’ makeup”: novel mechanisms and concepts in the physiology of the human sebaceous glands.
Pflügers Archiv. 2011.
・Del Rosso JQ, et al.
The primary role of sebum in the pathophysiology of acne vulgaris and its therapeutic relevance in acne management.
Journal of Dermatological Treatment. 2024.
・Chen K, et al.
Physiological Characteristics of Scalp Skin With High Sebum Production and the Impacts of Shampoo Cleansing.
Skin Research and Technology. 2026.
・Effendy I, Maibach HI.
Damage to the skin by repetitive washing.
Contact Dermatitis. 1995.
・Three etiologic facets of dandruff and seborrheic dermatitis: Malassezia fungi, sebaceous lipids, and individual sensitivity.
Journal of Investigative Dermatology Symposium Proceedings. 2005.
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。フケ、強いかゆみ、赤み、痛み、湿疹、脱毛などの症状が続く場合は、皮膚科などの医療機関へご相談ください。
