続・AIは私たちの生活を本当に豊かにするのか〜Anthropic「Mythos」「Fable」即時停止措置から、AIの“安全性”のあり方を考える
こんにちは、水無瀬あずさです。
私は日々SNSを活用して情報収集に勤しんでいる民なのですが、最近のXで特に大きな話題を集めているのが、Anthropicの最新AI「Fable」です。最高性能AIとしてローンチしたものの、わずか3日後に全世界即時停止措置に踏み切り、使えないまま今に至ります。AIの進化が進みすぎて、もはや制御不能一歩手前みたいな状況になっているんです。
ここまで高性能AIが登場してしまうと、仕事がなくなるとか生温いことを言っている場合ではなくて。私は前にnoteで「AIは私たちの生活を本当に豊かにするのか」という記事を書いたのですが、もはや私たち人間の存続そのものにも大きく関わってくる大問題なんじゃないのと不安で仕方ありません。
「へえ、海外のAIがなんか大変なのね~」って感じかもしれませんが、これはこれからの世界のAIの扱いを揺るがす結構な大事件だと私は思っています。数年後に振り返ったとき「思えばあれが転機だった」となるかもしれない事態です。なので、ぜひすべての人が自分事として捉え、事の顛末についてざっくりとでも知っておいてほしいと思いました。
そこで今回のnoteは、AnthropicのFableが即時停止に追い込まれた状況を整理しつつ、何が問題だったのか、どう捉えるべきなのか、そして今後の私たちへの影響についての個人的な見解をまとめます。技術やAIについてあまり詳しくない方にも分かりやすいように整理したつもりですが、頑張りすぎて12000字にも及ぶ長文(!)になってしまいました。適度に読み飛ばしつつでいいので、どうぞ最後までお付き合いください!
Anthropic Mythos・Fableの即時停止措置
AIが私たちの日常生活で当たり前に活用されつつあるなかで、Anthropic社のAIモデル「Mythos」と「Fable」が即時停止したという動きは、「遠い他国のよくわからないAI技術論争」ではなく、私たちに降りかかるかもしれない身近なリスクです。「AIが当たり前に使われるようになるこれから社会において、その“安全性”をどのように担保するか」という、極めて重要な議論に一石を投じる動きだったと私は考えます。
ぜひ多くの人に知っておいていただきたいと思うので、まずこの問題の全体像を私なりに理解した範囲で紹介します。
「Mythos」のリスクを踏まえて登場した“安全設計”の「Fable」
そもそも今回の騒動の前段には、Anthropicが2026年4月に発表した「Claude Mythos Preview」の存在があります。
Mythosは、サイバーセキュリティ領域で極めて高い能力を持つAIモデルです。従来のAIとは一線を画し、「システム全体を読み解き、未知の脆弱性を発見し、場合によっては悪用可能な形にまで落とし込める能力を持つ」とされていました。
その性能はあまりにも強力で、使い方によっては防御にも攻撃にも転用できる、いわゆるデュアルユースのリスクを抱えています。そのためAnthropicはMythosを一般公開せず、防御目的のセキュリティ検証に関わる一部の組織に限定して提供していました。
Mythosのリスクについては以前のnoteで詳しく書いたので、気になる方はそちらもご覧ください!
そうした流れを踏まえて、2026年6月9日に登場したのが「Claude Fable 5」です。
Fableは、Mythos級の能力を、一般利用向けに安全設計したモデルです。Anthropicの説明によれば、「Fable 5とMythos 5は同じ基盤モデルでありながら、Fableには強力な安全機構が組み込まれている」とのこと。具体的には、サイバーセキュリティ、生物、化学、モデル蒸留など、悪用リスクの高い領域に関するリクエストは、より制限の強いClaude Opus 4.8へ自動的に切り替わる仕組みです。
また、Fableでは「30日間のデータ保持」も求められていました。この仕様はユーザー的にはプライバシー面で気になるものですが、Anthropic側は「単発のやり取りでは見えにくい不正利用やジェイルブレイク(AIの安全制限やガードレールを回避して、本来禁止された出力を引き出そうとする行為)の兆候を検知するための安全監視策だ」と説明しています。
つまりFableは、単に高性能なモデルをそのまま解放したものではなく、かなり細かく安全性に配慮したうえで出されたモデルだったわけです。
Fableの特徴として、とくに注目されたのは次の3点です。
①長時間にわたる自律的な作業に強い
従来のAIでは、複雑なタスクを任せても途中で文脈を見失ったり、作業の目的から少しずつズレたりすることがありました。これに対してFableは、長時間にわたって文脈を保持しながら、まとまった作業を進められる点が大きな特徴とされています。
たとえば、大規模なコード移行やリファクタリング(既存のコードの動作は変えずに、構造や設計を整理して保守しやすく改善する作業)、複数資料をまたいだ分析、長文ドキュメントの整理など、「人間が腰を据えて取り組む重い仕事」を任せやすくなった点が大きな進化でした。
単に一問一答で答えるAIではなく、目的に向かって作業を分解し、手順を組み立てながら進める力が高まったモデルとして受け止められていたのです。
②視覚情報の処理能力が高い
Fableは、テキストだけでなく、図表やスクリーンショット、PDF内の表などを読み取り、そこから設計や実装に落とし込む力も高いと説明されています。
これまでのAIでも画像や資料の読み取りは可能でしたが、Fableではそれを単なる内容理解にとどめず、実際の作業に接続しやすくなった点が注目されました。たとえば、画面のスクリーンショットからUIの改善案を出す、PDF資料に含まれる表を読み解いて要点を整理する、図解をもとに実装方針を考えるといった使い方が想定されます。
画像や図表を含む複雑な資料を扱う業務では、かなり実用性が高いモデルとして期待されていました。
③自分の出力を検証し改善する力が強化された
Fableでは、自分の出力を検証し、必要に応じて改善していく力も強化されています。
単に答えを出すだけでなく、タスクに応じて評価方法を考え、結果を見直しながら作業を進める。コードであればテストやエラー確認、文章であれば構成や論理の整合性、分析であれば前提や結論の妥当性を確認しながら、精度を高めていくイメージです。
もちろん、AIの検証が常に正しいわけではありません。それでも、自分で出力を振り返り、修正しながら前に進める力が高まったことで、Fableは「人間が細かく指示を出し続けるAI」から、「一定の作業を任せられるAI」へ近づいたように見えました。ここまで来ると、もはや「チャットで質問に答えるAI」というより、かなり自律性の高い作業エージェントに近い印象ですね。
実際、Fableの登場直後、AI界隈はかなり盛り上がっていて、Xでは処理速度の速さや長いタスクを一気に進める能力を称賛する声が多く見られました。むしろ「有能すぎて、何をどこまで任せればいいのか分からない」「Fableに作業させるための設計そのものが必要では」といった意見すらあったほどです。
一方で、懸念として早くから指摘されていたのがコストです。Fableは当初、ProやMaxなど一部のサブスクリプションプランで追加料金なしに使える期間が設けられていました。しかし、その後は使用量に応じたクレジット課金へ移行する予定とされており、API価格も高めに設定されていました。
つまり。Fableは「誰でも気軽に毎日使うAI」というより、重く複雑なタスクを任せるための“特別な”高性能モデルとして受け止められていたのです。性能は圧倒的に高い、でも高すぎるがゆえにコスト面でも、安全性の面でも、使いどころを慎重に見極める必要があるってこと。Fableの登場は、AIがまた一段階、別のフェーズに入ったことを感じさせる出来事でした。
米政府の輸出管理指令により全世界で利用停止
Fableの登場直後、AI界隈では大きな期待が広がっていましたが、一方で不安視されていたのが安全対策の透明性です。
Fableでは、サイバーセキュリティや生物・化学といった悪用リスクの高い領域に関するリクエストが検知された場合、より制限の強いモデルへ自動的に切り替わる仕組みが導入されていました。しかし実際には、AI研究や大規模言語モデル(LLM)開発など、Anthropic自身の競争領域にも関わるリクエストについても、ユーザーに見えない形で制限する仕組みが入っていたとして、大きな批判を呼びました。
今回のClaude Fable/Mythos5公開に伴うAnthropicの安全措置(ほぼ研究妨害)は行き過ぎなレベルに達しており、「Anthropicと同じくらい強力なAIを他者が開発するのを防ぐため」最新の生成AI(LLM)に関する開発のコーディングに使うと、「ユーザーに知らせずこっそり」出力を弱体化させるようです。… pic.twitter.com/evkaBbe0c3
— 今井翔太 / Shota Imai@えるエル (@ImAI_Eruel) June 10, 2026
ユーザーから見るとFableを使っているつもりでも、内部的には性能や応答の質が抑えられる可能性があったわけです。この仕様はAI研究者や技術者のあいだで強い批判を呼び、コミュニティは大炎上。いくら安全性のためとはいえ、ユーザーに明示しないまま勝手にモデル性能を変えることは、信頼性の面で大きな問題だと受け止められた形です。
その後、Anthropicはこの方針を見直し、AI研究・フロンティアLLM開発に関する安全措置についても、他の高リスク領域と同じようにユーザーから見える形に変更すると説明しました。Fableの性能そのものへの期待は高かったものの、その安全設計をどう透明化するかについては、登場直後から議論が起きていたんですね。
大きな転機となったのは、公開からわずか3日後の2026年6月12日。Anthropicが「Fable 5とMythos 5の利用を全世界で停止する」と発表したのです。理由は、米政府から輸出管理指令を受けたためでした。
Anthropicの公式声明によれば、米政府は国家安全保障上の権限を根拠に、Fable 5とMythos 5について、米国内外を問わず、外国籍の人物によるアクセスを停止するよう求めたといいます。その対象には、米国外のユーザーだけでなく、米国内にいる外国籍の人物、さらにはAnthropic社内の外国籍従業員も含まれていました。
この条件を厳密に切り分けて運用することが困難だったため、Anthropicはコンプライアンス確保のため、Fable 5とMythos 5をすべての顧客向けに無効化したと説明しています。
米政府が問題視したのは、Fable 5の安全装置を回避するジェイルブレイクの可能性でした。Anthropic側は「政府から具体的な技術情報は十分に示されておらず、確認できたのは限定的なジェイルブレイクの可能性にとどまる」と反論しています。また、同様の能力は他の公開モデルでも確認できるとして、Fableだけを止める判断には疑問を示しました。
一方で米政府側は、Fableの安全装置が回避された場合、Mythos級のサイバー能力にアクセスできる可能性を懸念していたとも報じられています。つまり問題になっているのは、単なるAIサービスの品質や価格といった話ではなく、Fableのような高性能AIが国家安全保障やサイバー防衛、さらには輸出管理の対象として扱われ始めているという事実です。
一部報道によると、米国側が中国の動きを懸念していたという情報もあるようで、もしそうであれば政府が「米国人以外の外国人の利用を停止」と命令してきたのも納得できるなあ、と個人的には思ったなど。
政府とAnbthropicの交渉には出て来なかったらしいですが、どうもFable5とMythos5公開後に中国がMythosにアクセスできていた(※現状中国関連企業はサイバーセキュリティ能力が抑えられていない方のMythosアクセス許可が出ていない)という話を事前に政権がキャッチしていたという報道があり、これもAnt…
— 今井翔太 / Shota Imai@えるエル (@ImAI_Eruel) June 14, 2026
その後も状況は流動的です。6月16日には、G7の場で、米国企業の先端AIモデルについて、“信頼できるパートナー”にアクセスを認める案が協議されたとロイター通信が報じています。これは、Fableを全面的に閉じるのではなく、同盟国や信頼できる企業には一定のアクセスを認める道を探る動きといえます。
また、6月19日には、ReutersがBloomberg報道として、初期利用者の一部がMythos Previewへのアクセスを維持しているとも伝えました。つまり、「完全に誰も使えない状態」ではなく、米国政府や一部の早期利用組織など、限られた範囲ではアクセスが残っている可能性があります。
ただし、2026年6月20日現在、Fable 5が一般ユーザー向けに再開されたわけではなく、状況が確定したとはいえない点に注意が必要です。
さらに同じ6月19日、ロイター通信は、トランプ大統領がAxiosのインタビューで「現在はAnthropicを国家安全保障上の脅威とは見ていない」と述べたとも報じています。Anthropic側も、米政府との協議を続け、問題の解決に取り組んでいるとコメントしています。表面的には、「米政府とAnthropicは別に対立しているわけじゃないよ」と見せた形です。
Fableはその圧倒的な性能によって、AIの実用化を一歩進めるモデルとして期待されていました。しかし同時に、その能力の高さゆえに、企業の安全設計だけでは扱いきれない領域に踏み込んでしまったのかもしれません。
現時点では、Fableがいつ、どの範囲で再開されるのかは分かっていません。少なくとも今回の件は、AIの進化がもはや技術論だけでは語れない段階に入ったことを、はっきり示した出来事だったと思います。
なお我が夫はFableを使いたくてサブスクに契約したものの、わずか1日で使えなくなりました。気の毒すぎる・・・。でも、うちの夫と同じようにFable目的で契約した人、実はすごく多かったんじゃないかと推測しています。
Fableの何が問題だったのか――AIの安全性を巡る議論
一連の流れをXを通じてリアルタイムで情報収集していた私ですが、Mythosの件のあたりから、AIと進む未来について、なんとも言えない不安感というか、なんか気持ち悪い感覚が続いていました。技術の進化って歓迎すべきことのはずなのに、このままでいいのかな?大丈夫なのかな?ってずっとモヤモヤしているみたいな。
それって何なんだろう、なんでこんなに気持ち悪いんだろうと不思議で、ずっとChatGPTと壁打ちで議論してきました。Fableのこういう状況があって、私はこんなこと考えているんだよね。でもなんかモヤモヤするんだよね、何が原因なのかな?どんな原体験があるからなのかな?みたいな感じで。脱線することも多かったですが、かなり有意義な議論ができたと思います。


「共存」はおそらく「競争」の間違い
ここでは、そうやってChatGPTと壁打ちして明らかになった私のなかのモヤモヤを起点に、いったい何が問題でこんなことになってしまったのかを掘り下げてみたいと思います。あくまで私個人の見解であり、正しくない情報も含まれているかもしれない点をご了承ください。
①そもそも政府とAnthropicの間に安全保障をめぐる溝があった
Fableの停止措置だけを見ると、AIの問題に米政府が突然介入してきたように見えるかもしれません。しかしその背景には、以前から続いていた米政府とAnthropicの溝があります。
そもそもAnthropicは、創業当初から「高性能なAIは能力向上だけでなく、安全性や制御可能性を同時に高めるべきだ」という考え方を掲げてきました。モデル公開前の安全評価や外部テストに比較的積極的で、危険な用途への利用制限や、AIが人間の意図から逸脱しないための研究にも力を入れてきた企業です。
一方で、現在のAIは国家安全保障や軍事面でも重要な技術になっています。サイバー防衛、情報分析、監視、作戦立案、兵器システムなどにAIをどう使うかは、国の安全保障戦略そのものに関わります。
実際、Anthropic自身も、米政府の安全保障領域でClaudeが広く使われていることを認めています。情報分析、モデリング、シミュレーション、作戦立案、サイバー作戦など、すでに国家安全保障に関わる用途で活用されているのです。
ただし、Anthropicはすべての政府利用を無条件に認めていたわけではありません。「大量国内監視と完全自律兵器については、Claudeの利用を認めるべきではない」という姿勢を示していました。
政府側から見れば、「国家安全保障に必要な技術でありながら、民間企業が自らの判断で利用範囲を制限している」状態です。一方のAnthropicから見れば、どれほど政府利用であっても、AIが民主主義や人間の判断を損なう使われ方をしてはならない、という立場だったのでしょう。
今回の問題は、単に「Fableに危険な抜け道が見つかった」という技術的な話だけではありません。高性能AIを誰が管理し、どの用途まで認めるのかをめぐって、政府と民間企業の主導権争いが表面化した出来事と読むこともできるのです。
②軍事転用できるAIを民間企業が作れてしまうことの危うさ
Fable即時停止の背景にあったのは、その性能が軍事や安全保障にも転用されうるレベルに達していたことです。
FableやMythosのような高性能AIは、防御目的で使えば、脆弱性の発見やシステム保護、サイバー攻撃への備えに役立ちます。しかし悪用されれば、攻撃の効率化や高度化にもつながりかねません。いわゆる「デュアルユース」、つまり民生利用にも軍事利用にも転用できる技術としての危うさが、ここにあります。
ここで懸念されるのが、軍事や安全保障にも影響を及ぼしうるAIを、いち民間企業が開発し、公開の可否や利用条件まで決められる状態でよいのかという点です。
それって言い換えれば、AI開発企業が世界の勢力図を大きく変えうるほど強大な力を持つということでもあります。国家ではなく、選挙で選ばれたわけでもない企業が、どの国に、どの組織に、どのレベルのAIを使わせるのかを決める。その構図、私はすごく怖いと感じます。(まあ現状、すでにそれに近い状況にはなっていますが・・・)。
実際、2026年6月にフランスで開催されたG7では、Anthropicのダリオ・アモディ氏をはじめとする米国主要AI企業のCEOたちが参加し、一部メディアでは「国家首脳と並び、まるで国家そのものの代表者のように扱われていた」とも報じられています。
一方で、AI開発は民間企業の研究開発力があったからこそ、ここまで急速に進化してきたのも事実です。すべてを国家管理にすればよい、という単純な話ではないんですよね。民間のスピードと創造性が、AIの発展を支えてきた面は確かにあります。
しかし、AI技術が社会インフラや安全保障の領域に入り込めば入り込むほど、いち企業の判断だけでは背負いきれない責任も出てきます。そこをどう捉えるのか。Fableの件は、高性能AIがもはや「便利な新サービス」ではなく、国家レベルのリスク管理が必要な技術になっていることを示した出来事だったといえます。
③AIガバナンスが未整備なまま性能競争だけが加速している
もうひとつ大きな問題は、世界的なAIガバナンスがまだ十分に整っていないということです。
現状、AI規制をめぐっては、EUの「AI Act」のように包括的な法制度を整えようとする動きがあります。AI Actは、AIのリスクに応じて利用や提供にルールを設ける枠組みで、信頼できるAIの実現を目指すものです。
また、AI安全性に関する国際的な報告書の作成や、各国のAI Safety Instituteによる評価体制づくりも進んでいます。AIが急激に進化を続ける中で、少しずつ、しかし慎重に、リスクを見極めるための体制が整えられつつある段階なんですよね。
とはいえ現状では、最先端AIをどの性能段階で止めるのか、誰がリスクを評価するのか、国境を越えた利用をどう管理するのかについて、世界共通の明確なルールがあるわけではありません。
なのに。AIの性能競争は激化の一途をたどっています。より速く、より賢く、より自律的に動くAIを出すことが、企業や国家の競争力に直結しているからです。ユーザーは便利で高性能なAIを求め、投資家は成長を期待し、国家は自国のAIが他国に遅れることを恐れ・・・。私にはこれが、急な坂道を、ブレーキの設計が十分にできていないまま、アクセル全開で下っているように見えるんです。すごく怖い。
Fableは、その矛盾が一気に表面化した事例だったのかもしれません。企業は「安全設計をした」と説明し、ユーザーは「早く使いたい」と期待し、政府は「それでも危険だ」と介入する。けれども、その判断基準はまだ十分に共有されていません。それって本当に大丈夫なの?
この状態が続けば、AIの性能が上がるたびに、同じような混乱が繰り返される可能性があります。高性能AIを社会に出すためのルールづくりが追いつかないまま、モデルだけが次々と進化していく。その危うさを、Fableの件はかなり分かりやすい形で見せてしまったのだと思います。
④AIを人間が制御できなくなる未来に誰が責任を持つのか
Fableのような高性能AIを社会に出し続けた先で、人間はどこまでAIを制御できるのか。これは、AIと人間が共存する未来を考えるとき、常に突きつけられる最大の難問だと思います。
念のために言っておくと、私もへなちょこながら一介のエンジニアであり、技術者の端くれとして、技術の進化そのものは大いに歓迎したいと思っています。Anthropicの挑戦も、Fableの性能も、素晴らしいものであることは間違いありません。こうしたAIが世の中でどのように働き、私たちの生活を豊かにしてくれるのかには、とても興味があります。
一方で、どれほど高性能なAIであっても、人間の意図から外れた出力や行動をしてしまうリスクは残ります。ハルシネーションが完全になくなるとは限りませんし、軍事利用や悪用の可能性を完全に排除した「クリーンなAI」を作ることも、おそらく現実的ではありません。
現状の生成AIの仕組み上、絶対にガードレールが突破されない(ジェイルブレイクが存在しない)AIは不可能で、仮に実現するとするなら事実上全ての回答を拒否する無能AIになるのを政権側は理解しているのだろうか。… https://t.co/Fem1bY5YWL
— 今井翔太 / Shota Imai@えるエル (@ImAI_Eruel) June 18, 2026
となると、問題になるのが「AIが失敗したとき、誰が責任を取るのか」です。
開発企業?
利用企業?
指示を出した個人?
利用を許可した政府?
もし誰かに、何かに、あるいはどこかの国に大きな損害を与える事態が起きたとき、責任の所在を本当に明らかにできるのでしょうか。
AIが扱うタスクが高度化し、人間が途中過程をすべて検証できなくなれば、「人間が最終判断する」という建前だけでは足りなくなります。Fableの件は、AIの安全性をめぐる議論が、単なる技術的なガードレールの話では済まなくなっていることを示しています。
高性能AIをどこまで社会に出すのか。
誰がそのリスクを評価するのか。
もし制御がきかなくなったとき、私たちはどこに責任の所在を置くのか。
この問いに答えないまま性能競争だけを続けることが、果たして私たち人間にとって本当に“幸せ”なのか。
Fableをめぐる一連の出来事は、そこを私たちに突きつけているのだと思います。
海外ベンダー依存のリスクと国産LLMの重要性
海外ベンダーのAIは非常に優秀です。OpenAI、Anthropic、Googleなどが開発する最先端モデルは、性能も使いやすさも高く、実際に私たちの仕事や生活を大きく変えつつあります。私自身、日常的に海外製AIの恩恵を受けています。
しかし今回のFableの件で改めて感じたのは、海外ベンダーのAIに依存することのリスクでした。どれほど便利で、どれほど高性能で、どれほど安全設計されているAIだったとしても、政府の判断や企業の方針によって、ある日突然使えなくなる可能性がある。しかもそれは、利用者側の問題ではなく、国家安全保障や輸出管理、国際政治の判断によって、サービスの提供範囲そのものが変わってしまう可能性さえあるのです。
いまAIは、行政、教育、医療、企業活動、研究開発、サイバー防衛など、社会の重要な領域に組み込まれようとしています。AIが社会基盤に近づいていくなかで、その根幹を海外ベンダーだけに委ねてよいのか。利用条件や提供範囲の決定権を、海外企業や他国政府の判断に大きく依存した状態は、長期的に見て健全なのか。私はそこに、かなり大きな不安を感じます。
そこで期待が高まるのが、国産LLM(LLM:大規模言語モデル。生成AIの基盤となる技術)です。ChatGPTやClaude、Geminiばかりに注目が集まりがちですが、日本でも独自の基盤モデル開発は進んでいます。ただ、現時点では海外モデルと比べて利用者や認知は限定的で、性能競争だけを見れば厳しい面もあります。
それでも今回のFableの件は、国産LLMの役割について、改めて考えるきっかけになったのではないでしょうか。
ここで誤解してほしくないのは、国産LLMとは「海外製LLMを排除するためのもの」ではないということです。最先端性能をすべて国産化する必要はなくて、ただ行政・教育・医療など、継続性や説明責任、データ管理が特に重要な領域については、国内で責任の所在を確認できる選択肢を持っておくということ。一方で、研究開発や競争力向上のためには、海外の最先端モデルも積極的に活用する。そうした役割分担は、十分可能だと考えます。
さて。Fableの停止措置を受けて「国産LLMが必要だよね」となった際、私たちが考えなければいけないのは、インフラとして導入できる「公共性を持った社会基盤としてのAI」のあり方です。
私たちが電気や水道、ガス、インターネットのように、止まることも、特定の事情で突然制限されることもなく、安心して使えるAI。不利益を受けず、継続的に利用できるAI。「公共性を持つ」ってのは、とにかく新しい技術をドバドバ載せることじゃなくて、いかに継続性を維持できるか、多くの人が納得できる形に落とし込むかということだと私は考えます。
そして、これを作るためには、優秀な人材と莫大な時間・予算が必要になります。国会の審議はもちろんですが、国民の理解が不可欠。「私たち自身のために、国産LLMを作ろう」という機運が高まっていく必要があります。
すでに動きは始まっています。経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、国内の基盤モデル開発力を高めるために「GENIAC」を立ち上げ、計算資源やデータセット、ナレッジ共有などを支援しています。
参考:GENIAC
また、デジタル庁はガバメントAI(行政機関が業務で使うことを想定した生成AI)で試用する国産LLMの公募を行い、2026年3月には複数の採択案件を発表しました。行政利用の文脈でも、国内で開発されたLLMをどう活用するかが具体的な検討段階に入っています。
さらに、日本には以前から若手技術者や研究者の挑戦を支援する「未踏プロジェクト」のような取り組みもあります。
最先端AIそのものをすぐに生み出せるかは別としても、長期的な視点で人材や技術基盤を育て続ける土壌は、日本でも決してゼロではありません。私たち一人ひとりが国産AIの必要性を理解し、これから下支えしていくムードが高まっていくことを期待したいです。
つい先日も、Xで新たに未踏ITに採択されたという方を拝見して、がぜん応援したくなったところ!技術大国ニッポン、まだまだ上を目指せると信じています。がんばれー!!
この度、2026年度未踏ITに採択されました!!!🎉🎉
— 手羽先|国産LLMを作る人 (@Tebasaki_lab) June 6, 2026
3人で論理回路ベースの数百倍早く動くAIモデルの開発に取り組みます!🚀🚀
微分を使わない学習アルゴリズムのAP法や、世界初のAIアーキテクチャをゴリゴリ開発して世界とります!!🔥🔥
進捗発信していくので興味ある方はフォローをぜひ!! https://t.co/ppDF7IC8R0
海外LLMを使うことと、国産LLMを育てることは、対立する考え方ではありません。むしろ、海外の最先端技術を活用しながら、自国でも最低限の選択肢と継続性を確保する。その両立こそが、AI時代に必要なバランスなのではないかと考えます。
結び
AnthropicのMythos・Fableを巡る騒動は、AIが社会基盤として整備されつつある現状において、必要不可欠な摩擦だったのかもしれません。難しい内容もありますが、現状について理解を深め、AIのあり方について考えるきっかけとして活用していただけたら嬉しいです。
Fableについては、今後の進展を注意深く見守りつつも、いま私たちにできることといえば、AIにばかり囚われすぎず、自ら判断できる芯を持つことだ思っています。AIはとてもとても有能だけど、大事な部分は絶対に明け渡しちゃだめだ。私たちの価値、私たちの判断、私たちの“生きる”意味が、いま改めて試されている局面なんだと感じています。
さまざまな情報がまさに錯綜している状況ですが、いったん深呼吸して、正しい情報を受け止め、ひとつひとつ対応していくことが大事です。人間は人間なりのペースで、無理なく楽しく、当たり前に回り道しながら、ゆっくり前に進んでいきましょう。
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マガジン「AIとともに歩く未来」では、今回の件のようにAIを取り巻く状況や題材を起点に、さまざまな考察を展開しています。それこそAIだけでは書くことができないような深掘り記事になっていると自負しておりますので、興味がある方はぜひフォローしてみてください!
なおこの記事も、AIを活用して書いています。「AIを活用しつつ、AIっぽくない記事を書きたい!」というライターの方には、こちらの有料記事も参考になります。かなり前に書いた記事ですが、やっていることは今も変わっていません。高度なライティングスキルを学びたい方におすすめです。
