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【企業文化の作り方】なぜP&G出身者は、会社を辞めても「P&Gっぽい」のか

前々々回、「組織文化ガチャ」の記事で、私は人や組織を「近く・短期・自分の周囲」へ引っ張る力を「組織の重力」と呼びました。顧客より近くの上司を見る。長期的な価値より今期の数字を優先する。だから強い企業文化を作るには、「顧客を見よう」と社員の意識に期待するだけでは足りず、重力に逆らう仕組みが必要なのではないか、と考えました。

その次の記事では、P&GとAmazonのOB・OGを調べました。すると、会社を辞めた後にも、その会社で身につけた判断基準が残っているように見えました。Amazonには「意思決定のOS」が残り、P&Gには「世界を見るレンズ」が残る。

そして前回、Amazonを詳しく調べました。象徴的だったのは、採用部署から独立した「バーレイザー」です。現場が人を欲しがっていても、長期的な基準を下げない。文化を守るために、目先では合理的な判断へ制約をかける仕組みまで作っていました。

ではP&Gは、なぜ会社を辞めても「P&Gっぽさ」が残るのでしょうか。

私は以前からP&G出身者の発信を追っていて、方法論は違っても、根底の仕事観が妙に似ていると感じていました。消費者を見る。目的から考える。事実を見る。自分で責任を持つ。戦略を考える。人を育てる。

海外まで広げても似た現象があります。P&Gでキャリアを始め、その後Unileverなどを経てLogitechのCEOになったHanneke Faber氏は、2025年のインタビューでも、P&G時代に学んだ「Consumer is Boss」がずっと自分の中に残っていると語っています。元P&G CEOのJohn Pepper氏も、国ごとの文化は違っていても、P&Gの原則や価値観にはそれらを超える共通性があったと振り返っています。

もちろん著名OB・OGだけを見て、P&G出身者全員に文化が浸透しているとは言えません。それでも、国も年代も担当も違う人から似た判断基準が出てくるのは興味深い。

調べていくと、その理由は入社後の研修だけではなさそうでした。


P&Gの文化づくりは、入社前から始まっている

P&Gの採用資料には、かなり明確な思想があります。

P&Gは知性だけでなく、リーダーシップと人格も同じくらい重視し、個人のPurposeやValuesが会社と高く一致する人を採りたいと説明しています。

日本の新卒採用も特徴的です。履歴書やレジュメは提出不要で、提出しても選考には影響しないと明記されています。一方でオンラインアセスメントを使い、P&G社員として成功する可能性を測る。面接も世界共通の基準と手法で行われ、その基準は入社後の査定や能力育成にもつながっています。

つまりP&Gは、過去の肩書だけではなく、「この人がP&Gという環境でどう考え、どう行動し、どう成長しそうか」をかなり体系的に見ようとしている。

さらに選考は、テストや面接だけでは終わりません。

現在の新卒採用でも職種別インターンシップが組み込まれています。公式サイトでは、マーケティング職の社員が、選考中に参加した3日間のインターンについて紹介しています。与えられたのは、ヘアケアブランドのビジネスを成長させる課題でした。

大量のデータを分析し、消費者の声を中心にブランドで実現したいことを決める。自分の意見を持ちながら、チームの異なる意見を取り入れ、議論の舵を取る。本人は入社後、その短い選考が実際のマーケティングの仕事の本質を驚くほど捉えていたと振り返っています。

選考中のインターンには、条件に応じて交通費や宿泊費まで会社が負担します。

数十分の面接で「オーナーシップがあります」と語らせて終わりではない。実際に考えさせ、データを見せ、他人と議論させ、判断させる。

なぜここまで採用にコストをかけるのか。

私は、この答えがP&Gの「Day1」にあると思います。

最初から任せるから、入口で徹底的に見る

P&GのDay1は、入社初日や配属初日から大きな裁量を持ち、プロジェクトを担当する文化です。P&G自身、自ら考え行動する経験を通じて、リーダーシップ、オーナーシップ、ビジネススキルを育てると説明しています。

マーケティング職では「Brand CEO」という言葉まで使われます。ブランドの成長戦略を考え、実行し、結果まで責任を持つ。

P&GのValuesにも「当事者意識」があり、自分が責任を持つ領域ではオーナーのように行動し、会社の長期的成功を考えることが求められます。Principlesには「自分の仕事に戦略的に取り組む」と明記されています。

ここまで見ると、採用とDay1は別々の制度ではなく、表裏一体に見えます。

最初から任せるから、入口で徹底的に見る。

入社後しばらく上司の指示どおりに動いてもらうなら、採用時点ですべてを見極める必要はありません。P&Gは比較的早い段階から責任を渡し、自分で目的を理解し、戦略を組み、周囲を巻き込み、結果を出すことを求める。

だから、その環境で伸びられるだけの強いオーナーシップと戦略思考の素地を、採用段階で丁寧に見る必要があるのではないか。

もちろん、完成された能力を持つ人だけを採っているという意味ではありません。P&G自身、Day1を通じてそれらを育てると説明しています。

採用で素地を見極める。そして本物の責任を渡して鍛える。この二段構えです。

Consumer is Bossは、仕事の中で身体化される

P&GにはPurpose, Values & Principlesがあります。その象徴として、私は以前から「Consumer is Boss」に注目してきました。

重要なのは、「消費者を大切にしましょう」という標語ではありません。

上司の意見と消費者の反応が違ったとき、何を見るのか。自分では良い商品だと思っているのに数字が動かなかったとき、何を疑うのか。自分のブランドを成功させたいという当事者意識と事実が衝突したとき、どちらを優先するのか。

Day1から責任を持たされれば、こうした問いから逃げられません。

責任を持つ。判断する。結果が返ってくる。フィードバックを受ける。そして、もう一度判断する。

この反復の中で、会社のValueは知識ではなく「世界を見るレンズ」になっていくのではないでしょうか。

Hanneke Faber氏が、P&Gを離れて長い時間が経った後も「Consumer is Boss」が残っていると語るのは、その一例に見えます。

Build From Withinが、文化を自己複製する

さらにP&Gには「Build From Within」、内部育成・内部昇進という特徴があります。

P&Gジャパンは管理職の登用を原則として内部昇進で行うと説明しています。グローバルの採用資料では、Build From Withinの会社だからこそ、将来の経営陣の能力と長期成長は「今日どんな人を採るか」に大きく依存するとまで書かれています。

この一文を見て、採用、Day1、文化の継承が一本につながりました。

価値観と能力の素地を見る。Day1から責任を渡す。P&Gの基準で実際のビジネスを判断する。同じ基準で評価し、育成する。その中で育った人を内部から昇進させ、今度はその人たちが次の世代を採用し、育てる。

採用 → Day1 → 判断 → 評価・育成 → 内部昇進 → 次世代の採用・育成。

これは単なる人材育成制度ではなく、文化が次の文化を生む「自己複製ループ」になっているように見えます。

P&G自身も、企業目的・価値観・行動原則は180年以上の変化の中でも残り、次世代の社員へ受け継がれていくと説明しています。

文化の中で育った人が、次の人を育てる側へ回る。その構造自体が継承装置なのだと思います。

「選ぶ × 染み込ませる × 強化する」

ただし、P&G出身者が似ている理由を「教育力」だけに求めるのも危険です。

そもそも採用時点でValuesとの一致を見ていますし、P&Gのような文化を好む人ほど応募するという自己選択もあります。今回見ているOB・OGも、外部で発信する著名人に偏っています。

だから私は、P&Gの文化形成を、

選ぶ × 染み込ませる × 強化する

の掛け算として考えるのが妥当だと思います。

価値観と能力の素地が近い人を選ぶ。Day1から実務でその価値観を使わせる。評価、育成、昇進を通じて繰り返し強化する。

P&Gが人をゼロから作り替えるのではなく、文化が育ちやすい人を選び、その文化を本物の仕事で何度も使わせる。だから退職後にも残りやすい、と考える方が自然です。

AmazonとP&G。似ているのは「文化と事業を分けない」こと

AmazonとP&Gを並べると、共通点と相違点が見えてきます。

共通しているのは、採用を単なる欠員補充と考えていないことです。

Amazonは「この人を採ることで組織のバーが上がるか」を見る。P&GはBuild From Withinを前提に、今日採る人が将来のリーダーになる可能性まで見る。どちらも、未来の組織を採用から作ろうとしています。

もう一つの共通点は、文化を社員の善意に任せないことです。価値観を明文化し、採用で使い、実際の仕事で反復し、評価や育成へつなげる。

一方、重心は少し違います。

Amazonで目立つのは「仕組み」です。人間が短期合理性へ流れることを前提に、バーレイザーのようなMechanismを置き、文化の方向へ判断を戻す。

P&Gで目立つのは「人の連鎖」です。文化に合う素地を持つ人を選び、Day1から責任を渡し、その中で育った人が次の世代を育てる。

Amazonは「文化を守る仕組み」を作る。P&Gは「文化を次へ渡せる人」を作る。

もちろん厳密な二分法ではありません。Amazonも人を育て、P&Gにも強い仕組みがあります。あくまで重心の違いです。

そして興味深い接点もあります。Amazonで15年間働き、『Working Backwards』を共著したBill Carr氏は、Amazon入社前にP&Gで3年間働いていました。本人も、P&G時代の小売現場で細部を徹底的に見る経験を後のAmazonでの仕事につなげて振り返っています。

ただし、AmazonがP&Gの文化を模倣したと示す証拠は確認できませんでした。

むしろおもしろいのは、まったく違う歴史を持つ二社が、強い文化を作ろうとした結果、似た構造へたどり着いていることです。

誰を採るか。何を任せるか。何を根拠に判断するか。何を評価するか。

強い企業文化は、理念の文章ではなく、こうした毎日の意思決定に埋め込まれている。

最初の問いへ戻ります。

なぜP&G出身者は、会社を辞めても「P&Gっぽい」のか。

今回の調査だけで全員について断定はできません。それでも、文化に合う素地を慎重に選び、Day1から本物の責任を渡し、同じ判断基準を仕事で繰り返し使わせ、その中で育った人が次の世代を育てる。この循環は、一つの説明になります。

文化浸透の最終形は、会社のValueを覚えることではなく、それが自分自身の判断基準になることなのかもしれません。

P&Gが作っているのは、強い企業文化そのものというより、企業文化を次の世代へ再生産できる人なのだと思います。

プロフィール

マーケティング戦略コンサルタントです。 事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。 このnoteでは、実務と研究を行き来しながら、仕事・キャリア・発信に使える再現性の高い考え方を紹介しています。

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自己紹介|実務とエビデンスから、マーケティングの本質を探しています

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参考URL

P&G|企業目的、共有する価値観、行動原則 https://jp.pg.com/policies-and-practices/purpose-values-and-principles/

P&G Careers|新卒採用選考プロセス https://www.pgcareers.com/jp/ja/recent-grad-hiring-process

P&G Careers|P&G Assessment Overviews https://www.pgcareers.com/us/en/assessment-overviews

P&G Careers|P&G Japan 2028卒 新卒採用 https://www.pgcareers.com/jp/ja/p-g-japan-campus-hiring-2028

P&G|入社初日から大きな裁量権を持ち、リーダーシップを発揮。“成長”を加速するP&Gの「Day1」カルチャー https://jp.pg.com/newsroom/pg-day1/

P&G Careers|マーケティング https://www.pgcareers.com/jp/ja/marketing

Fortune|Logitech CEO Hanneke Faber: ‘Tech is best when you actually don’t know that it’s there’ https://fortune.com/2025/11/26/logitech-ceo-hanneke-faber-tech-artificial-intelligence-gaming-leadership-next/

Mercer Island Group|Retired P&G CEO John Pepper discusses his 1980 document: Characteristics of Successful P&G Managers https://migroup.com/blog/retired-pg-ceo-john-pepper-discusses-his-1980-document-characteristics-of-successful-pg-managers/

Working Backwards|Why retail is detail: lessons in operational rigor at Amazon https://workingbackwards.com/blog/why-retail-is-detail-lessons-in-operational-rigor-at-amazon/

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