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イオンモールとまいばすけっとは、なぜ両方必要なのか「集客・決済・記憶」をつなぐイオンのビジネスモデル

相互フォロワーの方が書いた、イオンのビジネスモデルを決算から読み解く記事を読みました。


「イオンは小売でほぼ儲けていない、2026年2月期の決算が示すモール賃料と金融の構造」


イオンは小売企業に見えますが、利益率が高いのはディベロッパー事業と金融事業という記事でビジネスモデルの解説として非常に面白いのでこの記事を読む前にぜひ読んでほしいです。

この記事では、イオンの集客モデルがエビデンスベーストマーケティングの視点からどのような強さを持っているかに絞って深堀りをしてみようと思います。


エビデンスベーストマーケティングの視点から見ると、イオンの強さは単に店舗数が多いことではありません。


イオンモールが消費者の「出かける理由」を大量に集め、まいばすけっとが都市部でイオンの決済を使える場所と、イオンブランドを目にする機会を増やしている。


この二つが組み合わさることで、不動産、小売、決済、金融を横断した巨大な顧客接点がつくられています。




イオンモールは、カテゴリーエントリーポイントの集合体である


カテゴリーエントリーポイントとは、消費者があるカテゴリーの購入を考え始めるきっかけです。


「服が欲しい」「コーヒーを飲みたい」「子どもを遊ばせたい」「週末に家族で出かけたい」といった、目的、場所、時間、感情などが該当します。


ブランドが多くのカテゴリーエントリーポイントと結びつくほど、さまざまな購買場面で思い出されやすくなります。


この視点で見ると、イオンモールは極めて優れています。


消費者がイオンモールへ行く理由は、「イオンで買い物をする」だけではありません。


服を買いたい人はユニクロへ行きます。


コーヒーを飲みたい人はスターバックスへ行きます。


手軽に食事を済ませたい人はマクドナルドへ行きます。


映画を見たい人は映画館へ行き、子どもを遊ばせたい家族は遊び場へ向かいます。


つまり、イオンモールは自社だけで来店理由をつくっているわけではありません。


すでに強い集客力とメンタルアベイラビリティを持つブランドを集め、それぞれが持つ来店理由を、イオンモール全体の集客力に変換しています。


強いブランドが持つ検索需要まで、モールの入口になる


消費者は、「イオンモールへ行こう」と考えていなくても、イオンモールへ到着します。


たとえば、Googleマップで「ユニクロ」と検索した結果、近隣の「ユニクロ イオンモール○○店」が表示されれば、ユニクロを目的にした消費者がイオンモールを訪れます。


店舗名にイオンモールの名称が含まれるため、専門店の公式店舗検索や検索エンジンを通じて、イオンモールの存在も同時に露出します。


多くのイオンモールでは、建物の外壁に主要な専門店のロゴが大きく掲げられています。


これは専門店の看板であると同時に、イオンモールにとっては、


> ここに来れば、あなたが知っている店があります


と伝える巨大な広告です。


ユニクロ、スターバックス、マクドナルドなどは、それぞれ自社の広告、商品開発、ブランド活動によって需要を生み出しています。


イオンモールは、それらのブランドが生み出した需要の一部を、モールへの来館需要として受け取れます。


強いテナントを集めるとは、店舗を貸すことではありません。テナントが持つ知名度、検索需要、広告投資、来店動機を、モールの集客に取り込むことです。


そのため、イオンモールは、すべての来館需要を自社の広告費だけでゼロからつくる必要がありません。


集めた客を、不動産利益に変える


イオンモールにとって、来館者数は単なる人気の指標ではありません。


来館者が増えれば、専門店を利用する人も増えます。


専門店売上が増えれば、固定賃料に加えて、売上に連動する歩合賃料の増加につながります。


実際にイオンモールは、2026年2月期上期の国内既存モールで、来館客数が前年同期比103.6%、専門店売上が106.3%に伸び、歩合賃料収入も増加したと説明しています。


つまり、イオンモールの収益構造は、


来館理由を増やす

来館者数と来館頻度を増やす

専門店売上を増やす

固定賃料と歩合賃料を得る


という流れで理解できます。


イオンモールがテナントへ提供しているのは、店舗区画だけではありません。


さまざまな来館理由を束ね、安定した人流を供給することで、不動産の価値を高めています。

自社小売は、来館頻度に働きかけられる余地を増やす


専門店や映画館だけでは、来館頻度には限界があります。


服を毎週買う人は多くありません。映画を見る回数も限られます。


一方で、食品や日用品は繰り返し購入されます。


イオンの食品売場や日用品売場は、モールを「特別な日に行く場所」だけではなく、日常的に利用する場所へ変える役割を果たします。


エビデンスベーストマーケティングでは、ブランドの購買頻度やロイヤルティは、ブランド側が自由に操作できる独立した変数ではないと考えます。


ダブル・ジョパディの法則が示すのは、小さなブランドは購入者が少ないだけでなく、その購入者の平均購買頻度もわずかに低くなるという傾向です。反対に、大きなブランドは浸透率が高くなるのに伴って、平均購買頻度も少し高くなります。したがって、ブランド成長の中心は既存顧客の頻度を無理に引き上げることではなく、購入者を増やすことにあります。


しかし、イオンモールのおもしろさは、単一カテゴリーのブランドではないことです。


食品、日用品、衣料、飲食、映画、ゲーム、子どもの遊び場など、利用頻度の異なるカテゴリーを一つの場所に集めています。


服を買う頻度そのものを、イオンモールが大きく増やすことは難しいでしょう。


映画を見る頻度も、外食する頻度も、食品を買う頻度も、それぞれのカテゴリー需要に左右されます。


しかし、

「食品を買いたい」

「服を見たい」

「外食したい」

「映画を見たい」

「子どもを遊ばせたい」

「雨の日に家族で出かけたい」

という異なる需要を一つの施設で受け止めれば、どれか一つのカテゴリーエントリーポイントが発生するたびに、イオンモールへ来てもらえる可能性が生まれます。


カテゴリーエントリーポイントを広く押さえることは、ブランドがさまざまな購買状況で想起される機会を増やします。イオンモールは、異なるカテゴリーと利用場面を一つの施設に束ねることで、来館につながる入口そのものを増やしているのです。


つまり、イオンモールは、特定カテゴリーの利用頻度を無理に上げているのではありません。


頻度の異なる複数のカテゴリー需要を重ね合わせることで、施設全体の来館頻度に働きかけられる余地を増やしています。


衣料品だけを扱う施設であれば、来館頻度は衣料品を買う頻度に強く制約されます。


しかし、そこに食品スーパー、飲食店、映画館、遊び場が加われば、別の目的でも同じ施設を訪れるようになります。


そして食品や日用品を扱う自社小売は、その中でも特に高頻度の来館理由を供給します。


イオンのGMSやスーパーマーケットは、売上規模に対して営業利益率が高い事業ではありません。


しかし、価格競争力のある食品や日用品が日常的な来館を支えれば、その人流は専門店、飲食店、決済、金融へ波及します。


イオンモールは、頻度を直接操作しているのではありません。カテゴリーを束ねることで、来館が発生する機会を増やしているのです。


小売事業単体の利益率だけでなく、その事業がグループ全体へどれだけ多くの来館機会と決済機会を供給しているかを見る必要があります。


イオンモールは、巨大な決済接点でもある


イオンモールへの来館者は、一度の訪問で複数回の支払いを行います。


食品を買う。


専門店で服を買う。


フードコートで食事をする。


映画を見る。


子どもがゲームをする。


その支払いで利用されるのが、イオンカード、電子マネーWAON、AEON Payなどです。


つまり、イオンモールは不動産事業のために人を集めるだけではありません。


集めた人にイオンの決済サービスを繰り返し利用してもらい、ポイント、会員ID、金融サービスへつなげる巨大な決済接点でもあります。


イオンモールが押さえるカテゴリーエントリーポイントが増えるほど、来館機会が増えます。


来館機会が増えるほど、決済機会も増えます。


決済機会が増えるほど、イオンの決済サービスを持つ価値も高くなります。


不動産の集客力が決済事業を強くし、決済の利便性やポイントが店舗を利用する理由を強くする。


この循環が、イオンの強さです。


まいばすけっとは、決済のフィジカルアベイラビリティを高める


イオンモールが郊外で大量の人を集める施設だとすれば、まいばすけっとは都市生活者の日常に入り込む店舗です。


まいばすけっとは、50坪程度を標準とする小型食品スーパーです。小型であるため住宅街や駅の近くにも出店しやすく、首都圏で1,200店舗を超える店舗網を展開しています。


食品スーパーなので、家電量販店や衣料品店よりも来店頻度が高くなります。


そして、まいばすけっとではイオンカード、WAON、AEON Payなどのイオン系決済を利用できます。イオンカードの利用では、まいばすけっとで通常より多くWAON POINTが付与される仕組みもあります。


決済サービスのフィジカルアベイラビリティは、単なる加盟店数だけでは決まりません。


重要なのは、


利用可能店舗数 × 店舗への近さ × 来店頻度 × 決済機会


です。


年に数回しか行かない店でAEON Payが使えることも重要です。


しかし、自宅や職場の近くにある食品スーパーで週に何度も使えることは、決済習慣をつくるうえで、さらに大きな意味を持ちます。


まいばすけっとは、都市部における食品小売店舗であると同時に、イオンの決済サービスを日常的に使える場所を増やすインフラとしても機能しています。


まいばすけっとの看板は、イオンを思い出させる広告でもある


もう一つ注目したいのが、まいばすけっとの看板です。


まいばすけっとの店舗は独自の緑色を使いながら、看板や店舗外観にイオンを象徴するマゼンタ色の「AEON」ロゴを併記しています。


エーレンバーグ・バス研究所では、色、ロゴ、形、キャラクターなどのディスティンクティブ・ブランド・アセットは、ブランドを識別しやすくし、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティの構築に役立つと説明されています。


都市部を歩いていると、買い物をしない日でも、まいばすけっとの店舗とAEONロゴを目にします。


そのたびに、消費者の記憶の中にある「イオン」というブランドが更新される可能性があります。


もちろん、まいばすけっとの看板が、どれだけイオンモールの想起を高めているかを厳密に判断するには、消費者調査が必要です。


それでも、共通するAEONロゴへ日常的に接触することで、イオンブランド全体の記憶が維持されるという仮説は合理的です。


そして週末に、


「家族でどこかへ出かけたい」


「雨でも子どもが遊べる場所へ行きたい」


「買い物と食事を一度に済ませたい」


というカテゴリーエントリーポイントが発生したとき、その記憶のネットワークからイオンモールが思い出される可能性があります。


まいばすけっとは、都市部で決済のフィジカルアベイラビリティを高める店舗であると同時に、イオンブランドを毎日思い出させる看板としても機能しているのです。


イオンは「思い出す」「行ける」「払える」をつないでいる


イオンの各事業を別々に見ると、構造を見誤ります。


イオンモールは不動産事業。


まいばすけっとは食品小売。


イオンカードやAEON Payは決済・金融事業。


それぞれ独立した事業に見えます。


しかし、顧客接点という視点から見ると、すべてがつながっています。


イオンモールは、強い専門店が持つメンタルアベイラビリティを借りながら、郊外の消費者が出かけるカテゴリーエントリーポイントを幅広く押さえます。


集めた人流を、専門店売上、賃料、小売、決済、金融へ変換します。


まいばすけっとは、都市部でイオンの決済を使える場所と回数を増やします。


さらに、街中でAEONロゴを目にする機会をつくり、イオンブランドの記憶を維持します。


イオンは、小売、不動産、金融を単に並べているのではありません。


「思い出される理由」「訪れる場所」「支払う機会」を、一つのネットワークとして設計しています。


これが、エビデンスベーストマーケティングの視点から見た、イオンのビジネスモデルの優れた点ではないでしょうか。

マーケターがイオンから抽出すべき学び


イオンのビジネスモデルから学ぶべきことは、「多角化すれば強くなる」という単純な話ではありません。


重要なのは、異なる事業を顧客接点でつなぎ、一つの事業が生み出した需要を、別の事業の成長に変換していることです。


まず学ぶべきは、自社だけで需要をつくろうとしないことです。


イオンモールは、ユニクロ、スターバックス、マクドナルド、映画館など、すでに強い集客力を持つブランドを集めています。


それぞれのブランドが持つ知名度、広告投資、検索需要、来店理由を、モール全体の集客へ取り込んでいます。


マーケターは、自社の広告だけで顧客を集めることを考えがちです。


しかし実際には、すでに消費者が持っている需要や、他社が保有する顧客接点を利用する方が、はるかに効率的な場合があります。


自社のブランド力を高めるだけでなく、すでに強いブランドや流通、検索需要と接続できないかを考えるべきです。


次に学ぶべきは、購買頻度を直接上げようとするのではなく、利用される場面を増やすことです。


単一カテゴリーの購買頻度は、そのカテゴリー自体の需要に大きく制約されます。


服を買う頻度や映画を見る頻度を、企業の都合だけで大きく増やすことはできません。


しかし、異なるカテゴリーを一つの場所に集めれば、食品、衣料、外食、映画、遊び場と、来館につながる入口を増やせます。


イオンモールは、顧客に同じ目的で何度も来てもらおうとしているのではありません。


異なる目的が発生するたびに、同じ場所を選んでもらえる構造をつくっています。


これは、どの事業にも応用できます。


既存顧客へ同じ商品を何度も売ろうとする前に、どのような場面や目的で自社が選択肢に入れるかを広げるべきです。


三つ目は、利益率が低い事業を、単体の採算だけで評価しないことです。


食品や日用品を扱う小売事業は、ディベロッパー事業や金融事業ほど高い利益率を持ちません。


しかし、日常的な来館理由をつくり、専門店、飲食、決済、金融へ顧客を送る役割を担っています。


ある事業の価値は、その事業単体の利益だけでは判断できません。


集客数、利用頻度、会員獲得、データ取得、他事業への送客など、事業全体への波及効果まで見る必要があります。


低利益率でも、顧客接点を生み出す事業には大きな戦略価値があります。


四つ目は、フィジカルアベイラビリティを店舗数だけで考えないことです。


まいばすけっとの価値は、単に店舗が多いことではありません。


住宅街や駅の近くにあり、食品という高頻度カテゴリーを扱うことで、イオンカード、WAON、AEON Payを日常的に使う機会を生み出しています。


決済サービスのフィジカルアベイラビリティは、加盟店数だけでは決まりません。


使える場所の近さ、訪れる頻度、決済が発生する回数まで含めて設計する必要があります。


年に一度利用する大型店より、週に数回利用する小型店の方が、決済習慣に与える影響は大きいかもしれません。


最後は、すべての顧客接点を広告として考えることです。


まいばすけっとの看板は、食品スーパーの場所を知らせるだけではありません。


街中でAEONのロゴを目にする機会を増やし、イオンブランドの記憶を維持する役割も果たしています。


広告は、テレビCMやWeb広告だけではありません。


店舗、看板、商品パッケージ、アプリ、決済画面、検索結果、店名まで、消費者がブランドに触れるものはすべてブランド資産になり得ます。


売るための場所と、思い出してもらうための広告を、別々に設計する必要はありません。


イオンは、イオンモールで消費者が訪れる理由を増やし、まいばすけっとで日常的に利用できる場所を増やし、共通するブランド資産によって記憶を維持しています。


そして、そこで生まれた来館と購買を、不動産、小売、決済、金融の利益へ変換しています。


マーケターが考えるべきなのは、単発の広告施策ではありません。


どの場面で思い出され、どこで利用でき、利用後にどの事業へつながるのか。


その顧客接点の全体像を設計することこそ、イオンのビジネスモデルから抽出すべき最大の学びではないでしょうか。

このnoteでは、企業や人気作品の事例を、マーケティング研究と実務経験の両方から読み解いています。


マーケターの方は、プロフィールからマーケターと分かる場合、原則としてフォローバックしています。同業の方は、ぜひフォローしてください。


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noteを伸ばす戦略をワンページメモにまとめてみた


noteにおけるフィジカルアベイラビリティとメンタルアベイラビリティを、どのように高めるかを整理しました。人気IP、検索、タグ、関連記事を使って、記事が見つかる場所を増やす戦略です。



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参考資料


エーレンバーグ・バス研究所「Identifying and Prioritising Category Entry Points」



エーレンバーグ・バス研究所「Distinctive Asset Measurement」



イオン「決算レビュー」



イオンモール「2026年2月期 半期報告書」


https://www.aeonmall.com/ir/pdf/news/2025/news_01.pdf


まいばすけっと「企業情報」



まいばすけっと「コンセプト・ビジネスモデル」



まいばすけっと「WAON POINT」



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