【1時間で分かる】エビデンスベーストマーケティングの教科書
5年ほど前、私はあるnote記事に大きな影響を受けました。
石井賢介さんの「【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書」です。
当時の私はマーケティングを本気で学びたいと思い、石井さんが公開していたnoteもYouTubeもすべて見ました。
世界最高峰のマーケティング企業の一つであるP&Gで実際にブランドマネジメントを経験した人が、その考え方や仕事の進め方を、ここまで体系的に、しかも無料で公開している。当時の私にとって、それは本当にありがたいことでした。
高額な講座に参加しなくても、特別な人脈がなくても、学ぼうと思えば第一線で培われた知識に触れられる。その記事を入口にP&Gについてさらに調べ、そこからEhrenberg-Bass Institute、バイロン・シャープ、ジェニー・ロマニウクらの研究も読むようになりました。
そして、この5年間で学んだことを実務でも使ってきました。
販売、CRM、データ分析、市場調査、需要予測、価格、広告、Web。扱うテーマは変わっても、「本当にそうなのか」と数字を見ながら、自分なりに検証を続けてきました。
その過程で、5年前には見えていなかったものが少しずつ見えるようになりました。当時そのまま受け入れていた考え方が、研究を知ることで違って見えるようになったこともあります。逆に、研究を学び、実務で試した後だからこそ、「石井さんが言っていたのはこういうことだったのか」と理解が深まった部分もあります。
だから今回、5年前の私にとっての「教科書」だった記事に最大限のリスペクトと感謝を込めて、私もひとつの教科書を残しておきたいと思います。
構成は、できるだけ元の記事を踏襲します。戦略を考え、WHOを考え、WHATを考え、HOWへ進む。ただし、それぞれの問いに対して、Ehrenberg-Bass Instituteを中心としたマーケティング研究と、この5年間で私自身が実務の中で考え、試し、数字を見てきた経験から答え直していきます。
これは石井さんの記事を否定したり、訂正したりするための記事ではありません。P&G流マーケティングの「最新版」を名乗るつもりもありません。
あの記事を起点にマーケティングを学び始めた一人として、5年間学び続けた現在地から作る、私個人のアップデート版の教科書です。
そして今回、もう一つ大きなテーマを置きました。
研究を、どう実務へ正しく翻訳するか。
私はこれをかなり大切にしています。
論文に「浸透率が重要」と書かれていたから、明日から全員に広告を出す。Ehrenberg-Bassが「差別化は必須ではない」と研究しているから、商品の違いを作らなくていい。そんな使い方をした瞬間、エビデンスベーストマーケティングは、別のマーケティング教義に変わってしまいます。
研究は、施策の指示書ではありません。
何が観測されたのか。どんな市場、どんな条件で観測されたのか。そこから自社について何が言えて、何はまだ言えないのか。そのうえで施策の仮説を作り、可能なら自社で検証する。
この「研究から実務までの翻訳」まで含めて、私はエビデンスベーストマーケティングだと考えています。
当時の私が、無料で公開された情報からこれだけ多くのことを学べた経験は、いま自分がnoteで無料での情報発信にこだわっている理由にもつながっています。
マーケティングを学びたいと思った誰かが、肩書きや環境に関係なく必要な知識にアクセスできる。その入口を、自分も少しは増やしたい。
元記事と同じように長い記事になります。
ただ、本気で読めば1時間程度で、私がこの5年間に本や論文を読み、実務で試しながら考えてきたマーケティングの基本型には触れられるようにしたつもりです。
5年前の私がこの記事を読んだら、またマーケティングを勉強したくなる。
そんな記事を目指します。
それでは始めましょう!
1.優れたブランドに共通するたった一つの秘密とは?
優れたブランドは、なぜ優れているのか?
元記事は、この問いから始まります。
なぜスターバックスを選ぶのか。なぜ吉野家を選ぶのか。なぜ特定の商品やサービスにお金を払うのか。
石井さんが出した答えは、顧客の「Job」、つまり片付けるべき仕事を解決しているから、というものでした。
この考え方には、今でも非常に大きな価値があると思っています。
商品を売る側の都合ではなく、その商品によって顧客が何を達成したいのかを見る。製品開発や顧客理解を考えるうえで有用な視点です。
ただ、5年前と今で大きく変わったことがあります。
私は現在、「良い商品を作る問い」と「ブランドが大きくなる問い」を、以前より明確に分けて考えるようになりました。
Jobは前者には強い。
では後者、つまり「ブランドはどう成長するのか?」について、実際の市場データは何を示しているのでしょうか。
大きなブランドは、多くの人に買われている
当たり前に聞こえる答えから始めます。
大きなブランドは、小さなブランドより多くの人に買われています。
「そんなの売れているから大きいだけでは?」と思うかもしれません。
しかし、ここにはマーケティング戦略を大きく変える重要な規則性があります。
ブランドの売上を大きく分ければ、
何人に買われているか × 一人あたりどれだけ買われているか
です。
前者を浸透率、後者を購買頻度などで捉えることができます。
直感的には、ブランドが大きくなる方法は二つありそうです。少ない顧客からたくさん買ってもらうか、多くの顧客から少しずつ買ってもらうか。どちらでも売上は増えそうです。
ところが、多数の市場を観測すると、この二つは好きなように組み合わせられているわけではありません。
大きなブランドは、小さなブランドよりも顧客数がかなり多く、顧客一人あたりの購買頻度も少し高いというパターンが繰り返し現れます。
これが「ダブルジョパディの法則」です。
小さなブランドは二重に不利です。顧客が少ないうえ、その顧客も大ブランドの顧客よりわずかに購入頻度が低い。ただし、二つの差は同じ大きさではありません。
ブランド規模による違いは、一般に購買頻度よりも顧客数の方に大きく現れます。
ここから見えてくるブランド成長の基本は、少数の顧客を猛烈なファンに変えることより、より多くのカテゴリー購買者に買ってもらうことです。
「愛されるブランド」から「買われる確率」へ
5年前の私は、ブランドをかなり「選好」の問題として見ていました。
強いブランドは顧客から強く好かれている。競合より選びたい理由がある。その理由を作れば購入率が上がる。
筋の通った説明ですし、選好や好意が存在しないとは思っていません。
しかし実際の購買行動を見ていると、人は毎回「一番好きなブランド」を厳密に選んでいるわけではありません。
昨日はAを買い、今日はBを買い、来月はまたAを買う。家ではAを使っているけれど、外出先ではBを使う。普段はAを買うけれど、店頭になければCを買う。
ブランドを強く好きでも、そのブランドだけを100%買い続ける人ばかりではありません。
私は今、ブランド成長を以前より確率的に見るようになりました。
顧客を「Aブランド派」「Bブランド派」という固定された箱に分けるのではなく、一人ひとりがブランドごとに異なる購買確率を持っていると考える。マーケティングによって、その確率を市場全体で少しずつ動かす。
この見方に変えると、広告、配荷、CRM、ブランド、価格が一つにつながって見えてきます。
私なりのマーケティングの定義
石井さんは元記事で、マーケティングを「Jobの発見と解決に至る一連のプロセス」と定義しています。
私は5年間を経て、今はかなりシンプルに考えています。
マーケティングとは、消費者に価値を届けて、増分を生む仕事です。
これは以前、自分のnoteでも書いた定義です。
商品そのものに価値があっても、それが消費者に届かなければ売れません。知られていても、必要な瞬間に思い出されなければ候補に入りにくい。思い出されても、買える場所や条件が整っていなければ購入には至りません。
だからマーケティングには、商品開発、価格、広告、流通、店頭、Web、CRM、データ分析などが含まれます。Ehrenberg-Bassでいうメンタルアベイラビリティやフィジカルアベイラビリティも、価値を実際の購買まで届けるための重要な考え方です。
そして、もう一つが「増分」です。
商品が100個売れたとしても、その100個すべてをマーケティングが生み出したとは限りません。広告がなくても買った人、CRMを送らなくても再購入した人はいるかもしれない。
だから私は、「売れた」と「自分たちが売った」を分けて考えます。
施策を行った世界と、行わなかった世界との差。その追加分が増分です。
今回扱う「買われる確率を高める」という考え方も、マーケティングそのものの定義ではありません。
消費者に価値を届け、増分を生むために、市場がどう動いているのかを理解するための重要な視点です。
5年前よりマーケティングの見方はかなり変わりました。
この仕事を一言で表すなら、今はこの定義が一番しっくりきます。
消費者に価値を届けて、増分を生む。
2.戦略の重要性を理解せよ!
5年経っても変えなかったもの
ここは元記事を読み返して、驚くほど考えが変わっていない章でした。
石井さんは戦略を、
目的達成のために、リソースを何に使うかという選択
と定義しています。
私は今でも、この定義を非常に使いやすいと思っています。
目的がある。しかし、お金も人も時間も有限です。だから何かを選べば、何かを捨てなければならない。この「選択」が戦略です。
広告予算が無限なら、テレビもデジタルも屋外広告もイベントも全部やればいい。営業人員が無限なら、すべての顧客に担当者をつければいい。店舗を無限に作れるなら、全国のあらゆる場所に出店すればいい。
実際にはできないから、戦略が必要になります。
エビデンスは戦略ではない
ここで、この教科書では一つ重要な線を引いておきます。
エビデンスベーストマーケティングは、戦略そのものではありません。
「Ehrenberg-Bass Instituteによれば浸透率が重要だから、浸透率を上げる」
これだけでは戦略になっていません。誰にでも同じ答えを返すのであれば、それは選択ではなく一般論です。
私は、エビデンスを「地図」に近いものだと考えています。
登山を想像してください。
戦略とは、どの山に登るのか、どのルートで登るのか、限られた時間と体力をどこへ使うのかを決めることです。
エビデンスは地形図です。
地図を持っていても、登る山は決まりません。しかし地図があれば、崖がある場所や行き止まりになりやすい道、過去に繰り返し観測された地形を知ることができます。
知らずに崖へ向かう必要がなくなる。
私はエビデンスベーストマーケティングの価値を、ここに感じています。
一番難しいのは「研究」と「施策」の間にある
この5年間で、研究を読むこと以上に難しいと思うようになったのが、研究を実務へ翻訳することです。
論文が示しているのは、多くの場合「ある条件で、こういう現象が観測された」ということです。
ところが実務家は、その結果を見た瞬間に「では何をすればいいのか」を考えます。
ここで一段飛ばすと危険です。
例えば「成長したブランドは浸透率を伸ばしている」という研究を読んだとします。
そこから直接、
「マス広告を出そう」
とは言えません。
研究が示したのは市場のパターンであって、特定の広告施策の因果効果ではないからです。
私が研究を実務へ持ち込むときは、少なくとも次の5段階を通すようにしています。
①何が観測されたのか → ②どんな条件で観測されたのか → ③自社にもその条件が近いか → ④どんな施策仮説に翻訳できるか → ⑤本当に効いたか検証する
この5段階です。

「論文に書いてあった」から施策を決めるのではありません。
研究は、自分が考えるべき範囲を狭めてくれます。そのうえで、自社固有の条件を入れて戦略を作り、施策の結果を検証する。
ここまでやって、初めて研究が実務になります。
EBMが当てはまりにくい、ではなく「条件を見ろ」
Ehrenberg-Bassの研究は、歴史的には反復購買型の日用消費財で大きく発展してきました。
だからといって、「FMCG以外では使えない」という理解も正確ではありません。
現在ではBtoBについても、ダブルジョパディ、カテゴリーエントリーポイント、メンタルアベイラビリティ、フィジカルアベイラビリティなどの研究が蓄積されています。
一方、だから何にでもそのまま使えるわけでもありません。
反復購買なのか契約型なのか。カテゴリーは成熟しているのか新しく生まれたばかりなのか。供給制約はあるのか。商圏は限定されるのか。一社あたりの顧客価値が極端に大きいBtoBなのか。ネットワーク効果が強いのか。
研究条件と自社条件が違えば、翻訳も変わります。
研究の一般化可能性を確認することまで含めて、エビデンスベースです。
小さなブランドにも浸透率は重要。でも使えるお金は小さい
この点は、小規模ブランドを考えるとよく分かります。
2026年にJournal of Business Researchで発表された研究では、市場シェア1%未満の「tiny brands」が5年間追跡されました。
興味深いのは、小さなブランドだからといって「少数の熱狂的な顧客に支えられた高ロイヤルティブランド」になっていたわけではないことです。むしろロイヤルティが期待値を下回るケースもあり、成長したtiny brandsの売上増加は主として購買頻度ではなく浸透率の増加によって生じていました。
つまり、
「小ブランドだから、まず少数のヘビーユーザーだけを囲えばいい」
とも単純には言えません。
しかし同時に、小さな会社には現実的な資源制約があります。
年間広告費数十億円のブランドと数百万円のブランドが、同じ市場構造を理解したからといって同じ施策を取れるわけではありません。
ここで区別したいのが、
Broad targetingとBroad spendingは違う
ということです。
潜在的なカテゴリー購買者を戦略上不必要に排除しないことと、限られた広告予算を全国へ薄く撒くことは同じではありません。
この区別は、この後のWHOでも重要になります。
「最初から考えなくていいこと」を増やす
マーケティングでは、とにかく議論が増えます。
既存顧客をもっと囲い込むべきなのか、ターゲットを若者だけに絞るべきなのか、競合との差別化が足りないのか、広告接触回数をもっと増やすべきなのか。
会議室では、どの意見もそれなりにもっともらしく聞こえます。
しかし、過去に何十年もかけて大量の市場データが調べられ、同じ現象が何度も観測されているのなら、それを毎回ゼロから議論する必要はありません。
まず既知の規則性を事前の知識として持ち、そのうえで自社はそこから外れているのかを見る。
私はこの使い方が、実務ではかなり強いと思っています。
法則から外れたら、むしろ面白い
科学的な規則性は、「すべての会社が必ずこうなる」という意味ではありません。
自社の数字が一般的な法則から外れていたとき、「研究が間違っている」と即断するのも、「自社データがおかしい」と即断するのも違います。
なぜ外れているのかを調べること自体が、戦略の入口になります。
特殊な流通構造なのか、一部の大口顧客に依存しているのか、カテゴリーの定義が適切ではないのか、価格差なのか、契約期間の影響なのか。
「普通ならこうなる」を知っているからこそ、「普通ではない部分」が見えます。
エビデンスベーストマーケティングは、バイロン・シャープを信じることではない
これは何度でも書いておきたいことです。
エビデンスベーストマーケティングは、バイロン・シャープを信じることでも、Ehrenberg-Bass Instituteを信じることでもありません。
「バイロン・シャープが言っているから正しい」と考えた瞬間、それはエビデンスベースではなく権威主義です。
研究結果と研究条件を確認し、他の研究とも比較する。自社データを見る。可能なら実験する。それでも分からない部分は仮説として扱い、新しい証拠が出れば考えを変える。
「誰が言ったか」ではなく、「何が、どんな条件で、どこまで確かめられているか」。
これが、この5年間で私が最も強く持つようになった考え方です。
3.戦略の基本型を把握せよ!
「勘」では売上は伸ばせない
元記事の第3章では、売上を分解するところから始まります。
これは今でも非常に重要です。
売上が下がったから広告を変える、CRMを強化する、値下げする、新商品を出す。これでは、症状を見ずに薬を選んでいるのと同じです。
まず売上が何によって変化したのかを分けなければなりません。
極端にシンプルにすれば、
売上=顧客数 × 一人あたり購買量 × 平均単価
です。
さらに顧客数をカテゴリー購買者に対する割合で見れば浸透率になり、一人あたり購買量には購買頻度や一回あたりの購入量が影響します。
これだけでも、売上が落ちたのは顧客が減ったのか、顧客数は同じでも購入回数が減ったのか、単価が変化したのか、と切り分けられます。
ところがEhrenberg-Bassの研究を知ると、ここからさらに一段面白くなります。
これらの数字は、ブランドごとに完全に自由な値を取っているわけではないのです。
ダブルジョパディの法則
最初に押さえたいのがダブルジョパディです。
同じカテゴリーにあるブランドを並べると、一般に小さいブランドほど顧客数が少なく、その顧客の購買頻度や継続率などのロイヤルティ指標も少し低くなります。
大きなブランドはその逆です。
例えばAブランドとBブランドがあり、Aは市場シェア30%、Bは5%だとします。
「Bは少数の熱狂的なファンから支持されているニッチブランドだから、顧客はAよりロイヤルなのではないか」
という物語を作りたくなります。
実際には、多くの市場ではそうなりません。Bは顧客が少ないだけでなく、その顧客の平均購買頻度もAより少し低い、というパターンがよく現れます。
この現象が重要なのは、単に面白い雑学だからではありません。
ロイヤルティをブランド規模から独立して自由に引き上げられる、という発想に疑問を投げかけるからです。
ロイヤルティを否定しているわけではない
ここは誤解されやすいところです。
「Ehrenberg-Bassはロイヤルティを否定している」という理解は正しくありません。
顧客は過去に買ったブランドを再び買う傾向があります。経験も記憶もあり、ロイヤルティは存在します。
ただし重要なのは、その程度にはブランド規模と連動した規則性があることです。
つまり、ブランドを大きくするうえで「とにかく既存客のロイヤルティを上げればよい」とは言いにくい。
顧客数を増やすことから逃げられないのです。
なぜライトユーザーだらけになるのか
ここからNBD、負の二項分布の話に入ります。
名前だけ見ると一気に難しくなりますが、初学者が理解すべきことはシンプルです。
多くのカテゴリーでは、たまに買う人が大量にいて、頻繁に買う人は少数しかいません。
例えば、あるブランドを1年間に買った人を購入回数別に並べると、1回だけ買った人、2回買った人、3回買った人と購入回数が増えるほど人数は減っていきます。
左右対称のきれいな山にはならず、ライトユーザー側に大勢が偏った分布になります。
これを説明するモデルの一つが負の二項分布です。
実務では数式より、次の意味が重要です。
あなたのブランドの顧客の大半は、あなたが思っているほど「顧客らしい顧客」ではありません。
年に一度しか買わず、前回いつ買ったかも覚えていないかもしれません。競合も普通に買いますし、ブランドの公式SNSを見ているとも限りません。
私はこの事実を理解したとき、CRMやファンマーケティングを見る目が大きく変わりました。

「売上の8割を上位2割が作る」だけでは戦略にならない
パレートの法則として、「売上の8割は上位2割の顧客が作る」という話を聞いたことがあると思います。
だから上位顧客に集中しよう、という話につながりやすい。
しかしブランド購買では、この比率が常に80対20になるわけではありません。さらに重要なのは、現在の売上構成比と、将来の成長余地は別物だということです。
Trinh、Dawes、Sharpによる研究では、ブランドの非購買者、ライト購買者、ヘビー購買者のどこに将来の売上成長余地があるかが分析されています。
実証部分では、平均すると成長余地の大部分が非購買者とライト購買者側にありました。
ここで数字だけを別の市場へそのまま移植してはいけません。
研究対象や期間、カテゴリーによって値は変わりますし、利益ではなく売上成長余地を扱った研究です。
それでも示唆は明確です。
今たくさん買っている人は、すでにあなたの商品をかなり買っています。一人あたり追加で買える余地は限られます。
一方、まだ買っていない人や、たまにしか買わない人は、一人あたりの価値は小さく見えても人数が非常に多い。
だから市場全体で見ると、大きな成長余地になります。
ヘビーユーザーを大事にしなくていいのか
違います。
ヘビーユーザーは現在の売上に大きく貢献します。サービスを悪化させて離反させれば、当然売上は失われます。サブスクリプションや契約型ビジネスでは、解約率が経済性に強く影響することもあります。
既存顧客の体験を粗末にしていい理由にはなりません。
問題は、「現在の売上への貢献が大きい」ことと「追加投資による成長余地が最も大きい」ことを混同しないことです。
既存顧客へのサービス品質は維持する。そのうえで、追加の成長投資はブランドをまだ十分に買っていない人にも届くようにする。
この二つは両立します。
昨年のヘビーユーザーは、今年もヘビーユーザーなのか
もう一つ、CRM実務で重要なのが「買い手の緩和の法則」、Buyer Moderationです。
昨年たくさん買った人を抽出すると、翌年、その人たちの平均購入回数は下がりやすい。反対に、昨年1回しか買わなかった人の平均購入回数は翌年少し上がりやすい。
これを見て、「VIP施策をしたのにヘビーユーザーの購入回数が下がった」「ライト層への施策が成功して購入頻度が上がった」と結論づけると危険です。
平均への回帰が含まれている可能性があるからです。
過去実績でセグメントを切り、その後の変化だけを見ると、施策効果と自然変動を混同しやすい。
この問題は、後ほど増分効果の章でも戻ってきます。
顧客は競合も普通に買う
ブランドを固定ファンの集合として見ると、もう一つ説明しづらい現象があります。
購買重複です。
例えばコーヒーブランドAを買う人の中には、Bも買う人、Cも買う人がいます。ブランドごとに完全に別々の顧客集団が存在しているわけではありません。
そして、その重複にはかなり規則性があります。
大きなブランドほど、他ブランドの顧客からも多く買われます。
これが購買重複の法則です。
「うちは若者向けだから競合は若者向けのB社」「うちはプレミアムなのでC社とは客層が違う」と物語を作る前に、実際の購買重複を見る。
ここでも「ブランドが語っている物語」と「市場で起きている行動」を分ける必要があります。
ただし「観測された法則」と「成長施策」は違う
ここで、この記事で何度も戻る原則を入れておきます。
ダブルジョパディは、
大ブランドほど浸透率が高く、ロイヤルティ指標も少し高い
という経験的一般化です。
しかし、
広く広告を打てば浸透率が上がり、大ブランドになれる
という因果を直接証明したものではありません。
大ブランドにライトユーザーが多いことと、小ブランドがマス広告を打てば成長することは別です。
この区別をしないと、EBMも「成功企業を観察して、その特徴を真似する」という成功事例マーケティングと同じ誤りを犯します。
研究から得られるのは、市場を見るうえでの強力な事前知識です。
施策はそこから仮説として作り、別途検証する。
記述された法則を、介入の因果効果へ勝手に変換しない。
これも、研究を実務へ翻訳する際の重要なルールです。
ブランド成長を一言でまとめると
ブランドは通常、少数の固定ファンだけでできているわけではありません。
ライトユーザーが大量に存在し、顧客は競合も普通に買います。ブランドが大きくなるほど顧客数が増え、ロイヤルティ指標も少し改善します。
だからブランド成長を見るときには、カテゴリー購買者全体における自社の購買確率と浸透率を外せません。
ただし、ここから具体的に何へ投資するかは戦略の問題です。
そのブランドが使える資源、参入している市場、商品、流通、競合環境によって答えは変わります。
では、その有限な資源を誰に向けるのか。
ここからWHOへ進みます。
4.WHO(フー)ではなく、「不(フ)」が大事!――そして「状況」まで見る
元記事で最も好きだった考え方の一つ
石井さんの元記事には、
「WHO(フー)ではなく、不(フ)が大事」
という印象的な表現があります。
38歳、東京都在住、子どもが2人、世帯年収800万円。こうしたデモグラフィック情報だけでは顧客を理解したことにはならず、その人が何に困り、何を解決したいのかを見るべきだ、という話です。
この考え方には今でも強く同意します。
年齢や性別そのものが商品を買うわけではありません。購買の背景には状況があります。
しかしEhrenberg-Bassの研究を学んでから、WHOについてもう一つ問いを持つようになりました。
そもそもWHOを細く切りすぎる必要があるのか。
「うちの顧客はこういう人」という物語
マーケティングでは、顧客を細かく定義することが理解の深さと混同されることがあります。
30代女性、都市部在住、健康意識が高く、SNSで積極的に情報収集し、新しいものが好き。
具体的になるほど「顧客を理解した」という感覚は強くなります。
しかし、本当に競合ブランドの顧客とそこまで違うのでしょうか。
ブランドユーザープロファイルに関する研究では、競合ブランドの顧客属性は、マーケターが期待するほど大きく違わないことが多いとされています。
大ブランドと小ブランドで大きく異なるのは、顧客の「種類」というより「人数」であることが多い。
もちろん、どんなカテゴリーでも属性差がゼロという意味ではありません。
所得制約が強い商品、年齢で利用資格が変わる商品、特定の疾病に関わる商品、法人規模によって必要機能が全く違うサービス、地理的な商圏がある店舗など、現実的な制約はあります。
問題は、根拠もないまま「このブランドらしい人」を作り、その人物像に合わないカテゴリー購買者を最初から捨てることです。
ペルソナの細かさを、顧客理解の深さと混同しない
ここではペルソナという手法も分けて考えたいと思います。
一人の架空顧客に名前、年齢、家族構成、趣味、SNS利用、休日の過ごし方まで設定すれば、資料としては具体的になります。
しかし、その具体性が市場についての証拠から生まれているとは限りません。
細部を埋めるほど、「実際の顧客像」ではなく「作り手が想像しやすい人物像」に近づく危険もあります。
私は実務でペルソナを積極的に使ってきたわけではありません。
この教科書でも、ペルソナの解像度を上げることを顧客理解の中心には置きません。
重要なのは、カテゴリー購買者全体にどんな需要があり、どんな状況で買われ、どんな制約によって選択肢が変わるのかを把握することです。
一人の人物を精巧に作るより、市場で繰り返し起きている購買状況を精巧に理解する方を重視します。
WHOは広く、買う状況を深く
では、WHOを細かくしないなら何を細かくするのか。
ここでカテゴリーエントリーポイント、CEPが出てきます。
CEPとは、カテゴリー購買者が買う場面で記憶を検索するときの手がかりです。
例えばコーヒーなら、朝に目を覚ましたい、仕事を始める前に集中したい、食後に一息つきたい、人と話しながら休憩したい、移動中に温かいものを飲みたい、といった状況があります。
同じ一人の人間でも、状況によって思い出すブランドは変わるかもしれません。
この視点を私はかなり気に入っています。
WHOを細くするのではなく、購買状況の解像度を上げる。
人は広く取り、状況を深く見る。
これなら大きな市場を捨てずに、顧客理解を具体化できます。
でも、小さな会社が全部のCEPを狙う必要はない
ここが、研究を実務へ翻訳するときに必要な補足です。
WHOを広く取る。
CEPも多い方がメンタルアベイラビリティを広げやすい。
ここまで読んで、
「予算の少ないブランドも、全カテゴリー購買者に向けて大量のCEPを訴求しないといけないのか」
と考える必要はありません。
それでは第2章の戦略論と矛盾します。
リソースが少ないなら、選択が必要です。
ただし、私は市場そのものを不必要に狭くすることと、今戦う場所を狭くすることを分けます。

より多くのCEP・地域・チャネルへ
つまり、
WHOを狭くするのではなく、戦場を狭くする。
私はこの整理の方が、小規模企業の戦略とEBMを接続しやすいと思っています。
例えば全国の20代〜60代が買うカテゴリーでも、予算が少なければ最初は東京都内の特定チャネルから始めてもいい。
カテゴリーには20個の重要なCEPがあっても、最初は自社商品との相性がよく、購買頻度が高く、競争可能な3つへ集中してもいい。
ECも店舗も法人営業も全部同時にやる必要はありません。最もフィジカルアベイラビリティを作りやすいチャネルに絞ってもいい。
市場の可能性を最初から捨てないことと、今期の投資先を絞ることは両立します。
これこそ戦略です。
JobとCEPは似ているが、同じではない
ここは、5年前の教科書と今回の教科書をつなぐ重要なところです。
JobとCEPはかなり近く見えます。
どちらも顧客が何をしたいか、どんな状況にいるかを考えます。
しかし役割は分けて考えた方が整理しやすい。
Jobは主に、顧客が商品やサービスによって、どんな問題を解決したいのか、どんな状態へ進みたいのかを見る考え方です。
CEPは主に、カテゴリーを買う状況で、どんな手がかりからブランドが記憶に呼び出されるのかを見る考え方です。
例えば「仕事に集中したい」は、コーヒーが解決するJobとして考えることもできますし、「集中したいとき」というコーヒーブランドのCEPにもなり得ます。
重なる部分はあります。
ただし製品開発では「どう解決するか」が重要になり、ブランドコミュニケーションでは「その状況とブランドをどう記憶で結びつけるか」が重要になります。
同じ顧客理解でも、使う目的が違うのです。
顧客の声を聞く。それでも顧客の言葉をそのまま答えにしない
元記事には、顧客の実際の行動を観察し、そこからJobの仮説を作る重要性が書かれています。
これは今でも残しています。
「何が欲しいですか?」と聞くだけでは、未来の商品はなかなか出てきません。人は自分の行動理由を完全に言語化できるわけではないからです。
そこで実際に何をしたのか、どこで迷ったのか、なぜその場面で別のものを選んだのか、普段どうやって代替しているのかを見る。
一方で、定性調査だけでも市場全体の大きさは分かりません。
私は、現場観察から違和感を見つけ、インタビューなどから仮説を作り、データでその広さを確認するという流れだけでなく、逆向きの流れも重視しています。
大量のデータから「なぜこの地域だけ違うのか」「なぜこの曜日だけ反応が違うのか」「なぜこの商品の併買率だけ高いのか」という異常を見つけ、そこから現場へ戻る。
つまり、
観察 → 仮説 → 定量 → 違和感 → 再観察
を往復する。
データは仮説を検証するだけのものではなく、仮説を生み出す入口にもなります。
WHOの結論
私が現在WHOを考えるときの基本は、
カテゴリー購買者は可能な限り広く捉え、そのうえで、誰が買うか以上に、どんな状況でカテゴリーへ入るのかを深く理解する
ことです。
ただし、投資まで無制限に広げるわけではありません。
資源制約が強いほど、CEP、地域、チャネル、商品、販売場所など「戦場」を選ぶ必要があります。
市場は広く見る。
戦場は狭く選ぶ。
そして勝てる範囲が広がったら、戦場を拡張する。
この整理が、現在の私にとってWHOと戦略を接続する一番実務的な考え方です。
5.ブランドは何を(WHAT)売っているのか?POD編
ここは5年間で最も変わった
元記事で私が強く影響を受けた概念の一つがPOD、Point of Differenceでした。
顧客が求めていて、競合にはなく、自社だけが提供できる価値を作る。なぜ顧客が数ある競合ではなく自社を選ぶのか、その理由を作る。
私はこの考え方をかなり長い間、マーケティングの中心だと思っていました。
今もPODを考えること自体が無意味だとは思っていません。
競合より圧倒的に性能が高い、特許によって模倣できない、立地が圧倒的に便利、価格優位がある、独自のネットワーク効果がある。そうした違いがあれば、当然競争上の武器になります。
しかし今は、
差別化はブランド成長の必須条件なのか
という問いを、PODとは分けて考えています。
違いを感じていなくても、人は買っている
2007年、ジェニー・ロマニウク、バイロン・シャープ、アンドリュー・エーレンバーグは、知覚されたブランド差別化の重要性に関する研究を発表しました。
複数カテゴリーと2カ国のデータを調べると、競合ブランド間で消費者が知覚する差別化は、従来のマーケティング理論が想定するほど高くありませんでした。
それでも、そのブランドは普通に買われています。
これはかなり大きな問いを生みます。
もし「顧客は競合より優れていると感じたブランドを選ぶ」ことがブランド購買の必要条件なら、明確な差を感じられていないブランドが大量に売れていることを説明しづらいからです。
そこで重要になるのが、Differentiation、差別化とは別のDistinctiveness、識別性という視点です。
「違う」と「見分けられる」は違う
A社の商品はB社より明確に優れ、他社にはない価値を持っている。
これは差別化です。
一方で、特定の色、形、ロゴ、キャラクター、音、パッケージを見ればA社だと分かる。
これは識別性です。
識別資産、Distinctive Brand Assetsは、ブランド名以外でもブランドを想起・識別できる手がかりです。
重要なのは、他社より優れていると説得することと、そもそも誰の広告・誰の商品なのか分かることは別問題だということです。
広告を覚えている。でもブランドを覚えていない
実務では、クリエイティブの評価でこんなことが起きます。
広告は面白かった。出演者もストーリーも覚えている。それなのに、何のブランドだったかは覚えていない。
広告として記憶されても、ブランドの記憶にはなっていません。
どれだけ素晴らしいクリエイティブでも、ブランドとの結びつきが弱ければ、投資した記憶資産が自社へ戻ってこない可能性があります。
識別資産が重要なのはここです。
では新規ブランドも差別化しなくていいのか
ここで、研究を実務へ翻訳する際に非常に重要な補足があります。
「差別化はブランド成長の必須条件ではない」
という研究結果から、
「新商品にも、新規ブランドにも、他社と違う価値はいらない」
とは言えません。
特に、まだ誰にも知られていない商品では、最初に試してもらう理由が必要になる場合があります。
既存市場へ後発参入するなら、「なぜ今までの商品ではなく、これを試すのか」という価値提案が重要になるでしょう。
新しいカテゴリーそのものを作るなら、そもそもその商品が何で、何の役に立つのかを理解してもらわなければなりません。
2008年にMarketing Scienceで発表された「Building Brands」では、22の反復購買カテゴリーにおける225の新ブランド導入が5年間分析されています。
そこで新ブランド成功との関連が最も大きかったのは広い配荷で、流通と製品イノベーションへの投資は、値引きや店頭販促、広告よりも大きな限界売上増と関連していました。
ここから分かるのは、
新規ブランドならPOD、成熟ブランドなら識別性
という単純な二分法ではありません。
商品価値を作ることと、ブランドを識別可能にし、思い出され、買えるようにすることは、代替関係ではないのです。
製品価値と識別性は、どちらかではない
私は現在、こう考えています。
新しいブランドほど、「試す理由」を作るための商品価値やイノベーションの重要性が高くなる場合があります。
しかし、それだけでは市場へ広がりません。
いくら優れた商品でも、知られず、必要なときに思い出されず、買える場所になければ普及しません。
一方、成熟したブランドでも商品価値がどうでもよくなるわけではありません。
品質を落とし、期待を裏切り続ければ購買に影響します。
つまり、
価値を作ることと、買われる確率を作ることは両方必要です。
私は5年前、この二つをかなり「POD」という一つの概念に集約していました。
今は分けて考えています。
商品は、顧客に十分な価値を提供できているか。
その価値に本当に競合優位があるなら活かせるか。
そのうえで、ブランドだと識別できるか。
必要な状況で思い出されるか。
実際に買えるか。
分けた方が、どこに問題があるか診断しやすいからです。
「誰にも真似できないもの」が見つかるまで待たない
マーケティングの現場では、「USPがないから広告できません」「競合との違いが弱い」という議論が延々と続くことがあります。
本当に商品価値が弱いなら改善する必要があります。
しかし、「世界で自社だけが持っている唯一無二の便益」が見つかるまでブランド活動を止める必要はありません。
カテゴリー購買者が期待する価値を満たし、ブランドだと分かり、必要な状況で思い出され、実際に購入できる。
ここにも大量の改善余地があります。
私は以前より「天才的な差別化」を探さなくなりました。
その代わり、普通のブランド成長レバーを、普通ではないレベルまで積み上げられているかを見るようになりました。
6.ブランドは何を(WHAT)売っているのか?コミュニケーション編
元記事と意外なほど近い
元記事で石井さんは、優れたコミュニケーションの条件として、正しくブランドが想起されること、独自性によって印象に残ること、PODが伝わることを挙げています。
5年後の私は、このうち最初の二つをむしろ以前より重要だと思うようになりました。
変更したのは三つ目です。
PODを伝えることが有効な広告は当然あります。新商品、明確な製品優位、理解されていない機能、価格、新しいカテゴリーなどでは、情報伝達が重要です。
しかし、すべての広告が消費者を論理的に説得し、ブランド選好を変える必要があるとは考えなくなりました。
広告の仕事は「説得」だけではない
広告を「AよりBの方が優れていると理解してもらうもの」とだけ考えると、毎回何か新しい主張を作らなければならなくなります。
しかしブランド購買が確率的で、カテゴリー購買者の多くがライトユーザーなら、もう一つ非常に重要な仕事があります。
記憶を作り、更新することです。
久しぶりにカテゴリーを買う人は、何カ月もそのブランドについて考えていないかもしれません。
いざ必要になったとき、頭の中には数ブランドしか出てこない。
その候補に入れるか。
広告は、この確率に影響できます。
メンタルアベイラビリティ
Ehrenberg-Bassでいうメンタルアベイラビリティは、単なる認知率ではありません。
名前を見れば「知っている」だけでは不十分です。
買う状況で、そのブランドが思い出されるか。
これが重要です。
例えば「コーヒーブランドを知っていますか?」と聞けば、多くの人が複数ブランドを認知しているでしょう。
しかし朝7時に駅へ向かいながら「眠い。何か飲みたい」と思った瞬間、認知しているすべてのブランドを頭の中で比較しているわけではありません。
その瞬間にアクセスできる記憶が購買候補になります。
だから前章でCEPを考えました。
広告では、その購買状況とブランドを結びつけます。
朝、仕事の休憩、食事と一緒、みんなで楽しむ、頑張った自分へのご褒美。さまざまな入口からブランドへアクセスできる記憶構造を作っていく。
これがメンタルアベイラビリティを高めるという考え方です。
一つのポジションを独占するより、入口を増やす
一人の人間でも、カテゴリーを買う理由は複数あります。
チョコレートなら、自分へのご褒美で買うこともあれば、子どものため、小腹が空いたとき、誰かへのお礼で買うこともあります。
ブランドが一つの状況だけを独占するより、より多くの購買状況から候補として出てくる方が購買機会は増えます。
もちろん無限に何でも結びつければいいわけではありません。
市場で重要度が高く、自社が競争可能で、まだ記憶上の余地があるCEPを選ぶ。
そして資源が限られているブランドなら、第4章で述べたように、まず一部のCEPへ集中する。
広く成長するという長期原則と、今どこへ集中投資するかという短期戦略を混同しない。
ここでも研究の実務翻訳が必要になります。
クリエイティブは記憶を作る技術
広告は見られなければ記憶に残りません。
注意を引き、感情を動かし、面白い、美しい、驚く、音楽が残る、物語に引き込まれる。そうしたクリエイティブの力は重要です。
ただし、その力をブランドへ返す。
面白かったけれどブランドが分からない、では終わらせない。
広告の独自性と、ブランドの識別性をつなぐ必要があります。
元記事で石井さんが書いていた「左脳で理解したことを、クリエイターが右脳に翻訳する」という趣旨の考え方は、今読んでもかなり好きです。
私なら現在、その翻訳元にPODだけではなく、
どのCEPとブランドを結びたいのか、どの識別資産を蓄積したいのか
を加えます。
リーチを軽視しない。ただし「広く撒く」とは違う
第3章で見たように、ブランドの顧客には大量のライトユーザーがいて、成長時には顧客数を増やすことが重要です。
だから潜在的なカテゴリー購買者へ到達するリーチは軽視できません。
しかし、これも、
「予算が少なくても、できるだけ多くの人に1回ずつ広告を撒け」
という意味ではありません。
到達可能な範囲で十分な注意を取れるのか。
商品を買える場所があるのか。
狙っているCEPとの記憶を作れるのか。
配荷もない地域まで広告することに意味があるのか。
資源制約を含めて考えます。
小ブランドなら、全国に薄く広告するより、まず配荷が取れている地域やチャネルで十分なリーチを作る方が合理的な場合もあります。
カテゴリー購買者を狭く定義しないことと、施策の実行範囲を狭くすることは別です。
この区別は何度でも強調しておきたいと思います。
7.冷静に計画し、情熱的に実行し、冷徹に検証する
消費者が見るのは実行だけ
元記事の第7章には、「消費者が見ることのできる戦略は、実行だけ」という趣旨の考え方が紹介されています。
どれだけ美しい戦略資料を作っても、商品が棚になければ買えません。広告が表示されなければ見られません。サイトが使いにくければ離脱しますし、店舗での体験が悪ければ期待した価値は届きません。
戦略と実行に上下関係はありません。
設計図だけでは家は建ちません。
私は戦略を考える仕事が好きですが、実務を経験するほど、実行の重要性はむしろ強く感じるようになりました。
そこで今回、元記事のタイトルに一つだけ加えます。
冷静に計画し、情熱的に実行し、冷徹に検証する。
最後の「検証」が、私がこの5年間で最も追加したいHOWです。
思い出されても、買えなければ意味がない
第6章ではメンタルアベイラビリティを扱いました。
しかしブランドが頭に浮かんでも、手に入らなければ売上にはなりません。
そこでフィジカルアベイラビリティが出てきます。
直訳すれば物理的な入手可能性ですが、「店舗数」だけではありません。
買いたい場所にあること、棚に在庫があること、ECで検索すれば見つかること、必要な容量や価格帯を選べること、営業時間や配送条件が購買機会に合っていること、使いたい決済手段があり、申し込みの摩擦が小さいこと。
サービスであれば、自分の地域や条件で契約できることまで含まれます。
要するに、
買いたいと思った人が、実際に買える確率を高めること
です。
2008年の新ブランド研究でも、225の新ブランド導入を比較した結果、配荷の広さが成功と最も強く関連していました。
「新規ブランドだからまず鋭い広告を作る」と考える前に、そもそも買えるのかを見る。
この地味さも、EBMを実務へ翻訳したときの重要な示唆です。
4Pを確率として見る
私は4Pも、この確率の視点で見ると理解しやすいと思っています。
Productでは顧客が期待する価値を提供できる商品を作り、Priceでは購買可能な価格条件を作る。Placeでは必要な場所や方法で商品を入手できるようにし、Promotionでは必要な瞬間にブランドを思い出せる記憶を作る。
別々のフレームワークに見えていたものが、
買われる確率を上げる
という一つの目的につながります。
流通を1店舗増やすことも、EC検索で商品を見つけやすくすることも、決済方法を追加することも、在庫切れを減らすことも、すべて購買確率に関わるマーケティングです。
カスタマージャーニーは便利だが、自然法則ではない
元記事では、認知、好意、調査、購入、推奨といったカスタマージャーニーを使ってHOWを整理しています。
これは施策整理には便利です。
ただ、5年前より慎重に扱うようになりました。
消費者が必ずきれいな順序で進むとは限らないからです。
「知る→好きになる→比較する→買う→ファンになる」という旅は説明として美しい。
しかし、スーパーで洗剤を買う人が毎回そのプロセスを通っているでしょうか。
いつものブランドが目に入り、価格を見て、そのまま買うだけかもしれません。
一方、住宅、自動車、法人向けシステムなどでは比較検討が長くなるでしょう。
だから私は、カスタマージャーニーを「顧客が必ず通る道路」ではなく、施策を整理するための仮説モデルとして捉えます。
ここでもモデルを現実そのものと混同しないことが重要です。
「広告経由で売れた」と「広告が売った」は違う
ここからが、私が5年間で最も強くなったHOWです。
デジタルマーケティングでは、非常に多くのデータが取れます。
広告をクリックし、サイトへ来て、商品を見て、購入した。
すると管理画面には「広告経由で100件売れました」と表示されます。
ここで人は、「この広告が100件売った」と読み替えます。
しかし、この二つは同じではありません。
広告をクリックした人は、そもそも買う確率が高かったのではないでしょうか。
ブランド名を検索した人なら、広告がなくても公式サイトへ来たかもしれません。一度商品ページを見た人へリターゲティング広告を出したなら、その人は広告がなくても翌日買ったかもしれません。
つまり必要なのは、
広告を見た人が何件買ったか
ではなく、
広告がなかった世界と比べて何件増えたか
です。
これがインクリメンタリティ、増分効果です。
アトリビューションと因果効果を分ける
アトリビューションは、「どの接点に成果を割り当てるか」という問題です。
最後にクリックした検索広告へ100%つける、最初の広告へつける、複数接点へ分配する。これは成果の配分ルールです。
一方、因果効果は「その接点が存在したから成果が増えたのか」という問題です。
似ていますが別物です。
私はこの違いを知ってから、広告管理画面の数字を以前ほど素直には信じなくなりました。
Facebookの15実験が示したもの
2019年にMarketing Scienceに掲載された研究では、Facebook上で行われた15件の大規模広告実験が分析されました。
研究対象は約5億のユーザー・実験観測と16億回の広告インプレッションに及びます。
研究者たちは、ランダム化比較試験によって得られた広告の因果効果と、業界で一般的に使われる観察データによる推計を比較しました。
結果、豊富な人口統計や行動データを使って調整しても、観察的な手法はランダム化実験と同じ効果を安定して再現できませんでした。
データが大量にあれば因果が分かるわけではない。
これはデータドリブンマーケティングにおける重要な教訓です。
eBayの検索広告実験
もう一つ有名なのがeBayの検索広告実験です。
ブランド名で検索する人は、当然コンバージョン率が高い。
そのため指名検索広告は管理画面上、非常に優秀に見えます。
しかしeBayの大規模フィールド実験では、ブランドキーワード広告に測定可能な短期的増分効果が確認されませんでした。
非指名キーワードでも広告の影響は顧客によって異なり、新規・低頻度ユーザーには効果が見られる一方、もともと利用頻度が高い人への広告費が平均リターンを悪化させていました。
もちろん、「指名検索広告は全部無駄」という意味ではありません。
条件が違えば結果も変わります。
重要なのは、
CPAが安い施策ほど、本当に効いているとは限らない
ということです。
ここでEBM自身にも同じ問いを向ける
私は、この因果推論の考え方をEBMそのものにも向けるべきだと思っています。
「成長ブランドでは浸透率が伸びている」
だから、
「この広告を広く出せば浸透率が伸びる」。
これは同じではありません。
「新ブランドでは広い配荷が成功と強く関連していた」
だから、
「うちも明日から全国配荷すれば成功する」。
これも同じではありません。
実現コストも、商品も、カテゴリーも、競合も違います。
研究結果を尊重するからこそ、研究が言っていないことまで言わせない。
これは私がエビデンスベーストマーケティングで最も大切にしたい態度の一つです。
CRMにも同じ罠がある
これは広告だけではありません。
CRMでも起こります。
メールを受け取った人の購入率が10%で、受け取っていない人が3%だったとしても、それだけで「メールによって7ポイント改善した」とは言えません。
メールを送る対象が直近購入者やアプリ利用者、高頻度顧客だったなら、そもそも購入率が高い人を選んでいる可能性があります。
さらに第3章で触れた平均への回帰もあります。
だから可能ならランダムに対照群を残す。ホールドアウトを作る。地域や時期を利用する。完全なランダム化が難しければ、準実験や因果推論を検討する。
「成果が出たように見える」を、「本当に増えた」に近づけていく。
ここが、私が現在マーケティング実務でかなり重視している部分です。
短期の効率だけで全体最適を壊さない
デジタル施策の世界では、最適化が進むほど「買いそうな人」に広告が集まりやすくなります。
当然CPAは良くなります。
しかし第3章のブランド成長とつなげると、問題が見えてきます。
すでに自社をよく知り、頻繁に買い、検索までしている人だけに予算を使えば、短期CPAは改善しても、新しい購買者との接点は減るかもしれません。
つまり、
計測しやすい場所へ予算が集まりすぎることで、本来の成長余地から離れる
ことがあります。
だから私は、短期の刈り取り施策、広く記憶を作る施策、買える場所を増やす施策、商品を改善する施策を、同じCPAだけで比較しません。
役割が違うからです。
最終的には、自社で試す
ここまで大量の研究を紹介しておいて最後にこれを言うと身も蓋もありませんが、実務では自社で確かめられることは確かめるのが一番です。
研究から「一般にこうなりやすい」を知る。
研究が成立した条件を見る。
自社との違いを確認する。
そこから施策仮説を作る。
できるだけ反実仮想を作って検証する。
違えば考え直す。
第2章の図解に戻りました。
研究 → 条件確認 → 自社への翻訳 → 仮説 → 検証。
この往復が、私にとってのエビデンスベーストマーケティングです。
論文をたくさん知っていることではありません。
研究を、現実の意思決定へ正しく接続できること。
この能力の方が、実務でははるかに重要だと思っています。
8.最後に 私が5年間で変わったこと、変わらなかったこと
ここまで、かなり長い文章になりました。
元記事と同じようにマーケティングを定義し、戦略から始め、WHO、WHAT、HOWと進んできました。
読み返してみると、5年前の私からかなり変わった部分があります。
ブランド成長を「ブランド選好を高めること」だけでは捉えず、浸透率や購買確率を見るようになりました。少数のロイヤル顧客を中心に考えるより、大量のライトユーザーと非購買者を見るようになり、WHOを細く定義するよりカテゴリー購買者を広く捉え、CEPによって購買状況を細かく見るようになりました。
PODを必須条件として考えるより差別化と識別性を分け、認知率だけではなく、買う状況から思い出されるメンタルアベイラビリティを見る。広告経由売上だけでなく増分効果を見る。
そして何より、
もっともらしい説明を、以前ほど簡単には信じなくなりました。
研究を知ることより、研究の使い方が大事だった
この5年間で、もう一つ大きく変わったことがあります。
最初の頃は、新しい理論を知るたびに「こちらが正解だったのか」と考えていました。
STPよりEBM。
ロイヤルティより浸透率。
差別化より識別性。
アトリビューションよりインクリメンタリティ。
新しい知識を得ると、それまでの考えを新しい答えで置き換えたくなる。
しかし今は、それも危険だと思っています。
理論には適用範囲があります。
研究には条件があります。
記述的な市場法則と、施策による因果効果は違います。
カテゴリー購買者を広く取ることと、限られた広告費を広く撒くことも違います。
差別化が普遍的な成長条件ではないことと、新規商品の価値提案が不要であることも違います。
だから私は、理論そのもの以上に、
研究をどう実務へ正しく翻訳するか
を重要なテーマとして考えるようになりました。
研究を読んで終わらない。
研究を盲信もしない。
都合のいい部分だけ切り取らない。
自社との条件差を確認し、施策仮説へ落とし、実際の結果を見る。
これはマーケティング研究と実務の間にある、かなり大きな仕事だと思っています。
このnoteでも、私は今後そこをもっと掘っていきたいと思っています。
5年経っても変わらなかったもの
一方で、5年経っても変わらなかったものもたくさんあります。
マーケティングを広告だけだと思わないこと。顧客から始めること。顧客が実際に何をしているのかを見ること。良い製品を作ること。戦略とは選択であること。HOWから飛びつかないこと。どれだけ良い戦略でも実行されなければ意味がないこと。数字から逃げないこと。
そして、マーケティングを一つの体系として理解すること。
これらは、5年前に石井さんの記事から受け取ったものが、今もかなり残っています。
P&GとEhrenberg-Bassは、対立させる必要がない
この5年間、P&G的なマーケティングとEhrenberg-Bassを比較していると、「結局どちらが正しいのか」という話になりやすい。
私は、全部を二者択一にする必要はないと思っています。
顧客を観察し、良い商品を作り、明確な目的を持ち、有限なリソースを選択して、実行品質を高める。
これはEhrenberg-Bassと対立しません。
一方で、成長はどこから来るのか、顧客はどのようにブランドを買い分けるのか、ロイヤルティはブランド規模とどう関係するのか、ターゲティングはどこまで絞るべきか、差別化は成長の必須条件なのか。
こうした問いには、大量の購買データから得られた研究を使えば、5年前より解像度の高い答えを出せます。
私はP&Gから顧客を起点に事業全体を見ることを学び、Ehrenberg-Bassから市場を確率的に見ることを学び、因果推論から「本当に施策が効いたのか」を疑うことを学びました。
どれか一つに宗派を決めるより、使えるものを、適切な条件で使った方がマーケティングは強くなります。
エビデンスは、考えなくていい範囲を増やすために使う
「エビデンスベース」と聞くと、すべてをデータで決める冷たいマーケティングを想像する人もいるかもしれません。
私は逆だと思っています。
既に分かっていることを、毎回会議室で一から考えなくていい。
その分、この市場ではなぜ法則から外れているのか、この顧客はなぜこんな行動をしたのか、どうすれば新しい需要を作れるのか、どんな製品なら本当に生活を変えられるのか、といったまだ答えのない問題に人間の時間を使えます。
エビデンスは思考を止めるためのものではありません。
思考すべき場所を絞るためのものです。
そして研究から実務への翻訳こそ、その「考えるべき場所」の一つです。
考える時間もまた、有限なリソースなのです。
5年前にもらったものを、次の誰かへ
私は5年前、無料で公開されていた石井さんのnoteやYouTubeから本当に多くのことを学びました。
そこからP&Gについて調べ、Ehrenberg-Bass Instituteの研究を知り、本を読み、論文を読み、実務で使い、数字を見て、また考え直す。
その繰り返しが、現在の私のマーケティング観を作っています。
もし、あの記事が高額な教材の中にしか存在していなかったら、当時の私はここまで深くマーケティングを学び始めていなかったかもしれません。
だから今、自分がnoteを書くときも無料での情報発信にこだわっています。
誰か一人でも「これ面白いな」と思って研究を調べ、自分の会社のデータを見直し、上司から言われた常識に「本当にそうですか?」と問いを持つ。
そこから5年学び続ける人が出てくれば、十分だと思っています。
この記事は、5年前にもらった「教科書」に対する、私なりの5年後の返事です。
石井さんが発信しなくなったことも、マーケティングとして考えると面白い
石井さんは現在、当時のような頻度ではマーケティングの情報発信をされていません。
これは私の解釈ですが、単に発信への興味を失ったというより、事業が変わったことで、発信に時間を使う相対的な利益が小さくなったと考えると非常に納得できます。
石井さんは2020年に公開した「マーケティング実践編」で、「P&G流マーケティングの教科書」を無料公開した裏側まで明かしています。
そこで書かれていた裏の目的の一つは、自社製品・サービスの良質な見込み顧客とつながることでした。実際に無料相談からマーケティング契約につながった例にも触れられています。
つまり当時は、マーケティングについて質の高い情報を無料で発信することが、認知と信頼を作り、経営者やマーケターとの接点を生み、そのまま支援事業へつながる構造になっていました。
無料発信には、事業上かなり大きなリターンがあったわけです。
一方、その後の石井さんは、自ら商品を作る実業へ軸足を移していきます。
2022年には東京土産を自ら作るプロジェクトについて発信し、現在の「P&G流マーケティングの教科書」に追加された5年ぶりの追記では、化粧品ブランドビジネス、化粧品法人営業、海外ブランド展開が事業として挙げられています。
支援事業であれば、マーケティング担当者へ情報を届けること自体が見込み顧客獲得につながります。
しかし、自分で商品を作り、営業し、流通を広げ、海外へ展開する側へ比重が移れば、同じ1時間をnoteを書くことに使うより、商品開発や営業、採用、流通開拓へ使った方が事業へのリターンが大きくなる局面もあるでしょう。
発信の価値がゼロになったのではありません。
他の選択肢と比べたとき、発信から得られる利益が相対的に小さくなった。
そう考えると、これは石井さん自身が5年前の教科書で書いていた、
戦略=目的達成のためにリソースを何に使うかという選択
そのものにも見えます。
目的と事業構造が変われば、最適なリソース配分も変わる。
発信が減ったことまで、あの教科書の戦略論で説明できてしまうのが面白いところです。
だからこそ、石井さん自身のアップデート版を読んでみたい
そして、少し勝手な願いがあります。
いつか、石井さん自身によるアップデート版の「マーケティングの教科書」も読んでみたい。
P&Gを離れ、マーケティング支援を経験し、その後は自ら実業へ軸足を移した今。
石井さん自身は、当時書いた教科書の何を今も残し、何を書き換えたいと思っているのか。
WHO、WHAT、HOWの見え方は変わったのか。
PODをどう考えているのか。
支援する側から、自分で商品を作り、売り、事業を伸ばす側へ移ったことで、P&G時代やマーケティング支援時代には見えなかったものはあったのか。
発信そのものから得られる事業上の利益が以前より小さくなっているのであれば、簡単には読めないかもしれません。
それでも、5年前にあの記事からマーケティングを学び始めた一人として、純粋に読んでみたいと思っています。
もし公開されたら、たぶん私はまた最初から読むと思います。
5年前と同じように、そこから学ぶと思います。
また5年後に、この記事を書き換えたい
そして、おそらくまた5年後。
私自身もこの記事を読み返して、「ここは違ったな」と思うはずです。
新しい研究が出るかもしれません。今支持されている理論が修正されるかもしれません。自分が実務で新しい経験をして、考えを変えるかもしれません。
それでいいと思っています。
むしろ、この文章を一字も書き換えたくないと思っていたら、その方が怖い。
エビデンスベーストマーケティングとは、一つの正解を覚えて守り続けることではありません。
観測された事実によって、自分の考えを更新し続けることです。
先人が調べてくれたことは使う。研究がどこまで示しているかを確認する。自分の会社へ翻訳するときには条件を考える。自分で確かめられることは確かめる。分からないことは、分からないまま仮説として扱う。そして新しい証拠が出たら変える。
この教科書も、完成品ではありません。
2026年時点での、私個人の現在地です。
5年前の私がこれを読んで、またマーケティングを勉強したくなるなら。
そして、今マーケティングを学び始めた誰かが、5年後にこの教科書を書き換えてくれるなら。
これ以上うれしいことはありません。
プロフィール
マーケティング戦略コンサルタントです。 事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。 このnoteでは、実務と研究を行き来しながら、仕事・キャリア・発信に使える再現性の高い考え方を紹介しています。
詳しい自己紹介はこちら。
自己紹介|実務とエビデンスから、マーケティングの本質を探しています
この記事がおもしろかったら、スキで教えてください。
おすすめ記事
マーケティングが何歳か知ってますか?
エビデンスベーストマーケティングを考える前提として、「マーケティングは科学としてどこまで成熟しているのか」を考えた記事です。今回の教科書で扱った、研究と実務の距離、相関と因果、NBD-Dirichletなどの背景をもう少し深く知りたい方におすすめです。
マーケティングとは何をする仕事? マーケターの仕事をシンプルにする定義をシェアします
今回の第1章で使っている、私自身のマーケティングの定義を詳しく説明した記事です。「消費者に価値を届けて、増分を生む」という考え方を、より短く整理しています。
マーケティング戦略とは、何を決めることなのか?
今回の第2章で扱った「戦略=目的達成のためのリソース配分」を、マーケティング実務に落として整理した記事です。エビデンスを知ったうえで、最終的に何を選び、何を捨てるのかを考えたい方におすすめです。
参考URL
石井賢介「【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書」
石井賢介「【マーケティング実践編】無名の僕が12500スキを越えるnoteを書いた裏側の全て」
石井賢介「新しい東京土産を作らないか?そしてリアルタイムの実戦でマーケティングを学ばないか?」
石井賢介「動画版!!【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書」
Ehrenberg-Bass Institute for Marketing Science
Ehrenberg-Bass Institute「B2B Reports」
https://marketingscience.info/b2b-reports/
Barker-Trowse, A., Dunn, S., Graham, C., Sharp, B. & Corsi, A. M.「Tiny brands, big challenges: The limits of loyalty and the role of penetration in driving growth」
https://doi.org/10.1016/j.jbusres.2025.115864
Ehrenberg-Bass Institute「Strategy is a luxury for small brands – focus on being better known」
Trinh, G. T., Dawes, J. & Sharp, B.「Where is the brand growth potential? An examination of buyer groups」
Romaniuk, J., Sharp, B. & Ehrenberg, A.「Evidence concerning the Importance of Perceived Brand Differentiation」
https://doi.org/10.1016/S1441-3582(07)70042-3
Ataman, M. B., Mela, C. F. & van Heerde, H. J.「Building Brands」
https://doi.org/10.1287/mksc.1080.0358
Ehrenberg-Bass Institute「Is Advertising a barrier to market entry?」
Gordon, B. R., Zettelmeyer, F., Bhargava, N. & Chapsky, D.「A Comparison of Approaches to Advertising Measurement: Evidence from Big Field Experiments at Facebook」
https://doi.org/10.1287/mksc.2018.1135
Blake, T., Nosko, C. & Tadelis, S.「Consumer Heterogeneity and Paid Search Effectiveness: A Large-Scale Field Experiment」
https://doi.org/10.3982/ECTA12423
関連書籍
#マーケティング #エビデンスベーストマーケティング #マーケティング戦略 #ブランド戦略 #ブランディング #バイロンシャープ #EhrenbergBass #P&G
