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【5分でわかる】フィジカルアベイラビリティとは

「いい商品を作って、広告で知ってもらえば売れる」

マーケティングを考えるとき、私たちはどうしても商品の魅力や広告に目を向けがちです。

でも、どれだけ欲しいと思ってもらえても、近くの店に置いていなければ買えません。ECで検索しても出てこない、欲しいサイズがない、いつも使う決済方法に対応していない。こうした小さな不便だけで、購買は簡単に消えてしまいます。

逆に、特別な思い入れがなくても、いつものコンビニで目の前にあり、そのまま買える商品を選ぶこともあります。

ここで役に立つのが、フィジカルアベイラビリティ(Physical Availability)という考え方です。

一言で言えば、「買いたいときに、そのブランドを簡単に見つけて買える確率」と考えると分かりやすいと思います。

フィジカルアベイラビリティとは

フィジカルアベイラビリティは、Ehrenberg-Bass Instituteのブランド成長研究で重視されている概念です。

対になるのがメンタルアベイラビリティです。メンタルアベイラビリティが「買う状況になったとき、そのブランドが頭に浮かぶこと」だとすれば、フィジカルアベイラビリティは、頭に浮かんだブランドを実際に簡単に見つけて買えることを意味します。

Ehrenberg-Bass Instituteは、フィジカルアベイラビリティについて、単に「店に置いてあるか」だけではなく、購入者が必要とする商品タイプや数量、価格なども含めた買いやすさとして捉えています。

私はこれを、「現実世界における買いやすさ」と考えています。

たとえば仕事帰りにコーラを飲みたくなり、コカ・コーラを思い出したとします。目の前のコンビニに商品があり、冷蔵ケースですぐ見つかり、自分が欲しい容量があり、価格にも問題がなく、いつもの方法で決済できる。ここまで揃って、ようやく購買できます。

思い出されることと、買えることは別の問題なのです。

なぜフィジカルアベイラビリティは重要なのか

理由そのものは単純です。買えない商品は売れません。

当たり前に聞こえますが、マーケティングの実務では、この当たり前が意外と軽視されます。認知率を上げたり、ブランドイメージを改善したり、SNSで話題を作ったり、商品の魅力を伝えたりする施策には多くの予算が使われます。

しかし、その商品を買える場所が限られていれば、そこで生まれた需要を十分に売上へ変換できません。

Ehrenberg-Bass Instituteも、ブランド成長を考えるうえでメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティの両方を重視しています。

広告で思い出される確率を高めるだけでは足りません。

「欲しい」と「買った」の間には、流通という大きな関所があります。

エビデンスは何を示しているのか

ここは少し慎重に考えた方がいいところです。

「フィジカルアベイラビリティを高めれば、どんなブランドでも必ず○%成長する」という単純な因果効果が、ランダム化比較試験によって普遍的に証明されているわけではありません。

一方、Ehrenberg-Bass Instituteが基盤としている長年の購買行動研究では、市場シェアの大きなブランドほど多くの購入者を持つことが繰り返し観察されています。Double Jeopardy(市場シェアが低いブランドは、購入者数も少なく、かつ購入頻度も低いという不利な状況にあること)やNBD-Dirichletと呼ばれる研究体系からも、ブランド成長の中心には「少数の顧客に極端に多く買わせること」より、より多くのカテゴリー購入者に買われることがあると考えられています。

そのとき、そもそも商品にアクセスできなければ、新しい購入者は増えません。

Ehrenberg-Bass Instituteは、広いフィジカルアベイラビリティによって潜在的な購入者がブランドへアクセスできる可能性が高まり、買えない場合には競合ブランドへ流れる可能性があると説明しています。

つまり、フィジカルアベイラビリティの重要性は、「流通が大事」という感覚論だけではありません。

ブランド成長には購入者数の拡大が重要であり、その前提として、多くのカテゴリー購入者がブランドを買える状態になっている必要がある。

こう考えると、ブランド成長研究とフィジカルアベイラビリティがつながります。

「店舗数」だけの話ではない

フィジカルアベイラビリティという言葉を聞くと、「たくさんの店に置けばいい」と理解しがちです。

しかし、もう少し広い概念です。

Ehrenberg-Bass Instituteでは、フィジカルアベイラビリティを考える際に、Presence、Prominence、Portfolioという観点が使われます。

Presenceは、購買が行われる場所にブランドが存在することです。コンビニ、スーパー、ECモールなど、そのカテゴリーが買われる場所をどれだけカバーできているかを考えます。

Prominenceは、そこに存在するだけではなく、簡単に見つけられることです。店舗に置いてあっても棚の奥に埋もれていたり、ECで検索してもなかなか表示されなかったりすれば、購買機会を逃します。

Portfolioは、購入者が必要とする選択肢を用意することです。商品が見つかっても、「少量でいいのに巨大サイズしかない」「欲しい味がない」「価格が予算に合わない」なら、やはり購買は起きにくくなります。

つまりフィジカルアベイラビリティは、単なる配荷率ではありません。

売っているか、見つけやすいか、欲しいものを選べるか。

この三つをまとめて考える概念です。

PayPayは「使える場所」も増やした

私は以前、PayPayについて記事を書きました。

PayPayの成功要因として有名なのは、2018年の「100億円あげちゃうキャンペーン」です。大規模な還元によって一気に認知や利用意向を作ったことは、もちろん重要だったと思います。

ただ、私がより面白いと思うのは、その裏側でPayPayが猛烈に加盟店を増やしていたことです。

いくら100億円を使って「PayPayを使ってみたい」と思う人を増やしても、近くの店で使えなければ利用は広がりません。

PayPayが増やしたのは利用者だけではなく、「PayPayを使える場所」でもありました。

還元や広告によって需要を作り、それと並行して利用可能な場所を広げる。この構造は、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティを理解するうえで分かりやすい例だと思います。

同じ100店舗でも価値は同じではない

フィジカルアベイラビリティは、「店舗数が多ければいい」と考えるだけでも不十分です。

以前、イオンモールとまいばすけっとについて考えたときにも、この視点が役に立ちました。

イオンモールは広い商圏から人を集める大型拠点です。一方、まいばすけっとは住宅街や駅の近くに入り込み、日常生活の中で頻繁に購買機会を作ります。

仮に両方とも100店舗あったとしても、年に数回訪れる場所と毎週訪れる場所では、購買機会への影響は違います。家から10km離れている店と、駅から家までの帰り道にある店も同じではありません。

だから私は、フィジカルアベイラビリティを見るとき、単純な店舗数だけでなく、「その場所にどれくらい購買機会が存在するのか」まで考えた方がいいと思っています。

デジタルサービスにもフィジカルアベイラビリティはある

「フィジカル」という名前なので、店舗や商品だけの概念に見えるかもしれません。

ただ、私はデジタルサービスにも応用できる考え方だと思っています。

たとえばnoteなら、「マーケティングについて読みたい」と思った人がGoogle検索やnote内検索で記事を見つけられること、おすすめ欄や関連記事に表示されること、プロフィールから目的の記事へ移動できること、外部SNSからたどり着けることなどは、すべて記事へのアクセス経路です。

小売に置き換えれば、検索結果やタイムラインが売り場になっただけとも考えられます。

どれだけ良い記事を書いても、存在を知られず、検索でも見つからず、関連記事にも出てこなければ読まれません。

この意味では、コンテンツにも「買いやすさ」ならぬ「読みやすさ以前の、たどり着きやすさ」があります。

商品を改善する前に、買える状態を疑う

売上が伸びないとき、マーケターは商品やコミュニケーションに原因を求めがちです。

「商品の魅力が弱いのではないか」「広告クリエイティブが悪いのではないか」「ブランドイメージを変えるべきではないか」と考えるのは自然です。

もちろん、それらが原因のこともあります。

ただ、その前に確認できることがあります。

その商品は、本当に十分な人が簡単に買える状態になっているでしょうか。

店舗やECで十分に取り扱われているか、売り場ですぐ見つかるか、欠品していないか、欲しい容量や価格帯があるか、決済方法や営業時間に障害はないか、購入までのステップが長すぎないか。こうした点を確認すると、広告とは別のところに売上を動かせるレバーが見つかることがあります。

流通は営業部門だけの仕事ではありません。

マーケティングが生み出した需要を、実際の売上へ変える接続部分でもあります。

メンタルとフィジカルは、掛け算のように考える

私は、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティを、概念的には掛け算のように考えると理解しやすいと思っています。

これは研究上の計算式ではなく、あくまで理解のための比喩です。

頭に浮かぶ確率が高くても、ほとんど買えないなら売上機会は限られます。反対に、どこでも買えても存在を思い出してもらえなければ、選択肢に入りにくくなります。

つまりブランド成長では、「思い出される」と「買える」を同時に広げていくことが重要になります。

フィジカルアベイラビリティを知ると、街の見え方も少し変わります。

なぜコカ・コーラはこれほど多くの自動販売機に入っているのか。なぜメーカーはコンビニの棚を取り合うのか。なぜPayPayは加盟店開拓に巨額の投資をしたのか。なぜEC企業は配送速度や検索性を改善し続けるのか。

商品や広告だけを見ていると別々に見える施策も、「欲しい人が簡単に買える確率を上げる」という視点から見ると、一つの目的でつながって見えます。

次にマーケティング施策を見るときは、「どうやって欲しいと思わせるか」だけではなく、「欲しいと思った人は、本当に簡単に買えるのか?」まで考えてみてください。

そこにも、売上を動かせる大きなレバーが隠れているかもしれません。

プロフィール

マーケティング戦略コンサルタントです。
事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。
このnoteでは、実務と研究を行き来しながら、仕事・キャリア・発信に使える再現性の高い考え方を紹介しています。

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自己紹介|実務とエビデンスから、マーケティングの本質を探しています

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参考URL

Ehrenberg-Bass Institute for Marketing Science
https://marketingscience.info/

Ehrenberg-Bass Institute「How do you measure 'How Brands Grow'?」
https://marketingscience.info/news-and-insights/how-do-you-measure-how-brands-grow

Ehrenberg-Bass Institute「Sink or soar? Standing out in the e-commerce world」
https://marketingscience.info/news-and-insights/sink-or-soar-standing-out-in-the-e-commerce-world

Ehrenberg-Bass Institute「Is Advertising a barrier to market entry?」
https://marketingscience.info/news-and-insights/is-advertising-a-barrier-to-market-entry

Ehrenberg-Bass Institute「Open-access reports」
https://marketingscience.info/open-access-knowledge/open-access-reports

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