日々是分岐─セガサターン名作「街」の総監督が語るサウンドノベル回顧録・第二十五回「サウンドノベルの分岐会議」
セガサターンの名作「街」の総監督を務めた麻野一哉氏自らが、当時の開発の裏話を回顧録として綴っていく連載コラム「日々是分岐」。
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第二十五回目はサウンドノベルの分岐会議について麻野氏が振り返ります。ぜひご覧ください。
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26. 分岐会議
麻野は三作のサウンドノベルを作った。監修やヘルプで参加したものを入れると他にもあるが、メインで関わったのは、『弟切草』、『かまいたちの夜』、『街』だ。どれにも個別の苦労があったが、「つじつま」ということに関しては『弟切草』がダントツに苦労した。この「つじつま」の苦労にも、「シナリオの整合性」と「音の整合性」の2種類がある。まずは、シナリオについて書く。
前に書いたが、『弟切草』の構造は、「あみだくじ型」で、ミステリーからホラー、ホラーからオカルトへと、編をまたいで何度も行き来する。それぞれの編は、長坂さん、山﨑さん、都筑さん、麻野が個別に書いている。それらをみんなで突き合わせて、ミステリー編のここからギャグ編のここへ飛べるんじゃないかとか、ピンク編のここからホラー編のここへ飛べそうとか、あたりをつける。選択肢を作れる場所を探すのだ。
飛べる箇所が見つかったら、今度は、同じところから、別の編に飛ばせるところがあるかを探す。「ミステリー」→「ホラー」ができたとしても、それだけだと選択肢は2つしか作れない。そのままミステリーを続けるのか、ホラーに行くのかの二択だ。それでもいいのだが、できればもっと増やしたい。なので、「オカルト」「ギャグ」「ピンク」でも、同じ箇所から飛ばせるところがないか探す。
こんな感じで、分岐場所や分岐先を増やしていく。分岐場所としては、テレビ画面で3,4枚分ほどを読んだら、選択肢がでるくらいの頻度をめざした。分岐先は、基本3つ以上をめざす。
この「編をまたぐジャンプ」というのは、何の問題もなく飛べるときもあるが、けっこうな頻度で矛盾が生じる。たとえば、ミステリー編のある箇所で奈美がトイレに行く。しかし、同じ時間帯のホラー編では、奈美はトイレに行かない。この場合、たまたまミステリー編を読んでいると、奈美はトイレに行く。主人公はひとりで行動しているのだが、やがて選択肢が提示される。Aだとミステリー編のままで、Bだとホラー編に行く。Aは、もともとの編なので、矛盾はない。しかし、Bを選んでホラー編へ飛んだら、そっちでは奈美はトイレに行っていない。なので、「奈美がトイレから戻ってきた」という描写もなく、当たり前のように奈美は横にいて、「見て! あれはなに?」とか発言するのだ。ミステリー編でBを選んだユーザーにしてみたら、「え? キミ、トイレ行ってたんじゃないの? いつ、帰ってきたの?」とワケがわからない。
このような現象をなくすために、文章を補完する必要がある。今の例だと、ミステリーのBの選択肢を選んだ後、「ぼくはしばらく、あたりに注意しながら、奈美がトイレから戻るのを待っていた。やがて、奈美は戻ってきた。」という文章を差し込んでから、ホラー編に飛ばすのだ。そうすれば、奈美が「見て! あれはなに?」と言っても、おかしくない。
このような、補完のための文章を、我々は、「おみやげ」と呼んでいた。ミステリーからホラーへ行くときに、手ぶらで行けないからだ。以前、同じ箇所を二度目に読んだら話が変わることを「どんでん」と呼ぶと書いたが、それと同様の身内の用語だ。「ホラー編のここからピンクのここへ飛ばせるけど、おみやげがいるな」とか、そういう風に言いながら会議をしていた。
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