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好意の総量 第二回復路 作家見習いと、元家族社会学系大学院生の往復書簡 2026年7月20日

前回のお手紙(ebinaさんより第二回往路)はこちらから。

ebinaさん、ご無沙汰しております!
私も返信を寝かせに寝かせてしまいました。寝かせて“しまった”と言っている割に、ふてぶてしくも、後悔はしていませんが……。書きたいあれこれを温めているうちに、今綴りたい、ないしは自分の経験する世界に照らして書き留めるべきと思われること、が少しばかりはっきりしてきたものですから。

とはいえ、まず「時間をおいてじっくり考えよう」と思った切欠自体は明確にあります。
先月ebinaさんが下さったお手紙の前半部分、恋愛に対するイメージ、恋愛と呼ばれる実践の像についてです。

私の頭にはそもそも「恋愛」のイメージが形成されていないのではないか? と、改めて感じたんです。より正確に言えば、これまでのnoteで記して事柄、自らが表現しようとしてきた内容は、詮ずるところ次のようなメッセージに行き着くのかもしれない、と思い至りました。今回のお手紙も、その柱がどーーーんと貫くことになりそうです。

すなわち、私は、〈好意〉という大きな括りより先の分節を、あまり行なっていない。なんとなれば、分節の仕方が分からない、つまり「友愛」、「家族愛」、「敬愛」、「恋愛」等々、言葉自体は知識として頭の中に入っていても、そのラベルが何を指すのか補足できた感覚は獲得していないのです。だから、その時々で生起する〈好意〉という感情への名付けに窮してしまうこともしばしば。……では何故、その名付けの営為において私は一々立ち止まっているのか。

今のところ、一つ仮説があります。
ebinaさんの言葉をお借りすれば、いや正直なところebinaさんのそのキーワードに後押しされて纏まってきた考えなのですが(これこそ往復書簡の楽しさ!)、
私は、他の人、少なくともこの二十余年の間に出会った人たちの大半に比べ、自身を含む人間へ向かいうる「〈好意〉の総量」が多いようです。そのようなニュアンスの言葉を、これまで様々な時期の様々なコミュニティにおいて、諸友人からかけられたこともあります。
そして、タンクとしての「〈好意〉の総量」が多いぶん、「好意を向ける」という内面の動きやそれを表す言動を、特別視されるべき経験とは見做していない。
その結果として何が言えるか。表現を選ばずに書いてしまえば、己の内に生起した〈好意〉を省みることなく、ドバドバ垂れ流している訳です。だから、〈好意〉のラベルとその指示内容について経験的に理解できていない。内省が足りんぞという話なのかもしれません。

ただ、今回はこのままもう少しお喋りさせてください。
私は人間一人ひとりを、おしなべて薄らと好いています。そのなかで、「この人のこの特徴(考え方や話し方、仕草など)にとりわけ魅力を感じる」と判断するハードルがまず低く、そこからその人間へ敬意や愛着のないまぜになった〈好意〉を抱くハードルも低い。
なお、ここで「敬意」そして「愛着」と述べたのは、私にとって「魅力を感じる」、いわば〈好意〉を強める源泉の切欠を、憧憬に求められるからです。この相手のこんなところに憧れる(「敬意」)、そんな憧れを追いかけてみたい(「愛着」)……という訳です。
ただし、「愛着」と呼ぶには、それを向ける対象の数が多すぎないか? と思うところもあり。「何かに心惹かれ、離れたくないと感じる」とのニュアンスが「愛着」の語に伴うとするならば、私の場合「愛着」の対象が多すぎて最早「離れたくない」は達成されえないかもしれないですし、自らはそれに対して特段の苦痛を感じていません。

と、したがってここで私の〈好意〉のうち鮮烈なものは、一方的な憧憬、見返りを求めず発露する心の動き、と指摘することが可能です。そこで、「恋愛」の話に戻ってきます。

一対一の関係や(ebinaさんの表現をこれまた借用しますが)「貸し借り」が「恋愛」の特徴だとするなら、私の〈好意〉は現代日本社会における「恋愛」のメインストリームとは相反してしまうのです。「友愛」や「敬愛」なら大して問題は出てこないのですけれどね……。

でも、私は「恋愛」という実践から完全に距離を置きたいとは思っていません。“技術”として、「恋愛」というキーワードをハックしたいと考えています(フロム『愛するということ』における「技術」としての「愛」とはまた別です)。
つまり、人生のパートナーとして一緒にこの社会をライドしていきたい、と思った相手に対して「恋愛」の名前を付けたい。そうして、一緒に生き抜いていく道を、第三者から口出しされないように使える切り札としたい。
見方によっては安易な逃げ道ではありますが、単なる逃げでは終わらせず、「恋愛」や、その先に語られがちな「結婚」へ、ロマンティック・ラブ以外の意味、現代サバイバルにおける格別の信頼……という価値を明示的に付与していきたい。変革としての、「恋愛」レトリックのハックを目指したい。

ここで私の言っている「パートナー」というのは、誰々より〈好意〉の配分が多いから、といったある種の「量」的比較とは異なります。あくまで、目の前に聳える人生とそれを整形しようとする社会的・規範的条件を、何とか自らの意志を持って乗りこなそうとし、そうして逆に自分のものとし、抵抗していける相棒が欲しい。それに適切だと思われる相手、その意味での大切な信頼できる相手、です。

でも、でもですよ、以上のような経緯で私が使う「恋愛」を、許容してくれる人はいるのか……懸念ですね……我ながら難儀な人間……!

ひとまず、人と一対一で向き合うこと、相手がどのような信念や特徴を持っているか知ること、差し当たり自分が磨いていきたい事柄はこれです。

……というようなここまでの話と遠からず近からずでしょうか、ebinaさんからのご質問に答えていきましょう。

質問
自分(ebina)をどんな人だと想像しますか?自分は客観的な意見や見方をもらうのが好きなのでぜひ教えてください。


そして、もう一つ。ぜひアイデンティティという文脈でさくらさんの自己紹介も聞かせてください。

前者は、私にとってかなり頭を悩ませる質問です。なぜなら、他人に対し、この人はこういう人間だと思う、と述べない、いやそもそも内心でも考えずなるべくニュートラルに見るよう、普段の私は心がけているので。なおしかし、私が他人から何らか評されているのをこっそり聞くのは好きです。自分の振る舞いが周囲からどう受け取られているか知ることのできる、いわば検証の機会ですから。

さて、回答として一つ絞り出す(?)とするなら、ebinaさん、日頃からご自身の過去への意味付けをしようとされている方なのかなと、僭越ながら想像しました。
なぜそこへ着目したかというと、私も自分の生育環境(というほど仰々しいものではありませんけれども)と、今の自らの為人との関係性を結びつけて理解することが、しばしばあるからです。誰だって多少はそうなのかもしれませんが。また、自分の過去から現在を説明する背景には、各々違った経緯が存在するでしょうが。

ebinaさんのnote記事を往復書簡以外にもちょこちょこ拝読しているのですが、それらを読むなかで、過去の経験的な出来事を抽出しご自身のパーソナルな特徴を説明なさる仕方に慣れていらっしゃるな、と感じた次第です。
いきさつは勿論私の関知しない範囲ではあるものの、「こういう流れで自分はこのような為人を持っている」と振り返り、考え、説明する機会が私よりかは多かったお方なのかな……?と考えています。だからこそ、自省を繰り返した人ならではの、柔らかくも一本芯の通ったメッセージを綴られるのかな。

これが、現時点で私がebinaさんという人間に対して感じたことです。いかがでしたでしょうか?

翻って、「アイデンティティ」の文脈から、私の自己紹介もしましょうか。自身を構成すると私が考えているのは、次の3要素です。

第一に、人が好き。これは今回のお手紙で散々話してきた通りです。

第二に、多数の人間に向けて話したり、書いたり、換言すれば言語的な自己表現をすることが好きだし、どちらかと言えば得意です。より正確には、慣れています。
これは、第一の点から派生した特徴かもしれません。自分も含め人が好きだから、自分(好きな人)のことを沢山の人(好きな人)に知ってほしい、そしてフィードバックを貰う中で相手のことも知りたい、といった動機です。

第三に、往復書簡のタイトルにもありますが、私は、家族社会学を学んできた、そして学び続けたいと強く願っている人間です。
これもまた第一のポイントや、今回の書簡で綴ってきた自らの〈好意〉の特質を根拠に置けるでしょう。
人間が好きだからこそ人間社会が形成する規範的拘束力の由来とそれが作動する仕組みを少しでも理解したいと思いますし、〈好意〉ひいては親密性のあり方について自分と「世間」とのズレを感じやすい、そんな世界観を自分が有しているからこそ、関連する構造についてとりわけ疑問を抱きます。疑問を抱いているから、「わたし」が「わたし」であると思えます。疑問を抱くことによって、この世界への想像力や寛容さが自らの中で培われつつあり、私独自の信念が動的に形成されているので。


……いつの間にか、今回も長めのお手紙になってしまいました。あと、スタンダールの『恋愛論』お読みいただけるとのこと、大変嬉しいです!! ぜひ気が向いたタイミングでページをめくってみてください。そして、いつか感想でも聞かせてください。

青空の色が濃く力強い季節になってきましたね、日々暴力的な暑さですが、どうか体調にお気をつけて。私は人生で初めてアームカバーを購入しました。日焼け防止に目覚めたというのもありますが、最近の日差しの強さだと、半袖よりも服で肌を覆った方が涼しいなんて気もするんですよね……ebinaさんは何か新たに暑さ対策などされていますか?

まだまだ脳内が書きたいネタで溢れているものの、ひとまず結びに代えて、毎回恒例の質問を投げさせてもらいます。炎陽乗り切りましょう。いやなるべく太陽から隠れていきましょう。良き7月を!!!

質問
今回のお手紙では何度か「内省」が話題に上がりました。ebinaさんはどのようなとき・どのような主題について「内省」しますか? 差し支えない範囲で知れれば嬉しいです。なお、「内省」の指す意味内容はお任せします。

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