非常食、全部を買いそろえなくてもいい?家にある食品を「防災在庫」として数えてみた
「非常食を7日分そろえましょう」と聞くと、なんだか大変そうに感じませんか。
専用の非常食セットを、家族分・7日分そろえる。想像すると、それなりの出費にもなりますし、置き場所にも困りそうです。
物流の仕事を20年以上してきた私が、まず気になるのはここです。
「本当に、専用の非常食だけを新しく7日分買う必要があるのだろうか」
この記事は、以前まとめた「防災備蓄を『家庭の在庫管理』にしてみた」の、食料版にあたります。
本当に非常食だけを7日分買う必要がある?
結論から言うと、そうとは限りません。
農林水産省の「災害時に備えた食品ストックガイド」では、家庭備蓄の目安として「最低3日分〜1週間分×人数分の食品の家庭備蓄が望ましい」とされています。ただし、これは「専用の非常食を7日分そろえる」という意味ではありません。
ガイドでは、備蓄食品を「非常食」という特別なカテゴリだけでなく、「主食・主菜・副菜」という栄養バランスの分類で整理しています。ごはん・パン・そば・うどんなどの主食、肉・魚・大豆製品などの主菜、野菜の缶詰や乾物などの副菜。これらは、災害用に特別に開発された食品である必要はなく、普段の食卓にあるようなものでも構いません。
つまり、「非常食を新しく買う」のではなく、「家にある食品を、防災の視点で見直す」ことから始められる、ということです。
家にある食品も「防災在庫」になる
米、乾麺、レトルトカレー、ツナ缶、パックご飯。これらは、多くの家庭にすでにあるのではないでしょうか。
こうした普段の食品も、災害時に食べられるものであれば「防災在庫」として数えることができます。農林水産省が勧める「ローリングストック」も、まさにこの考え方です。ガイドでは、ローリングストックを「普段の食品を少し多めに買い置きしておき、賞味期限を考えて古いものから消費し、消費した分を買い足すことで、常に一定量の食品が家庭で備蓄されている状態を保つための方法」と説明しています。
専用の非常食を別に買いそろえるのではなく、普段の食品を少し多めに持っておく。これだけでも、立派な防災備蓄になります。
物流では、まず「今の在庫」を確認する
ここで、物流の話を少しさせてください。
物流の現場では、新しく発注する前に、まず「今、何がどれだけあるか」を確認します。すでにあるものを把握しないまま追加で発注すると、同じものを余分に抱えてしまったり、逆に本当に足りないものに気づけなかったりするからです。
家庭の防災備蓄も、同じように考えられるのではないかと思っています。非常食を買い足す前に、まず「今、家に何があるか」を数えてみる。これが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
わが家の食料を棚卸ししてみる
農林水産省の分類にならって、家にある食品を「主食・主菜・副菜」で分けて数えてみましょう。表は使わず、チェックリストにしています。
①主食
□ 米
□ パックご飯
□ 乾麺(そば・うどん・パスタ等)
□ インスタント麺
□ 食パン・乾パン等
②主菜
□ 肉・魚の缶詰
□ レトルト食品(カレー・丼の具等)
□ 豆・大豆製品(充填豆腐等)
③副菜
□ 野菜の缶詰
□ 乾物(海藻・切り干し大根等)
□ スープ・みそ汁(フリーズドライ含む)
④そのほか
□ お菓子・栄養補助食品
□ 乳幼児向け食品
□ 高齢者向け食品(やわらか食等)
□ アレルギー対応食品
□ カセットコンロ・ボンベ
このリストは農林水産省の分類(主食・主菜・副菜)をもとに、BOSAI物流おじが記事用に整理したものです。項目の数え方に決まりはありません。まずは「あるかないか」をチェックしてみてください。
「何個ある?」ではなく「何回分まかなえる?」
数え終わったら、次は「家族の食事を何回分まかなえそうか」という見方に変えてみます。
水の備蓄について、以前こちらの記事で「何本あるか」ではなく「家族で何日持つか」という考え方を整理しました。
食品も同じように、「何個あるか」ではなく「家族の食事を何回分まかなえるか」で見ると、過不足が分かりやすくなります。
これは農林水産省が示している公式な計算方法ではありません。物流の「在庫日数」の考え方をヒントに、BOSAI物流おじが家庭防災向けに整理した、簡易的な数え方です。目安として、次のように考えてみます。
1日3食 × 家族の人数 = 1日にまかないたい食事の回数
4人家族ならどのくらい?
4人家族を例にすると、次のようになります(農林水産省の公式な計算方法ではなく、BOSAI物流おじ側の簡易計算です)。
3日分:1日3食 × 4人 × 3日 = 延べ36人食分の食事機会
7日分:1日3食 × 4人 × 7日 = 延べ84人食分の食事機会
ここで気をつけたいのは、「84人食分=84個の商品が必要」というわけではない、ということです。米・パスタ・乾麺・缶詰・レトルト食品などは、1つの商品・1つの包装から複数人分・複数食分をまかなえることが多くあります。「84個の非常食を買いそろえる」のではなく、「家にある食品で、家族の食事を何回分まかなえそうか」という見方をしてください。
また、主食だけでは栄養が偏ります。農林水産省も「災害直後は炭水化物に偏りやすい」と注意しており、主菜・副菜を組み合わせたたんぱく質・ビタミン・ミネラルの確保が大切だとしています。調理に使う水や、カセットコンロなどの熱源(農林水産省は1人1週間あたりカセットボンベ約6本を目安としています)、食器、そして乳幼児・高齢者・食事制限のある方向けの食品にも、必要に応じて目を向けておきたいところです。
「家にある」と「災害時に使える」は違う
災害時には、冷蔵庫や冷凍庫の中にも「使える在庫」があります。ただし、停電時には食品の安全性への注意が必要です。農林水産省も、停電時の冷蔵・冷凍食品の取り扱いについて注意を呼びかけており、低温を保てる時間の目安(冷蔵庫で約4時間、冷凍庫で約1〜2日程度)を超えた傷みやすい食品は廃棄するとしています。
ここで物流の視点からお伝えしたいのは、家に食品があるからといって、そのすべてが災害時に使えるとは限らない、ということです。停電で傷んでしまった食品、調理に大量の水が必要な食品、熱源がなければ食べられない食品もあります。
つまり、「在庫がある」ことと「使える在庫がある」ことは、同じではありません。
ローリングストック=家庭の在庫循環
ローリングストックは、「古いものから消費し、消費した分を買い足す」という農水省の説明どおりの方法ですが、物流の視点で見ると「先に仕入れたものから先に出す」という在庫管理の考え方に近いものです。
ただし、これは物流業界の正式な管理手法をそのまま家庭に当てはめられる、という意味ではありません。賞味期限は「安全に食べられる期限」ではなく「美味しく食べられる目安」であることが多く、食品によって期限の考え方も異なります。あくまで「古いものから使う」という考え方のヒントとして紹介します。
収納の面では、農林水産省も、日常使う食品はキッチンで、たまにしか使わない非常用食品は押し入れなどで分けて保管することを勧めています。また、水のように量が多いものは「1か所に入らない分は分散して収納する」ともしています。取り出しやすい箱に入れ、賞味期限を側面に書いておくと、何がどれだけあるかが把握しやすくなります。
足りないものだけ補う
ここまで数えてみて、「思ったより少ない」と感じた部分があれば、そこだけを補えば十分です。すべてを新しく非常食で揃え直す必要はありません。
専用の非常食を買う場合も、それは「おすすめ商品」としてではなく、「棚卸しの結果、不足していた部分を補う選択肢の一つ」として考えていただければと思います。
例えば、「棚卸ししてみて、常温で長期保存できる主食が少なかった」という家庭であれば、不足分だけ長期保存できる主食を加える方法もあります。
今回調べた候補の一つが、尾西の白飯(アルファ米)です。メーカー公式情報では、次のようになっています。
・保存期間:製造から5年保存
・内容:うるち米(国産)のみを使用。1食100g、出来上がり約260g
・調理方法:お湯または水を注いでもどす(水のみでも調理可能)
・水/熱源:水またはお湯が必要。熱源(コンロ等)は必須ではない
・アレルギー:特定原材料等28品目不使用
向いていそうなのは、「常温で長期保存できる主食が不足している家庭」「水は確保できるが熱源に不安がある家庭」です。
一方で、すでに米・パックご飯・乾麺などで十分な主食の在庫がある家庭であれば、新たに購入する必要はありません。あくまで「棚卸しの結果、不足していた場合」の選択肢の一つとしてご検討ください。
そして、大切なのは「災害が来そうだから今すぐ大量に買う」ことではありません。むしろ逆です。今あるものを数え、何回分まかなえそうか考え、不足しているものだけを補い、普段の生活の中で食べながら、食べた分だけ買い足していく。この「日常の在庫を少し厚く持つ」という考え方のほうが、家庭にとっても無理がありません。
家庭備蓄は物流回復までのバッファ
農林水産省は、災害発生からライフラインの復旧までに1週間以上かかるケースが多いこと、支援物資が3日以上届かないことがあること、物流機能の停止によって1週間ほどスーパーやコンビニで食品が手に入らないことが想定されることを示しています。
これを物流の視点から見ると、家庭の食料備蓄は「災害そのものを乗り切るための備え」であると同時に、「物流がもう一度動き出すまでの時間をつなぐバッファ」でもある、と考えることができます。「バッファ」という言葉は農林水産省の公式な表現ではなく、物流の在庫管理でよく使われる考え方を、私なりに防災に当てはめたものです。
BOSAI物流おじのまとめ
非常食を新しく7日分そろえることだけが、防災備蓄ではありません。家にある米、乾麺、缶詰、レトルト食品も、立派な「防災在庫」になります。
大切なのは、「何を買うか」の前に「今、何がどれだけあるか」を知ることです。数えてみて、足りない部分だけを補い、普段の生活の中で食べながら買い足していく。それだけで、無理なく備えを厚くしていくことができます。
今日は非常食を買うのではなく、まず家にある食品を数えてみませんか?
「届かない」から考える、暮らしの備え。
BOSAI物流おじ
この記事は、農林水産省の公表資料をもとに整理したものです。備蓄量の目安や食品の取り扱いに関する記載のうち、公的機関が直接示している内容と、BOSAI物流おじ独自の整理・計算とは、本文内で区別して記載しています。商品情報はメーカー公式サイトをもとに整理したものであり、実際に使用したレビューではありません。価格・在庫状況は変動するため、購入を検討される際は販売ページで最新の情報をご確認ください。具体的な献立・アレルギー対応・乳幼児や高齢者向けの食事内容については、必要に応じて自治体や専門機関の情報もあわせてご確認ください。
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