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相談という行為は、時間の無駄だと悟ってブラック企業を退職した話


聞く気のない相手への報連相は、コミュニケーションではなく、独り言です。

報連相が大切なのは、問題が取り返しのつかない状態になる前に共有し、早めに手を打つためでしょう。

でも、それは話を聞いた側が、状況を確認し、必要な対応をしてくれる場合に限ります。

ブラック企業に勤めていた当時、僕はこう結論づけていました。

「相談という行為は、時間の無駄である」

会社を辞めた時、会社の人からも家族からも言われました。

「どうして相談してくれなかったの?」

理由は単純です。

相談して問題が解決した経験が、一度もなかったからです。

「仕事が終わらないときは、前もって相談しろ」

と言われます。

だから僕は、早めに相談しました。

「今日は終わらないかもしれません」

すると返ってきたのは、

「つべこべ言わずに早くやれ」

という言葉でした。

作業のやり方についても、人によって言うことが違いました。

ルールを守って手順どおりに作業すると、

「そんなまどろっこしいことをやってないで、早くやれ」

と怒られます。

手順どおりに作業すれば、当然、それなりの時間がかかります。

しかし現場の作業時間は、最初からルールを守ることを前提に組まれていませんでした。

そこで、言われたとおりに手順を省略して、早く作業しました。

すると今度は別の人から、

「お前のせいで仕事がなくなったら、責任を取れるんか!?」

と、死ぬほど怒られました。

怖くなって正規の手順へ戻せば、また、

「遅い。早くやれ」

と言われます。

ルールを守っても怒られる。

ルールを守らなくても怒られる。

僕は班長に相談しました。

返ってきた答えは、

「笑ってごまかせ」

でした。

それで済むのは、権限のある人だけでしょう。

それでは話にならないと思い、さらに上の人にも相談しました。

その人は、僕の話を理解してくれました。

正直、この会社には意識の低い社員が多いこと。

きついことを言われて辞める人もいること。

そこまでは認めてもらえました。

しかし、解決策を求めると、

「言っても聞かないから」

それで終わりました。

話は、解決する方向へ一ミリも進みませんでした。

これは、僕が経験した「相談しても無駄だった話」の、ほんの一例です。

このほかにも、仕事の中で何か問題が起きるたびに、僕は相談しました。

ただ不満を言うだけではなく、自分なりの改善案も考えて提案しました。

それでも、一つとして解決したことはありませんでした。

「これ、ブッシングが悪いんじゃない?」

僕が勤めていたのは、工場でした。

ガントリーという、製品に穴をあける機械のブッシング(真っ直ぐ穴をあけるためのガイド)を交換したときの話です。

そのブッシングが新しいものに交換されてから、穴をあけるときの感触が明らかにおかしくなりました。

穴の出口には、大きなバリが出る。

さらに、製品へ穴をあけている途中で、ドリルが焼き付きを起こすことが増えました。

古いブッシングを使っていたときには、ほとんど起きなかったことです。

僕は班長に、

「穴あけするときの感触が明らかにおかしいので、一度使って確かめてもらえませんか」

と頼みました。

すると、

「なんで俺がやらなあかんのや。お前がやれ」

と言われました。

感触がおかしいと言っているのに、僕が作業するところを見て何が分かるのだろうか?

それでも、班長の前で穴あけ作業を実演しました。

何本か穴をあけるうちに、実際にドリルが焼き付きを起こしました。

しかし班長は、

「油をこまめにつけろ」

「そんな当たり前のことを言わせるな」

と言っただけでした。

それでは埒が明かないため、僕は整備担当者にも相談しました。

「古いブッシングでは問題なくて、新しいブッシングに変更した途端にバリと焼き付きが連発した。絶対にブッシングが原因です」

しかし、

「ブッシングで穴を開けているわけじゃない」

と言って取り合ってくれませんでした。

確かに、製品へ直接穴をあけているのはドリルです。

しかし、ブッシングはそのドリルを案内しています。

ブッシングを交換した直後から、感触が変わり、焼き付きが起きるようになった。

それでも、その因果関係は検討すらされませんでした。

僕は言われたとおり、油をこまめにつけました。

穴を少しあけてはドリルを戻すようにしました。

ドリルの形状も変えてみました。

それでも問題は解決しませんでした。

作業時間だけが伸びていきました。

すると今度は、

「仕事が遅い」

と怒られました。

その後、偉い人が現場の作業を見に来ました。

そして、一言言いました。

「これ、ブッシングが原因なんじゃない? 変えてみたら?」

鶴の一声で、話が動きました。

僕が何度説明しても検討すらされなかった問題が、その人の一言で解決へ向かいました。

何を言ったかではなく、誰が言ったか。

僕の言葉は、検討するに値しないと評価されていた。

確認を取っても、後から僕の判断にされた

他にも、相談した意味がなくなったことがありました。

ある日、塗装担当から、

「今日塗装する製品が二つあるけど、二つまとめてやると手間がかかる。一つは明日にしていい?」

と聞かれました。

生産計画どおりなら、翌日でも間に合う日程でした。

ただ、後工程が予定を前倒しする可能性もあったため、班長へ確認しました。

班長は、

「いいよ」

と言いました。

だから、一つを翌日に回しました。

ところが後日、後工程が予定を前倒ししたため、製品が間に合わなくなりました。

すると後工程から、

「つべこべ言わないで、二つとも塗装してもらえばよかったんだ。余計なことしやがって」

と怒られました。

僕は、

「班長に許可をもらって決めました」

と説明しました。

しかし班長は、

「俺も忙しいから、いちいちそんな細かい日程まで確認取ってられへん」

と言い、許可した責任を引き受けませんでした。

相談して、許可を取った。

でも、問題が発生したときの責任は僕?

相談って何の意味があるんでしょうか?

また、別の日にはこんなこともありました。

ほかの仕事との兼ね合いで、塗装工程に製品を渡すのが大幅に遅れました。

僕は塗装担当へ言いました。

「遅れて申し訳ありません。今から塗装をお願いします」

すると、

「残念。もう終わって道具片付けてまった」

と言われました。

僕は、

「でも今日塗装しないと、後工程に間に合わないんです」

と説明しました。

しかし、返ってきたのは、

「時間どおり持ってこないお前が悪い」

という言葉でした。

僕ではどうにもできなかったため、塗装職場の責任者へ相談しました。

「あの、僕が製品を持って行くのが遅れてしまって、もう今日の塗装は終わったと言われました。ただ、今日塗装しないと後工程に間に合わないので、申し訳ありませんが、今日中に塗装していただきたいです」

すると責任者は、

「それなら塗装担当に言って」

と答えました。

塗装担当に言って断られたから、責任者に相談したのに。

塗装担当は、

「お前、上司にチクリやがったな!」

と死ぬほど不機嫌になりました。

しかも、この人とは、その日だけ関われば終わりではありません。

僕の職場の製品を塗装するのは、毎日のようにこの人でした。

そして、今後も製品の引き渡しが遅れる可能性はなくなりません。

社外検査が終わる時間は読めない。

その時間に僕がほかの仕事で忙しければ、すぐにマスキングへ取りかかることもできない。

一つ前倒しして余裕を作る案も、すでに班長から却下されていました。

生産計画で決まっているから、勝手に先行できないとのこと。

作業者は勝手に先行するのに。

このままでは、遅れるたびに塗装担当の機嫌を損ね、その後も毎日のように気まずい状態で仕事を頼まなければなりません。

そこで仕方なく、僕は塗装担当へ定期的に飯を奢り、機嫌を取ることにしました。

その結果、何とか仕事は回るようになりました。

会社が解決しなかった問題を、僕は自分のお金でなんとかしました。

「大変だったな」の一言すら、無駄だった

新人教育も、同じでした。

僕は作業者だった頃、比較的簡単な工程を任されていました。

つまり、新入社員、中途入社、応援に来た人。

右も左も分からない未経験者が、一番最初に配属される場所です。

何も知らない状態から、一つずつ教える。

教えたら、確認しなくてはいけない。

教えた人がミスをすれば、教えた僕の責任になります。

それでいて上からは、

「人つけてやってるんだから、早く終わるだろ」

と言われます。

しかも、月に一度くらいの周期で、教えた人が、別の即戦力が欲しい職場へ引き抜かれます。

交換で、また新しい新人が入ってきます。

引き継ぎはありません。

やっと一人で任せられるようになってきた。

やっと少し楽になってきた。

そう思った矢先にです。

教えていた新人のなかに、一人、根本的に向いていない人がいました。

合格品より不良品の方が多いような状態でした。

しかも、その人が手直しをしても、「直ってない」「見栄えが悪い」と検査に突き返される。

僕は班長に相談しました。

「このままでは間に合いません。担当を変えるか、一人でできるようになるまでOJTを続けさせてください」

しかし、

「OJTを長くやると、上から怒られる」

「担当を変えたら、新人の仕事が定時までもたなくなるけど、何やりましょう?って聞かれても知らんぞ」

「本人にやらせなきゃ、いつまでも成長せんやろ」

と、どの案も拒否されました。

本人だけにやらせれば、納期に間に合わない。

僕が代わりに手直しすれば、「指示に従わないのか」と怒られる。

結局、僕は大量の手直しを引き受け、自分の仕事を遅らせ、その遅れをまた怒られました。

最終的に、その新人は別の部署へ異動しました。

それで問題は終わりました。

最初から、担当を変えれば済んだ話でした。

教育の失敗は、僕の責任として残る。

教育の成功は、僕を通り過ぎて、別の工程の利益になる。

僕は、この状態をずっと繰り返していました。

ある飲み会で、「何か悩みはないか」と聞かれました。

僕は、この話をしました。

僕は悩みを、

「せっかく育てても、使えるようになった頃に引き抜かれて、またレベルがリセットされる」

と表現しました。

返ってきたのは、

「ゲーム脳やな」

という一言でした。

「レベルリセット」という言葉尻だけが拾われ、そこから、

「最近の若者はゲームと現実を混同している」

という、まったく関係のない話が始まりました。

僕が何につらさを感じていたのか。

なぜ新人教育の負担が、いつまでも減らなかったのか。

そんな本題は、一つも聞かれませんでした。

僕は、問題を解決してほしかったわけではありません。

ただ、「大変だったな」の一言がほしかっただけでした。

それすら、無駄でした。

問題を解決するための相談だけではない。

共感を求める相談ですら、無駄だった。

そのことに気づいた時、この会社で働き続ける未来を想像できなくなりました。

「次に手伝ってくださいと言ったら辞める」


その後、繁忙期になり、一番ヤバい時は、毎日5時間の残業に加えて土曜日も出勤していました。

僕は一人では間に合わなくなり、作業をほかの人に手伝ってもらっていました。

その仕事について、同僚から、

「今お前がやってる仕事は、この会社で一番簡単な仕事なのに、一人でできないのはおかしい。この会社に必要ないんじゃない?」

と言われました。

毎日5時間残業して、休日出勤して、それでも終わらない仕事をしてる人が必要ない?

じゃあ僕をクビにして新人入れればいいんじゃないの?

僕のプライドは著しく傷つきました。

それ以降、僕は人へ助けを求めなくなりました。

手伝ってもらうことも、できるだけ拒否しました。

僕は親しかった同僚に、

「次に“手伝ってください”と言わなければならない状況になったら、辞めようと思う」

と話しました。

ここで、僕が必要ないことを証明されてしまったら、何か大切なものが壊れてしまう。

そう思いました。

ところが、その同僚は、勝手に上司へ伝えました。

「寺尾さん、かなり追い詰められてるみたいですよ」と。

上司は、僕の言葉を違う意味に受け取り、怒りました。

「お前が大変だと思ったから応援者をつけてやろうとしていたのに、手伝いを頼んだら辞めるなら、全く楽にならないからお前一人でやれ!」

僕は事情を説明しました。

「◯◯さんに、僕が担当している仕事は『この会社で一番簡単な仕事』だから、一人でできないのはおかしいと言われました。だから、自分のプライドを守るために、手伝いを拒否しました」

すると◯◯さんが、

「俺が悪者になったじゃねぇか! そういうつもりなら徹底的に戦うからな!」

と言ってきました。

どうも本人としては、発破をかけたつもりだったらしいです。

それを、僕を辞めさせようとしているように言われたのが心外だったようです。

「こんなことになったんだから、お前どう責任とるの?」

責任って何?

「こんな大事にしておいて、何の責任も取らないなんて俺は認めない」

僕が黙っていると、

「次に仕事を遅らせたら辞める、でいいんじゃないの」

と言われました。

ああ、もうめんどくせえな。

「じゃあ、それでいいです」

その後、忙しさで身体も頭も動かなくなり、仕事の速度も落ちていきました。

そして、仕事を遅らせた最初の日。

同僚は僕に聞きました。

「もう総務に辞表を提出したの?」

遅れた初日に提出してるわけない。

一応、遅れた理由は説明しました。

「だから何? 全力出したら疲れるから? 1日全力で作業するのが仕事だろ」

というような反応でした。

その日の仕事が終わったあと、僕は便箋と封筒を買いました。

スマートフォンで退職届の書き方を調べ、その日のうちに書きました。

家族にも、会社の人にも相談しませんでした。

以前、母親に、

「今の仕事を辞める前に、働きながら次の仕事を探そうと思う」

と話したことがあります。

すると、

「今のご時世、まだ仕事を辞めてもいないのに“仕事を紹介してください”なんて言ったら、“何しに来たの?”って言われるよ」

と言われました。

どうせ否定される。

どうせ「お前は間違っている」と言われる。

そう思っていたからです。

翌朝、僕は上司へ退職届を渡しました。

「今月末で辞めます」

理由を聞かれても、それまで起きたことを一つずつ説明する気力は残っていませんでした。

「もう疲れました。」

その一言の中に、全部入っていました。

「相談してくれればよかったのに」

そう言う人もいました。

相談しても、マイナスにしかならないからですよ。

ちなみに僕が辞めたあと、

「人を頻繁に入れ替えず、一人を長く固定した方がいい」

という話になったらしいです。

最初から、そうすればよかったのに。

ハローワークで、事情を説明した

会社を辞めたあと、ハローワークへ行きました。

会社では、僕の退職は自己都合として処理されていました。

窓口で、会社を辞めた経緯を説明しました。

別に、相談したつもりはありませんでした。

ただ、

「こういう理由で辞めました」

と事情を話しただけです。

残業時間が月百三十時間を超えていたことも伝えました。

給与明細を見ると、残業時間が百三十四時間ほど記載されていました。

担当の女性は、その明細を見て言いました。

「これ、コピーを取らせてもらってもいいですか」

担当者は会社へ連絡し、確認してくれました。

その結果、退職理由の扱いが変わり、雇用保険もすぐに受け取れることになりました。

正直全く期待してなかったので驚きました。

僕の話を最も真剣に聞いてくれたのが、初対面の他人だった。

相談すらしていないのに、事態が好転した。

事情を説明しただけで、相手が問題に気づき、自分から確認し、必要な対応をしてくれました。

初めて気づきました。

相談すること自体が無駄だったわけではない。

話しても何も変わらない人しか、周りにいなかっただけでした。



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