青木美希記者の原発問題に関する私的な活動まで抑圧する朝日新聞社の経営姿勢は「原子力村の一員である事実」を教えるのか(その1)
1「3・11から9年 朝日新聞 “原発記者” が現場を外される異例人事」『日刊ゲンダイ』2020年3月11日,https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/270283 が指摘した朝日新聞社の闇は,なにか特別の事例ではなく,この種のあつかいを受けてきた社員(記者)にかぎって,優秀・有能な人材である場合が通例であった
最初に,つぎの『日刊ゲンダイ』の記事を紹介する。
--〔2020年3月〕11日で東日本大震災から丸9年。新型コロナウイルス禍で政府主催の追悼式が中止されるなど風化が懸念されているが,そんななか,朝日新聞で前代未聞の人事異動が内示され,社内に衝撃が走っている。
♭ 定年前社員だらけ「記事審査室」への異動 ♭
原発報道に取り組み,同紙で新聞協会賞を2度も受賞(取材班)した社会部の女性記者Aさん(46歳)が現場から外され,広報部門の「記事審査室」への異動を命じられたというのだ。
「記事審査室」は8人ほどが在籍し,主にデスクや部長などを経験した定年前の社員が配置される部署。毎朝,新聞各紙を読み比べ,自社の記事に対する論評を執筆し,編集部門に届けるのが仕事だ。そこへデスク経験もない記者が配属されるのは異例で,社内では「ありえない人事」との声がしきりだという。
人事発令は4月1日付。会社の説明は「記事審査室に若い人や女性を増やす」ということのようだが,それを真正面から受けとる社員はほとんどいない。
「福島原発事故をめぐる吉田調書問題後も,Aさんは原発報道を被災者目線で地道に伝えてきた。2年前には被災地を丁寧に取材した著書を出版し,各地で講演もおこなっています。会社は原発を批判する報道を煙たく思っている。『原発問題を取材しすぎると,こうなるぞ』という “見せしめ人事” じゃないかと疑われています」(朝日新聞社員)
Aさんは弱い立場の原発避難者などを取材してきたため,Aさんが現場を外されるとしった避難者が朝日新聞に再考を求める意見を送ったり,原発の被害者団体などが嘆願書を出す動きも出ているという。
「本を出したり,講演に呼ばれたりとAさんは社内で目立っていた。上はそれが面白くなかったのでしょう。朝日は今年,新しい中期経営計画を策定する年で,『記者個人を売り出す』『スター記者を作る』といった方針を打ち出す方向。Aさんの人事はそれに逆行しています」(別の社員)
〔2020年3月〕先月29日の安倍首相会見で,官邸と記者クラブとのズブズブのヤラセが明らかになったが,幹事社は朝日新聞だった。政権忖度で守りに入り,原発記者を閑職に飛ばして潰すのか。それでジャーナリズムの先頭を走っているつもりだとしたら失笑だ。
同社広報部は「人事異動に関わるご質問について,お答えはいたしかねます」とコメント。記事審査室については「取材,報道への幅広い理解とニュース感覚が求められる部署で,デスク経験の有無や年代にかかわらず,これまでも広く登用しています」と答えた。(引用終わり)
a) この朝日新聞社記者のAさんとは青木美希記者のことであるが,本ブログ筆者はこの青木の著書2作をすでに読んでいたので,以上の記事については格別に関心を抱いた。まず2020年代に青木が制作・公表したつぎの2著を紹介する。
青木美希『 なぜ日本は原発を止められないのか?』文藝春秋(新書),2023年11月。
同 『それでも日本に原発は必要なのか? 潰される再生可能エネルギ』文藝春秋(新書),2026年2月。
従来,『朝日新聞』の編集方針(ふつうの会社でいえば社是・理念に相当し,新聞発行のために採られる基本的な経営上の立場)は,基本において反原発の立場であると思われていたけれども,青木美希記者に対する以上のごとき人事管理次元の対応は,日本経済新聞社や読売新聞社における実話でもあるまいに,ずいぶん奇怪かつ神経質なあつかいになっていた。
青木美希自身は2026年に公刊した著書のなかで,自分が受けてきたその不当な処遇を説明していた。
ところで,ユーチューブ動画番組(サイト)の舞台に移った話題に触れてみると,鮫島 浩という元朝日新聞記者は,自著『朝日新聞政治部』講談社,2022年に書いてあった中身だが,自分の記者生活をつぎのように回顧していた。
b) 鮫島 浩は,朝日新聞社退社後も「ジャーナリストはつづける。でもサラリーマンはもう懲り懲りだ。退職して別の会社に就職するつもりはなかった」(同書,293頁)と,同書のなかで語っていたから,青木美希が現在,朝日新聞社のなかで余儀なくされている境遇に似た体験をしてきた。
また,やはり朝日新聞社の記者だった佐藤 章は現在,ユーチューブ動画番組『一月万冊』の正式語り手(ユーチューバー)として活躍しているが,朝日新聞社で青木美希が現在まさに体験させられたり,鮫島 浩が過去に体験してきたりした「それぞれの出来事に類似する経歴」を強いられてきた人物である。
佐藤 章が『一月万冊』においてたとえば,本日正午の時点で最新となる動画の公開は,これである。
昔,日本の会社における人間類型に関してこれを,わざと極論的に概念化した「社畜」という表現があった。前段の話は,青木美希や鮫島 浩,佐藤 章の3名分の事例しか挙げられていなかったけれども,日本の会社においては「言論機関(メディア・マスコミ)の世界」における,彼女や彼らの人生経路が描いてきた苦難(その「社畜」にならないという抵抗精神)をよく教えてくれる事例になっている。
c) 以上の話は朝日新聞社の場合を取りあげてみたが,かといって読売新聞社や日本経済新聞社が,比較してみる場合,よりまともで,りっぱな会社かといったら,実は全然違う。ある意味ではもっとひどい。
読売は基本,記者が会社の立場で個人によるSNSアカウントの利用を禁じている。日経は結局,原発万々歳になるばかりである宣伝的な記事しか記載しない。だからしょせん「3・11」など多分「▼ソ食らえだ」という社風に染まっている。その旨に沿って発行する経済紙になっているから,まともな新聞を発行する新聞社だとみなすためには,相当にヘンテコな義侠心が要求される。
--ここで青木美希の経歴を紹介しておこう。ただしここではひとまず,まだ2020年3月15日当時までの経歴である。
ここでは,「青木美希(あおき・みき) 朝日新聞社会部記者」『朝日新聞』「論座」https://webronza.asahi.com/authors/2019060200001.html の記述を引用する。
札幌市出身。北海タイムス(休刊)で警察,経済取材を,北海道新聞で北海道警裏金問題などを取材し,2010年に朝日新聞社に入社。
東日本大震災を発生翌日から現場で取材し,原発事故を検証する企画「プロメテウスの罠」などに参加。「手抜き除染」報道などを手がける。
著書『地図から消される街』(講談社現代新書)で貧困ジャーナリズム大賞,日本医学ジャーナリスト協会賞特別賞など受賞。
青木美希の経歴に生じた事象については,ある人物がこう述べていた。
「大変優秀な方で私も注目していましたが,政府に不都合な真実を報道するので,にらまれて左遷されたのでしょう。前にもこんなことがあったなと思ったら,テレビ朝日『報道ステーション』を降ろされTBSに移籍した小川彩佳アナウンサーでした」。
d)「政府に批判的な朝日を潰して御用メディア化すればこの世に敵はなし。安倍政権が朝日に猛烈な圧力をかけていることは間違いありません。みんなで朝日新聞に強く抗議し,青木美希さんを応援しましょう」。

* 福島避難者の方から以下の要望が寄せられました。
◆ 原発問題を追いかける「朝日新聞」青木美希記者を
現場から外さないで下さい ◆
=『レイバーネット』 http://www.labornetjp.org/news/2020/0308aoki =
【拡散希望】
原発問題や社会的弱者を丁寧に取材されてきた朝日新聞の青木美希記者が,〔2020年〕4月から現場を外され,一行も新聞に書けない部署への人事異動があったと聞き,皆さまにご協力をお願いしたく投稿します。
現場を一番大切にしてきた方が取材出来ない,被害者が取材してもらえない,事実が伝わらない歯がゆさを思うといたたまれません。朝日新聞「ご意見・お問い合わせ」にご意見を送っていただけませんか?
https://www.asahi.com/corporate/contact/11589259
国家権力が揉み消そうとしている不都合な事実を「なかったことにはさせない」と抗い,被害者・弱者に寄り添い,いつも真に迫る記事を書き続けてくれている稀有な存在。特に原発問題をとことん追いかける記者は本当に貴重な存在だし,被害者の希望の光です。
3・11から10年目を迎えオリンピックやコロナウイルス騒ぎで追悼式さえ中止になり,ますます被害が矮小化され,無かったことにされようとしています。忖度しまくるマスコミ業界の中で,美希ちゃんのような記者が絶対に必要なんです。どうかこの人事異動を止められるようにに皆様のお力をお貸しください。
安倍晋三政権は2020年9月26日に終わっていたから,以上の話はこれより以前の時期における話題であった。
青木美希が2018年3月に公刊していた『地図から消される街 3.11 後の「言ってはいけない真実」』講談社(現代新書)は,この書名からも伝わってくる含意,つまり,既述中に触れたごとき「青木に対してくわえられてきた」「なんらの圧力」が,いったいどの方面から生起されていたのか,という点について,われわれの側は関心を向ける必要がある。
e) その青木『地図から消される街 3. 11 後の「言ってはいけない真実」』については,アマゾンのブックレビューが「読後感としてだが」,すでに要領よく紹介してくれていた。朝日新聞社の記者となっていた青木美希が,その社内で抑圧される原因が指摘されていると,読んでよい内容である。
※ トップレビュー「ラプソディー 星5つ中5つ」※
『あくまでも丁寧な事実の積み重ねの上に
明らかになるものとは』2018年3月29日
著者は朝日新聞「プロメテウスの罠」チームの一員。震災直後から,実に丁寧に取材を積み重ねている。 福島を中心とする原発事故被害を受けた地域で,私自身もいつも直面するのは小さな欺瞞の積み重ねだ。
大量に放出された放射性物質が地域全体を覆ったこと。それを除染と称して途方もない予算を投入する事業が続いている。 しかし,その現場をみれば,いかに矛盾に満ちていることか。その一つ一つを指摘していくことは,また違った意味で胆力のいる作業だ。その作業をこの著者青木美希さんはし続けている。
いったい,政府や福島県は何を守ろうとしているのか。 いったい誰が最も被害を,復興政策のしわ寄せを受けているのか。 丁寧な取材で浮かび上がってくる。 避難せざるを得なかった人びとを,政府や福島県がどうやって追い詰めているのか,その内実も具体的に明らかにされている。
避難者が受け続けている,逆境の数々に涙がこぼれる。 この社会はなぜ,ここまで冷たいのか。避難者,除染作業員,立場は違うけれども,著者のアプローチは一貫している。あくまでも現場に立ち続け,事実の裏付けをきちんと取りながら,そこにある不正や理不尽をあぶり出していく。
理解されにくい,しかも加速度的に風化にさらせれているこの問題に鮮やかな光をあて,私たちの目を覚まさせてくれる。 一読をおススメします。
ここで書かれているごとき,被災者が受けてきた理不尽・不合理・冷酷さ,これはもちろん日本という国家体制側が意図的ともいいくらい,それも恣意的に強いてきた「それらの実態」を指すが,最近であればたとえば,能登半島地震(2024年1月1日16時10分に発生)に対する地方自治体「石川県」を超えての日本政府のその「放置ぶり」とみたら,本当にヒドイものであった。
f) たとえば,小暮聡子「能登半島地震から半年,メディアが伝えない被災者たちの悲痛な本音と非情な現実」『ニューズウィーク 日本版』2024年7月01日 10時40分,https://www.newsweekjapan.jp/articles/-/56123?display=b は,この災害が発生してから7か月後になるが,こう記述していた。
〈「テレビは表面的な報道ばかり」「集落は全滅と一緒です」「岸田さんは何をしとる?」 過疎高齢化の集落で取り残された被災者の声を聞く〉
今年の元日に発生した能登半島地震から半年,被災地以外の地域に暮らす人々の目に能登の現状はどう映っているだろうか。地震直後に3万4000人余りいた石川県の避難者は,旅館などへの2次避難を含めて2394人にまで減った(6月18日時点)。2月からは仮設住宅への入居も順次始まり,金沢などに散り散りになっていた住民がようやく故郷に戻り始めた。
こうした断片的なニュースは,水も電気もなく命が危険にさらされていた災害直後の状態から考えれば,復旧・復興に向けた一つの真実ではある。だが震度7が観測された輪島市を歩けば,半年もたつのにそこだけ時間が止まったかのような,まるで取り残されたかのような光景が至る所に広がっている。
1月に取材した輪島市を6月上旬に訪れると,焼け焦げた朝市の光景はほぼそのまま,鉄骨にサビが広がり,輪島塗の老舗「五島屋」の7階建てビルは横倒しのまま放置されていた。その周辺には全壊した家屋がいくつも残されている。
変わった点はといえば,以前は上空をバラバラと音を立てて飛んでいた自衛隊のヘリコプターが姿を消し,町全体が奇妙に静まり返っていたこと。そして,被災者の間に「忘れられていく」ことへの不安と先行きのみえない現状へのストレスが蓄積されていたことだった。
「放置されている」という始末
能登半島地震に関連する「その後」の現実的な様相の推移は,実は東電福島第1原発事故の被災地とはまた違った姿を強いられていた。菅 義偉(元首相)がわれわれに対して強要した概念,「『公助』に頼るな,まずなるべく『共助』でやれ,それがダメなら必らず「自助」でいけ」という基本姿勢にかいまみえる政府側の発想:態度のきわだった「貧困の哲学」は,まるで国民蔑視・棄民政策そのものでしかありえなかった。
以上の,能登半島地震のその後における「復興ならぬ復旧」じたいの「尋常ならざる遅延の実情」は,1945年3月から敵将カーティス・ルメイが日本本土に対して本格的に仕かけ,「市民まで殺しまくった本当の無差別・絨毯爆撃」の犠牲者に対して敗戦後,政府が救済措置をいっさい講じようとはしなかった姿勢にまで,すなわち時空および国境を超えて通底する「ひからびたこの国家の罪悪性」を明示した。
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【付記】 「本稿(1)」の続編は以下である。
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【参考文献】
