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pasteltime
金木犀の祝福 (ショートショート #風まかせ文芸部)
「金木犀の匂いって、美味しそうよね」
と彼女は笑った。
いつもの散歩道で路地裏を歩いていると、ふとあの香りがした。
クン、と鼻を鳴らして
「秋が訪れたみたいだね」
と彼女に告げる。
「何? 急に…」詩的なことを、とふふっと笑みをこぼす。僕はまぶたを閉じ、胸いっぱいに深呼吸をした。それを見て、同じように彼女もしてみせる。
「あら、」とつぶやいた。「本当ね」
首をめぐらせて、とある家を指す。
その先に、緑に茂った木がオレンジの小さな色を点々と散らしているのが見えた。
「ああ、あった」
僕は表情をほころばせる。この季節は散歩の楽しみが2割増しになるなと思った。
そう彼女にそう告げると
「あら。あなたと散歩をする喜びはいつだってMAXよ」
と小首をかしげる。
肩の上で、綺麗に切りそろたツヤのある黒髪を揺らしてそう告げる様子は素敵だったが、さらにそのセリフも心を鷲掴みにして、思わず胸を押さえた。
やれやれ、と思いながら再び彼女を見ると、こちらを向いて上機嫌な表情で満面の笑みを浮かべていた。
「どうしたの」
「いえ、別に」
彼女はそう言った後、ほんとうに可愛らしい、とボソっとつぶやく。
僕は素知らぬふりをして、彼女の車椅子を押し続ける。
「来年もまた、見に行きましょうね」
その言葉は重くのしかかったけれど、僕は何でもないように装って
「そうだね」と返した。
了
iさんの風まかせ文芸部に久しぶりに参加させていただきました。
どうぞよろしくお願いします。
