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タイ料理は、なぜ今“町タイ”として見直されているのか

ポスト・タイフェス時代の食文化を考える

私が初めてタイ料理に出会ったのは、1990年頃、横浜・本牧にあったマイカル本牧のレストラン街にあったタイ料理店でした。

当時の日本では、タイ料理は今ほど身近ではありませんでした。
初めて食べたときは、辛さと酸味に衝撃を受け、「二度とこんな料理は食べない」と思ったほどです。

ところが、その一週間後には、また同じ店に向かっていました。

辛い。
酸っぱい。
香りが強い。
でも、なぜかもう一度食べたくなる。

その感覚が、私にとってのタイ料理との最初の出会いでした。

その後、1997年に初めて出張でタイを訪れ、仕事とプライベートを合わせると、訪タイ回数は130回を超えました。
タイは、私にとって単なる旅行先ではなく、異文化を理解すること、食を通じて人や社会を見ることの大切さを教えてくれた国でもあります。

だからこそ、最近の日本におけるタイ料理の見え方の変化には、とても関心があります。

これは単なる「タイ料理ブーム」なのか。
それとも、日本の町の中でタイ食文化が新しい意味を持ち始めているのか。

その問いから、今回の記事を書いてみたいと思います。

タイ料理は、すでに珍しい料理ではない

タイ料理そのものは、以前から日本にありました。

トムヤムクン、グリーンカレー、ガパオライス、パッタイ、カオマンガイ。
こうした料理は、すでに多くの人に知られています。

タイフェスティバルも長年続いており、東京のタイフェスは、非常に大きな集客力を持つイベントとして知られています。

一方で、最近気になっているのは、単なる「タイ料理人気」ではありません。

タイ料理が、少しずつ“町の食文化”として見直され始めているのではないか、ということです。

テレビでも「町タイ料理」という言葉が使われるようになり、若い世代の女性が、町にあるタイ料理店を訪ねる番組も放送されるようです。

町中華、町焼肉に続くように、町の中にあるタイ料理店が、単なるエスニック料理店ではなく、ひとつの食文化として見られ始めている。

この変化には、今後の食ビジネスを考えるうえで、大きなヒントがあるように思います。

かつてタイ料理は、日本人にとってかなり“遠い料理”だったと思います。

辛い。
酸っぱい。
香りが強い。
何を頼めばよいか分からない。
本格的な店は少し入りづらい。

そう感じる人も多かったはずです。

しかし今では、ガパオライスやグリーンカレーは、外食だけでなく、コンビニ、惣菜、冷凍食品、レトルト食品でも見かけるようになりました。

無印良品をはじめ、多くの小売店でもタイカレーやアジア料理の商品は展開されています。
カルディや成城石井でも、タイ料理に使える調味料や食材は珍しいものではなくなっています。

つまり、タイ料理はすでに「知らない料理」ではありません。

ただし、ここに難しさもあります。

すでに知られているからこそ、単に「本場のタイ料理です」「タイの名店監修です」「タイフェアを開催します」だけでは、十分な新しさが出にくくなっています。

タイ料理は珍しくなくなった。
しかし、完全に日常化したわけでもない。

この中間の状態に、今の日本におけるタイ料理の面白さがあると思います。

タイフェスの熱量と、日常のタイ料理には距離がある

タイフェスティバルには多くの人が集まります。

会場には、タイ料理、タイ雑貨、タイビール、タイスイーツ、音楽、観光情報が集まり、まるで短時間だけタイに旅行したような気分を味わえます。

しかし、タイフェスで盛り上がることと、日常的にタイ料理店へ通うことは、同じではありません。

イベントでは、非日常の高揚感があります。
友人と出かける楽しさがあります。
屋台で買って外で食べる開放感があります。

一方で、日常の外食では、もっと現実的な判断が入ります。

今日は何を食べたいか。
辛すぎないか。
一人で入りやすいか。
価格に納得できるか。
誰と行く店なのか。
また行きたい理由があるのか。

ここに、タイ料理の大きな課題があります。

タイフェスでは楽しい。
でも、日常の食事としてはまだ少し距離がある。

その距離をどう埋めるかが、次のタイ料理ビジネスの重要なテーマになると感じています。

なぜタイ料理は定番メニューに偏るのか

タイフェスでも、タイ料理店でも、よく売れる料理はある程度決まっています。

ガパオライス。
グリーンカレー。
トムヤムクン。
パッタイ。
カオマンガイ。
ガイヤーン。
サテ。
ソムタム。

これらは、日本人にも名前が知られている料理です。

一方で、タイにはもっと多様な料理があります。
地域によって味も違います。
北部、東北部、南部、バンコク、タイ中華。
それぞれに違う魅力があります。

それでも日本では、まず定番料理が選ばれます。

これは、タイ料理の広がりが弱いということではありません。
むしろ、日本市場におけるタイ料理の現在地をよく表していると思います。

多くの日本人にとって、タイ料理はまだ「知らない料理を探す市場」ではなく、
「知っているタイ料理を安心して楽しむ市場」なのです。

つまり、次に必要なのは、奇抜な料理名を紹介することではありません。

定番料理を入口にしながら、その先にあるタイ食文化の奥行きへどう導くか。
ここが重要になります。

“町タイ”とは、料理ジャンルではなく、近場の異国感である

町タイ料理という言葉が面白いのは、それが単なる料理ジャンルではないからです。

町中華は、料理の新しさで支持されているわけではありません。
チャーハン、餃子、ラーメン、レバニラ。
メニュー自体はむしろ定番です。

それでも町中華が愛されるのは、そこに店主、町、常連、時間の積み重ねがあるからです。

町タイ料理にも、同じ可能性があります。

町にあるタイ料理店には、現地出身の店主がいます。
日本で働くタイ人のお客様がいます。
タイ好きの日本人がいます。
夜遅くに集まる人たちがいます。
日本の町の中に、タイの生活感が少しだけ入り込んでいます。

これは、観光地のタイでも、ホテルのタイ料理でも、百貨店のタイフェアでもありません。

日本の町に根づいた、近場の異国感です。

私は、ここに“町タイ”の本質があると思います。

ただし、町タイ料理店そのものを事業化するのは簡単ではない

一方で、町タイ料理をそのままビジネスチャンスとして見るには、注意も必要です。

個人経営のタイ料理店は、必ずしも経済的な余裕があるわけではありません。
外部のコンサルティングを受ける余力がある店ばかりではありません。

また、シェフやスタッフの入れ替わりによって、味が変わることもあります。
在留資格や帰国の事情によって、人材が安定しにくいケースもあります。

さらに、地域によっては、主な顧客が周辺で働くタイ人やアジア系の人々であり、日本人向けに無理に再編集することが、必ずしも店の利益につながるとは限りません。

つまり、町タイ料理店そのものを対象に、外部から一律に改善提案をすることは、現実的ではない場合があります。

ここを見誤ると、表面的な「町タイブーム」への便乗になってしまいます。

企業が取り込むべきなのは、店そのものではなく“町タイ化”の意味

では、企業はこの流れをどう捉えるべきなのでしょうか。

私は、タイ料理店をそのまま支援することよりも、
“町タイ化”という現象を読み解くことが重要だと思います。

町タイ化とは、タイ料理が単なるエスニック料理ではなく、
日本の町の中にある、少しディープで、でも手が届く異文化体験として見られ始めることです。

これは、企業にとっていくつかの事業機会を生みます。

たとえば、食品メーカーであれば、タイカレーのレトルトだけではなく、
タイ料理の「気分転換性」に注目できるかもしれません。

辛さ、酸味、香り、ハーブ、ライム、ナンプラー、ココナッツ。
これらは、日常の食事に少しだけ非日常を加える要素です。

飲料・スイーツ企業であれば、タイティー、マンゴー、ココナッツ、ライム、ハーブを使った商品展開に可能性があります。

商業施設であれば、単なるタイフェアではなく、
町の中でタイの生活感を少し味わえるような、小さな回遊型の企画が考えられます。

旅行会社や観光関連企業であれば、
「食べてから旅するタイ」
「旅してからもう一度食べたくなるタイ」
という導線を作れるかもしれません。

重要なのは、タイ料理を「商品」としてだけ見るのではなく、
気分、記憶、町、旅行感、生活感を含む体験として捉えることです。

大手がすでにやっていることと、これから必要なこと

タイ料理やタイカルチャーを使った企画は、すでに多く存在します。

大手流通ではタイフェアが行われています。
外食チェーンでも、過去にタイ航空協賛のフェアがありました。
小売では、タイ料理やアジア料理の商品がすでに並んでいます。
タイ政府や関連機関による認証制度や情報発信もあります。

つまり、単に「タイ料理を出しましょう」「タイフェアをしましょう」では、新しさはありません。

これから必要なのは、もう一段深い問いです。

なぜ今、町タイ料理が気になり始めているのか。
なぜタイフェスには人が集まるのに、日常のタイ料理にはまだ距離があるのか。
なぜ定番料理ばかりが選ばれるのか。
若い世代は、タイ料理の何に反応しているのか。
タイフリークが長年支えてきた文化は、どのように一般層へ広がるのか。
企業はそれを、商品、売り場、イベント、メニュー、物販へどう変換できるのか。

この問いを整理しないまま企画を作ると、既存のタイフェアやアジア食品の延長になってしまいます。

タイ料理は、食事ではなく“気分を変える装置”として見る

私は、タイ料理の強さは「毎日食べる料理」ではなく、
“気分を変える料理”としての力にあると思います。

暑い日に、酸っぱくて辛いものを食べたくなる。
仕事帰りに、少しだけ旅行気分になりたくなる。
友人と、いつもと違うものをシェアしたくなる。
辛さや香りで、日常の気分を切り替えたくなる。
タイティーやマンゴースイーツで、少し甘い異国感を味わいたくなる。

このような感情は、単なる料理名では表現しきれません。

ガパオだから売れる。
グリーンカレーだから売れる。
トムヤムだから売れる。

それだけではなく、
その料理がどのような気分を作るのか。
どのような時間に食べたくなるのか。
誰と食べたくなるのか。
食べたあとに、何を持ち帰りたくなるのか。

ここまで設計して初めて、タイ料理は企業にとって新しい価値になるのだと思います。

GLOBAL FOOD CONSULTINGが考える、ポスト・タイフェス時代の事業機会

GLOBAL FOOD CONSULTING(以下、GFC)では、食を単なる料理ではなく、ブランド体験として捉えています。

タイ料理についても、単に新しいメニューを考えるのではなく、
日本市場におけるタイ食文化の意味を読み解き、企業の商品・売り場・店舗体験・イベントへどう接続できるかを考えています。

たとえば、次のようなテーマです。

タイ料理の定番メニューを、日常の気分転換商品として再編集する。
タイティー、マンゴー、ココナッツ、ハーブを使ったスイーツ・飲料体験を設計する。
タイフェスの熱量を、商業施設や小売の継続的な企画へ変換する。
町タイ料理にある生活感を、若い世代が安心して触れられる体験にする。
タイ旅行、タイカルチャー、食、雑貨、物販をつなぐ。
タイ料理を“食べて終わり”ではなく、家で試す、持ち帰る、旅に出る、また食べに行くという導線にする。

これは、タイ料理店だけの話ではありません。

食品メーカー、飲料・スイーツ企業、商業施設、旅行会社、外食企業、イベント企業にとっても、考える余地のあるテーマです。

まとめ

タイ料理は、すでに日本にあります。
タイフェスもあります。
タイカレーもあります。
アジア食品もあります。
タイ料理店を紹介するSNSや番組もあります。

だからこそ、これから必要なのは、表面的なブームへの便乗ではないと思います。

必要なのは、
“町タイ化”する日本のタイ食文化を、もう一段深く読み解くことです。

タイ料理は、珍しい料理ではなくなりました。
しかし、完全に日常化したわけでもありません。

その中間にある、近場の異国感。
定番料理の安心感。
タイフリークが支えてきた深さ。
若い世代が感じ始めている新しさ。
旅行気分、スイーツ、香り、雑貨、生活感。

これらをどうつなぐか。

そこに、ポスト・タイフェス時代の事業機会があるように感じています。

GFCでは、こうした食文化の変化を、商品・メニュー・売り場・店舗体験・ブランド価値へ変換する支援を行っています。

タイ料理やタイカルチャーを、単なるフェアや一過性の企画ではなく、次の事業機会として捉えたい企業の方がいれば、ぜひ一度ご相談ください。


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