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「いつ書いたか」ではなく「いつ出したか」で決まるものがありました

7月14日に、「『EUがAI規制を延期』の裏で、延期されていない義務が3週間後に来ます」という記事を書きました(前回の記事はこちら )。「EUがAI規制を延期」という見出しが並んでいた時期に、延期されたのは一部で、AIが作ったものに印をつける義務のほうは予定どおり来ます、と書いた回です。

その3週間後が、明日です。2026年8月2日。

あんなふうに書いた手前、そのままにしておけずに答え合わせをしました。私は法律家ではないので、条文の解釈をここで断定するつもりはありません。確かめたのは、あのとき自分が書いたことが今どうなっているか、それだけです。そして確かめているうちに、見落としていた線引きを一つ見つけました。


「3週間後」と書いた予告は、当たっていたのか

外れていたら、外れたと書くつもりでした。日付が土壇場で動くことは実際に起きますし、改正の手続きが片づいたのは先週です。

結果は、三つとも当たっていました。延期の範囲、12月2日という日付の意味、そして誰が対象になるかの三つです。

延期されたのは高リスクのAIだけ、という話はそのとおりで、改正規則は7月24日に官報に載り、3日後の7月27日に発効しました。高リスクの義務は2027年12月と2028年8月へ動きましたが、透明性の義務の日付は動いていません。

「12月2日に前倒し」という説明は誤りで、あれは既に市場にあるシステムへの経過措置だ、とも書きました。これも変わらず、いまは法として確定した形になっています。

そして三つ目。利用者側が問われるのは「AIをどれだけ使ったか」ではなく「人が中身に責任を持って関与したか」だ、と書きました。欧州委員会の公式ページには、知らせる必要がある対象として、人によるレビューや編集上の管理を経ていない、公共の関心事に関するテキストの公表、という書き方が並んでいます。自分の言葉で書いたことが公式の言葉で置かれているのを見て、少しほっとしました。

ここで問われているのは割合ではありません。AIに下書きを書かせても、自分で事実を確かめ、書き直し、自分の名前で出すなら、その公開に責任を持っているのは私です。7割か3割か、という話はどこにも出てきません。ただしこれはテキストの話で、実在の人物が本物らしく見える映像をAIで作った場合は、どれだけ手を入れてもラベルの対象になります。

私が見落としていたのは、日付の意味でした

7月20日、欧州委員会が第50条のガイドライン最終版を公表しました。適用開始の13日前です。全51ページ。拘束力はなく、権威ある解釈ができるのは裁判所だけだと、その文書自身が断っています。それでも各国の監督当局が実務の物差しにするので、事実上の基準になります。

その解説を読んでいて、手が止まりました。8月2日より前に作られたものをどう扱うか、という箇所です。画像や音声や動画は「生成した日」で決まる。ところが、公共の関心事についてのテキストは「公表した日」で決まる。 8月2日より前に生成しても、その日以降に公表するなら対象になりうる、という設計です。

作った日ではなく、出した日。

ここは正直に書いておきます。私が読んだのは法律事務所による解説で、51ページの原文をすべて読んだわけではありません。草案から変わった点だという指摘もあり、実務でどう運用されるかはこれからです。

私はいま、書き終えて出していない原稿を5本抱えています。時期を待っているもの、条件が揃うまで寝かせているもの。そこには「もう書いてあるから」という感覚がありました。その感覚が、この設計とかみ合っていません。フォルダの中で待っている5本は、まだ何も済んでいない。 日付になるのは、出す日のほうです。

印をつける会社より、ラベルを貼る人のほうが多かった

義務の中身が決まったあと、それをどうやって守るかを決めたのは、法律ではありませんでした。行動規範という任意の文書です。7月の頭に欧州委員会とAI委員会が「これで足りる」と判断しました。署名すれば守っていることの証明になり、署名しなければ、それと同じくらい確かなやり方を自分で用意することになります。

そして昨日7月31日、欧州委員会が署名者の名簿を公開しました。約190組織。半分ほどは小さな、設立して間もない会社です。

内訳はこうです。印をつける側(AIを作る提供者)が83、ラベルを貼る側(AIを使って発信する利用者)が152。 作る側より、使って出す側のほうが倍近い。Anthropic、Google、Meta、Microsoft、Mistral、OpenAIといった名前は前者に並んでいます。後者にはGetty ImagesやLufthansa、Bulgari、Lenovo。

この偏りには理由があります。生成AIを作っている会社は世界に数えるほどしかありませんが、AIを使って何かを発信する側は、業種も規模も問わず無数にいます。重い義務がかかるのは作る側なのに、名簿が厚いのは使う側でした。

名簿に、個人の名前がありました

その名簿を下まで読んでいて、手が止まりました。欧州会計検査院やルーマニア国立銀行、バルセロナ県議会のような公的機関に混じって、ギリシャやリトアニアの小さなニュースサイトがいくつも並んでいます。そして、どう見ても会社名ではない署名がいくつか混じっていました。署名はフォームに記入して送るだけででき、いまも受け付けが続いています。

日本でnoteを書いている私が、明日から義務の対象になるわけではありません。域外適用の仕組みはありますが、EUの市場に向けているかどうかなど条件があり、個人の記事が直ちに含まれるとは限らない。ここは断定しません。

それでもあの名簿は、別のことを教えてくれました。義務が届くかどうかとは関係なく、「そのときが来たら、これはAIが関わっていますと言います」と先に手を挙げた人が、もういる。 待たされている人の名簿ではなく、自分から並んだ人の名簿でした。そして印を貼るかどうかを決めるのは、書いた日の自分ではなく、出す日にいる自分です。

明日、私は何を出すのか

制度の話をしていたつもりが、最後は自分の書き方の話に戻ってきました。7月14日に書いた線引き——AIをどれだけ使ったかではなく、人が中身に責任を持ったか——は、結局そこにしかありません。何割をAIが書いたかを数えても答えは出ませんが、この記事の事実確認を自分でやったかどうかは、自分だけは知っています。

では明日までに何かできることがあるかというと、義務のほうは私たちの手元には来ません。代わりにできるのは、自分の書き方を先に決めておくことだと思います。AIをどこでどう使ったのか、事実確認は誰がやったのか。その二つを記事のどこかに書くか、書かないか。先に決めておけば、いつか誰かに聞かれたときに探さずに済みます。私はしばらく、事実確認を自分の手でやったことだけは書き添えるつもりです。

私のフォルダには、5本の原稿が眠っています。書いた日はばらばらで、出す日は決まっていません。明日以降、そのうちの何本かを出します。そのとき記事につく日付は、書いた日ではなく、出す日です。

送っていないメール、出していない企画書、書きかけの提案書。あなたのフォルダで眠っているものは、いつ書いたものですか。そして、いつ出しますか。


参照した一次情報

欧州委員会「第50条 透明性義務ガイドライン」 https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/guidelines-transparency-ai-generated-content

欧州委員会「行動規範への署名者リスト」(2026年7月31日) https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/news/strong-backing-code-practice-transparency-ai-generated-content

Regulation (EU) 2026/1744(2026年7月24日官報掲載、2026年7月27日発効)


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