東京で、夫婦ではじめてのカフェ
※前のお話です。
夫がまさかのホームシックにかかった翌日。
東京に来てから三日目、半日ほど予定が空いた。
「ちょっと外出しよう!」
東京で観光どころか、ちょっとした外出さえ考えていなかった私たち夫婦には、めずらしい意見の一致だった。
「でも、どこ行く? 外は暑そうだよ……」
沖縄出身の私たちは、暑さには慣れているから大丈夫だろうと、たかをくくっていた。
「長男の会社を見てこよう」
「え? 気づかれたら終わりだよ?」
「大丈夫だ。外観を見るだけだ」
私たちは、どこまでいっても子ども中心なんだな、結局。
そう言って笑った。
10年ぶりの東京の電車も、マップアプリを使えば難なく乗りこなせた。
しかし、暑さにはびっくりした。
なんなんだ、東京のこのチリチリとした暑さは!?
沖縄より暑く、いや、熱く感じる……。
水分補給をこまめにしながら歩いた。
――目的地の最寄り駅に到着した。
「ふ~、着いたぜ」
私たちは駅から会社に向かって歩き出した。
と、そこへ。
なんと、上司と一緒にこちらの駅へ向かって歩いてくる長男を発見。
「あ、やべ」
焦った私たちは、近くの公園へと身をひそめた。
私はスマホを取り出し、上司と一緒に東京の街を歩く長男の姿を、こっそり動画に収めた。
ケタケタと、昨日まで背中を丸めてホームシックにかかっていた夫が、実に幸せそうに笑っている。
昨日の、あの一瞬の闇落ちは何だったの?
真面目に働く長男に見つからないように、隠れている自分たちがおかしくて、夫は笑いが止まらない。
とりあえず、元気が出てよかったよ。
そして、お腹がすいた私たちは、近くのカフェ「PRONTO」に入った。
看板メニューに出ていた抹茶も気になったし、何より腹ペコだった。
私はローストビーフのサラダと抹茶ラテ、抹茶バスクチーズケーキ。
夫はナポリタンとアイスコーヒーを頼んだ。
これが、東京で初めて夫婦で食事をしたカフェだったと、後から気づいた。
あんなに、
「東京行きたくなーい!」
と騒いでいたポンコツ夫婦は、
ちょっと東京を楽しみ始めていた――。
※次のお話です。
