長男の住む街で、散髪して馴染む夫
※前のお話です。
長男の会社を見に行くという行動をとった夫は、地元にいるときと同様に、元気になってきた。
私たちは、カフェを出たあと、長男の住む街に戻る。
最寄り駅から長男の住まいに行くまでに、〇〇通りという商店街を通る。
この商店街が、なかなか良き。
めちゃくちゃ人が多いわけでもなく、極端に少ないわけでもない、その塩梅。
若干、昭和感も感じさせるストリートだったのだ。
この通りで、一際オシャレな散髪屋さんを見つけていた私たち。
すると突然、夫が、
「髪切りたい!」
と言い出した。
「まじで? 東京で髪切るなんてオシャレ~。でも、どうせなら渋谷とか、そういうところで切ったほうがいいんじゃないの? 若返るよ」
しかし、そういうところに興味のない夫は、長男の住む街の小綺麗な散髪屋さんでヘアカットすると言って譲らない。
確かによく見てみると、オシャレな理容室だ。
いや、もしや美容室だったのか。
帰る道すがら、その店を覗いてみると、偶然にも一人しか客がいないようだ。
扉を開き、中に入る。
「いらっしゃいませ」
男性スタッフが三人ほどいて、声をかけられる。
「今って、できたりしますか?」
と確認すると、少し待ったものの、可能だった。
私はカウンターに腰かけて待たせてもらっていると、冷たいお茶をいただいた。
「うわぁ、私まで……ありがとうございます」
スマホをいじりながら、お茶を飲み飲み、夫を待つ。
すっかり元気になった夫は、担当の理容師さんとの会話が弾んでいる。
「沖縄から来ました」
そう話す夫に、担当の方も、
「沖縄の方はけっこういらっしゃいますよ」
と。
長男と同郷の人も通う理容室があるなら、ここは良いところだと、変な納得をしていた。
小綺麗になった夫は、少し顔が大きくなったように見えた。
お会計の際に、店の名刺をもらった。
「この名刺を長男に渡そう」
東京での長男の行きつけの理容室は、こうして誕生したのだった。
長男がここの店でカットするたびに、
「お父さん元気? お父さん連れてきてよ」
と言われるらしい。
どんだけ印象深いんだよ。
一つの会話から、長男の東京での暮らしに、こんなつながりが生まれることもある。
この日、散髪をした夫は、父親としても、大切な役目を果たしたようだ。
※次のお話です。
