
[WAIC2026]公式:会場俯瞰、AI後半戦を左右する4大傾向
世界人工知能大会(WAIC)運営公式は2026年7月19日、公式WeChatで、「Day 2|WAICを3万歩歩いて見えた、AI後半戦を左右する4大トレンド」と題するレポートを配信した。
単なる展示会レポートではなく、4,000点を超える展示物を俯瞰しながら、現在の中国AI産業がどこへ向かおうとしているのかを整理した内容となっている。
曰く、今年のキーワードは「大規模モデル」ではなく、「AIインフラ」「AIエージェント」「Physical AI(物理世界AI)」「スタートアップ・エコシステム」の4つ。
中国AI産業が研究開発競争から社会実装・産業化競争へ移りつつあることを理解する上で、全体像を把握できる資料と言える。
Day 2|WAICを3万歩歩いて見えた、AI後半戦を左右する4大トレンド
WAICを理解する最良の方法は、フォーラム会場でトレンドを聞くだけでも、一社一社の新製品発表を追いかけることでもない。
実際に展示会場を歩いてみると、AIの変化は、それぞれのブース、あらゆる機器、そして一つひとつの体験の中にすでに表れていることが分かる。
2026世界人工知能大会(WAIC)の会場には、総展示面積10万平方メートル、1,100社以上の企業、4,000点を超える展示、400件以上の世界初公開技術が集結。会場は世博(World Expo)、張江、西岸の3エリアに広がっている。
しかし、すべての展示を俯瞰すると、今年のWAICを象徴するキーワードは、単なる「大規模モデルの高度化」ではないことが見えてくる。
AIチップから基盤インフラ、AIエージェントから産業応用、ロボットからコンシューマー向けデバイス、さらに新興スタートアップによる挑戦まで――AIは新たな段階へと入りつつある。
AIは今、クラウドから現実世界へ、技術そのものから産業価値へと軸足を移し始めている。
WAIC 2026の展示会場を歩いて見えてきたのは、現在進行形で進む4つの大きなトレンドだった。
トレンド1:AI競争はインフラ時代へ コンピューティング基盤が最大の競争力となる
ここ数年、AI業界で最も注目されてきたのはモデル性能だった。パラメータ数はどれだけ多いか、推論能力はどれだけ高いか、各種ベンチマークでどの順位に位置するかが最大の関心事だった。
しかし今年のWAICでは、明らかな変化が見られた。
多くの企業が視線を向けているのは、AIチップや計算アーキテクチャ、コンピューティングシステムといった基盤領域である。AI性能を継続的に向上させるには、最終的に強固なインフラが不可欠だからだ。
WAIC 2026では、GPU、DPU、エッジAIチップ、新しい計算アーキテクチャなどを含む100社以上の関連企業が集まり、中国AIインフラの方向性が集中的に示された。
東方算芯(Oriental Computing)のブースでは、大規模計算クラスターが来場者の視線を集めていた。DF1000チップと512枚構成のクラスタシステムは、多数のAIチップを統合した大規模計算基盤を構築し、ハードウェアとソフトウェアを融合した新たなコンピューティングアーキテクチャを提示していた。
沐曦(MetaX)は、科学AI向けGPU「曦索(Xixuo)X302」を展示し、AI計算だけでなく科学計算分野での応用を紹介。昆侖芯(Kunlunxin)は高性能コンピューティングをモジュール化した「P800 OAMモジュール」を公開した。
また、算能(Sophgo)は新世代エッジAIプロセッサ「CV84X6」を展示し、AIがクラウドから端末へ広がる新たな技術ルートを示した。
奕行智能はRISC-Vアーキテクチャを採用したクラウド向け高性能AIチップを、中科馭数(SmartX)は第4世代DPU「K3」を公開。データ処理やネットワーク高速化など、新しい計算アーキテクチャの可能性を打ち出した。
ファーウェイの展示ブースは終始、多くの来場者で埋め尽くされていた。その中心には業界最大規模をうたう超ノード「Atlas 950 SuperPoD」が据えられ、その隣では「Atlas 950 SuperCluster」クラスタシステムが専門来場者の注目を集めていた。
ZTE(中興通訊)は、「OEX Super Node」を世界初公開。バックプレーンを排した直交型設計によりケーブルレス接続を実現し、接続コストを80%削減。「BitからTokenへ」という新しいAI計算基盤の姿を提案した。
理想汽車(Li Auto)は、自社開発AIチップ「馬赫100(Mach 100)」を初公開。自社AIチップ戦略の重要な一歩として、多くの投資家や業界関係者の関心を集めていた。
一つのAIチップから、一つの計算システムへ。そして産業全体を支えるAIインフラへ――。
今年のWAICが示した方向性は極めて明確だ。
今後のAI競争は、モデル性能だけではない。コンピューティング、AIチップ、そしてシステム全体を含めた基盤能力こそが、新たな競争力となる。
トレンド2:AIは「話せる」から「仕事をこなす」へ AIエージェントが産業現場へ
前世代の大規模モデルが実現したのは、「理解」と「生成」だった。
しかし今年のWAICで数多く展示された製品が示していたのは、もう一つの問いである。
「AIは本当に人の仕事を代わりにこなせるのか」
その答えは、ますます明確になりつつある。
AIはもはや会話能力を披露するだけの存在ではない。オフィス業務、製造、医療、金融など、実際の産業プロセスへと入り始めている。
WAICでは151社が404点の展示を通じて、各産業におけるAIの実装事例を紹介した。
百度智能雲(Baidu AI Cloud)の「百度搭子(Baidu Partner)」ブースには、多くの来場者が集まっていた。
これは百度智能雲が開発した汎用AIエージェントで、マイクに向かって「AI介護産業に関する分析レポートを作成して」と話しかけるだけで、AIが自らタスクを分解し、必要なツールを呼び出し、数十秒で完成したプレゼンテーション資料(PPT)を生成する。
体験した来場者からは、「仕事の効率がまた何倍にも上がりそうだ」という声も聞かれた。
金山辦公(Kingsoft Office)は、企業向けAIオフィスエージェント「WPS Comate」を展示した。
WPS上で利用者の意図を直接理解し、レポート作成や表計算、プレゼンテーション資料まで自動生成できる。
オフィスAIは、「文章を書く手伝い」から、「仕事そのものを終わらせる存在」へと進化しつつある。
アントグループ(Ant Group)のブースでは、3台の異なるロボットが連携して動作していた。
注文受付から薬剤の取り出し、梱包まで、すべての工程を約90秒で完了する。
これは、アントグループの具身AI基盤モデル「霊波(Lingbo)」を活用したロボット薬局であり、問診から薬の受け渡しまでをワンストップで行うことができる。
MiniMaxは、大規模モデル「M3」を展示した。
独自開発のMSAスパースアテンションアーキテクチャを採用し、長文理解やマルチモーダル能力をさらに向上させている。
一方、月之暗面(Moonshot AI)は、開発者向けコード生成モデル「Kimi K2.7 Code」を公開し、AIプログラミング支援の新たな可能性を示した。
産業分野でもAIによる高度化が進んでいる。
シーメンス(Siemens)は、産業向け開発プラットフォーム「Xcelerator AI」を展示した。
これは産業向けAIエージェントの開発・運用基盤であり、AIを活用して設計から製造までの各工程をつなぎ、従来の産業ソフトウェアを「ツール」から「知的協業パートナー」へと進化させようとしている。
デスクワークから製造ライン、さらには専門領域に至るまで、AIはその役割を大きく変え始めている。
これまで人々がAIに尋ねていたのは、「何を知っているのか」だった。
しかし今、人々がAIに期待するのは、「何を代わりにやってくれるのか」なのである。
トレンド3:ロボットが工場へ、スマートデバイスが日常へ AIは物理世界へ進出する
大規模モデルによってAIは「認知能力」を獲得した。
そして今、そのAIが現実世界へ進出するための入り口となっているのが、ロボットやスマートデバイスである。
今年のWAICでも、具身AI(Embodied AI)は引き続き最も注目を集めた分野の一つだった。
会場では、具身AIモデルから完成ロボット、さらにはロボットハンドや各種コア部品まで、産業チェーン全体が展示された。
智元机器人(AgiBot)は約200平方メートルに及ぶ大型ブースを展開し、「遠征A3 Ultra」「精霊G2 Max」「臨界点 OmniHand 3 Ultra-M」の3つの新製品を一斉公開した。
中でも来場者の視線を集めたのは、人型ロボットが実際の工場で働く様子を再現したデモンストレーションだった。
模擬生産ラインでは、ロボットが資材を運び、ネジを締め、品質検査まで行う。その動作は非常に滑らかで、人間が作業しているかのような錯覚を覚えるほどだった。
宇樹科技(Unitree Robotics)は、世界初となる搭乗型変形ロボット「GD01」を展示した。このロボットは、人型と四足歩行型を自在に切り替えられる。
来場者は実際に搭乗体験ができ、ロボットが二足歩行からしゃがみ込み、四足形態へと変形し、再び立ち上がって人型へ戻る一連の動きを目の当たりにしていた。周囲では多くの人がスマートフォンを掲げ、その様子を撮影していた。
傅利葉智能(Fourier Intelligence)は、人型ロボットから重量物対応の車輪型双腕ロボットまで幅広い製品群を展示し、高齢者介護・リハビリテーションや物流、軽工業など多様な用途を紹介した。
ここで見えてきたのは、具身AIが単に「動ける」存在から、「実際に仕事ができる」存在へ進化しつつあるということだ。
ロボットの認識能力、意思決定能力、実行能力が高まるにつれ、現実世界で本格的に活躍する日は着実に近づいている。
もっとも、AIが物理世界へ進出する道はロボットだけではない。
AIはスマートグラスやウェアラブルデバイス、ワールドモデル(世界モデル)などを通じて、一般消費者の日常生活にも入り始めている。
心言机器人(Xinyan Robotics)は、感情対話ロボット「Bubbo 1」を展示した。
ウサギを思わせる愛らしい外観を持ち、来場者を出迎えたり会話したりすることができる。
しゃがんで話しかけると、大きな目で相手を見つめながら自ら会話を始める。国家インターネット情報弁公室(CAC)に登録済みの「心元大規模モデル」を搭載し、長期記憶や感情理解にも対応している。
影眸科技(Deemos Tech)は、「Hyper3D Rodin」を展示した。
テキストを入力するだけで数秒後には3Dモデルを生成し、360度自由に回転させながら確認できる。
一方、生数科技(Shengshu Technology)は、「MotuBrain世界動作モデル」を公開した。
カメラの前で人が動作すると、その動きをAIがリアルタイムで解析し、3Dモーションデータとして生成することで、AIが現実世界の人体動作をどのように理解するかを紹介していた。
微光科技(Weiguang Technology)は、「玄景L3」シリーズのAIグラスを展示した。
通常は一般的な眼鏡として使用しながら、AI対応テンプルを装着するとAIオーディオグラスに、さらにARモジュールを追加すればAI+ARグラスへと進化する、「1本で3役」というコンセプトを体験できる内容となっていた。
博涛科技(Botao Technology)は、「ソウル・ギア・ロボットバンド」を披露した。
精密な金属3Dプリント製ギアを組み込んだロボットたちがバンド演奏を行い、そのロック調のデザインも相まって人気を集めた。ブース周辺には何重もの人垣ができ、多くの来場者が演奏を撮影していた。
趣丸网络(Quwan Network)は、世界初をうたう生成AI搭載ギター「天譜楽(Tianpule)AI Guitar」を展示した。
生成AI音楽大規模モデルを楽器本体に組み込み、楽器経験のない来場者でも、ギターを手に取るだけで即座にメロディー演奏を楽しめる仕組みとなっていた。
ロボットからスマートグラス、世界モデル、各種スマートデバイスまで――。
AIはスクリーンの中だけの存在ではなく、現実世界へと歩み出している。
そして、人と機械をつなぐ新たなインターフェースとして、その存在感を急速に高めつつある。
トレンド4:AIスタートアップ・エコシステムが加速 新たなイノベーションを担う若い企業群
今年のWAICでは、大手企業や成熟企業だけでなく、新興スタートアップにも重要な舞台が用意された。
H4エリアの「全域リンク館(H4 Future Tech)」では、Future Techベンチャー・エコシステムをテーマに、世界1,200件を超える応募プロジェクトの中から選ばれた153社のスタートアップと22件のOPCプロジェクトが一堂に会した。
展示内容は、産業応用、具身AI・スマートデバイス、AIインフラ、先端技術など幅広い分野を網羅している。
ここには巨大なブースこそないものの、大企業とは異なる、挑戦と実験に満ちた空気が漂っていた。
博思云为科技(BosiCloud)は、企業向けAIエージェント管理基盤「BosiClaw」を展示した。
企業がAIエージェントを効率的に導入・運用・管理するためのプラットフォームとして、その活用方法を紹介していた。
宇叠智能科技(Yudie Intelligence)は、「超感覚データグローブ」を展示した。
高精度センサーによって手の動きをリアルタイムで取得し、そのまま仮想空間やロボットへ反映することができる。人とロボットをつなぐ新しいインターフェースとして注目を集めていた。
慧领科技(Huiling Technology)は、複雑な製品開発向け設計支援システム「慧創(Huichuang)」を公開した。
自然言語で入力された要求仕様を構造化モデルへ自動変換し、技術ルートの検討から全体設計案の作成まで支援する仕組みで、多くの開発エンジニアがブース前で活発に議論を交わしていた。
これらのスタートアップに共通していたのは、一つの明確な方向性である。
AIイノベーションは、単なる大規模モデル競争から、アプリケーション、ハードウェア、インターフェース、そして産業ごとの実利用シーンへと広がり始めている。
展示会のトレンドは、フォーラムでも共通のテーマとなっていた
展示会場で見られた変化は、そのまま今年のWAICフォーラムで議論された主要テーマとも重なっている。
展示ブースが示していたのは、「AIが現在どこまで到達したか」であり、フォーラムで議論されていたのは、「AIは次にどこへ向かうのか」という未来像だった。
この日開催された主要フォーラムでは、AIインフラ、AIエージェント、具身AI、AI for Science(科学AI)などが重点テーマとして取り上げられた。
AIインフラ分野では、中興通訊(ZTE)が「フルスタックAIコンピューティング・エコシステムフォーラム」を開催。
AIファクトリー、コンピューティングエコシステム、クラウドとエッジの協調などをテーマに、AIエージェント時代に求められる新たなAIインフラについて議論した。
一方、曦智科技(Lightelligence)は、「光コンピューティングと光インターコネクトによる新しいAIインフラ」をテーマにフォーラムを開催し、光計算技術によるAIコンピューティング向上の可能性を探った。
AIエージェントと産業応用では、アリババクラウド(Alibaba Cloud)が「Agentic Cloud:AIエージェント時代のインフラ」を開催。
AIエージェントが実験段階から企業利用へ移行するために必要なクラウド基盤について議論が行われた。
商湯科技(SenseTime)は、「基盤大規模モデルのアーキテクチャ革新とエコシステム協力フォーラム」を開催し、大規模モデルの進化やマルチモーダル技術、産業応用の最新動向を紹介した。
AIの物理世界への進出をテーマとした分野では、Honor(栄耀)が「デジタルスクリーンから具身AIへ――Physical AI時代の新たな世界」を開催。
スマートデバイス、Physical AI、具身AIを軸に、AIが現実世界へ広がる未来について議論した。
また、「実体世界インテリジェンス科学フォーラム」では、科学研究の観点からAIが現実世界をどのように理解し、ロボットやスマート製造へ応用されるのかについて議論が行われた。
さらに、「思朗科技AI4Sフォーラム」や「科学AIオープンフォーラム」では、AIと高性能コンピューティング、科学モデルを融合し、研究開発そのものを変革する「AI for Science」の可能性が議論された。
まとめ
WAIC 2026の展示会場を歩くと、一つの大きな流れが見えてくる。
AIは下流ではAIチップやコンピューティングインフラへと深く根を張り、上流では産業プロセスへ浸透し始めている。
さらにロボットやスマートデバイスを通じて、現実世界や人々の日常生活にも着実に入り込みつつある。
AIインフラ、AIエージェント、Physical AI、そして新たなスタートアップ・エコシステム。
この4つの方向性が、AIの次なる発展段階を形づくろうとしている。