
合弁車の弱点は「海外依存」――ローランド・ベルガーが示す、中国から世界へ反転する5つの生存戦略
[メンバーシップ限定]中国自動車市場で合弁メーカーが苦戦している原因は、単にNEVの商品投入が遅れたからではない。
開発の意思決定を海外本社に依存し、サプライチェーンも海外系列への依存が強く、中国メーカーほど素早く商品を変更できない。中国で部品を生産していても、開発まで中国企業と一体化した「本当の現地化」には至っていない――。
ローランド・ベルガーのグローバル・シニアパートナーでアジア太平洋地域の自動車事業責任者を務める鄭贇氏は2026年7月22日、上海・嘉定で開催された「2026中国自動車フォーラム」で、中国合弁メーカーを対象とした過去1年間の調査結果をもとに、その構造的な問題を指摘した。
一方、鄭氏は合弁メーカーの将来を悲観しているわけではない。
むしろ中国で開発した技術、商品、事業運営能力を海外へ逆輸出する「China for China, China for World」への転換によって、中国事業は多国籍自動車メーカーの「地域拠点」から「世界へ技術や商品を供給する拠点」へ変わる可能性があるとする。
※本稿は2026年7月22日に開催された「2026中国汽車フォーラム」での鄭贇氏の講演について、後日公開された発言録をもとに、当日時点の内容として整理したものである。
中国ブランド優位は今後5~10年も続く
中国乗用車市場では、中国ブランドと新興メーカーのシェアが上昇する一方、合弁ブランドは低下を続けている。
鄭氏はその最大の原因として、電動化・スマート化への転換速度の違いを挙げた。
中国ブランドはNEVへの商品転換を急速に進め、スマート化機能についても中国ユーザーの利用習慣に合わせて開発してきた。
これに対して合弁メーカーは、グローバルプラットフォームを基本として中国市場の商品を展開してきたため、研究開発や意思決定の経路が長く、市場への対応が遅れた。
しかもローランド・ベルガーは、この差が短期間で消えるとはみていない。
鄭氏は今後5~10年間、中国ブランドが基盤技術、販売市場、クラウドサービスなどで優位性をさらに拡大し、市場シェアも高水準を維持、あるいはさらに上昇する可能性が高いとの見方を示した。
つまり、合弁メーカーが中国ブランドの勢いが一巡するまで耐えれば元に戻る、という前提ではない。
そのうえで、規模の大きい有力合弁メーカーには依然として十分な市場機会があり、商品、コスト管理、中国での研究開発を抜本的に変えられるかが分岐点になるとした。
中国市場は世界で最も厳しい「実験場」になった
鄭氏は現在の中国市場が自動車メーカーに要求する能力を、5つに整理した。
NEV、スマート化、ユーザーとの直接接点、徹底したコスト競争力、そして全プロセスにわたる事業体系である。
これらについて中国市場は世界でも先行する水準に達しているとの認識を示した。
ここで多国籍メーカーにとっての中国市場の意味が変わる。
以前は、世界で確立した商品や販売モデルを中国へ持ち込めば成功できた。
現在は逆に、中国市場の激しい競争のなかで磨いた能力を世界へ持ち出すことに価値が生まれている。
鄭氏がこの1年間、多くの自動車メーカーと議論してきたテーマが、「China for China, China for World」だったという。
「中国のために中国で開発する」だけではない。中国で作った能力を、世界市場の競争力へ変える。
これは合弁メーカーが中国で生き残るための防衛策であると同時に、多国籍メーカー全体の競争戦略にもなり始めている。
合弁メーカーの「丁寧さ」が、逆に弱点になる
もっとも、そのためには合弁メーカー自身の構造的な弱点を変えなければならない。
鄭氏が指摘する代表例が「速度」である。
中国の新興メーカーはこの10年ほど、「速さで勝つ」ことを前提に組織を作ってきた。
商品の改良、ユーザーへの対応、価格変更、装備変更を高速で繰り返す。
これに対して合弁メーカーは、厳格な開発手順、細かな品質管理、グローバルで統一された意思決定体系を強みとしてきた。
しかし、その強みの裏側に意思決定の遅さがある。
鄭氏はこれを特定メーカーの問題ではなく、多国籍企業のグローバル本社の仕組みと、中国市場の速度との構造的な不一致だと分析する。
従来なら「慎重であること」は品質につながった。
しかし中国市場では、慎重な意思決定に半年を費やしている間に、競合車の商品仕様や価格、スマート化機能が変わる。
合弁メーカーに求められているのは、品質管理を捨てることではなく、品質という従来の強みを残したまま、意思決定だけを中国市場の速度へ合わせることになる。