[小説] ジェームス・モルガンのゲーム | 六、最初のヒト (6/14)
ヒトたちはとてもリアルにできており、まるで本物のように見えたが、身長はだいたいジェームスの指くらいの大きさだった。
数えてみると、ヒトは十人いた。
どうやらひとつの家族のようだった。
誰も服を着ておらず裸だった。
年配の男女が二人。
髭を蓄えた中年くらいの男性が二人。
同じくらいの年齢の女性が一人。
もっと若い女性が一人。
性別がはっきりわからない子供が二人。
赤ん坊が一人。
年配の男女はほとんどの時間を洞窟の中で過ごし、火の番をしているようだった。
そこで、子どもたちにいろいろな生活の知恵を教えている様子だった。
若い女性は赤ん坊の世話をしていた。
中年の男性二人と女性一人が外に出て狩りをしているようだった。
彼らは森で大型の動物を捕ったり、海で魚を捕ったり、植物を採ったりしていた。
動物や魚を捕るのはもっぱら長い棒の先に植物のツルで尖った石を括り付けたものを使っていた。
彼らがとって来た食料をみんなで調理して食べていた。
食器は存在せず、大きな葉に包んだり、石の上に料理を置いたりして手で食べていた。
やがて彼らは、捕って来た動物の毛皮で服を作るようになった。
同時に骨や貝殻などで装飾品を作るようになった。
しばらくすると、赤ん坊が死んでしまった。
人間たちは嘆き悲しみ、赤ん坊を土に埋めて花を撒いて弔った。
続いて年老いた男性が亡くなった。
彼も丁寧に埋葬された。
この家族で生殖行動をするのは、中年の男性と若い女性のみだった。
その他の者はそういった行為は全くしないようだった。
やがて、若い女性が身ごもって赤ん坊を産んだ。
ところが赤ん坊はすぐに死んでしまった。
子供だった二人が成長すると、その子らはそれぞれ男女であることがわかった。
二人は成熟すると性行為をするようになった。
時々それに、中年の男性や若い女性も加わるようになった。
こうして家族の内の四人が性行為ばかりしている間に、中年の男性と女性は外に出てひたすら食料をとり、料理し、さまざまな衣類や装飾品、そして道具を生み出していった。
やがて、中年女性は洞窟の壁に絵を描き始めた。
その間にも、他の四人は性行為にあけくれ、女性陣が妊娠し出産するも、病気の子ばかりが生まれて、次々死んでいった。
ジェームスは何だか見ていられない気持ちになった。
「これは…ゲームなの? 僕は何をすればいい?」
「この “ヒト” を見てあなたはどう感じますか?」
「とても不快…」
「どうして?」
「そこの男女が四六時中やっていることを止めさせたい」
「なるほど」
ハヤト・ウェイは頷くと、指を動かして画面に何か入力したようだった。
「自動設定の確認をしました。“ヒト” の最優先事項が “子作り” になっています。そして、その次が “生活水準向上” です」
ジェームスは顎に手を当てて考えた。
子作りが最優先事項なのはあながち間違っていないように思えるが、このヒトたちの行動は異常に感じた。
何が異常なのだろうか???
きょうだいや親子と思われるような間柄でひっきりなしに性行為をしているからだろうか??
「その優先事項は変えられるの?」
「変更可能ですよ。どうします?」
「じゃあ、最優先事項の “子作り” をやめて “子孫繁栄” にする」
「わかりました」
「それと、ここに別の家族を投入することはできる? 血縁関係のない」
「できますよ。何人入れますか?」
「じゃあ、十人ほど。性別の割合は選べるの?」
「そこはランダムにしか出現させられません」
なるほど、そういうところは妙にリアル…。
バラバラっとテーブルの上の庭園に人が増えた。
「あと、この “ヒト” たちの気質? みたいのって設定できるのかな?」
ジェームスは “天分試験” の項目を思い出しながら言った。
「できますよ。設定を変えますか?」
「今の設定を見れる?」
ハヤト・ウェイは彼の目の前に出ているであろう画面を確認した。
「今の設定は…好奇心旺盛・好戦的・食欲旺盛・性欲過多・同情的・怠惰」
なんだそれ…とジェームスは思った。自動でするとこんなめちゃくちゃな設定になるのか…。
「気質の選択肢はたくさんあります。ご自分で見て選んでみてください」
ハヤト・ウェイがそう言うと、ジェームスの画面にも数々の気質が一覧となって表示された。
今、ハヤト・ウェイが言ったものが明るく光っていた。
「文字に触れることで有り無しを切り替えられます。明るいのが “有り” で、暗いのが “無し” です。すべて選択し終えたら、一番下の “確定” に触れてください」
ジェームスは、好奇心旺盛・同情的を残して他のを消すと、共感的・柔軟的・羞恥心中程度・温和・倫理重視・規則的・芸術的・愉快、を加えて “確定” に触れた。
さて…これでどう変わるのか…。
ジェームスは模擬世界ゲームというものがどういうものなのか、何となく理解してきた。
架空の世界に干渉できる設定を細かく操作して、その世界がどうなっていくのか見守るゲームなのだ。
特に勝ち負けもない。楽園を作る…という漠然とした目的しかない。ただ好きなように世界を作っていく…それが模擬世界ゲーム。
ジェームスはこの白黒はっきりしないことを良しとするゲームが大変に気に入ってしまった。
新たな設定で動き出した人間たちはいつのまにか洞窟から出て、植物をうまく組み合わせて作った小屋のような家で暮らすようになっていた。
近親相姦をやめた人々は順調に健康的な子孫を残しており、幸いなことに性行為も人目に付かないところでやってくれるようになった。
何も深く考えずに性別を全種類選んだ割には混乱はないようだった。
ジェームスは少しほっとして人々の活動を見守った。
「さて、ジェームス・モルガン。残念なのですが、そろそろ日没が近い時刻となりました。続きはまた次回にしましょう。申し訳ないですが、あなたをここにお泊めすることは許されていません」
ジェームスは非常にがっかりした。それと同時にあっとゆうまに時間がたってしまったことに驚いた。
一日が一瞬で終わってしまったではないか。
「このゲームはどうなるの?」
「安心してください。この状態で保存が可能です。次に来た時にまた続きから始めることができます」
それを聞いてジェームスはほっとした。
「じゃあ、明日また来てもいい?」
ハヤト・ウェイは 「もちろんですよ」 と言った。
ジェームスはハヤト・ウェイに別れを告げてオート三輪車にまたがり、あっとゆうまに家まで帰って来た。
家に着くと、玄関の前でミアが恐ろしい顔をして待っていた。
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