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[小説] ジェームス・モルガンのゲーム | 七、ムラの形成 (7/14)

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「どこに行っていたのよ! ずっと探していたのよ、ジェームス・モルガン!! まさかまた、あそこに行っていたんじゃないでしょうね?」

「そのまさかだよ。聞いて、僕、ゲームをやって来たんだ!! 素晴らしいんだよ。ミアにも…」

「冗談じゃないわよ!! ねえ、知ってる? 今朝、Cクラスのザシュー・ハザワが社会不適合者認定を受けて施設送りになったのよ」

「ザシュー・ハザワが?」

 ザシュー・ハザワは何度か同じクラスになったことのある顔見知りだった。

 昔から変わった奴で、“同性愛は罪である” など差別的な発言や反社会的な発言を繰り返して時々反省室へ入れられていた経歴の持ち主だった。

「このままじゃあなたも施設送りになっちゃうかも。そうしたらいくら優秀な私でもあなたを救うことはできないのよ、ジェームス・モルガン」

 ミアは本気で心配しているようで、泣きそうな顔をしながら言った。

「あそこは立入禁止ってわけでもないし、大丈夫だよ。それにハヤト・ウェイもいいって言っているし」

「それが一番怪しいんだってば! あの人が何者なのかわからないじゃない」

「旧時代の施設の管理をしているくらいだから研究員か政府の役人だろう? なんだよ怪しいって」

 ジェームスはハヤト・ウェイのことを悪く言われてムッとしてしまった。

 あんなに親切にしてくれたのに、ミアはいったい何を警戒しているのだろうか。

 ジェームスはこれ以上彼女と話をするのもうんざりしてしまって、足早に自分の部屋へと入ってしまった。
 彼女には申し訳ないが、ジェームスはもうすっかり「天地創造」の虜になってしまったのだった。

 あのゲームさえできれば、他のことはもう、どうでもいいような気持ちがした。

 ミアを締め出して自室に戻ると、ジェームスは熱いシャワーを浴びて、そして泥のように眠った。

 そして再び空が白み始めるころに起き出して、やりかけの「天地創造」の元へとひた走った。

 ジェームスが到着すると、ハヤト・ウェイは昨日と同じ姿勢で待っていた。
 衣類は昨日とは違う色だった。

「おはようございます。ジェームス・モルガン。さっそくゲームを再開しますか?」

「もちろん!」

 二人はゲームの部屋に入った。

 テーブルには庭園が広げられたままになっていた。
 人々が建てた小屋がポツポツと立ち並び、昨日のままになっていたが、人々の動きだけがピタリと止まっていた。

 昨日と同じ場所に座ると、ハヤト・ウェイが何かを操作し、再び人々が動き始めた。

「ゲームを再開しました。現状では安定しているのでしばらく見守ることをおすすめします」

 そういうと、ハヤト・ウェイは席を立った。

「申し訳ありませんが、今日私は別の部屋で作業をしなければなりません」

 その言葉にジェームスは動揺した。
 今日もハヤト・ウェイと一緒にゲームができると思っていたのに、ひとりでこれができるか不安になった。

 しかし、彼の邪魔にもなりたくなった。

「お仕事?」

 できるだけ平然とした態度を心掛けたつもりだったが、ジェームスの声はか細く震えていた。

「ええ、仕事です。でも大丈夫ですよ。時々様子を見に来ますから、何かアイディアを閃いたら教えてください」

 ジェームスは小さな声で「うん」と言った。

 しばらく黙ってその様子を見ていたハヤト・ウェイはジェームスの傍まできて、肩に手を置くと、そっと耳元でこう言った。

「困ったことがあれば私を呼んでください。すぐ来ますから」

 ドキッとして振り向くと、ハヤト・ウェイは素早くウインクをして見せ、そして部屋から出て行った。

 ジェームス・モルガンはしばらくぼーっとハヤト・ウェイが出て行った方を見た。

 そして気を取りなおすとゲームを始めることにした。

 ヒトびとは創造主であるジェームスの動揺にはおかまいなく、日々の営みを始めていた。

 最初彼らはバラバラと小屋を建てていたが、そのうち中央を広場にしてサークル状に家を建てはじめた。

 そして中央の広場には大きな円を描くようにして点々と石や岩を置いた。

 それから、小屋もどんどん進歩し、居住区、集会場、貯蔵庫といったように用途に併せた形状の小屋を作るようになった。

 彼らは血縁関係のない家族とも共に集団で生活するようになり、一つのムラが出現した。

 それぞれのヒトには役割があるようで、狩りに出る者、植物を採取しに行く者、海産物を捕りに行く者、日用品や装飾品を作る者、子育てをする者、など各人が得意なことを受け持って協力し合って生活しているようだった。

 彼らは捕ってきた動物を食べると、骨を道具や装飾品に、皮を衣類にしたてあげた。
 海から捕ってきた魚は肉を食し、骨は釣りや裁縫の道具となった。

 特に面白かったのは貝殻の山だ。
 貝類に限り、その身を食べると、ヒトびとは一ヶ所に貝殻をあつめて積み上げ、長い時をかけて小高い丘を造ったのだった。

 なぜ、貝殻だけ…? ジェームスには彼らの習慣がとても不思議に思えた。

 狩りに出ない者たちのムラでの過ごし方も興味深かった。

 狩りに出ない者たちは、よく集まって、ツボのようなものを作っていた。

 最初は火にくべて煮炊きに使うようなシンプルなものだったが、だんだんと縄目で模様をつけたり、ゴテゴテと装飾がほどこされるようになっていった。

 みんな自由に奇想天外な形状のツボを作っているように見えたが、よくよく見ると、彼らの作るツボの文様には一定の法則があるようだった。

 自由に作っているわけではなく、何かしらの決まりがあって、それに沿ってツボを作っているようだった。

 毎日毎日彼らはツボを作り続け、それらをムラの周囲に並べていったので、ムラの周りはツボだらけとなっていった。

 そのうち、彼らはツボだけではなく、様々なヒト型の泥人形も作るようになった。
 それらの人形にもツボと同じような文様がつけられ、こちらも一定の決まりによって作成されているようだった。

 人形はツボのように並べられることはなく、貝殻の山の上へ並べられた。

 貝殻の山の上に並べられた人形が増えると、ヒトびとは躊躇なくそれを打ち砕き、再び新しい人形を並べるのだった。

 ジェームスにはそれが何を意味しているのかさっぱりわからなかった。

 やがて彼らは、食料を調達し食事をし寝る時間以外は、ずっとツボと人形を作り続けるようになった。

 これはまた、変なパターンにはまってしまったのかもとジェームズは思ったが、どこをどうしてこのヒトたちの行動に影響を与えられるのかがわからなかった。

 ツボを作り続けるヒトびとを見ながら途方にくれていると、ちょうどよいところでハヤト・ウェイが部屋に入って来た。

「調子はどうですか?」

 言いながらハヤト・ウェイはジェームスの横から楽園を覗き込んだ。
 ふわっとよい香りがして、ジェームスは少しドギマギしてしまった。

 人々がやってることをさらに覗き込むと、ハヤト・ウェイはふふふと笑った。

「あれは、ツボですか?」

「うん。ずっとツボばかり作っている…」

「彼らはなぜ、こんなにツボをつくるのだと思いますか?」

「さあ…何かの信仰による儀式なのかな?」

「未知の文明の用途不明な産物を全て信仰と結びつけるのはあなた方の悪い癖ですよ」

 確かにそうかも…とジェームスは思った。

「で、このツボは何?」

「わかりませんよ」

「え?」

「そう、未知の文化のことは想像したところでわかりません。そもそも思考回路が全く異なっているかもしれないのですから。こちらの物差しでは何も測れないのです」

「なるほど。このヒトたちは四六時中ツボを作っていて平和そうだけど、何か憑りつかれたようになってきていて、ちょっと怖い…」

 それを聞くとハヤト・ウェイは「ふむ…」と言い、ジェームスの後ろから腕を伸ばし、ジェームスの目の前に画面を表示させるとそれを操作した。

 画面に蜘蛛の巣のような図が表示され、ハヤト・ウェイが説明してくれた。

「これは、現在のヒトの状態を数値的に表現しています。これによると、規則的と芸術的の度合いだけが異常に高まっています。これのせいでしょうかね」

 見てみると確かにその二つの度合いが大きくなり、その部分だけ尖った形になってしまっていた。
 ハヤト・ウェイは再び手を伸ばすと尖っている部分に触れて二つの度合いを少し下げるように操作してくれた。

 その際に彼の腕がジェームスの頬に触れたが、ハヤト・ウェイは気にしていないようだった。
 気にしているのはジェームスだけなのか…。

「それからジェームス・モルガン。最初の時に怠慢を消しましたが、楽をしたいという気持ちから何か閃くこともあります。少し怠慢の要素を入れてみませんか?」

 ジェームスが同意すると、ハヤト・ウェイは目にも止まらぬ指さばきで画面を操作し、“怠慢” の気質がほんの少し加わるように調整してくれた。

 すると、画面の右上に小さな赤い丸が点滅を始めた。

「あ、“怠慢” を入れることで早速新たな技能が追加されましたよ」

 ハヤト・ウェイが赤い丸に触れると、追加された技能が確認できた。
 そこにはこう書いてあった。

≪農耕≫ ≪牧畜≫ ≪製鉄≫

「おめでとう、これでようやく文明らしくなってきますよ。少しヒトを増やしますね」

 ハヤト・ウェイが画面を操作すると、二十人ほどがテーブルの庭園に追加された。
 彼らは最初のムラとは別の場所に同じくらいの規模の集落を作った。

「ムラが二つになりましたね。名前をつけておくと後々便利ですよ。どうしますか?」

 ジェームスは最初からあったムラにA、後からできたムラにBと名を付けた。

「では私はまた仕事に戻りますね。次に見るのを楽しみにしています」

 そう言うと、ハヤト・ウェイはジェームスの頭を軽くポンポンと叩いて出て行った。

 ジェームス・モルガンはしばらくぼーっとハヤト・ウェイが出て行った方を見た。

 そして気を取りなおすとゲームを続けることにした。


八、農耕と戦のはじまり →



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