[小説] ジェームス・モルガンのゲーム | 八、農耕と戦のはじまり (8/14)
≪農耕≫ ≪牧畜≫ ≪製鉄≫ の技能を手に入れたヒトびとは、瞬く間に森を切り開き、土を耕し畑を作り、ムラの一角で動物も飼い始めた。
農地はどんどん広がり、やがてAとBの農地の奪い合いへと発展していった。
どちらのムラびとも、より広い農地を獲得したいので農地の境目で小競り合いが頻発した。
お互いの目の盗んで土地の奪いが続いたために、やがてヒトびとは自分の土地の周りを柵でぐるりと囲い、見張りをたてるようになった。
このころから、掘立小屋のようだった家屋は立派な材木を使った家へと進化し、やがて石やレンガも使われるになって行った。
そんなある日、ムラBの何人かが、ムラAの柵を超えて侵入し、家畜を盗むという事件が起きた。
彼らは見張りに見つかり捉えられると、怒ったムラAのヒトたちによって暴行を加えられ殺されてしまった。
その知らせを聞いたムラBの連中が今度はクワやこん棒を握りしめて、攻めてきた。
こうして二つのムラは大規模な殺し合いを始めた。
ジェームスはこれはまずいと思ったが、設定を修正する方法がわからなかった。
さっき目の前でハヤト・ウェイがやるのを見てはいたが、動作が早すぎてよくわからなかったのだ。
ハヤト・ウェイを呼びに行こうとも考えたが、彼の仕事の邪魔をしたくないと思った。
うっとおしいと思われるのでは…と臆病になっていた。
ジェームスがあたふたしていると、またちょうど良いタイミングでハヤト・ウェイが部屋に入って来た。
「こちらの仕事はひと段落しました。どんな様子ですか?」
ハヤト・ウェイはテーブルの庭園の状態を見ると、すこし驚いた顔をした。
「おや、大変なことになっていますね」
ジェームスはハヤト・ウェイをがっかりさせてしまったのではないかと思い、焦ったがそんなことはないようだった。
「思ったよりも進みが早いですね。慌てないでください。農耕が始まると暴動はいずれ起きます。これをどう終息させるか…それによって、この文明が歩む方向が大きく変わってきます」
「ヒトの気質から好戦的は抜いたはずなのにどうしてこんなことに?」
ハヤト・ウェイはジェームスの隣に自分の椅子を移動させて座った。
「恐らく、好戦以外の動機で戦っているのでしょう」
言いながらハヤト・ウェイが画面を操作すると、あの蜘蛛の巣のような図の画面となった。
その図は “共感的” の度合いが突出して高くなっていることを示していた。
「この戦いはどう始まりましたか?」
ジェームスがこれまでの経緯を説明すると、ハヤト・ウェイは納得したようだった。
「なるほど、このヒトたちは、仲間や家族にひどいことをされて怒っているのですね」
「にしてもやりすぎじゃない…?」
「それでは、これを止めさせるにはどうしたらいいと思いますか?」
ジェームスは考えた。
「暴力によって物事を解決するのをやめさせればいいのかな…」
「それには何が必要ですか?」
「……共通のルールかな…。殺しは絶対ダメ、盗みにはこういう罰を与えるとか、そういう規則のようなものがあるといいと思う」
「それでは…」
ハヤト・ウェイは、“共感的” の度合いを少し減らし、“温和” “倫理重視” “規則的” の度合いを少し増やした。
すると、闇雲に戦っていたヒトびとが、急に戦うのをやめて左右に分かれて向かい合った。
様子を見守っていると、それぞれの中から一番強そうな者が中央に出て来て、サシで戦い始めた。
二人は武器は持たずに素手で戦っており、派手に殴り合ったり蹴り合ったりしていたが、致命傷を負わせるような攻撃を避け、ひとつのルールに乗っ取って戦っている様子だった。
周りの者たちは、興奮し、二人を応援した。
「格闘技が誕生しましたよ」
ハヤト・ウェイが面白そうに言った。
ジェームス・モルガンは殺し合いが終わってホッとしていた。
強者二人の戦いは、ムラAの代表の勝利となった。
これでムラBの者たちは素直にあきらめて自分たちの集落へと帰っていった。
二人の強者はそれぞれのムラのリーダーとなったようだった。
彼らはそれぞれ独自の決まり事をつくり、それによって動き始めた。
ジェームス・モルガンは敗北したムラBが気になり観察をした。
ムラBでは、リーダーの意向によって、頻繁に物々交換が行われている様子だった。
だが、同時に次第にもめごとも起こるようになっていた。
どうやら、交換する物の価値基準が定まっていないために喧嘩になるようだった。
そこで、ムラBのヒトたちは、穀物一袋を基準に様々なものの価値をみんなで話し合い決めたようだった。
彼らの話声はもちろん聞こえないのだが、集会の様子を見ていてそうとわかった。
一気読みしたい人へ
TALESで全話先行公開中
