七(セブン)国家に喧嘩を売った都市伝説③

「警察も撒けたし、軍資金の調達も完了っと」
第二の七は私を振り返り、不敵に笑った。
その笑顔に、思わず身構える。
……何かされるの?
全身に緊張が走った。
「着替えでも買いに行きますか」
拍子抜けした。
なんなの、この人。
けれど今は、この人しか頼れる相手がいない。
七を信じるしかなかった。
私たちはネットカフェを後にした。
辺りを見回しながら歩く私を見て、第二の七は肩をすくめる。
「警察なら、もう大丈夫っすよ」
「俺っちの仕事、少しは信用してほしいもんすね」
そう言われても、つい周囲を警戒してしまう。
逃亡生活なんて、生まれて初めてなのだから。
「その前に飯っす」
歩きながら店を見回す。
「あ、おあつらえ向きにパスタ屋があるじゃないっすか。ここにしましょう」
その言葉に、自分でも驚くほどお腹が鳴った。
そういえば昨日から、ろくに何も食べていない。
……パスタ、食べたかった。
この人、私の心までハッキングしたんじゃないだろうか。
チャラチャラしているように見えて、ちゃんと私を気遣ってくれている。
最初の七もそうだった。
この人たちは、本当に何者なんだろう。
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食事を終えると、渡されたスマートフォンの使い方を教えてくれた。
「支払いはこれっす」
「ここ押して、バーコード見せるだけ」
だから食事に連れて来たのか。
逃げるためじゃない。
新しい生活を始めるため。
これも全部、私への気遣いだった。
この人の軽薄そうな態度は、きっと表向きの顔なんだ。
「服はどんな感じが好みっすか?」
「この辺なら何でもあるっすよ」
そう言われても、急に好きな服を選べと言われても困る。
私は流されるようにGUへ入った。
「じゃ、適当に見ててください」
そう言い残すと、第二の七は店の奥へ歩いていく。
相変わらず、気の抜けるような歩き方だった。
でも、もう分かる。
この人の行動には、必ず意味がある。
私が男の人を気にせず服を選べるように。
それと同時に、店内を見て回るため。
あのサングラスも、視線を悟られないためなのかもしれない。
近くで外国語が聞こえた。
第二の七の足が止まる。
その視線が、一瞬だけ何かを追った。
「伏せて!」
叫び声と同時だった。
鼓膜を破るような爆発音。
陳列棚が宙を舞い、店内にガラス片が降り注ぐ。
爆風が私の身体を吹き飛ばした。
床を転がり、ようやく止まる。
耳鳴りしかしない。
煙。
悲鳴。
焦げ臭い匂い。
「逃げるっす!」
第二の七の叫びだけが、はっきり聞こえた。
セーラー服の女子高生が床に倒れている。
足から血が流れていた。
胸が締め付けられる。
……私のせい?
私を狙った攻撃なの?
警察なんかより、ずっと危険な相手じゃない。
その時、頭をよぎった。
七は――こんな相手と戦っている。
私は女子高生へ駆け寄った。
「大丈夫?」
肩を貸して立たせる。
「ここにいたら危ない。逃げよう」
二人で瓦礫を越え、店の外へ飛び出した。
通りの向かいに市民センターが見えた。
人気のない建物だった。
中へ入り込み、トイレでハンカチを濡らす。
足の血を拭うと、傷は思ったより浅い。
よかった。
彼女は菜々ちゃんというらしい。
高校生くらいだろうか。
立ち上がろうとして顔をしかめる。
足をくじいているらしい。
「ここで隠れていよう」
そう思った。
でも。
廊下の向こうから、硬い靴音が響いてくる。
近づいてくる。
嫌な予感ほど当たる。
もう助けてくれる七はいない。
この子だけは守らないと。
私が巻き込んでしまったんだから。
逃げ道はない。
足を痛めた彼女を走らせることもできない。
どうすれば――。
「……三」
菜々が、小さく呟いた。
「二」
何を数えてるの?
「一」
次の瞬間。
建物中の警報が一斉に鳴り響いた。
けたたましい非常ベル。
館内放送。
職員たちが慌てて飛び出してきた。
さっきまで聞こえていた靴音は、もう消えていた。
私はようやく息を吐いた。
助かった。
……今は、だけど。
