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教習所通いの俺が、車に恋して、AC/DCでノッて、タイヤと三角関係になった話【ヨイとトックのホラー部室 #03】

シネマ先生とトックの映画漫談スピンオフ。

先生は出てこない。トックの大学の先輩・九条 宵(ヨイ)と、トックの2人が、「やる気のない映画サークル」の部室で、ホラー映画をゆるーくだべる場所。

今日はこの3本。

「クリスティーン」
「地獄のデビル・トラック」
「ラバー」

先輩と後輩だから、かしこまらない。本音と感覚で語る。
知識は後からついてくる。
どうぞ、部室を覗いていってください。


キャラクター紹介


世界で一番慎重な車って言ったんすか

(梅雨の中休み。久しぶりの晴れ間で、窓の外のまだ濡れた地面が光っている)

(👻 ヨイ、窓辺に立って外を見ている)

🎤 トック:ちっす。

👻 ヨイ:(振り返らずに)……あ。

(🎤 トック、ソファに鞄を置いて、DVDを取り出す)

🎤 トック:ヨイせん、なんで窓辺で立ってんすか。

👻 ヨイ:いや、サークル棟の前の道路、教習所の車が通るのよ、たまに。

🎤 トック:教習車っすか。

👻 ヨイ:あの屋根に三角の標識つけて、ゆっくり右折する車。可愛くて。

🎤 トック:……あれ可愛いっすか。

👻 ヨイ:可愛いくない?世界で一番慎重な車。

🎤 トック:褒め方、動物園のカピバラなんすよ。

👻 ヨイ:右折だけで3秒くらい悩むから。

🎤 トック:感受性が教習所に向きすぎてる。

👻 ヨイ:教習車、見たことある?あれね、ハンドルがブレてるの。運転してる人の緊張が、屋根のあの三角まで伝わってる。可愛い。

🎤 トック:……ヨイせん。

👻 ヨイ:ん。

🎤 トック:俺、教習所行ってるんすけど。

👻 ヨイ:(振り向く)え。

🎤 トック:先月から。

👻 ヨイ:先言いなよ。

🎤 トック:今、言いました。

👻 ヨイ:(笑う)どこまで行ったの。

🎤 トック:仮免、まだ取れてないっす。

👻 ヨイ:マジで。

🎤 トック:教官が怖くて。「はい左、はい右、はいミラー、はい巻き込み確認」ってずっと言われ続けてミスりました。しかも教習車って、こっちが焦るほど静かになるじゃないすか。

👻 ヨイ:あー。

🎤 トック:「今の、何がダメだったか分かる?」の時間。

👻 ヨイ:世界で一番怖い問い。

🎤 トック:「全部です……」しか出てこない。あと、教官がメモ取る時、終わった感あるじゃないすか。

👻 ヨイ:(笑う)

🎤 トック:「書かれてる……俺の罪が……」ってなる。

👻 ヨイ:(窓辺から離れて、ソファに座る)可哀想に。

🎤 トック:笑いながら可哀想っていうのやめてもらっていいでしょうか。

👻 ヨイ:いや、トックが教習所で叱られてる絵、想像したら、ちょっとよかったから。

🎤 トック:……。

👻 ヨイ:(笑う)ごめん。で、それで、今日この3本?

(🎤 トック、ローテーブルにDVDを3枚並べる)

🎤 トック:そうなんすよ。教習所行き始めてから、なんか車のこと考える時間が増えて、で、車のホラー、ちゃんと観たことなかったなって。

👻 ヨイ:見せて。

🎤 トック:1本目、『クリスティーン』。

👻 ヨイ:ジョン・カーペンター。

🎤 トック:2本目、『地獄のデビル・トラック』。

👻 ヨイ:(少し笑う)

🎤 トック:3本目、『ラバー』。

👻 ヨイ:(黙る)

🎤 トック:……なんすか、その黙り方。

👻 ヨイ:いや、この3本、車のホラーで括ったの、いいセンスだなって。車、トラック、タイヤ。まとまってるよね。

🎤 トック:そうっす、そこ気づいてもらいたかったっす。

👻 ヨイ:でも、観終わると、もう一個別の括りが見えてくると思うけどね。

🎤 トック:別の括り?

👻 ヨイ:今は言わない。観終わった後で。

🎤 トック:そういうの引っ張るんすね。

👻 ヨイ:引っ張る。じゃあ、1本目から。


クリスティーン、見せたら惚れちゃうやつ

👻 ヨイ:『クリスティーン』、1983年。監督ジョン・カーペンター、原作スティーヴン・キング。いじめられっ子の高校生アーニーが、ボロボロの1958年式プリムス・フューリーを手に入れるんだけど、その車「クリスティーン」に異常に執着していく話。で、車もまた、アーニーを独占するみたいに暴走し始める。青春映画とホラーとラブストーリーが、全部変な方向で混ざってる映画。以上、あらすじ紹介終わり。

🎤 トック:これ、ヨイせん何回観てます?

👻 ヨイ:3回かな。

🎤 トック:俺、ちゃんと観たの初めてだったんすけど。

👻 ヨイ:どうだった。

🎤 トック:……ヨイせん、1個、言っていいすか。

👻 ヨイ:どうぞ。

🎤 トック俺、クリスティーンの方が、ヒロインのリーより可愛く見えました。

👻 ヨイ:……は?

🎤 トックいや、だって、クリスティーンめっちゃツンデレじゃないすか。アーニーが他の女と話してると拗ねるし、傷つけられると怒るし、でも直してもらうと嬉しそうだし。リーはずっと「危ないよ」「やめなよ」って言ってる側だから、なんかお母さん感あるんすよ。

👻 ヨイ:トック。

🎤 トック:あと、あの赤いボディ。1958年式プリムス・フューリー。テールフィン、ピンって立ってて、夜の街灯でクロームが光るじゃないすか。あれ、前から見るとちょっと笑ってません?「おかえり」みたいな顔してる。

👻 ヨイ:トックくん。

🎤 トック:あと壊されたあと、自分でガコン、ガコンって戻るとこ!あれ健気すぎません!? 「ワタシ、まだ走れる……!」みたいな。

👻 ヨイ:やめろ。CV付けるな。

🎤 トック:いや絶対あそこ、少女漫画の「まだ……好きだから……」なんすよ。

👻 ヨイ:いや少女じゃなくて車。

🎤 トック:しかも、あいつ、自分を壊した奴には殺意MAXなのに、アーニーにはずっと甘いじゃないすか。

👻 ヨイ:……。

(短い沈黙)

👻 ヨイ:おいこら。

🎤 トック:はい?

👻 ヨイ:やられてるわ。

🎤 トック:え。

👻 ヨイ:「笑ってる」って言った瞬間、終わり。完全にアーニー側の視点に入ってる。

🎤 トック:いやいやいや。

👻 ヨイ:しかもさっきの「まだ走れる……!」完全に感情移入してたじゃん。

🎤 トック:だって可哀想でしょ! ボコボコにされて!

👻 ヨイ:ほらもう「可哀想」って言ってる。

🎤 トック:……あ。

👻 ヨイ:トック、戻ってこい。

🎤 トック:え?

👻 ヨイ:車から戻ってこい。そっち行くな。

🎤 トック:そんなあっち側の人みたいに。

👻 ヨイ:トックー! 聞こえるかー! 人間側に戻れー!

🎤 トック:(笑う)いやでも、クリスティーンって、アーニーのことだけは絶対裏切らないじゃないすか。

👻 ヨイ:あっ、ダメだ。もう深い。

🎤 トック:親は支配してくるし、学校ではいじめられるし、友達ともズレていくし。でもクリスティーンだけは「ずっと君の側にいる」って感じで。

👻 ヨイ:…………。

🎤 トック:ああいうの、19歳男子に刺さるんすよ。

👻 ヨイ:……リーだ。

🎤 トック:はい?

👻 ヨイ:私いま完全にリーのポジションだ。「アーニー、お願い戻って!」って言ってる側。

🎤 トック:(笑う)

👻 ヨイ:なんで私、車に脳焼かれてる男子に「戻ってきて」って呼びかけてんだろ。めんどくせー。

🎤 トック:ヨイせん、急にリーに感情移入し始めた。

👻 ヨイ:リー、大変だったんだなって今わかった。彼氏が急に「この車は俺を理解してくれる」とか言い出したら、そりゃ頭抱えるわ。

🎤 トック:でも実際いますよね。「人間より、この子の方が分かってくれる」って言い出す人。

👻 ヨイ:いる。車、バイク、PC、自作AI、観葉植物。

🎤 トック:観葉植物!?

👻 ヨイ:「この子はちゃんと応えてくれるから」って。

🎤 トック:末期っす。

👻 ヨイ:あなたも。末期。かなり末期。

🎤 トック:末期っす(笑)。でもヨイせん、さっき「違う」って言おうとしてませんでした?

👻 ヨイ:……あー、そう。私ね、この映画、ずっと逆だと思ってるの。

🎤 トック:逆?

👻 ヨイ:普通は、「呪われた車が、純朴な少年を狂わせた」って話として見るじゃん。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:でも私、アーニーの方が、クリスティーンを歪ませてるように見えるの。

🎤 トック:……どういうことっすか。

👻 ヨイ:アーニーって最初、ずっと抑圧されてるでしょ。親にも学校にも、いじめっ子にも。怒りも自尊心も、全部飲み込んでる。

🎤 トック:うん。

👻 ヨイ:で、その鬱屈を、全部クリスティーンに流し込んだ。「見返したい」「奪いたい」「俺だけを選んでほしい」。毎日磨いて、話しかけて、執着してるうちに、車が「そう応える存在」に見えてくる。

🎤 トック:……車は、願いを映しただけ。

👻 ヨイ:私は、クリスティーンって“悪魔の車”というより、アーニーの欲望の容れ物だと思ってる。もちろん最初から呪われてはいる。でも、どんどん形を与えてるのはアーニーの方。

🎤 トック:……。

👻 ヨイ:だからトックが「拗ねる」「嫉妬する」「健気」って見えたのも、たぶんアーニーと同じ見方してるからなんだよ。

🎤 トック:……。

👻 ヨイ:つまり今のトック、かなり危ない位置にいる。

🎤 トック:ちょっと待ってください。俺、ただ車を可愛いって言っただけですよ?

👻 ヨイ:教習所で怒られて、仮免まだで、自信なくしてる19歳男子が、「絶対自分を裏切らない存在」に惹かれてる。

🎤 トック:……うわぁ。

👻 ヨイ:戻ってこーい。

🎤 トック:またリーだ。

👻 ヨイ:アーニー! 車を降りなさい!

🎤 トック:(笑いながら)でもヨイせん。

👻 ヨイ:なに。

🎤 トック:俺、たぶんもう、クリスティーンがバックで近づいてくるシーン見たら、「来た……」ってちょっと嬉しくなる側です。

👻 ヨイ:あー、ダメだ。完全に取り込まれてる。

🎤 トック:クリスティーン……。

👻 ヨイ:呼ぶな。頭のエンジン切れ。

(短い沈黙)

👻 ヨイ:あとさ、トック。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:『クリスティーン』、いじめられっ子が、何かを手に入れて、社会に復讐する話じゃん。

🎤 トック:そっすね。

👻 ヨイ:これ、1983年。翌年の1984年に『ネバーエンディング・ストーリー』が公開されてる

🎤 トック:あ、はい。

👻 ヨイ:バスティアン、覚えてる? いじめられっ子で、屋根裏に逃げ込んで、本を読んだら、ファンタージエンの世界に行って、最後にファルコンに乗る。

🎤 トック:白い、ドラゴンみたいなやつ。

👻 ヨイ:そう。ファルコンに乗って、現実世界のいじめっ子を空から追いかける

🎤 トック:……あ。

👻 ヨイ:気づいた?

🎤 トック:構造、同じっすね。いじめられっ子+特別な乗り物+復讐

👻 ヨイ:同じ。1983年(クリスティーン)と1984年(ネバーエンディング)。1年差で、海の向こうで、同じ構造の話が並走してた。何かが、あの時代、起きてた。

🎤 トック:……でも、それって、どっちも「選ばれた」話なんすね。

👻 ヨイ:そう。

🎤 トック:現実では弱い男の子が、「お前は特別だ」って言ってくれる何かに出会う。……しかも、それって、現実の人間より優しいんすよね。

👻 ヨイ:うん。

🎤 トック:現実の人間、そんな都合よく「君は特別だよ」って言ってくれないから。

👻 ヨイ:うん。

🎤 トック:クリスティーンは車で、バスティアンはファンタジー世界。

👻 ヨイ:で、その「選ばれた感覚」が、復讐と直結する。

🎤 トック:……あ。

👻 ヨイ:これ、いまの言葉で言うと、インセル文学の原型なんだよね。鬱屈した男の子が、何か特別な存在に出会って、復讐する物語。

🎤 トック:インセル……。

👻 ヨイ:「自分は不当に扱われている、誰かが俺を救ってくれるはず、その誰かを手に入れたら世界に復讐する」っていう、現代でもよく言われる心理。それの、80年代版が、クリスティーンとバスティアン。キングは、1983年の段階で、この心理構造を見抜いてた。

🎤 トック:キング、すごいっすね。

👻 ヨイ:すごい。

🎤 トック:あ、あとヨイせん、今凄いことに気づきました。

👻 ヨイ:なに。

🎤 トック:今年、映画館でやってたから気づいたんすけど、1983年、もう1個あったんすよ。

👻 ヨイ:……何が。

🎤 トック『のび太の海底鬼岩城』

👻 ヨイ:ドラえもんじゃん。急に国民的児童映画を混ぜないで。

🎤 トック:いやでも聞いてください。俺、最初ふざけて言おうと思ったんすよ。

👻 ヨイ:うん。

🎤 トック:でも整理したら、「人格を持った乗り物が、恋して、暴走して、自己犠牲まで行く」って、だいぶ近い。

👻 ヨイ:……嫌な一致の仕方してる。

🎤 トック:バギーちゃん。

👻 ヨイ:バギーちゃん。

🎤 トック:あれ、男性人格で、しずかちゃんに恋して、しずかちゃんを泣かせたポセイドンに突っ込んで、爆発四散するじゃないすか。

👻 ヨイ:する。

🎤 トック:1983年、3月12日公開。

👻 ヨイ:……クリスティーン、12月公開。同じ年

🎤 トック:海の向こうではキングが、日本では藤子・F・不二雄先生が「車が恋する話」を描いてた。

👻 ヨイ:(少し興奮する)……ちょっと待ってトック、それ、私気づいてなかった。

🎤 トック:…………。

👻 ヨイ:なんなの。いきなり。

🎤 トック:やってみたかっただけっす。流行るかなって。

👻 ヨイ:……話戻すとさ、1983年って、世界中で何かが起きてたのかもしれない乗り物に人格を与える物語が、地球の裏側で、同時に発生した。アメリカと日本で、別の作家が、別の動機で、同じことやってた。

🎤 トック:偶然っすか。

👻 ヨイ:偶然なんだけど、こういう偶然がね、たまにあるの。時代の空気が、別々の人間に、似た発想を持たせる

🎤 トック:でもバギーちゃん、クリスティーンよりだいぶ健全っすよね。

👻 ヨイ:まあね。

🎤 トック:クリスティーンは嫉妬で殺すけど、バギーちゃんは自己犠牲する。

👻 ヨイ:人格の差が出てる。

🎤 トック:国民的児童向けアニメとスティーヴン・キング比較してる会話、今たぶん世界でここだけっす。

👻 ヨイ:(笑う) 怖いのってさ。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:アメリカと日本で、別々の作家が、別々に考えてるはずなのに、同じ夢見てることなんだよ。

🎤 トック:……。

👻 ヨイ:誰かが真似した、とかじゃなくて。同じ時代の空気を吸ってると、似た怪物が出てくる。

🎤 トック:バギーちゃん怪物にされちゃいましたけど。あと、今年、新しいバギーちゃん映画やったっすよね。

👻 ヨイ:『新・のび太の海底鬼岩城』。2026年。

🎤 トック:43年経って、もう一回バギーちゃんが帰ってくる。

👻 ヨイ:帰ってきてる。クリスティーンも、いまどっかで、また誰かに磨かれてるかもね

🎤 トック:……それ怖いっす。

👻 ヨイ:(ちょっと嬉しそうに笑う) こういう瞬間あるから、ホラー映画やめられないんだよね。

👻 ヨイ:あとね、この映画、撮影エピソードがいいの。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:クリスティーン、撮影に20台以上の1958年式プリムス・フューリーが使われて、そのほとんどが破壊された

🎤 トック:20台以上?

👻 ヨイ:そう。で、1958年式プリムス・フューリーって、撮影当時すでに希少車両だったの。アメリカの車好きから、本気の抗議が来たって言われてる。「あの車を映画のために壊すな」って。

🎤 トック:そりゃ来ますわ。

👻 ヨイ:でも、カーペンター、止めなかった。20台以上壊した。

🎤 トック:マジっすか。20台以上って。

👻 ヨイ:うん。

🎤 トック:俺だったら、1台壊した時点で「もうこれで撮り切りません?」ってなる。

👻 ヨイ:普通そう。

🎤 トック:「もう十分怖いです!」って監督止める。

👻 ヨイ:でもカーペンターは止まらなかった。

🎤 トック:もう途中から、「映画撮ってる人」じゃなくて、「車を合法的に破壊したい人」なんすよ。

👻 ヨイ:(笑う)

🎤 トック:「ホラー監督」っていうか、「クラシックカー爆破解体ショーの主催者」。

👻 ヨイ:最低。

🎤 トック:でも絶対、撮影後テンション上がってるスタッフいたでしょ。「今日3台いけました!」みたいな。

👻 ヨイ:(笑いながら)いる。絶対いる。

🎤 トック:車への情熱が狂気側なんすよ。

👻 ヨイ:マジ。あと、自己修復シーンの撮り方、知ってる? クリスティーンが、いじめっ子に壊された後、ガタガタ動いて元通りになるシーン。

🎤 トック:あれどう撮ったんすか。

👻 ヨイ車を、巨大な油圧プレスでへこませる

🎤 トック:はい。

👻 ヨイその映像を、逆再生する

🎤 トック:……それだけ?

👻 ヨイ:それだけ。CGなし、純粋なアナログ特撮。へこむ映像を逆から流したら、元に戻る映像になる

🎤 トック:天才じゃないすか。でも、こういうの聞くと、CG慣れした頭が、一回リセットされますね。

👻 ヨイ:分かる。

🎤 トック:「え、それでいいんだ」ってなる。

👻 ヨイ:昔の特撮って、「無理やり現実でやる」が基本だから。

🎤 トック:だから妙に“そこにある感”出るんすね。

👻 ヨイ:で、それを20台以上やった。

🎤 トック:自動車愛好家の悲鳴が聞こえます。

👻 ヨイ:クリスティーン側の人たちね。気持ち分かるんじゃない?

🎤 トック:いや、俺まだ人間側でいたいっす。

👻 ヨイ:(笑う)

🎤 トック:でも、あの自己修復シーン観ると、「傷ついても元に戻れる車」欲しくなる気持ちは、ちょっと分かる。

👻 ヨイ:でしょ。

🎤 トック:スマホも俺も修復してほしい。

👻 ヨイ:急に情緒が『イレイザーヘッド』。

🎤 トック:でも、もし深夜2時に、誰もいない道路の向こうから、ボコボコのクリスティーンがライト点けて来たら。

👻 ヨイ:うん。

🎤 トック:「乗る?」って言われる気はする。

👻 ヨイ:終わりだよ。

🎤 トック:(笑う)

👻 ヨイ:トック、本当に免許取る前で良かった。


キング、また車の話してるじゃないすか

👻 ヨイ:じゃあ2本目。『地獄のデビル・トラック』、1986年。監督、スティーヴン・キング。

🎤 トック:これ、ヨイせん何回観てます?

👻 ヨイ:2回。2回目いらなかった。

🎤 トック:マニア名作とかじゃないんすね。

👻 ヨイ:違う。これは、愛すべき失敗作。映画史って、たまに「なんで誰も止めなかったの?」って作品あるじゃん。

🎤 トック:あります。

👻 ヨイ:これは「全員テンション上がりすぎて止まれなかった」タイプ。

🎤 トック:俺、観たんすけど、なんすかこれ。

👻 ヨイ:(笑う)正しい反応。あらすじ、おさらいする?

🎤 トック:お願いします。

👻 ヨイ:彗星が地球のそばを通過した影響で、地球上の機械が全部、意思を持って人間に襲いかかる。トラック、自動販売機、芝刈り機、ATM、跳ね橋、玩具のラジコン、なんでも。主人公たちは、ノースカロライナ州の田舎のドライブインに閉じ込められて、暴走したトラックたちと戦う。

🎤 トック:そう、それなんすよ。全機械が暴走する

👻 ヨイ:する。

🎤 トック:これ、80年代の発想じゃないっすよね。いまの発想っす。AI暴走じゃないですか、これ

👻 ヨイ:(笑う)来た。

🎤 トック:いや、ヨイせん、俺たちの世代って、AIが暴走するかもとか、わりとマジで聞いて育ってますよね?だからこの映画観ても、「あ、AI暴走ね」って、普通に入ってくるんすよ。

👻 ヨイ:40年前は、これ、冗談だったの。そんなわけねーだろって。

🎤 トック:俺たちには普通っすよ。

👻 ヨイ:(爆笑)

🎤 トック:あと、運転手のいないトラックが暴走するシーン、テ(ピー)ラみたいじゃないすか。

👻 ヨイ:固有名を出すのやめなさい。廃部になるから。

🎤 トック:自動運転車って、いま部分的に実現してるじゃないすか。AIが運転するようになったら、暴走することは、まあ、ありえる。

👻 ヨイ:ものすごい嫌な接続したよ。

🎤 トック:俺、教習所で免許取ろうとしてる時に、もう自動運転の時代が来てて。これ、なんなんすか。

👻 ヨイ:知らないよ。

🎤 トック:あと覚えてます?キング本人が出てきて、ATMから罵倒されるシーンがある

👻 ヨイ:そう。キングが銀行のATMでお金下ろそうとしたら、ATMの画面に「You are an asshole」って表示される。「お前はクソ野郎だ」って意味。

🎤 トック:あれ、間違いなくキング本人っすよね。

👻 ヨイ:本人。自分で監督して、自分で出演して、自分で罵倒されてる。

🎤 トック:……ヨイせん、これ、ひょっとして。

👻 ヨイ:なに。

🎤 トック:キング、自分で予言してたんじゃないすか。未来の自分から、「やめとけ」ってメッセージ来てる。

👻 ヨイ:しかも無視して完成させてる。

🎤 トック:一番ダメなホラー主人公の動き。

👻 ヨイ:「ATMが警告してる! このままじゃ危ない!」って。

🎤 トック:なのに「いや、俺は行く」って。

👻 ヨイ:地下室降りるタイプ。

🎤 トック:しかも監督本人。

👻 ヨイ:(笑う)でさ、このデビル・トラック、原作はキングの短編「Trucks」。1978年の短編集『Night Shift』に収録されてる。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:同じ短編集に、もう一本、似たような話が入ってる。「The Mangler」。

🎤 トック:マングラー。

👻 ヨイ:1995年にトビー・フーパー監督で映画化された、『マングラー』。業務用クリーニング機械が、悪魔に憑かれて、従業員を圧殺する話

🎤 トック:クリーニングの機械?

👻 ヨイ:そう。業界用語で"マングラー"って呼ばれてる、巨大なアイロンプレス機。シーツとかをプレスする、デカい機械。

🎤 トック:それが、悪魔に憑かれて、人を食う。

👻 ヨイ:食う。で、ここからがやばい話。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:キング、大学時代、メイン州バンゴーの「New Franklin Laundry」っていうクリーニング工場で、本当に働いてた。

🎤 トック:マジっすか。

👻 ヨイ:時給1.60ドル、週60ドル。キング本人が「人生で最悪の仕事だった」って言ってる。

🎤 トック:……。

👻 ヨイ:それで「The Mangler」を書いた。

🎤 トック:実体験ベースだったんすね。

👻 ヨイ:実体験。しかも、キングのお母さんも、コネチカットの工場で同じ機械を扱ってたって話があるの。ほんとなら、家族で二世代、同じ機械の被害者。

🎤 トック:呪われてる。

👻 ヨイ:呪われてる。で、ここで気づいてほしいの。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:「The Mangler」も「Trucks」も、同じ短編集『Night Shift』に入ってる。同じ時期にキングが書いた。

🎤 トック:あ、キャリーも、確か高校が舞台じゃないすか。

👻 ヨイ:キャリーも。キング、若い頃、高校教師だったの。

🎤 トック:……うわ。

👻 ヨイ:トック、何が見える?

🎤 トック:……キング、自分の身の回りのものに、片っ端から、反逆させてる

👻 ヨイ:うん。

🎤 トック:学校、工場、車、ホテル、犬、電化製品……。

👻 ヨイ:そう。

🎤 トック:キング、「世界が怖い」っていうより、「生活が怖い」人なんだ。

👻 ヨイ:そう。宇宙人とか悪魔より、「毎日触ってるもの」が怖い人。

🎤 トック:あー……。

👻 ヨイ:「学校」「洗濯工場」「ホテル」「車」「犬」。全部、「生活圏」。

🎤 トック:だからキングのホラーって、「帰りたくない」の感じあるんすね。なんか、「家のWi-Fi急に切れる」とかでも、ちょっと怖いですもん、今。

👻 ヨイ:(笑う)

🎤 トック:「いつも動いてるもの」が急に変になる怖さ。それって逃げ場がない。

👻 ヨイ:そう、「逃げ場」がないの。全部、自分の生活してきた場所が、復讐してくる。キングのホラーって、結局、貧乏時代の労働経験のリベンジマッチなの。

🎤 トック:そう聞くと、急に、切なくなってきました。

👻 ヨイ:切ない。でしょ?この『地獄のデビル・トラック』のドライブインとガソリンスタンドって、キングが若い頃に出入りしてた場所の空気感なの。自分が生きてきた風景が、自分に襲いかかる。

🎤 トック:あと、あれ。

👻 ヨイ:なに。

🎤 トック:あの、緑の顔。トラックの。

👻 ヨイ:(少し嬉しそうに)来た。

🎤 トック:あれ、なんなんすか。あれだけやたら印象に残ってて。トラックの正面に、緑の、口が裂けた、目がギラギラした、悪魔みたいな顔。

👻 ヨイ:あれね、スパイダーマンの宿敵、グリーン・ゴブリンの顔

🎤 トック:……スパイダーマンの?

👻 ヨイ:そう。Marvelから正式に許諾を取って、トラックの正面に取り付けてる。

🎤 トック:マーベルから許可取ってんすか。

👻 ヨイ:取ってる。きちんと。

🎤 トック:あれが映画のリーダー格のトラックっすよね。

👻 ヨイ:そう。車体は、黒のWhite Western Star 4800トレーラーには"HAPPY TOYZ"って書いてある

🎤 トック:玩具運搬車の設定。

👻 ヨイ:そう。「Here comes another load of joy!」って書いてある。「次のお楽しみが運ばれてくるよ!」って。

🎤 トック:怖いっすそれ。

👻 ヨイ:怖い。あとね、トレーラーの後部には、ピエロの絵が描いてある

🎤 トック:……。

👻 ヨイ:さらに、キャブの中、運転席の裏に、赤いカーテンがあって、その裏にグリーン・ゴブリンのびっくり箱が隠されてる——らしいの。

🎤 トック:細かすぎでしょ。

👻 ヨイ:男子って、「運転席の裏に何か隠してある」設定、好きだから。

🎤 トック:好きっすね。

👻 ヨイ:「このボタン押すと裏モード起動」みたいなの。キング、その感性で映画作ってる。細かい。誰も気づかないところまで、作り込まれてる。

🎤 トック:秘密基地の延長で監督やってる。

👻 ヨイ:(笑う)

🎤 トック:キング、結局、本気で作ってますね。

👻 ヨイ:本気で作ってる。失敗作なんだけど、ディテールは異常に丁寧

🎤 トック:あと、トラックのエンジン音、覚えてます? あの低い、唸る音。

👻 ヨイDetroit 8V-71ディーゼルっていうエンジン。業界では「唸り音が独特」で有名なエンジンでね。キングはその唸りを、そのままグリーン・ゴブリンの"声"として使ったって言われてる。

🎤 トック:声扱いっすか。

👻 ヨイ:声扱い。機械の音そのものが、キャラクターになってる

🎤 トック:……それ、前回観たやつと、ちょっと、似てません?

👻 ヨイ:(止まる)……何の話。

🎤 トック:前回、ヨイせんが「リンチの音響、すごい」って言ったじゃないすか。工場の音が、廊下でも鳴ってるって。

👻 ヨイ:あ。

🎤 トック:『イレイザーヘッド』。あれもキングと同じで、機械の音そのものが、映画のキャラクターになってた。

👻 ヨイ:(ちょっと嬉しそうに)……トック、いまホラーマニアの階段、一段上がった。

🎤 トック:マジっすか。

👻 ヨイ:マジ。しかも、もう一個、繋がるよ

🎤 トック:なんすか。

👻 ヨイ:この『地獄のデビル・トラック』とリンチの『ブルー・ベルベット』、撮影は1985年。同じノースカロライナの、同じ町で、ほぼ同時期に撮られてた。

🎤 トック:……マジっすか。

👻 ヨイ:マジ。ウィルミントンっていう町。で、キャストとスタッフが夜、一緒にメシ食ってたって話が残ってる。キングのチームと、リンチのチームが、同じ町で、別々の映画を撮ってた。

🎤 トック:すげー。

👻 ヨイ:すげー。で、翌86年、片方は名作として、片方は珍品として、並んで公開される。

🎤 トック:人生って、面白いっすね。

👻 ヨイ:面白い。あと、ついでに、もっとひどい話、聞く?

🎤 トック:聞きます。

👻 ヨイキング、撮影中、コカイン中毒だった

🎤 トック:……。

👻 ヨイ:本人が後年、認めてる。「あの時期、自分は正気じゃなかった」って。映画の出来がめちゃくちゃなのもそのせいかもしれない。

🎤 トック:……でも、ヨイせん。その状態で、ATMから罵倒されながら、自分が監督して、Marvelに許可取って、ピエロの絵まで描き込んでた人が、いまも生きて、本書いてるって、すごくないすか。

👻 ヨイ:すごい。キングは、永遠の中2マインドの体現者

🎤 トック:あ、そういえば、サントラ、AC/DCっすよね。

👻 ヨイ:AC/DC。キングが執筆中好きすぎてずっとかけてたんだって。

🎤 トック:凄いの聞きながら書いてんすね。AC/DCのメロディからショーシャンクが出てくる気がしないんすけど。

👻 ヨイ:何が凄いってAC/DCって、中学生男子が初めて聴いた時に「なんか分かんないけど最強になった気がする」音楽じゃん。

🎤 トック:分かる。

👻 ヨイ:その状態で、ノリノリで小説書いてる。

🎤 トック:……それ聞くと、もう、キングのこと、嫌いになれないっす。

👻 ヨイ:なれない。だから、この映画も、なんか、許せちゃう

🎤 トック:あと、これ、子供が観たら好きになりそうっす。AC/DCがガンガン鳴って、トラックが暴れて、緑の顔の悪魔が笑ってて。

👻 ヨイ:それね。子供心、わしづかみ。こうやって子供が地獄のデビル・トラックに熱狂する。そして、永遠の中2マインドが、世代を超えて引き継がれる

🎤 トック:……俺、今日帰ったら、たぶんAC/DC聴きます。

👻 ヨイ:ほら始まった。

🎤 トック:で、教習所行く。

👻 ヨイ:最悪の導線。

🎤 トック:でも今日から、教習車ちょっと喋って見える気がするんすよね。

👻 ヨイ:やめて。

🎤 トック:「トック……寄せすぎ……」

👻 ヨイ:怖い怖い。


タイヤ、なんで念力使えるんすか

👻 ヨイ:じゃあラスト。『ラバー』、2010年。監督、カンタン・デュピュー。

🎤 トック:これ、ヨイせん何回観てます?

👻 ヨイ:1回。1回でおなかいっぱい。

🎤 トック:俺、観たんすけど、ヨイせん、これ、なんすか。

👻 ヨイ:(笑う)まず、あらすじ言える?

🎤 トック:言えます。

🎤 トック:荒野に、捨てられたタイヤが1個落ちてるそれが、なんか急に、動き出す。この時点で普通の映画なら終わるんすよ。「あ、タイヤ動いた」で終幕なんすよ。

👻 ヨイ:短編映画。

🎤 トック:なのにこっから90分、「タイヤが何を考えてるか」を見せられる。しかも途中から、こっちも普通に「あ、今ちょっと傷ついてるな」って読み始める。……あらすじ、順番に行きますよ?転がり始めて、ペットボトルを潰して、サソリを踏み潰して、潰れない瓶ビールに苛立って念力で潰して、ウサギの頭を念力で爆発させて、人間の頭も念力で爆発させて、なんか恋して、最後は警官に銃で撃たれて、生まれ変わって、仲間のタイヤを率いて街に向かう

👻 ヨイ:完璧。

🎤 トック:……でも、ヨイせん。

👻 ヨイ:ん。

🎤 トック:意味、分かんないっす。

👻 ヨイ:(笑う)うん。

🎤 トック:まず、冒頭、なんすかあれ。道路に、椅子がいっぱい並べられてる

👻 ヨイ:椅子ね。

🎤 トック:そこにパトカーが走ってきて、わざわざ椅子を1個ずつ倒すように、ジグザグに走ってくる。意味、分かんない。

👻 ヨイ:(嬉しそうに)分かんないよね。あれ、デュピューからの最初の宣言なの。「これからシュルレアリスムやります」っていう開幕の儀式。

🎤 トック:儀式。

👻 ヨイ:意味のないものを、意味ありげに、丁寧にやる。この映画の作法が、最初の1分に全部入ってる。——あとね、これは批評家の読みなんだけど、「モノが命を持って街を転がる」って発想自体、フランス映画の古典『赤い風船』の系譜だって言われてる。

🎤 トック:……『赤い風船』。

👻 ヨイ:1956年、アルベール・ラモリス。風船が意思を持って、少年と一緒にパリを漂う短編。フランス人なら誰でも知ってる。デュピュー、フランス人だから。

🎤 トック:風船がタイヤになった。

👻 ヨイ:60年かけて、空から地面に落ちてきた。だいぶ汚れたけど。

🎤 トック:それ、ずるくないすか。

👻 ヨイ:ずるい。で、ここからが大事。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:この映画、冒頭で、警官が観客に向かって、長い演説するじゃない。「全ての偉大な映画は、"No reason"——理由のなさ——を含んでいる」って。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:「ETはなぜ茶色なのか? No reason. ピアニストはなぜ隠れているのか? No reason. この映画は、その"No reason"への捧げ物だ」って。

🎤 トック:その後、タイヤが転がり始める。

👻 ヨイ:そう。「意味を探すな」って、観客に最初に宣言してる映画

🎤 トック:でもタイヤ、めっちゃ中央寄りで撮ってるじゃないすか。

👻 ヨイ:主人公だから。

🎤 トック:タイヤに主人公カット割りして意味を探すなと言われても。開始5分で全員「いや理由くれ」ってなってる。

👻 ヨイ:なってる。しかも、その5分後には「いや、なんでタイヤに乳首みたいな模様あるんだよ」って、別の疑問が出てくる。

🎤 トック:脳の処理能力、全部タイヤに持ってかれる。

👻 ヨイ:人類史上もっとも「タイヤを凝視した90分」。

🎤 トック:……ヨイせん、俺、一個、ずっと引っかかってることがあって。

👻 ヨイ:なに。

🎤 トック「意味を探すな」って言いながら、めっちゃ意味ありげに作ってないですか、これ

👻 ヨイ:(止まる)

🎤 トック:椅子のシーンも、オマージュって意味があるじゃないすか。タイヤの動き方も、なんか、感情っぽいじゃないすか。探さなくていいなら、もっと、適当に作ればいいのに、めっちゃ作り込んでる

👻 ヨイ:……トック、それね、ラバーを語る上で、一番大事な問い

🎤 トック:マジっすか。

👻 ヨイ:マジ。で、答えは、デュピュー本人が言ってる

🎤 トック:はい。

👻 ヨイデュピュー、元々ミュージシャンなの。Mr. Oizoっていう名義で、エレクトロのDJをやってる。1999年に「Flat Beat」っていうヒット曲があって、黄色いマスコット人形のフラット・エリックを作った人。

🎤 トック:それ知らないっす。

👻 ヨイ:いい、いま知って。つまり、デュピューは、音楽の人。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:音楽って、物語みたいな「意味」じゃ動いてないじゃん。

🎤 トック:そうっすね。

👻 ヨイでも、構造とリズムで、人を動かす。意味じゃなくて、響きで動かす。

👻 ヨイ:クラブでさ、「この曲の歌詞の主人公は何を象徴してるんだ……」って考えながら踊る人、いないじゃん。

🎤 トック:いたら怖い。

👻 ヨイ:ラバー、あれに近い。

🎤 トック:あー。

👻 ヨイ:デュピューにとって、映画は、音楽みたいなもの。構造を作って、リズムを作って、人を動かす。意味は、観客が勝手に読み取る、付随物。

🎤 トック:じゃあ、あの椅子も、タイヤの動きも。

👻 ヨイ構造リズム意味じゃなくて、画の響き

🎤 トック:……それ、めっちゃ納得しました。

👻 ヨイ:した?

🎤 トック:した。意味、探そうとしてたから、おかしくなってたんだ、俺。

🎤 トック:でもこの映画、観終わったあと絶対、人に「いや実はあのタイヤってさ……」って語りたくなる。

👻 ヨイ:そう。No reasonって言いながら、考察勢を大量発生させる、最悪の映画。でも音楽聴く時に、「この音はなぜラなのか」って聞かないでしょ。

🎤 トック:聞かない。

👻 ヨイ:それと同じ。ラバーは、観るんじゃなくて、聴く映画

🎤 トック:あー……MVか。じゃあこれ、2010年版TikTokじゃないすか。

👻 ヨイ:かなり早いTikTok。おすすめ欄に“念力タイヤ”流れてくる時代を先取りしてる。

🎤 トック:どんな時代すか。でも確かにずっと観ていられる。

👻 ヨイ:そう。意味より、「なんかこの画、気持ちいい」が先に来る。

🎤 トック:……ヨイせん、もう1個、いいすか。

👻 ヨイ:どうぞ。

🎤 トック俺、観てて、タイヤに、めっちゃ感情を感じたんすよ。

👻 ヨイ:(少しニヤッとする)来た。

🎤 トック:転がり始める時、寝起き感、あるじゃないすか。ふらふらしてて、まだ慣れてなくて、自分の身体の動かし方が分かってない感じ。

👻 ヨイ:あるある。

🎤 トック:で、世界を観察し始めるんすけど、はじめてのお使い感、ありません? 世界が初めてで、なんでも観察してて、ちょっとビクビクしてる。

👻 ヨイ:(笑う)はじめてのお使い。

🎤 トック:で、最初の獲物、ペットボトルじゃないすか。勝てそうなものから殺してる

👻 ヨイ:そう、それ、あいつ、戦略立ててる

🎤 トック:で、瓶に念力使うシーン、あれ、踏み潰せそうにないから、八つ当たりで瓶を割ってるように見えた。負けず嫌いっすよ、あいつ。

👻 ヨイ:(嬉しそうに)……トック、最高だよ、その観察。

🎤 トック:あと、仲間のタイヤが燃やされるシーン、覚えてます? ゴミ捨て場で、タイヤがいっぱい燃えてる。

👻 ヨイ:覚えてる。

🎤 トック:あれ、主人公のタイヤ、めっちゃ、静かに怒ってた。「同胞を殺された」って、無音で、震えてた。

👻 ヨイ:(うなずく)

🎤 トック:俺、あのシーンで、もう、タイヤを、ただのタイヤとして見れなくなったっす。

👻 ヨイ:終わりです。

🎤 トック:何が。

👻 ヨイ:デュピューに脳を開かれた。

🎤 トック:(笑う)

👻 ヨイ:次から、道端のタイヤ見ても、「あいつにも人生あったんだろうな……」ってなる。

🎤 トック:嫌すぎる副作用。

👻 ヨイ:(少し笑う)でもトック、それね、めっちゃ大事な体験。

🎤 トック:体験?

👻 ヨイ人間の脳って、無生物に、勝手に顔とか感情を見出す癖があるの。パレイドリアっていう現象。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:車の正面が、ヘッドライト=目、フロントグリル=口、で顔に見えるのも、それ。コンセントの差込口が、驚いた顔に見えるのも、それ。人間の脳のバグ。

🎤 トック:じゃあクリスティーンが俺に微笑んでたのも……。

👻 ヨイ:まだそっち側いるんだ。

🎤 トック:あいつ、絶対、俺のこと覚えてますって。

👻 ヨイ:車検のたびに会いに来る元カノみたいに言うな。

🎤 トック:「最近どう?」みたいな顔してエンジンかけてくるんすよ……。

👻 ヨイ:……まあいいや。もうめんどくさい。で、大事なこと、デュピューは、そのバグを、ものすごく丁寧に、ハックしてる。

🎤 トック:ハック?

👻 ヨイ:そう。タイヤを「主人公」だと観客に思わせた瞬間、観客の脳は、勝手にタイヤに人格を付与し始める。トックがいま体験したのが、それ。

🎤 トック:俺、ハックされたんすか。

👻 ヨイ:された。両方からハックされてる。クリスティーンとタイヤの三角関係。

🎤 トック:(笑う)

👻 ヨイ:あとね、デュピュー本人が、こういうことも言ってるの。「最初は、タイヤをただの悪役として書いてた」って。「でも、撮影中、カメラテストを見て気づいた。タイヤに、悪なんて、ないって」。

🎤 トック:ない。

👻 ヨイ:ない。で、書き直したの。"バカな犬"のように

🎤 トック:バカな犬。

👻 ヨイ:「2008年の『WALL-E』第1幕も参考にした」って。あの、地球で一人ぼっちのロボットが、好奇心で世界を探索する、あの感じ。それを、タイヤでやろうとした。

🎤 トック:……だから、寝起き感、はじめてのお使い感、なんすね。

👻 ヨイ:そう。全部、設計通り

🎤 トック:トック、ハックされ続けてました。

👻 ヨイ:(笑う)

🎤 トック:あと、撮影、どうやってんすか。タイヤ、リモコンとかすか。

👻 ヨイ:そう。ほぼ全部、物理特撮タイヤをリモコンで操作してる

🎤 トック:CGじゃないんすか。

👻 ヨイ頭が爆発するシーンだけCG。タイヤの動きは、全部、本物のタイヤを、現場で動かしてる。

🎤 トック:すげー。

👻 ヨイ:で、デュピューが、インタビューで愚痴ってるの。「タイヤは、中身が空っぽだから、リモコンの機構を隠すのが、めちゃくちゃ大変だった」って。

🎤 トック:……それ、製作秘話、可愛すぎません?

👻 ヨイ:可愛い。「俳優を演出するより、面倒だった」って言ってる。

👻 ヨイ:しかもタイヤ、感情表現できないから。

🎤 トック:いや、してた。

👻 ヨイ:してた……。

🎤 トック:途中から、ちょっと「考えてる間」とかありましたもん。

👻 ヨイ:あった。

🎤 トック:「あいつ、今ちょっと傷ついたな」って分かる瞬間ある。

👻 ヨイ:人類、終わりだわ。

🎤 トック:でも分かるでしょ?掃除機が変な音した時、「今日ちょっと調子悪そうだな」って思うじゃないすか。

👻 ヨイ:ある。あと古いノートPCに「頑張れ……!」って言う。

🎤 トック:あと、ヨイせん、もう1個、気づいたことがあって。

👻 ヨイ:なに。

🎤 トック:これ、ロードムービーじゃないすか。

👻 ヨイ:……(少し止まる)。

🎤 トック:タイヤが、砂漠を、ずーっと転がってく。途中で人と会って、トラブルになって、また旅を続ける。これ、構造は、ロードムービーですよ。

👻 ヨイ:(うなずく)……うん。

🎤 トックしかも、めっちゃ『パリ、テキサス』感あるんすよ

👻 ヨイ俺もそれ思ってたわ

🎤 トック:(止まる)

👻 ヨイ:(止まる)

👻 ヨイ:(ため息)……出た。

🎤 トック:出ましたね、ヨイせん。

👻 ヨイ:出た。パリ、テキサスの話するとね、ちょっとテンション上がるから

🎤 トック:ヨイせん、ヴェンダースも好きなんすか。

👻 ヨイ:好き。荒野、ロードムービー、視線の映画。ラバーは、デュピュー版の、視線の映画だと思ってる。観客が、双眼鏡で映画を観る、っていう枠組みも、結局、視線の映画。

🎤 トック:(笑う)

👻 ヨイ:(笑う)

👻 ヨイ:だから、タイヤ版『パリ、テキサス』。

🎤 トック:急に名作感出すのやめてください。

👻 ヨイ:でもあれ、タイヤなのに、妙に孤独なんだよね。

🎤 トック:ずっと転がってるだけなのに、「帰る場所ないんだな……」って感じする。

👻 ヨイ:(少し笑う)タイヤに「帰る場所」感じ始めたら、かなり末期。

🎤 トック:なんか徐々に『パリ、テキサス』に寄ってきたっすね。

👻 ヨイ:でもやっぱり、ずっと転がってるだけだから、「パリ、タイヤス」かもしれない。

🎤 トック:急に深夜2時の大学生みたいになったっすわ。

(短い沈黙)

👻 ヨイ:あとね、トック、これ言いたい。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイラバー、2010年公開SNSが本格化する直前

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:いまのTikTokの15秒動画って、意味ないじゃん。キャッチ―で意味ない。半分、「No reason」で何百万再生されてるじゃない。意味不明なのに、バズる。文脈なく、拡散する。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイデュピューは、2010年の段階で、その時代を予言してた。「意味を問わずにコンテンツを消費する時代が来る」って。

🎤 トック:……。

👻 ヨイ:さらに、いまの生成AI動画。AIが時々、「タイヤが砂漠で念力使う」レベルの不条理動画を作るじゃない。

🎤 トック:作る。

👻 ヨイラバーは、人間が手で作った、AI生成動画の先取り。しかも、AIと違って、ちゃんとタイヤを現場で転がしてる。

🎤 トック:そこだけ異様に職人芸なんすよね、この映画。

👻 ヨイ:たぶん現場、「もうちょいタイヤに迷いを出してください」とか言ってた。

🎤 トック:(笑う)

👻 ヨイ:「今の転がり、ちょっと感情強すぎます」とか。

🎤 トック:タイヤ演出論が存在してる。

👻 ヨイ:2010年、「大人たちが本気でタイヤを演出していた時代」。

🎤 トック:しかも全員、真顔で。

👻 ヨイ:文化って、そういう人たちが作ってるんだよね。

🎤 トック:……それ、なんか、すごい話になってきました。

👻 ヨイ:(笑う)ほんとだよ。

🎤 トック:……帰り道、タイヤ踏まないようにします。

👻 ヨイ:もう手遅れだよ。


ヨイせん、運転してくれませんか

👻 ヨイ:で、トック。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:最初に言ったやつ、覚えてる?

🎤 トック:最初に?

👻 ヨイ:「観終わると、もう一個別の括りが見えてくる」って言ったやつ。

🎤 トック:あ、はいはい。

👻 ヨイ:見えた?

🎤 トック:……車、トラック、タイヤ。最初は車つながりってだけでしたけど。

👻 ヨイ:そう。もう一個、ある

🎤 トック:……分かんないっす。教えてください。

👻 ヨイ「Why?」の扱いが、3作品で、全部、違う

🎤 トック:Why?

👻 ヨイ「なぜそれが起こるのか」

🎤 トック:あー。

👻 ヨイ:『クリスティーン』は、Why?を、律儀に見せる。映画の冒頭、あの車が工場の製造ラインにいる時点で、もう人を襲ってるの。「こいつは生まれつきこうです」って、起源からちゃんと見せる。ちなみに原作だと理由は別で、前の持ち主の怨念ってことになってる。キング、几帳面なの。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ『地獄のデビル・トラック』は、Why?を、彗星のせいにして、投げる。「彗星が地球をかすめたから機械が暴走しました、終わり」。理由は説明するけど、めちゃくちゃ雑。

🎤 トック:投げてる。

👻 ヨイ:投げてる。『ラバー』は、Why?を、最初に否定する。「No reason」。理由を探すな、と命じる。

🎤 トック:……あー。

👻 ヨイ律儀に説明する→彗星のせいで投げる→そもそも否定する。3段階で、理由を求める姿勢が、消失していく

🎤 トック:また、いい感じにまとまりましたね。

👻 ヨイ:ね、まとまった。

(短い沈黙)

👻 ヨイ:あと、トック。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:いま、教習所、どう思ってる?

🎤 トック:……。

👻 ヨイ:3本観た後で。

🎤 トック:正直、ちょっと、怖くなりました。

👻 ヨイ:(笑う)うん。

🎤 トック:クリスティーンみたいに恋する車に出会うかもしれない、デビル・トラックみたいに彗星のせいで暴走するかもしれない、ラバーみたいに念力で頭爆発させてくるかもしれない、って思ったら、教習所、行きたくなくなってきたっす。もう教習車見るたび、「こいつも内面あるのかな……」ってなる。

👻 ヨイ:免許取る前にラバー観せちゃダメな人だった。

🎤 トック:ヨイせん。

👻 ヨイ:ん。

🎤 トック俺、教習所で免許取るの、怖くなったんで

👻 ヨイ:うん。

🎤 トックヨイせん、運転してくれませんか

👻 ヨイ:……は?

🎤 トック:俺の代わりに。

👻 ヨイ:(笑う)何言ってんの。私、免許持ってるけど、運転できない。

🎤 トック:え、持ってるんすか。

👻 ヨイ:マニュアル一発取り。

🎤 トック:マニュアル?

👻 ヨイ:2年前に取った。で、取ってから、一回も運転してない

🎤 トック:なんで取ったんすか。

👻 ヨイ:取りたかったから。

🎤 トック:運転は?

👻 ヨイ怖いから

🎤 トック:……ヨイせんも、怖いんすか。

👻 ヨイ:怖いよ。車、デカいし、人轢いたら大変だし、自分の運転で誰かが死ぬかもしれない、って考えると、もう無理

🎤 トック:それ、ホラー映画観た後の俺と、同じ感想っす。

👻 ヨイ:(笑う)同じ。

🎤 トック:取ったのに、運転しないって、もったいないっすよ。

👻 ヨイ:もったいない。でも、いざという時、運転できる、っていう状態だけ、欲しかったの

🎤 トック:……。

👻 ヨイ運転できない人と、運転しない人は、違うから

🎤 トック:……ヨイせんの生き方っすね、また。

👻 ヨイ:(笑う)

🎤 トック:じゃあ、教習所、頑張ります。

👻 ヨイ:頑張れ。

🎤 トック:取った後、運転するかは、その時考えるっす。

👻 ヨイ:それでいい。

(窓の外、夕方の光が差し込んでくる)

👻 ヨイ:そろそろ帰る?

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ:トック。

🎤 トック:はい。

👻 ヨイ今夜、読者の方にも、聞いてみたいことがある

🎤 トック:また、来ましたね。

👻 ヨイ:来た。何かに人格を見出したこと、ある人、教えてほしい

🎤 トック:何かに、人格。

👻 ヨイ:車でもいい。家電でもいい。ぬいぐるみでもいい。自分の中で、勝手に名前つけて、感情があるみたいに扱ってるもの

🎤 トック:あー。

👻 ヨイコメント欄、教えて

🎤 トック:俺、教習所の、いま運転してる車、たまにちょっと、可愛く見えてきました。

👻 ヨイ:(笑う)トック、終わってる。

🎤 トック:終わってないっす。世界で一番慎重な車を、運転してるんで。

👻 ヨイ:(深く笑う)

🎤 トック:帰り、教習車いたら、ちょっと優しくします。

👻 ヨイ:いま世界で一番頑張ってるからね。

🎤 トック:帰りましょう。

👻 ヨイ:帰ろ。


なかのひとの一言

え?クリスティーンみんな好きなんじゃないの?
私だけ?
クリスティーンは未見の女性の方にこそ観ていただきたい。トックの言っている通りかわいいよねーになるのか、分かるかボケになるのか、知りたいところです。男性視点のレビューではこれはホラー映画の皮をかぶった恋愛映画ではないのか?という見方もちらほらあったりするんですよ。時代が時代なら純愛砲でも撃ってたかもしれません。リカちゃん何にも言われませんもんね。似たようなもんだと思いますが。
というわけで第3回は車のホラーでした。皆さんは車好きですか?私は子供の頃から車にちっとも興味がなく、ヨイせんのように必要に迫られない限りは全く運転をしない人です。それでも車のホラーを観るのは好きです。ザ・カーを取り上げるか最後まで迷いましたが、この形にしてよかったなと思います。それでは次回のホラー漫談でまたお会いしましょう。

(なかのひと/クリスティーンとハイウェィトゥヘル)


ホラー部室のこれまで

👉 ホラー部室第1回「チャッキーは別れたDV旦那で、トマトには言えない遺族がいて、さやえんどうは救済だった」

👉 ホラー部室第2回「焼き殺しても夢に出てきて、肛門から宇宙人が出てきて、不安のおすそわけされた話」

👉 ヨイ初登場回『悪魔のいけにえ』考察|汚い映画なのに、なぜ目を逸らせないのか——美しい地獄


ヨイとトックのホラー部室について

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。この「ヨイとトックのホラー部室」は、AIと人間のハイブリッドで作られています。
漫談のアイデア、作品テーマ、構成設計はなかのひと(著者)が考え、AI(主にClaude)はテキスト生成の補助として活用しています。ただし、最終的な文章は必ずなかのひとが全文チェック・編集・リライトしており、「なかの人の一言」は完全に人間の手で書いています。ヨイとトックの掛け合いを通じて、映画の何でもない話をゆるーくお楽しみいただければ幸いです。

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