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カイトとエイム|つながる寓話「笑いの調べ」第9話

ネオンサインがに濡れる20XX年のトーキョウ。双子の兄妹、カイトとエイムは、成人を迎えた日に駅前の「能力薬局(アビリティ・ドラッグストア)」にいた。

「これからは時間が資産だ。どれだけ自分をアップデートし続けられるかで、個人の価値が決まる」

兄のカイトは、迷わず最新の『多言語プログラミング』と『高度会計理論』のボトルを手に取った。一方、妹のエイムは棚の隅にある『深層植物学』のボトルを一つだけ手にし、静かにラベルを見つめていた。

それから二十年。カイトの自宅の棚には、空になった数百種類のドリンクボトルが、勲章のように並んでいた。

彼は常に何かを飲んでいた。半年でプロ級のバイオリンを弾きこなし、次の半年で量子物理学を修め、その次は古代格闘術。カイトの履歴書は、数ページにわたるまばゆいスキルの羅列で埋め尽くされ、彼は歩く百科事典として高額な報酬を得るコンサルタントになった。

しかし、カイトの心には常に、奇妙な隙間があった。

新しい知識が脳に定着するたび、彼は自分の一部が書き換えられるような、あるいは薄まっていくような違和感に襲われる。

「次は何を身につければ、この虚しさは消えるのか?」

彼は次のボトルを開ける。その瞬間だけが、自分が上昇していると感じられる唯一の安らぎだった。風に吹かれる凧のように、彼は高みへとは昇るが、その糸の先には何もない。

一方、エイムは二十年間、わずか五種類のドリンクしか飲まなかった。

彼女は「不毛の地に森を再生させる」という一点の目的のために、植物学、気象制御、土壌再生、そしてそれらを運営するための経営学と交渉術だけを、戦略的に、しかし徹底的に血肉に変えた。

トレーニング期間中、彼女は泥にまみれ、ドリンクの補助を受けながらも、自分の手で苗を植え続けた。

ある日、カイトはエイムが手がけた巨大な人工森林を訪れた。そこには、かつての砂漠が嘘のような、生命の芳香が満ちていた。エイムは、自分の設計した生態系の中で、静かに土をいじっていた。

「エイム、君はもったいないことをした。君の才能なら、あと百はスキルを習得できたはずだ。僕を見てくれ、今や宇宙船の操縦だってできるんだ」

カイトは誇らしげに言ったが、その声はどこか震えていた。エイムは立ち上がり、穏やかな微笑みを浮かべた。

「カイト、私はね、この森が見たかったの。そのために必要な力は、もう全部持っているわ。今は、習得することじゃなくて、この力を使って何を作るかが楽しいの」

カイトは、妹の背後に広がる完成された世界と、自分の手元にある「次の成長」を約束する未開封のボトルを見比べた。

彼の足元には、どこへでも行ける無限の地図が広がっている。しかし、彼がどこかに辿り着いたことは、一度もなかった。


小さな問い
・成長とはなんでしょう?
・人は成長し続けなければ、価値がないと思いますか?
・成長は目的か?手段か?

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