クスリとムー|つながる寓話「笑いの調べ」第7話
むかしむかし、あるところにクスリとムーという名の、ネコの姉弟がいました。
二匹が住んでいるのは、町外れの打ち捨てられた荷車の下です。冬が近づくと、冷たい風が容赦なく隙間から入り込みました。
弟のムーは、ときおり激しく体を震わせ、うずくまりました。
「ねえ、クスリ。またお腹のなかがチクチクする。……嫌だなあ。どうして毎日、こんなに痛いことばかり起きるんだろう」
姉のクスリは、そんなムーの耳元で「クスリ」と喉を鳴らして笑いました。
「ムー、あそこの水たまりを見て。空がひっくり返って落ちてるみたいよ」
クスリは、ひょこひょことぎこちない足取りで水たまりまで歩いていき、自分の影と追いかけっこをして見せました。ムーはそれを見て、痛みを忘れたように少しだけ髭を揺らしました。
ある晩のことです。いつもよりずっと冷え込み、月が鋭く光っていました。
クスリはいつになく静かに、ムーの隣に体を寄せました。その体は、驚くほど細く、熱を持っていました。
「ねえ、クスリ。明日はあのご飯をくれるおじさん、来るかな」
ムーが尋ねても、クスリは答えません。ただ、ゆっくりとムーの頬をなめ、静かに「クスリ」と笑いました。
それは、暗闇の中で灯る小さな明かりのような笑顔でした。
翌朝、眩しい朝焼けの中でムーが目を覚ますと、隣のクスリは冷たくなっていました。
驚いて姉の体に触れたムーは、見てしまいます。クスリの毛並みの下に隠されていた、自分と同じ……いえ、自分よりもずっとひどく腫れ上がった節々を。彼女が歩くたび、笑うたびに、どれほどの痛みがその体を貫いていたのかを。
ムーは、動かなくなった姉の顔を覗き込みました。
クスリは、死んでなお、穏やかに微笑んでいました。まるで、世界で一番楽しい夢を見ているかのように。
ムーの喉の奥が、熱く、硬く締め付けられました。
声にならない震えが全身を走り、ムーは力なく、その場に丸まりました。
「……ねえ、クスリ」
掠れた声が、朝の静寂にこぼれます。
ムーは、笑ったままの姉の横顔をじっと見つめました。そして、自分の小さな、震える前足を見つめました。
「どうして……?」
その問いに答える風の音も、今はもう、止んでいました。
小さな問い
・笑い(充足)とはなんでしょう?
・クスリは何を考えていたと思いますか?
・どうして辛いことがあるのに笑うの?
