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【ショート&楽曲】 眠れない妖精王

―― short story ――

それは、翠色の光を放っていた。
淡く白く温かなみどり。
一瞬、躊躇ってから手に取ると、変わらずに光っている。
金具を持ち上げて開くと、手鏡だった。
鏡の部分は光っておらず、私の顔と森の木々が映っていた。
施された紋章と散りばめられた宝石から高価なものだと分かる。
紋章は見たことがなかった。
手鏡を閉じると、翠色の光が弱くなる。
首を傾げていると、ふと、笑い声が聞こえた気がして辺りを見渡した。
生い茂る緑以外は、いつもの森だった。
穏やかな風に揺られ、
陽の光が森を明るく照らし、リスが木の上に登っていくのが見える。
摘んでいたベリーの実のカゴのところへ歩いていくと、手鏡に振動を感じた。
見ると、光が木の先を指すように伸びている。
……なに。
鼓動が早くなるのを感じて、息を整える。
近づいて、そっと手を伸ばすと、木の幹はまるで映像のように実体を持たなかった。
気づいた時には、木の中に吸い込まれていた。

柔らかな衝撃が私を包んだ。
まるで柔らかい布を幾重にも重ねた上に飛び降りたような感触だった。
ゆっくりと体を起こし、目を開けると、私の前で黒髪の美丈夫な男性が私を見ていた。
驚きよりも魅入ってしまっていると、顎を掬い取られる。

「これが効くのか」

声は別の方向へ向けられていた。

「その筈ですよ。もう二年もお眠りになっていないのです。試せることは全ておやりになっては?」

男性の視線を追うと、空を舞う小さな妖精の姿。
透明の羽を動かし、翠色の帽子の下で、金色の髪が揺れていた。
男性は、不承不承といった様子で、私の体を横抱きにした。

「……あの」

思わず、服の裾を掴むと、顔が近づいた。
そして、気付く。
目の下には、ひどい隈があった。

――二年も眠っていない。

そっと手を伸ばしかけて、止める。
すると、男性の顔がもっと近くなる。
鼓動が跳ねた。

「協力しろ」

低い声が体に響いた。
手にじわっと汗が滲む。

「あの、私、おつかいがあって……」

言葉を言い切る前に、隣の部屋の扉が開いた。
目をやると、言葉を失う。
スタスタと私を抱えたまま男性は部屋へ入り、私をベッドに降ろした。
そして、トンと肩を押される。
柔らかな衝撃と男性の見下ろしてくる視線に、心臓が止まりそうになる。
……私、押し倒されてるの?
頭の中で、言葉にしながら落ち着こうと息を吐く。
そうしている間にも、男性の体が近づいた。

――近い。

ぎゅっと目を瞑って、男性の体に両手を伸ばし、力一杯に押した。

「……何をしている」

また、低い声が響く。
……私が聞きたいのに。
ゆっくりと目を開けると、眉間に皺を寄せた男性の姿があった。
伸びてきた大きな手が、私の右の頬を包む。
温かった。
胸の奥が、ふっと疼いた。

「あなたは、だれ」

私の言葉に、男性は目を丸くする。
それから頭を掻いた後、私の上からどいてベッドに腰掛けた。
深いため息が聞こえて、体を起こすと、彼の視線が私を捉えた。

「……悪かったな。おまえは初めて俺に会ったのか?」
「……どういうことですか?」
「俺たちは、何度か会っているんだ。」
「……え?」
「ここは妖精界。時間軸が人間たちと違う。」

ふと、左手を掴まれ、開かされる。ずっと強く握っていた手の中から、手鏡が現れる。淡く翠色に光っていた。

「これは、俺がお前にやったものだ。」

――え?

これは、さっき拾った。
……はず。

指先に、知らないはずの温度が残っている。

男性を見つめる。
その目を見た瞬間、涙が落ちた。

「俺から離れると、お前は忘れる。」

顔が近づく。
目を閉じる。
温かな感触には、覚えがあった。

「俺たちは一緒に生きられない。だから、離れた。でも……眠れないんだ。
お前と離れていた、この二年の間。ずっと。」

強く抱きしめられると、新緑の香りがした。そのまま、ベッドに横になる。抱きしめ返すと、体が重くなる。

その日、妖精王は深く眠った。



『これを持っていろ。』
『なぁに?……きれいね。』
『お前が会いたくなったら、これで会えるから。』
『……ありがとう。大切にするね。』
『あぁ。』



「あの、そこで寝ると危ないですよ」

その人は崖の手前で横になっていた。
私はそっと近づいて、木の枝で肩をちょんちょんとつついた。
……起きない。
息を大きく吸う。

「……あの!」

ムクっと上半身が起き上がる。
驚いて見つめていると、美丈夫の男性が振り返った。
思わず座り込んだまま魅入っていると、立ち上がって、こちらに歩いてくる。

「ここ、眺めがいいんだよ」

……まぁ、丘の上だし。すごくきれいだけど。

「でも、崖が崩れたら危ないですし……」

腕をグッと引かれると、先ほど男性のいたところに座らされる。
下を覗くと、ゾワっと背筋が震えた。
地面が遠すぎる。
後ろに下がろうとした、
その時、
肩に乗せられた大きな手が私の顎を上にあげた。
穏やかな風が吹く。
空の青。
雲の白。
おもちゃのような街並みが私の中に広がった。

「う、わぁ」

息が止まる。
鳥肌のたった腕をさすりながら、男性を見上げる。

そこにあった笑顔は、景色以上に私の心をさらっていった。



その日の夜は、私の結婚式だった。
相手は、両親が紹介してくれた、街で商いをしているとても優しい人だった。
私にはもったいない素敵な男性。
ポケットに手を入れる。
指先に、手鏡の冷たい金具が触れた。
まだ少し時間があったから、なんとなく森を歩く。
手鏡は緑に光るけれど、何も起きない。

……そうだ。会っちゃいけない。

踵を返す。

もう、眠れてるといいな。

濡れた土が私の靴の裏に張り付く。
雨が降ったみたいだった。



今日は孫のサーシャが、手鏡のお礼にやってきた。
あの人に似た男の子を連れて。

妖精の気配を連れた男の子。

……少し、うらやましい。

そっと、椅子に腰掛けたまま目を伏せる。

「そこで寝ると、危ないだろ」

体が浮く。
大きな腕に包まれてベッドに連れて行かれる。
そっと髪を撫でられると、とても心地が良かった。

「そこ、眺めがいいんですよ」

囁くと、小さく笑い声が聞こえる。

窓からは、森が一望できた。
あなたが住み、守る森。

もう、手鏡はない。



でも、そばにいる。








イメージソング(Suno)




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🌱『眠れない妖精王』イメージソング
 『Deep In The Forest (feat.TAKUMA)』Englishバージョン

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🌱『【作業用BGM】
 妖精の森を旅するケルト音楽|幻想ファンタジー・Celtic Music』

 妖精の森を一緒に旅するような、
 全27曲のサントラ風ケルト音楽を作りました。

 『眠れない妖精王』『僕が見える世界』の冒険の旅へ。

 穏やかな森の光、少し胸が高鳴る冒険、静かな余韻。
 落ち着いた曲とアップテンポな曲を織り交ぜて、
 物語の場面が少しずつ変わっていくような流れにしています。

 気分転換や作業のお供に。
 小さめの音で流せば、読書にもそっと寄り添ってくれると思います。
 主人公シンと一緒に、妖精の森を旅してもらえたら嬉しいです🌿

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お読みいただき、ありがとうございます💐
読んだ記念に、COBIToの庭をひとつ育てていってね🍄


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