【ショート】 森の奥の古時計
―― short story ――
――森の入り口、大地の果て、空の切れ目、動かない海に映る夜空と月――
ボーン、ボーン……
時刻は朝六時――。
森の奥の大きな木には空洞があり、
その中に、小さな暮らしの跡が残されている。
小窓のついた台所、木製の机と丸太の椅子が二つ。
葉を集めてできたふさふさの布団。
そして、
奥の壁には古時計。
もう誰も住んでいない木の家で、
今日も静かに時を重ねていく。
眩しい光が木々の合間から差し込んでいる。
ざわざわと葉が擦れ合い、地面の影がまだら模様に揺れる。
『おはよう』という音が響くと、小動物たちが顔を出す。
後ろから鹿がのそりと歩いてくると、小さな子たちは隠れる。
また、影が伸びる。
鹿は足を早め、草むらに隠れた。
カサっと草を踏む音がすると、少女が顔を出した。
森の奥へ探検に来た少女は大きな木を見つけると、
口をあんぐりと開けて、目をぱちぱちとしている。
しばらく見つめていたが、
一歩踏み出し、空洞を覗く。
「広っ」
少女は呟くと、生活の跡を目にする。
周囲を見渡しながら、ゆっくりと一回転する。
「……誰か住んでいたのね。」
見上げると、壁に古時計があった。
「動いてる」
視線を下げると、古時計の下に扉があった。
でも、暗くてよく見えない。
左右に小窓を確認すると、カタカタと横に引っ張って開ける。
強い日差しが空洞の中を照らした。
「綺麗じゃん」
にっこり笑うと、机の埃を払う。
「掃き掃除だけすれば、使えそう。……ん?」
古時計の下の扉は開いていた。
ノブに手を置き、引いてみる。
「……うっわぁ!」
本棚の山だった。
小窓を全て開けると、少し小走りで本棚の中を駆け回る。
棚は奥まで続いている。
「すごい!」
口を綻ばせたまま、適当に一つを取る。
埃を払って、喉を鳴らすと開く。
「……は?」
目を擦る。
パラパラめくって、もう一度開く。
今度は、ゆっくりパラパラと頁を確認する。
「……真っ白なんだけど」
隣の本も取り出して埃を払う。
何も書いてない。
隣も、
違う棚も、
反対側も。
何か書かれているものは一つもなかった。
「……ただのノートじゃん」
肩を落として、本を戻す。
ふと、後ろの机に目をやると、たくさんのインクと羽ペンがあった。
その時、ボーン、という古時計の音が一つ鳴り、肩が跳ねる。
「……びっくりした。」
戻ると、ちょうど十時だった。
一時間毎になるのかもしれないと少女は憶測を立てた。
机に戻ると、引き出しを開けた。
一段目はインク、
二段目には羽ペン、
三段目には用紙が目一杯に入っている。
ふと、腕組みをする。
紙をテーブルに置いて、インクと羽ペンを一つずつ。
書いてみる。
「……できた。」
大体、三十分くらいだろうか。
本棚から白紙の本を持ってきて、写す。
口元に笑みが浮かぶ。
古時計の針の音だけが響く。
タイトルは
——【ショート】君との思い出——
「ま、こんなもんでしょ。」
ボーンと時計の音が鳴る。
「本当は、もっと書きたいんだけどねー。もう帰って、母さんの手伝いしないと。」
立ち上がって本を戻す。
木の入り口に立って振り返る。
腕を組んで、にやっと笑う。
「まずは、扉を作らないとね。」
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