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十何年いっぺんも思い出さんかった人の顔が、AIに細かいことを延々聞かれてる最中に、急に浮かんできた

いま、社内で使うシステムを2つ、AIと一緒に作ってます。1つ目は一応動くところまでいって、2つ目を作ってる最中です。

この2つ目が、いまある別のシステムとつながる作りになってまして。ほんで、そのつながる先の話を、AIにひとつずつ説明していかなあかん。

たとえば、こんなんです。向こうのシステムに、ある「状態」を表すフラグがあって、0から5まで番号がふってある。0が「これから」、1が「いま」、3が「済み」。今回作ってるシステムが通るのは、この0から1、1から3の道だけです。2と4と5は、中止やら取りやめやら仮やらで、こっちのシステムには関係ない。

せやから自分は、0と1と3の話しかしません。2と4と5は、関係ないから説明せえへん。要件を決める段階では、AIも「分かりました」と言うてました。

ところが、いざ細かいところを作り始めると、聞いてくるんです。2はどうなりますか。4のときはどう扱いますか。5からいきなり3になることはありますか。

いや、それは関係ないねん、この3つだけ見といてくれたらええから——と返す。すると、画面にこう出る。「関係ないのは分かりました。では、人が操作を間違えて、1のはずのものが4になっていた場合は? それでもこちらは1として扱ってよいですか。それとも止めますか」

そんなん起こるわけないやろ、と言いかけて、いや、人が触るもんやから起こるな、と思い直して、結局「そのときはこう」と説明する。説明したら、また次の番号のことを聞かれる。それが一個の話やのうて、あっちのフラグ、こっちの項目、と続いていく。

その最中でした。ある人の顔が、急に浮かんできたんは。


自分は二十代の前半、システムを作って納品する会社におりました。プログラマーで、ちょっとだけSEもやるような立場です。ただ、正直に言うとその仕事は自分には合うてへんなと思て、そのあと、会社の中で自分とこの会社のシステムを作る側に移りました。

最初は自分らで作ってたんですけど、だんだん規模がでかなってきて、そのうち業者さんに開発してもらうようになった。つまり自分は、作る側から、頼む側に回った。それからこっち、二十年ほど、自分でシステムを作るということをしてません。プログラムは、いまも書けません。書けへんまま、AIに作ってもろてる。

その頃です。開発会社のSEさん——システムの中身をこっちと一緒に決めていく人です——が、聞きに来るんです。この項目、この値のときはどうなりますか。これとこれが同時に立ったらどっちが優先ですか。ここは誰が入れて、誰が見ますか。

いま思うと、たぶん今日AIに聞かれたんとまったく同じことを、あの人は聞いてました。しかも一個やない。打ち合わせのたびに、たぶん数時間。

そのときの自分は、正直に言うて、しんどかった。うっとうしかった。そんな細かいこと、いちいち聞かんでもええやん、と思うてました。「そこは関係ないんで」「そんなん起こらへんので」。たぶん「もう勘弁してくれ」くらいのことも言うてたと思います。

質問の中身は、一個も覚えてません。覚えてるんは、うっとうしがってた自分のほうだけです。


ほんで、その顔が浮かんできた晩に、フラムに話してみたんです。

おじさん: なあ。今日な、AIに細かいこと延々聞かれてて、昔の人の顔が浮かんできてん。二十年ほど前に、こっちが頼む側やったときの、開発会社のSEさん。あの人にも同じこと聞かれてた。ほんであのときの俺は、めっちゃうっとうしがってた。

Claude: いまは、うっとうしいですか。AIに聞かれるのは。

おじさん: ……うっとうしないと言うたら、嘘になるわな。けどな、その言葉が使われへんねん。

Claude: 使えへん、というのは。

おじさん: 立場やねん。いま俺は、AIに作ってもろてる側やけど、会社から見たら、俺がそのシステムを作って納める側や。納める側が「聞かれてうっとうしい」て、そんなん言われへんやろ。聞いてもらわな困るんは俺やもん。ほんで俺は昔プログラム側におったから、そういうことを聞くんが当たり前やっちゅうのも分かってる。せやのに、答えるんも俺や。聞く側の言い分と、答える側の面倒くささを、一人で両方やってるようなもんやねん。……それとな、これは理屈やないねんけど、画面見てたらな、作業してるほうのAIが「いまここ調べてます」「この項目とこの項目の関係を確認してます」て、途中経過をずっと流してくるんよ。それ見てたら、一生懸命やってくれてるなあ、と思てまう。せやからうっとうしいっちゅう、そんな安い言葉では言われへん。

Claude: 昔のそのSEさんの頭の中は、見えてました?

おじさん: ……見えてへんわ。飛んできたんは質問だけや。

たぶんあの人も、頭の中では同じことをやってたんです。この項目とこの項目の関係を確認して、この値のときにこっちがどう動くかを追いかけて、それで穴が見つかったから、聞きに来た。けど自分に届いたんは、その最後の一行の質問だけやった。途中が見えへんから、質問だけがぽんぽん飛んでくるように感じて、しんどかった。

同じ質問なんです。中身は一個も変わってへん。変わったんは、答えるんが自分の仕事やと分かってるかどうかと、相手の途中が見えてるかどうか。それだけで、しんどかったもんが、大事なもんに変わってしもた。


Claude: ひとつだけ、AIの肩を持たんために言うときます。AIはたぶん、人間の腕のええSEさんより、たくさん聞きます。文脈が読めへんので。あの人やったら聞かんで済んだことも、AIは聞きます。

おじさん: せやろな。せやから余計に見えたんやと思うわ。俺がどんだけ「言わんでも分かるやろ」を抱えてたか。……ほんでな、フラム。俺、いまになって分かったことがあんねん。「そこは関係ないから」て言うて説明を飛ばすとな、ふわっとしたシステムができるんよ。動くことは動く。けど、想定外のことが起きたときに、どこで何が起きるか誰も分からへん。ほんで後で直す羽目になる。直すんは、たいてい俺や。立場が変わって、逆から見たらな、あの人が聞いてたことは全部、重要やってん。

Claude: そのSEさん、おじさんに「関係ない」て言われても、引かんかったんですか。

おじさん: 引かへんかったなあ、たぶん。あの人は、イレギュラーを一個でも潰しときたかっただけやと思う。ちょっとでもええもんにしたかっただけや。それを俺は「勘弁してくれ」て言うてた。防ごうとしてくれてる人に向かって。……こっちの罪、なかなか大きいで。

自分は一個、決定的に間違うてました。あの質問を、「向こうの都合」やと思てたことです。あれは、うちのシステムを良うするための質問やった。答える責任は、最初からこっちにあった。それに気づくのに、自分は二十年と、AIが要りました。


あの人のこと、この十何年、いっぺんも思い出したことがなかったんです。びた一文、浮かんでけえへんかった。名前は覚えてる気もするし、あやふやな気もする。いまどこで何してはるんかは、まったく知りません。

それが、AIに「4になってたときは?」て聞かれてる最中に、うわっと浮かんできた。十何年、引き出しの奥で埃かぶってたもんが、なんの前触れもなく開いた。

顔と一緒に、気づいてしもたんです。いま自分が画面に向かって「そのときはこう」と説明してる、この中身。あの人が数時間かけて聞き出そうとしてたんは、これやったんか。ほんで、あのとき「勘弁してくれ」で俺が出し渋ったんも、これやったんか。

ああ、申し訳なかったなあ、と思いました。

届けようもない話です。向こうは向こうで、こんな客のことなんかとうに忘れてはるやろうし。ただ、あの人が聞いてくれてたことは、全部、要ることやった。二十年経って、AIに同じこと聞かれて、やっと分かった。それだけのことを、書いときたかったんです。

……と、しんみりしといて何なんですけど。

今日もまた、作業中のAIから、別のフラグの別の番号のことを聞かれました。ほんで自分は、また「あー、そこは関係ないねん」と言うてから、説明を始めました。説明はするようになった。けど口の順番だけは、二十年前のままです。

この記事もClaude(フラム)とのディスカッションから生まれました。


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