SaaSがこの先生きのこるには - SmartHR / freee / マネーフォワード によるSaaS is Dead BBQ【後編】
前編では、競合にあたるSmartHR / マネーフォワード / freeeの経営者3名に、「SaaS is Dead」と言われた今年、社内で起きたことを伺いました。
酔いも回ってきた後編は、視線を外に向け、お互いのプロダクトをどう見ていたのか。市場と投資家から、自分たちはどう見られていたのか。そして、SaaSの未来は結局どうなるのかをお話しいただきます。
▼前編はこちら
参加者
芹澤 雅人(SmartHR 代表取締役CEO / 日本CTO協会 理事)
横路 隆(freee 取締役CAIO / 日本CTO協会 顧問)
中出 匠哉(マネーフォワード 取締役執行役員 グループCTO/ 日本CTO協会 理事)

商談の場で、他社をベンチマークしながら「MCPないんですか」と言われ……
芹澤 では話題を変えまして。SaaS is Deadの流れやAIの文脈で、お互いのプロダクトに対して「これはやられたな」というものがあれば教えてください。
中出・横路 やられたな、か……。(しばし沈黙)
芹澤 僕から話しちゃいますが、freeeさんのMCPサーバー対応ですね。あれはもう、直接的にやられました。何がやられたって、商談で言われるんですよ。「MCPないんですか」って。
横路 言われるんですか。でもMCPの提供開始はマネーフォワードさんの方が早かったですよね。うちはタイミングが良かったのかもしれません。
▼ freee、AIエージェントからfreeeの基幹業務を操作可能にするMCPサーバー「freee-mcp」をOSSとして公開(2026/3/2公開)
▼ 『マネーフォワード クラウド会計』、AIエージェントと連携可能な「MCPサーバー」β版を提供開始(2025/10/3公開)
芹澤 中小企業からはよく聞きますし、最近は大企業の商談でも出てきます。「◯◯さん(他社名)は出してるじゃないですか」とベンチマークされ、「まだ用意してなくて」と回答せざるを得ない。「やられた!」と思っています。
中出 うちも傾向としては、中小企業の方から先に要望をいただきましたね。社内の近い場所にエンジニアがいるから、AIや設定を自前でできる。エンタープライズではようやく最近、一部で出てきた感じです。

横路 実は、あれは、トップダウンでやったわけじゃないんですよ。出してみたら、お客さんから「めっちゃええやん!」って言われて。
芹澤 良い流れですね。元々APIの提供があったから、ということですか。
横路 そうです。もう10年以上ずっとオープンAPIを提供してきていて、そこにコーディングエージェントをつないだら……、という話なんです。
特にHRとか給与計算は、ロジックが決まっているじゃないですか。でも、その入り口で、勤務状況等のレポートを出すところ、そのチェックをするところって、手でやると大変なんです。それがOpus 4.5以降に聞くと、サッとやってくれる。
お客さんから聞いて、自分たちも試してみたら「めっちゃええやん」って(笑)。それがアハ体験ですね。
芹澤 お客さん、リテラシー高いですね!
中出 どういう業種の方から反応があったのですか。
横路 税理士さんですね。うちのお客さんの士業の方はAPIをガンガン使っています。
芹澤 士業の方たちって、AIを使う人は使いこなしていますよね。士業って、色んな会社の業務を引き受けている、ある種BPO(Business Process Outsourcing:業務の一部を外部に委託する方法)なんです。それがAPIやMCPで効率化されると、こなせる案件数が増えるのでウェルカムだと思います。
横路 士業の先生たちも、特に新しく開業された方は、差別化のために何か特色をつけないといけなかった。アピールポイントが、今まではクラウド対応だったんですが、それが当たり前になって、時代が変わってきた感じがします。
芹澤 ただ、まだ雰囲気で言われることも多くて。「MCPを使って具体的にどういうことが実現されると良いですか」と伺うと、「とにかくMCPで連携できればいい」みたいな。そういう状況もあるかなと思います。
開発速度が早くなればなるほど大切になるもの:SoRとコンセプト設計、参入障壁について
横路 うちの場合は、嫌だったわけではないですが、どんなに考えて捻り出したプロダクトや提供サービスも、大体マネーフォワードさんが同じものを出してくるんです(笑)。

中出・芹澤 ワハハ(笑)
横路 AIで開発するのが簡単になれば当たり前かもしれませんが、どの会社も行き着く先は、多分一緒なんですよね。
だからコミュニティだったり、そもそもの思想だったり、よりメタなところのコンセプトが重要なんだと思います。あとはうちは、エンタープライズに行かないと決めてるので。
芹澤 コーポレートミッションがね。
引用:スモールビジネスを、世界の主役に。
横路 エンタープライズに行かないSaaSは、ハードモードです。
芹澤 ちなみに、今日の3社以外だと、気になるプレイヤーはいますか。
中出 最近だと、後発のSaaSベンダーがやっぱり手強いですかね。どの会社がというのはないですが、後発な分だけ研究して出してくるというのがあります。
芹澤 わかる! しかも早いですよね、リリースサイクルが。
横路 でも、後発の場合は一番顧客との結びつきが硬いSoR(Systems of Record:顧客情報や人事情報といった、企業活動の土台となる業務データを正確に記録・管理することを目的とした情報基幹型システム)から入っていないことが多いですね。経費精算とか、フロントエンドよりのシステムが多いように思います。
中出 会計領域には、銀行APIをはじめ、金融機関との連携など、長くサービスを提供してきたからこそ必要になる機能や運用があります。開発・運用の負荷は高いですが、そうした積み重ね自体が一つの参入障壁になっているのだと思います。
芹澤 後発のプレイヤーが出てくると、取締役会や経営会議で「なんでもっと早く作れないの」と言われます。「簡単そうなのに、なんでもっと早く作れないの」と。それらに対するアカウンタビリティが多発するのはなかなか大変ですね。
中出 プロダクトを作るのって、ゼロイチは早くなりましたよね。だから、今あるものを全部捨てて全部作り直していいと言うんだったら、意外と早く作れると思います。
芹澤 でもSaaSって、ゼロイチから先が勝負じゃないですか。
お客さんに実際にご利用いただく中でアップデートをして、機能要件だけではない非機能要件がある中で、ゼロイチは確かに早くなったけど、そこから先は引き続き難しい。
中出 そうなんです。だからこそ、後発の会社さんたちも、徐々にメンテナンスやアップデートしていく負担が大きくなるんじゃないかな、と思ってみています。
SaaSのヘッドレス化とシート課金のこれから
芹澤 SoRやフロントエンドよりのSaaSの話が出ましたが、最近「ヘッドレス」と言われる機会が増えました。どう思われていますか。

横路 うちは、AIから最も使いやすいSaaSを目指しているので、ヘッドレス宣言をしています。
今まで、使いやすいUIに投資していたところを絞って、APIを開けるところなどに振り切りました。デザインシステムも、入力まわりの優先度を落としています。UIに求められることは、今後もっと変わってくると思うので。
中出 私たちも、ヘッドレス化は将来的な選択肢の一つだと考えていますが、時間軸で言うと今すぐなのか、という議論はありますね。
私個人としては、APIやMCPみたいな、AIからも使いやすいバックエンドの整備を重視したいと思っています。一方で、お客さまからはUIの改善や新しい機能の要望もあるので、優先順位をすり合わせていく必要がありますね。
芹澤 僕らも割と近いスタンスです。どこかで必要になるかもしれないけれど、今じゃない。お客さんの業務によっては、フォームベースの方が適しているものも多々ある。
あと、ヘッドレス化をした際に、料金体系をどうするんだという課題があります。我々SaaSっていわゆるシート課金(利用人数に応じた課金体系)じゃないですか。ヘッドレスになった瞬間、シート課金の説明が難しくなるんですよ。
中出 AIサービスも、最初は固定料金から始まって、徐々に利用量やユーザー数に応じた料金体系が増えてきましたよね。SaaSも同じように、段階を踏みながら新しい料金体系へ移行していく必要があるのかなと思います。
本当に生産性が高いと実感したら払ってくれるチャンスはあると思いますが、最初からいきなり従量課金は難しいかなという印象です。
芹澤 となると、UIはUIで残しつつ、選びたい人はヘッドレスにして自分で入力部分を作っていいよという棲み分けになってくる。
中出 AI機能についても、既存のSaaS料金に含めるのか、オプションにするのか、あるいは利用量に応じた形にするのか。業界全体として、いろいろな料金体系を模索していくことになると思いますね。
横路 うちは、SMBに特化してたことが逆に功を奏したというか。freeeの収益構造や国内労働市場の特性から、freeeだとシート課金モデルの収益毀損は限定的で利用シート数に連動する課金は全社ARRの3%程度なんです。
芹澤 従量分は、従業員数に応じて決まってくるわけですからね。
横路 だから、あまり痛手を負ってません。というのと、あとはAIエージェントが仕事した分でいただく、成果報酬みたいなものを考えています。
ただ、スモールビジネスって従量課金を予算立てて買うという購買習慣が少ないんです。だから、原価は回収して粗利をコントロールしつつ、サブスクの範囲内でどう買っていただくか・お客さんがどう買いたいかというのが重要です。
まずサブスクで「この範囲だとこれぐらいまで使えます」があり、それを超えたら階段になってオプションパックを買う流れです。ソシャゲと一緒ですね(笑)。
結局、SaaSは本当に死んだのか。そもそも我々のアイデンティティは何なのか。
芹澤 で、結局SaaSは死ぬのか死なないのかというと、どうでしょうか?
横路 まあ、我々が死なないのは、SoR領域を持ってるからかもしれないですね。
SaaSが死ぬ時は、もっとAIネイティブなものが出てきて、世の中がその新たなものにアダプトしていく時だと思います。だから、我々の中の誰かに殺されることは多分ない。

芹澤 ここで食い合うことはないですね。
中出 明らかに殺されているSaaSも既にありますし、これから先も増えると思いますが、ただ、残るSaaSもあると思いますね。
芹澤 それは自然淘汰の範囲の中であって、SaaSというジャンルがなくなるわけではない。
横路 あとやっぱり「そのビジネスモデルをアイデンティティにしてはならない」と改めて思ったんですよね。
創業時から社長(佐々木 大輔 / freee株式会社CEO)と言い続けていたのが、Amazonの「Everything Store」みたいに、手段によらず何でありたいかを目指そう、ということです。我々に置き換えれば、スモールビジネスの働き方を常にテクノロジーでアップデートし続ける、その牽引する存在でありたい、と言ってきた。
だから、たまたま創業時にクラウドだっただけで、AIが来たって、フィジカルAIが来たって、なんだっていいんだ、と。
芹澤 めっちゃわかるな〜、それ!
横路 それを自分たちのアイデンティティとして持っているから、「AI来た」「わかった」「じゃあスモールビジネスの働き方をAIでアップデートしようぜ」となっています。創業時から言い続けてきて良かったな、と。
芹澤 きっと多くのSaaSベンダーがその考え方だと思います。SaaSって手段なので。
この十数年間はSaaSがやりやすい手段だったわけで。AIが来たから「AIを使ってもっとこうできるじゃん!」と前向きに思っている人の方が絶対に多いですよ。
年末調整も誰かがケツを叩かないと進まない。人間が人間に向き合うために、AIエージェントに任せる
横路 あと日本だからこその観点では、働き手はどんどんいなくなりますよね。
芹澤 本当にそうなんですよ。基本的に労働人口が減っていくので、生産性を上げないといけない。AIに仕事が奪われるなんて基本ない。
僕らが効率化していきたいバックオフィスの仕事は、究極的には人間がやらなくて良いと思っているんです。僕らみたいなベンダーが効率化・自動化した結果、「人間はもっと別の仕事をやろう!」となって欲しい。
例えば、僕らが給与計算のプロダクトを作り始める中で目指しているのは、「給与計算業務をなくす」です。お二人の前では言いにくいんですが(笑)。勤怠をちゃんと締め、身上変更をちゃんと承認していたら、給与計算は勝手に出来上がるはず。だから、給与計算業務をなくそうぜ、と。
横路 良い話! でもその時に最後に残るラストワンマイルって、人間から出てこないんです。例えば、身上変更って、結婚はともかく、離婚したって言いづらかったりするじゃないですか。
芹澤 年末調整とかもね、どうしても提出しない人がいる(笑)。
横路 だから、そういった催促やリマインドをAIエージェントに任せられるようになったのは、チャンスだと思います。
芹澤 勤怠管理のBPOを行っている会社にメニュー内容を聞いたら、「勤怠の修正の依頼をする」という業務があると伺いました。「誰々さん、勤怠これおかしいので直してください」って、ひたすら連絡するという。
横路 そういった業務をAIエージェントがやってくれるから、我々人間はお客さんのところに行って「普段どうやってますか」と生の声を聞ける。そこに時間を使えるようになったのは、素晴らしいですよね。
芹澤 これはSmartHRのミッションでもありますが、「誰もがその人らしく働ける社会」になってきている。とてもウェルカムです。
だから、このAIをまったく敵視していないというか、新しい技術でどう新しい価値を生み出そうか、そればかり考えています。

働き手不足の日本において、ビジネスを存続させる責任感を持つ
横路 まあ、あとは株価は……。
芹澤 株価はね(笑)。でも、間違いなく社会にとっていいことはやっている自負があるので、続けていたら絶対に評価されるだろうなと思います。そこを信じて、SaaSは死なないぞということで。
中出 そうですね、SaaSは死なない。
横路 ただAIは進化するので、油断はならない。死なないけど、変わらないといけないのは間違いないですし、我々は、日本市場におけるAIのアダプション(導入支援・定着)を担う責任感を持たないといけないと思います。
芹澤 まさに! 特にバックオフィスにおけるAIネイティブ化ですね。
横路 アダプションが遅いからSaaSが生き残ってます、というのは負けだと思います。
我々が牽引をすることで、働き手不足の先進国である日本において、スモールビジネスも含めてあらゆるビジネスが存続する。新しいものがどんどん出てくる。そういう社会を作っていきたいですね。
芹澤 おっしゃる通りですね。素晴らしい締めをありがとうございます!
競合3社による「SaaS is Dead?」をテーマにしたBBQは幕を閉じました。
日本CTO協会会員限定で、アフタートークコンテンツも公開予定です。一番ヤバかったインシデント、交渉でキレた経験、これからのCTOのあり方……。会員の方はお楽しみに!
[完]
※本対話は2026年8月半ばに実施しました
企画・編集:二宮みさき(日本CTO協会)
撮影:大賀 光輝

